羽生善治と現代 - だれにも見えない未来をつくる (中公文庫 う 32-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (450ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122057593

作品紹介・あらすじ

将棋界の歴代記録を塗り替え続ける最強棋士。なぜ彼だけが常に熾烈な競争を勝ち抜けるのか。タイトル戦観戦記にトップ棋士たちとの対話、そして羽生本人に肉迫した真剣対談が浮き彫りにする、強さと知性の秘密。ルールがわからない人をも魅了する、天才棋士の思考法とは。既刊単行本二冊を再編集し、羽生善治との最新対談を収録した完全版。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は著者の『シリコンバレーから将棋を観る』(2009年)と『どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?』(2010年)を合体した上で、羽生善治との新たな対談を加えて一書に再編したものとのことです。
    本書で最も言いたかったことは、自分が将棋に弱くても、鑑賞の方は十分に楽しめるはずだ!ということです。確かに野球やサッカーのように自分がプレイをしなくても、プロスポーツを観戦し評論して楽しむ人は大勢いるので、ルールさえある程度理解していれば観るだけでもそれなりに楽しめるゲームなのではないかと思います。ただちょっと前まではマニアックな趣味の部類にあったので(!)、なかなかプロの棋戦に接する機会も限られていたのですが(NHK杯くらいか?)、ネットでの生中継や情報・交流サイトなどが充実してくるにつれ、将棋に弱くても観戦なりしてそれなりに楽しめる環境は整ってきたといえるでしょう。
    自分も小学生の時分に熱中していた頃もあったのですが、そもそもとても弱いので(笑)おのずと遠ざかっていたのですが、数年前から毎日気分転換にスマホで詰将棋を試していると、だんだんとプロ棋士の実戦も観てみたくなり、また、YoutubeなどにUPされているかつての名場面動画などを観るにつけ、次第に鑑賞だけでも楽しいなと思えるようになりました。そんなところに本書で取り上げられているのが、現在でも棋界第一人者の羽生善治で、世代がちょっと近いということもあり(笑)、他の棋士は知らなくても昔から密かに応援していた棋士であったので(笑)、興味深く本書を読了することができました。
    全国の天才少年が切磋琢磨してプロとなり、その中からさらに天才の中の天才を決めようという将棋界は熾烈な世界そのもので、さらに若き頃の羽生善治がその著書『変わりゆく現代将棋』で押し開けた「現代将棋」への道は、知のオープン化による膨大な思考の集積が将棋技術の爆発的進展をもたらしたということであり、巨大な最新研究の成果の吸収と秒読みに追われるなどぎりぎりのプレッシャーの中で要求される強靭な思考と精神力、そしてプロゲームならではの人間対人間の全人格を勝負として賭けることができた者だけが、トップとしてサバイバルできる強烈な世界であるということです。そんな中で、羽生善治は現在も常にタイトル戦をこなし(2014年は名人位を奪回)、棋界の第一人者としてイベントやテレビ番組にも登場したりしながら、熾烈な勝負を年がら年中行っていて、頭がどうにかなってしまわないかと余計な心配をしてしまうのですが、人間の能力の最大パフォーマンスの追求と将棋の発展の行く着く先を俯瞰している彼にとってはまだまだ努力のしようがある世界だと思っているのかもしれません。
    それはそうとファンであったにもかかわらず、恥ずかしながら羽生善治が著したという『変わりゆく現代将棋』の唯一のテーマが矢倉戦での五手目が7七銀であるべきか6六歩であるべきか延々と考え続けた著作であることを本書で知って、将棋というか羽生善治の思考の深さにとても驚愕した自分ですが、著者の本書での取り扱いがややもすれば教祖と見紛うばかりの肩の入れように始め少し違和感もあったのですが、そんなことで、まあ彼は「神」ということで了解しました。(笑)
    また本書では羽生善治のライバルということで、「羽生世代」の好敵手にていまでも負けると自分の不甲斐なさに泣くこともあるという佐藤康光九段や、社会性抜群の深浦康市九段、そして、現在の羽生善治の最大のライバル・渡辺明二冠などとの交流や観戦記録も十分に取り上げられていて、これらエピソードもとても面白いものでしたが、とりわけ若手に立ちはだかる厚い壁ということで、山崎隆之とのエピソードがすこぶる楽しかったです。
    それにしても「名人」という称号は羽生善治によく似合いますね。

