- Amazon.co.jp ・本 (396ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122058842
作品紹介・あらすじ
渋谷・新宿で発生した連続通り魔殺人事件。なぜか誤認逮捕が繰り返される事態を解明すべく警察庁から送り込まれたのは、心理調査官・藤森紗英だった。苦手な美人と組まされる羽目になった碓氷警部補は戸惑うが、紗英の助言によって、巧妙な「犯人すり替え」のトリックが潜んでいることがわかる。はたしてこの異色コンビは真犯人を探し出し、惨事を食い止めることができるのか。警察小説の第一人者が贈る「碓氷弘一シリーズ」第四弾。
感想・レビュー・書評
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警視庁捜査一課第5係、碓氷弘一。腹の出た体型に薄くなってきた頭髪。くたびれた背広を着たサエない中年男だ。
警部補になりたてだが、係内では最年長の 48 歳ということもあり、年下の係長からは番頭のような扱いをされている。
そんなベテラン刑事が事件解決に奔走する警察サスペンス。シリーズ4作目。
◇
6月17日金曜日。退勤時間になっているが、鈴木係長が腰を上げないので碓氷も席を立てずにいた。
今日は朝から嫌な予感がする。さっさと退散したいと碓氷が焦り始めていたとき、一斉無線が入った。渋谷ハチ公前広場で通り魔事件が発生したとの連絡だった。
さっそく管理官から指示があり鈴木係長以下第5係 12 人が急行したが、現場に到着してみると犯人はすでに逮捕されたあとだった。犯人は居合わせた一般市民にしがみつかれて逃亡できず、広場前派出所から駆けつけた警官たちに取り押さえられたという話である。
しかし、逮捕に協力してくれたという一般市民はいつの間にか姿を消し、その人相風体を覚えている警官はなぜか1人もいなかった。
さらに被疑者は悲痛な声で容疑を否認しているというのだが……。
(第1話) 全25話。
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オカルトファンタジーだった前作とは打って変わり、読み応えのあるサイコミステリーでした。
渋谷と新宿で起きた通り魔殺人事件。共通点が多すぎることに田端捜査一課長は着目。特捜本部を設置し、被疑者を取り調べている各所轄署とは別に捜査することにしました。
ちなみに共通点についてですが、
①人通りの多い広場で起きている。
②犯行を見た者は誰もいない。
③被害者は死者1人、負傷者2人。
④その場に居合わせた一般市民が犯人にしがみつき、「こいつが犯人だ」と叫んでいた。
⑤その一般市民も犯人も返り血を浴びていた。
⑥駆けつけた警官が犯人をすぐ逮捕した。
⑦逮捕の際、凶器の包丁は地面に落ちていた。
⑧逮捕に協力した一般市民は消えるようにいなくなった。
⑨犯人を逮捕した警官たちは誰1人、姿を消した逮捕協力者の人相風体を覚えていなかった。
⑩逮捕された犯人は、全面的に犯行を否認している。
と、類似性はかなり高く同一犯の匂いが強くします。つまり、確保された2人の被疑者は誤認逮捕の可能性があるということになるのです。
さて今回、碓氷がバックアップするゲスト出演者は、警察庁刑事局から派遣された心理調査官です。
名は藤森紗英といい、30歳前後のスラリとした美しい女性です。
田端課長からサポートを命じられた碓氷は途方に暮れてしまいますが、命令には従うほかありません。こうして美人調査官とサエない中年警部補の「美女とアナグマ」のようなコンビが誕生したのでした。
収集されたデータから犯人の心理を読みプロファイリングする。それが紗英に課された仕事なので本庁詰めでも構わないはずなのに、紗英は碓氷とともに捜査に出ることを希望します。
かつては対人恐怖症で、その克服のために心理学の道に進んだ紗英。
今でもオドオドした態度が出てしまうことがありますが、不思議なことに碓氷の前では自然に振る舞えることに気づいたからでした。
心理学を用いた「印象のすり替え」を犯人が仕掛けたことを見抜いた紗英は、犯人の残した「エチュード」ということばの意味を読み解き事件を解決に導きます。紗英と犯人が互いの心理を読み合う描写は読み応えがありました。
一課長はじめすべての捜査員が認めた紗英の活躍が、碓氷のバックアップあってのことなのは言うまでもありません。
