レインコートを着た犬 (中公文庫 よ 39-6)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122065871

作品紹介・あらすじ

長く読み継がれている『つむじ風食堂の夜』『それからはスープのことばかり考えて暮らした』に連なる物語が、ついに開幕! 舞台は、小さな映画館〈月舟シネマ〉。語りだすのは、ほら、いつもロビーにいる、彼。BGMは、優しい雨だれの音……。ゆるやかに呼応する〈月舟町〉三部作の完結編。

感想・レビュー・書評

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  •  表題が今の梅雨の季節に相応しいと思い手にしました。
     「月船町シリーズ」3部作の第2作『それからはスープのことばかり考えて暮らした』を以前に読み、吉田篤弘さんの世界観に初めて触れ、その魅力を知りました。気になっていた作品です。
     本作は、シリーズ順等にこだわらなくても、単独で楽しめました。

     ゆっくり流れる時間軸の中、移ろいゆく町やそこに暮らす人々の機微が描かれます。
     本作の語り部が<月船シネマ>の番犬・ジャンゴであるのが大きなポイントです。笑顔もつくれない、言葉も駆使できないけれども、人の心情を汲み内面を見透かしているような犬の語り部設定が功を奏し、物語に奥行きを与えている気がします。素のまま接してくる周りの人たちとの距離感がいいです。
     犬目線で、人への優しさやツッコミもあって平和な日常なのですが、月船町の映画館やパン屋や食堂や屋台や古本屋は、それぞれ経営難で‥。

     変わること、古くなることがマイナスなのではなく、次へ進むこと、楽しむことが大切なのだと、ささやかに激励してくれているようです。
     月、灯り、雨といった情景も幻想的なイメージを膨らませ、ゆっくりと時間をかけて味わいたくなる一冊でした。
     順番がめちゃくちゃになってしまいましたが、機会を見つけて未読の『つむじ風食堂の夜』もぜひ読んでみたいと思います。

  • 犬が活躍したり感動を与える振る舞いをする話かと思いきや、犬目線で人の生き様が語られる物語だった。
    月舟町三部作の中では、最も冷静に人を客観視しているように感じられた。

    そのわけは、あとがきを読んで納得した。
    「三作目の主人公を決めたのはいいが、彼は人一倍無口な男で、長々と物語るのがどうにも似合わない。
    どうしたものかと困っていた時に、主人公の足元に番犬のジャンゴがいた。
    犬はヒトの心情を汲んでくれるように思う。だから、人は犬に話しかける。皆が内面を犬にさらけ出すので、犬だけが皆の胸中を知っている。」

    「当たっている」とは少しニュアンスの違う「ズボシ」という言葉が何度も出てくるのは、犬のジャンゴが人の心を知っているからだ。

    この"月舟町"の物語は「ここ」をめぐる話で、「ここ」ではない「外」を考えてみたりもする。
    「私の町」。いったいどこからどこまでが「私の町」と呼んでしかるべきなのか。
    どこまでが自分の領域で、どこからが自分の知らないところなのか。

    キーワードは「ここ」だけではなく、「夜」や「雨」についても言及される。
    雨だからレインコート?
    雨の日の散歩だからって、レインコートなんて着たくなかった犬のジャンゴだったんだけど…

    最後に、今回頭に残った言葉を少しだけ。
    「有難いものを、人はほどなくして当たり前なものにかえてしまうんだよ。」
    「負けるが勝ちって言葉があるだろ。言葉があるってことは、延々と人はそんなふうに生きてきたってことだ。」
    「理屈なしに好きだって思いに、あとから理屈をつけようったって、しょせん無理な話だ。」

  • 「月舟町」三部作の三作目。3冊どれも私の気持ちにしっくりときて、じんわりと読後の余韻をかみしめていますが、この『レインコート…』が一番好きかなぁ。これからも度々読み返すと思う。

