ティモレオン: センチメンタル・ジャーニー (中公文庫 ロ 4-1)
- 中央公論新社 (2006年4月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122046825
作品紹介・あらすじ
ティモレオン・ヴィエッタは犬の中で最高の種、雑種犬だ。少女の瞳のように愛らしい目をしている。初老の飼い主と暮らしていたが、ボスニア人を名乗る不審な男があらわれ、街角に捨てられてしまう。世界中で繰り広げられる残酷で不条理な愛の物語を横切りながら、ティモレオンはひたむきに家路を急ぐ。世界25カ国で翻訳された話題作。
感想・レビュー・書評
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良い小説だったけど…予想してたけど…最後が辛すぎ(涙)。
淋しさのあまりに大事なともだちを裏切るような愚かさには年をとっても陥りたくないものです。 -
捨てられた犬は、飼い主の元へとひた走る。残酷な運命を横切りながら。人生はこんなにも残酷で不条理で、なのになぜか美しい。動物のほのぼのモノをお探しの方は、間違っても手にとられないよう。
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「少女の瞳のように愛らしい目をもつ」雑種犬のティモレオン。年老いた音楽家のコウクロフトとの穏やかな日々は、ある日突然終わりをつげ、野に放たれる。
愛する飼い主のもとに戻るため、旅するティモレオンは、行く先々で誰かの人生の1ページに立ち会うこととなる。
イタリアを舞台に、こっぴどい失恋をしたイギリス人の少女や、母親を失った中国人の幼女、奇跡のようなラブストーリーではなく己の人生を選ぶ聾唖の娘、それぞれの哀しみを抱えた印象的な物語が繰り広げられる。
そしてそのどこかに、それぞれに名付けられたティモレオンがいる。
そもそもコウクロフトのもとにさまよってたどり着いたティモレオンは、それ以前にまた誰かにとっての別の何かであったことであろう。
おとぎ話のようで、皮肉で、残酷。
ラストシーンのとびっきりの甘さと、グロテスクさ。
江国さんの解説もとても良い。 -
ケモノバカ豊崎が、絶対に読むべき「犬」作品を紹介! 〜名作ゴン攻め「あいうえお」〜
https://youtu.be/LNSoeFRomRE -
思い通りにならない人生
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ダン・ローズは毒を配するのがうまい作家だ。「雑種だが少女のような瞳のかわいい犬(ティモレオン)」を冒頭で印象的に紹介し、逆説的な名犬物語を繰り広げる。飼い主と犬の絆を中心にコミカルで寓話的に話は進むが、いちいち細部が不愉快であからさまである。ラストは残酷。意図的過ぎる感じはあるが、「そうだよ可愛い犬が幸せになれない世の中なんだ」と自虐的に首肯する。
道中で出会う人々のエピソードは巧みで、物語の続きを知りたいと思わせる。優れた短編小説のよう。 -
2014/04/20/Sun.文庫本を中古(ネット通販)で入手。
2015/09/30/Wed.〜2015/10/11/Sun.
タイトルと表紙のイラストから受けた最初のイメージはサクッと裏切られた。
感動や癒しは皆無です。
犬を愛する人にとっては、特につらい内容となっているため、筆致に魅了される人と嫌悪感を抱く人、ハッキリ分かれそうだけれど…。
私はこの作品を読み終えた後、やりきれない気持ちになると同時に、読む価値のある、とても優れた小説だと思いました。
特に第二部。
行間には、不快な淀みやら、もの寂しさやらが沈んでいて、時には劇薬のようにビリッと残酷。
なのに、不思議な美しさと煌めきがそこにはあって、なんでだか愛おしい気持ちにすらなってくる…。
風変わりな余韻も後をひく、魅力的な小説。 -
最高!!犬は純粋で愛らしく、人間はとことん愚か。
第一部では人種瀬別発言でセレブ作曲家の座から転落したホモセクシャルのコウクロフトが麻薬の売人でヤクザから逃げている自称ボスニア人の言うなりになって愛犬ティモレオンを捨てるまで。
第二部は主人のもとに帰ろうとするティモレオンと触れ合う人びとの物語。安易なお涙ちょうだいの動物ものとは全く違うけど、残酷で皮肉なユーモアと、それでも滲む人間愛と、物語の巧さにひきこまれた。
コウクロフトってほんとに気の弱い馬鹿なんだけど、愛すべきところもあって嫌いになれない。ラストも安易なハッピーエンドではないので、犬好きのひとは憤死しそうだけど、心に残った。 -
悪意と不条理に溢れる連作小説からなる一冊。ティオレオンとは犬の名前。癒しとかは皆無でそういうものを求める人は嫌いだろう。人生の残酷さと美しさと悲哀を見せつけられる。よく練られて先が読めない「お話」というのを久しぶりに味わった。平易な語り口で日本語が素晴らしい。ダールとかの系譜じゃないかなと勝手に思う。素直で技巧に凝らない「お話」で引っ張る小説を読んだのはいつぶりかと考えるほどだった。傑作。