グレイス (中公文庫 は 66-3)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122063792

感想・レビュー・書評

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  • 朝鮮出兵に叛逆し、妻子領民を殺された五郎太。絶望の淵を生き抜く男に訪れた恩寵とは。生の意味を問う傑作長篇。『極悪 五右衛門伝』を改題。〈解説〉佐藤優

  •  前半は遠藤周作の「沈黙」のよう。

     梅北五郎太は朝鮮征伐に反対する薩摩の地頭の息子で、謀反を起こして肥後の佐敷城を奪うも、一瞬で反乱は制圧された。
     捉えられて連れて行かれた刑場では、謀反とは全く無関係の民が目の前で殺される。
     死体の山を乗り越えて追放された五郎太が流れ着いた先はマニラの女郎屋だった。

     マニラで五郎太が出会った異端の神父はバテレン追放令後、日本人の求める救いが嘘だったことに絶望し、日本を追われた。
     逃げた先のマニラでは十字架を足裏に彫って常に踏みつけ汚し、さらには悪魔崇拝にも染まっている。
     しかし、これはキリスト教への信仰を捨てたわけではなく、どこまで罰当たりをすれば神の救いが差し伸べられるのかを試している。
     悪魔を崇拝を深めるほどに、神の救いを求めているという矛盾を孕む。

     五郎太自身は仏の字を足裏に刻み、仏を踏みつけ生きることを決心した。

     五郎太をキリストの受難になぞらえた宗教書めいた小説だ。
     グレイスとは神の祝福。
     自らを五右衛門と名を変え、太閤秀吉の暗殺を狙った先に何を見たのか。

  • イモータルで印象的だったので次の作品を読んでみた。非常に印象的な内容には違いない。何か煮え切らない感じがする 構成とかバランス?に、、、吉田修一の方がうまく表現できているように感じるけど、これはこれで印象的だし おもろい。

  • 初耿介。表紙買いだったが、失敗…。私の大好きな宗教モノかと期待したんだけど——。つまらなくはなかった…かなぁ?ま、面白くもなかったけどw

  • いまいち

  • 萩耿介『グレイス』(中公文庫、2017年3月)読了。

    表紙につられて書店で購入。

    九州地方の地頭の子、五郎太が主人公。
    一族が秀吉の朝鮮出兵に反旗を翻して失敗し、五郎太自身も妻子を虐殺される。犠牲になった妻子や領民の血みどろの死体の上に投げ出されて、ただ一人、罪を背負って生きていくことになった書き出しはグッド。描写もグッド。

    生き延びて国を追われ、ルソン(マニラ)に渡り、海賊で生計を立てつつ、神の存在を確かめるために赤ちゃん殺し(口減らし)を実践するポルトガル人宣教師の教えに触れながら神の存在の有無を自答しながら苦しみつつ生き続ける設定もグッド。

    ルソンから帰朝し、やがて堺商人のもとで働くも、番頭に追い出されておくに(出雲の阿国)の一座の太鼓叩きとして活動し、おくにと情を交わしつつも、別の一座の妨害や京都所司代の妨害を受けて一座を離れて生き続ける描写もグッド。

    一座の団員として伏見城に招かれた際、関白秀次に見いだされ、とっさに名前を五右衛門と名乗る。秀頼が誕生した環境の中で、秀次が苦しい心情を吐露し、それに対して五郎太(五右衛門)が強く生きることを進言するも、秀次のため、自分のため、やがて、秀吉暗殺に向かういきさつもグッド。

    もう一歩のところで秀吉暗殺に失敗し、捕まえられて牢獄に入り処刑を待つ場面もグッド。

    おどろおどろしい殺人や血の海の場面が多く、そうした中で、生きるとはどんなことかを問い続ける話はグッとくるものがある。

    しかし!
    しかし、だ。
    オチが弱すぎる!

    グレイス=Grace(神の恵み)を問い続けながら、しかも「仏」の文字を足裏に刻み(入れ墨)、それを歩くたびに踏みつけて神や仏の存在を問い続けながら、最後の場面があれでは拍子抜けしてしまう。

    結局、遠藤周作よろしく、神は沈黙を守る、で終わるのは、大いに不満が残る結末。全体の95%はいい出来なので(夜を徹して読ませるだけのストーリーと描写の巧みさ)、なおさら残念。

  • 『イモータル』に続き、二作目読了。
    こちらも『極悪 五右衛門伝』から改題した模様。

    『イモータル』ほどの世界の広がりはなかったが、この分厚さを考えると濃密過ぎる!
    最初のシーンがトラウマ過ぎて、それでも破滅に至らなかったのは何故なのか分からないよ……。

    五郎太は転げ落ちるように悪を貫き続けたわけではなく、波風穏やかに生の赦しを束の間得ることもあった。
    ただひたすら、復讐のためだけに生きた訳ではないはずだった。
    それでも、彼は彼の中にある風景(個人的にはアンリミテッドブレイドワークス的な)から逃れることが出来ずにいる。
    結果的に復讐が可能となった道筋には、何かしらの意思を感じさせられる。

    解説では、逆説的に「恩寵」がなくては成功はないことがメッセージにあると書いてあった。さて、どうなんだろう。
    もし、結末が成功だったとして、そこに何らかの救いがもたらされたか。
    また次の呪いに蝕まれただけではないのか。

    キリストとの邂逅。
    終始一貫した苦痛によって、試練は終わる。
    どこまでも続いたであろう心象風景に、幕を下ろすことの出来た結末は、失敗とは言えないのではないかと問いたい。

    追記

    まさか次に読んだウェルベック『服従』からデュルタルに行き着くとは!
    ユイスマンスを知らなかった私には衝撃。
    原田マハ『サロメ』でのワイルドとビアズリーと言い、今年はデカダンの洗練を受けるなぁ。

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著者プロフィール

萩耿介
1962年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部ドイツ文学科卒。2008年『松林図屏風』で第2回日経小説大賞受賞。著書に『炎の帝』『イモータル』(中央公論新社刊)の他、『覚悟の眼』『極悪 五右衛門伝』などがある。

「2022年 『食われる国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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