  • 観る将棋の名著「シリコンバレーから将棋を観る」「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか」の文庫化。2冊のハードカバーが一冊の文庫になったうえ、梅田と羽生の最新の対談も収録。超お得であるうえ、内容も素晴らしい。改めて通読して、やはり秀逸と思ったのは、以下の章。

    「若者に立ちはだかる第一人者」
    羽生が、勝ったにもかかわらず、「面白い将棋だったから、もっともっと指したかったのに。簡単に投げるな。もっと行けたはずだ」と敗者山﨑に対し見せる怒り。その後の羽生の楽しそうな感想戦への打ち込み。山﨑の「勝ったくせに・・。こちらはボロボロなのに」との見事なぼやきぶり。これを書いている著者も楽しそうで、何とも、幸せになる1章である。
    「研究競争のリアリティ」
    若手の研究成果をベテランが利用(搾取)していく現実の功罪が、実名をあげて、リアルに書かれていて、何とも興味深い。

    その他、梅田や羽生によって描写される、佐藤・渡辺・深浦などの棋士も魅力的。しかし、羽生って凄い、と感嘆する一冊である。

  • 観戦記、対談共に面白かった。将棋界に強い人は羽生さんの他にもたくさんいるのだけれど、それでも、羽生さんがどうして強いのか。それに実際の将棋のタイトル戦の解説から触れられる。

    ・たとえば、新聞というのは発行部数が多いぶん、一文字あたりの価値(コスト)が高い。よって字数制限が厳しい。そういう制約を「当たり前」の前提にして、新聞の将棋観戦記というものが書かれてきた。しかし字数が少なくて将棋の中身がわかるのは、よっぽど将棋が強い人だけである。インターネットにはそういう制限字数のコスト的制約などないから、字数の制約という思考の枠が取り払われて、将棋を巡る思いきり長い文章や解説が用意されればいい、と私は思った。そこにこそネットと将棋普及の接点を感じてほしいと思ったのだ。将棋を語るときに、分量の多さというのはとても大切な要素なのである。

  • (大雑把にいえば)棋界の現代について羽生さんを中心にして語る本。棋士への取材が豊富なことや著者の熱意もあいまって、楽しい本に出来上がっているので、棋力にかかわらず興味を失わず読めるでしょう。

    以下は個人的なメモと感想。
    ・著者の考え(主張というより価値観)が強く現れている部分も(特に情報の流れの早さについて書かれた部分)複数個所あります。といっても勿論それはマイナスにはならないはず。
    ・ここ二十年間てわ将棋に関して出版された類書(つまり定跡書や資料集ではなく、将棋を語る本)の中で、内容の濃密さはダントツです。ちなみに二番目は、中公新書のマニアックなカラー本『将棋駒の世界』です。
    ・本書で紹介されている深浦さんの意見がとても興味深い。深浦さんの著書(『最前線物語』二冊)を引っ張り出して再読しました。
    ・羽生さんファンでない自分でも楽しめました。ところで伊豆の豆戦車ファンはいないのでしょうか。

    中央公論新社の商品ページ
    http://www.chuko.co.jp/bunko/2013/02/205759.html


    【誤植メモ】
    (p.193)図面ミス:先手の持ち駒が示されていない。「持ち駒なし」と仮定すると駒の総数が足りない。
    (p.363)図面ミス:5三のマスにあるべきは成桂。しかし生の桂馬が印刷されている。

  • ITジャーナリストの梅田望夫から見た羽生善治と現代将棋について。

    現代将棋のことを「高速道路の後の大渋滞」と評したのは彼だが、その状況をトップ棋士を通じて描いていた。

  • 将棋

  • 将棋の世界が ウエブの世界と共通している部分がある
    という 梅田望夫の指摘は 結構おもしろい。
    そのなかで なぜ 羽生善治が そんなに強いのか?
    ということに 焦点を当てる。

    情報化時代は オープン化されることで共有される。
    知的所有権がないという世界は残されたものは、
    『創造性』しかない。
    その『創造性』はつねに模倣される。
    つまり 進歩は加速度的にならざるを得ない。
    そこからは モノ開発ではなく、仕組み開発でしか
    生き残れないのかもしれない。