『パラレル』とは違って本来の姿を見せてくれた碓氷。人使いの名人が本領発揮した第4巻でした。
ところで、警察庁刑事局心理調査官・藤森紗英というキャラは実に魅力的な設定です。この1作で終わらせるのはあまりに惜しい。
彼女を主人公にした作品を ( シリーズ物で ) ぜひ読みたいと思いました。 ( 碓氷のような、姫を支えるじいが必要なのかも知れませんが、なんとか考えていただけませんか? )詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
勇気ある一般市民の協力によって逮捕されたかにみえた通り魔殺人の犯人。
現行犯逮捕という現実の前に、消えた協力者へ注意を払う人間はほとんどいなかった。
しかし、犯人として逮捕された男は拘束直後から「自分はやっていない」と否定をし続ける。
相棒として心理捜査官・紗英とともに捜査を続ける碓氷に、紗英は意外な事件の真相を告げる・・・。
人物の記号化という考え方がとても面白かった。
人は興味があるものは記憶に残りやすく、逆に自分にとって関心のないものは記憶に残りにくい。
より強烈な印象を残すものは、他のものよりも強く記憶されやすい傾向がある。
後半、「強固な象徴性」という言葉が出た時点で、犯人の次の手口がわかってしまったのは残念だった。
捜査方針を決定しなければならない場面だっただけに、必要な不可欠な展開だったとはわかるのだけれど・・・。
事件は人が集まる駅前広場で起きている。
犯人が下見をした可能性が指摘されてから、周辺の防犯カメラがチェックされる。
事件当日の防犯カメラに犯行の様子は映っていなかったのか。
用意周到な犯人のことだから、カメラの死角を狙っての犯行だったのかもしれないが。
しかし、群集がパニックになっている中でひとりだけ違う行動をしている者がいたら目立つと思うのだけれど。
プロファイリングの正確さについても、あまりにも100%の的中率だったことがかえって「えっ?」と感じてしまった。
それでもやっぱり今野さんの作品は面白い。
見かけるとつい手に取ってしまう魅力がある作家だと思う。 -
心理調査官とサポートする碓氷。心理調査官による解明がストーリー全てを支える。今までに読んだことのない切り口、余計なブレもないストレートな展開。爽快な読後感。
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犯罪心理がどういうものなのか知ることになった1冊。犯罪者の心理を解き、先回りして事件を解決するストーリーは読んでいて気持ちが良かった。ただ、犯人逮捕までの流れが淡々としている印象で、もっときめ細かくボリュームを出してでも緊迫感を演出して欲しかったと感じた。
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2012年11月中央公論新社C*NOVELS刊。碓氷弘一シリーズ4作目。心理調査官と組んで連続通り魔殺人事件にあたる碓氷警部補が良かった。組合せというのが、碓氷弘一シリーズのテーマですが、今回は、特に緻密で良かったです。碓氷さんは、公平、公正です。
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相変わらず、読みだしたら止まらない、今野敏の警察小説。
ユニークな相棒が登場するこのシリーズ。
今回は、何とも魅力的な美人心理調査官、それだけで読まずにはいられない(笑)
読み進む中で、次の展開が予想され、犯人の最後の仕掛けもなんとなく読めてしまったが、それでも読後のスッキリ感が減殺されることはない。
このシリーズの未読編を読まずにはいられない。 -
既読本。記録のため登録
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碓氷シリーズ4作目。2,3はかなり昔に読んでいるので内容を覚えていないのだけど1話完結なので問題なし。
碓氷シリーズは碓氷さんが活躍するのではなく、その時々で外部の人とペアを組み事件を解決していくシリーズ。今回は心理戦ということで警察庁のプロファイラーが登場。犯人との心理戦が面白かったが警察庁のプロファイラーが優秀すぎると思う。 -
碓氷の人間性がやっと分かった気がする。紗英をサポートする姿も、父親・夫としての姿も、どちらも好感が持てた。