    中国のことを考えると 
    知的所有権はないと同じ状態なので、
    たしかに、モノマネで 高速道路を走ることができるが
    結果として 創造性というところで 
    『渋滞』が起こっているのである。

    この本の中心的なテーマは、ここにつきるかもしれない。
    誰にも見えない未来をつくることこそが 求められている。

    そういう前提の中で 羽生善治がなぜ強いのか?
    を追及する。

    『闘う相手の棋士としての本質を、
    極めて抽象度の高いところで、掌握していることにある。
    将棋に負けた以上に、
    自らの人間としての本質を掌握されたうえで、
    敗れたと感じ、
    それがより深い痛手になるのではなかろうか?』

    1 人間としての強さ。
     複雑さを解明する日常を喜ぶ生活。
     過去の圧倒的な実績。
     森羅万象 複雑な事象の本質を抽出し、
     シンプルにものごとを見る明晰さ
     俯瞰的な視座をもつ合理主義。

    2 将棋の神に対する忠誠度の強さ。渾身没頭。
     一般化するならば、専門分野に没入する強さ。
     苦労を苦労とおもわず 
     楽しみながらその苦労を続けている。
     より複雑な局面に遭遇する時に 
     無上の喜びを感じている。
     将棋の進化に身をゆだね、予期せぬ結論を真理として
     受容する心構えを有し、
     だからこそ 誰よりも真理の探究に情熱を燃やしている。

    3 対戦相手との関係性において 
     盤上で棋士として発揮する強さ。
     オールラウンドプレイヤー。

    渡辺明、佐藤康光が いいポジションをもっている。
    量から質に転化する瞬間が いつあるのだろうか。

    人間と人間の戦いの中で 
    頭脳しか頼ることができない怖さ。
    それを まざまざと見せながら、
    羽生善治は切り開いていく。

  • あまり得意じゃなくても、将棋に興味を持てるようになる一冊。
    また駒に触れてみようかな~と思う。
    将棋から現代社会の特性を導きだそうとしているところが興味深い。

    現代は、高速道路。
    誰でもカンタンに前に進めるけれど、その先には大渋滞が待っている。
    その大渋滞を抜けられなければブレイクスルーは起こらない。

    高速道路とは、大量の知識や情報が整理された状態のこと。
    誰でも手を伸ばせばカンタンに手に入る。

    大渋滞とは、そんな高速道路に突っ込んだたくさんの人々がなした群れ。
    そこからまた一つ突き出るには、自分で考えることのできる力をしっかり養わなければならない。

    じゃあ、一般道でゆっくり行ったらいいかといったら、それではスタートの時点で出遅れて取り返しのつかないことになってしまう。

    膨大な情報にも全て触れておく必要がある一方、自分でしっかり考えることのできる力も身につけておかなければならない。
    これが現代の将棋でも現代社会にでも共通する大きなジレンマ。

    なるほど、情報化社会の大きな特性だろう。
    何事も、他のモノで勝負してはいけない。でも、身の周りにある部品を利用しない手はない。重要なことは、自分のポリシーなり個性をもって、それらの部品を加工すること。そうすればきっと素晴らしい作品ができるはず。
    日々是精進ですな。

    『後にとっておける手は残しておくこと』というのも興味深い。よく今日できることは今日やれという。前者の発想は、明日できることは明日やれということだ。きっと両者とも大事なのであって、バランスをとって生きていくことが大事なのだろうな~。

    本書を通じて感じた羽生さんの強さ、それはやっぱり将棋を愛する心なのだと感じた。だからあれだけ集中できて、あれだけ継続できて、あれだけ圧倒的なのだ。
    何事もモノになるには時間がかかる。楽していい仕事はできないのだ。どうも楽してできたらと思ってしまうけど、要は自分自身が好きになること、楽しむこと。そうすればきっとうまくいく。

  • 梅田望夫さんの先行書『シリコンバレーから将棋をみる』『どうして羽生さんだけがそんなに強いんですか?』を再編集し1冊にした本。新たに対談を追加しているがあまり長くないので、2冊ともお持ちの方はどこかで一度読めば十分かも。

  • スーパースターのスター性とそのスーパーさについて書かれており、ワクワクしながら一気に読んだ。

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