  • 月舟町三部作シリーズの完結編♪
    二作目は月舟町の隣町が舞台のお話だったけど、こちらではまた月舟町に戻って。
    姉妹作でそれぞれ個々のお話かと思いきや、完結編にして前二作とリンクして繋がった感じ♪

    今回は犬のジャンゴ目線で語られる、"ここ"で暮らす人達のお話。
    相変わらず大した事は起こらないのだけど、個性的でおかしみのある月舟町の人々の日常がなんとも言えず愛おしい〜
    時の流れとともに変わっていく世の中。
    それに取り残されそうで迷う人達。
    無理に変わらなくてもいい、焦らずもう少しだけ好きな事で頑張ってみるのもいいかもしれない。
    なんだか穏やかな気持ちになれる1冊だった。

    あ〜親父を黙らすほどのクロケット定食、私も食べた〜い\♡︎/

  • 主人公は月舟シネマの看板犬ジャンゴ。
    物語は彼目線で語られる。
    飼い主は直さんだ。

    本作は吉田篤弘さんの月舟町三部作の3作目。
    (『つむじ風食堂の夜』『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』)
    だから、前2作の登場人物や場所も顔を覗かせる。
    それが嬉しい。
    大里さん(オーリィ君)、雨降りの先生、つむじ風食堂、トロワなど、前2作との響きあいがたまらない。
    気になる方は是非、前2作もどうぞ。
    勿論、本作だけでも充分楽しめる。

    前作にも登場した古本屋の「デ・ニーロの親方」。
    素敵な呼び名なのに、当の本人は横文字に弱い。
    「紅色の親方」だと勘違いしている。
    ジャンゴの名前も然り。
    親方は彼をアンゴと呼ぶ。
    この親方、ぶっきらぼうだけれど良いことを言う。
    ブラームスなんて聴いたりもする。
    人の話も聞いていないようできちんと聞いている。
    「……だけど、昔から負けるが勝ちって言葉があるだろ。言葉があるってことは、延々と人はそんなふうに生きてきたってことだ。」
    「屋台とか古本屋っていうのは世の中のどんづまりにある最後の楽園みたいなもんでさ、そういうところへ辿り着いた連中が、全員、マケイヌであっても俺はまったく構わない」

    さて、ジャンゴ。
    物知りで思慮深い。
    だからこそ読み進めるほどに彼が愛おしくなる。
    愛犬がいらっしゃる方は余計にきゅんとするのではないだろうか。
    周りの人間たちをよく観察し、健気に思い悩んだりする。

    直さんの古い映画館は来館者が少なく経営難。
    映画館の売店で売られる初美さんのパンにも助けられているものの、奇しくも「トロワ」がライバル店に!
    お客様が取られてしまうってことは、イコール来館者が減ってしまうこと。
    そしてビストロ「トロワ」は「つむじ風食堂」の直接的なライバル店にもなるわけで。
    そして味を探るために「トロワ」送り込まれたスパイはデ・ニーロの親方!笑
    親方の判定はいかに…?
    そして直さんの映画館は…?

    終盤、またも親方がいいことを言う。
    「…本当に好きなときは、いくら考えたって、理由とか理屈なんてものは出てこない」
    「不安になると、つい言葉に頼りたくなるけど、自分が好きなことをきっちりやってれば不安になる暇もないだろう。俺はたぶん、いつからか、きっちりやってなかった。やってるふりをしてただけだ。どこかで手を抜いてた」
    「答えはただひとつーーーやめないこと」

    物語は至って平穏だ。
    温かくラストへ向かう。
    どこかの片隅にある、忘れ去られたような町。
    寂れた…と言ってしまえばそれまでだけれど、
    そこに住む人々は個性的で、スポットを当てれば皆キラキラとしている。
    そんなみんなの、何気ない日常と小さな騒動。
    どこか懐かしいお料理も美味しそうだ。

    そうそう、ジャンゴもいいことを言う(思う?)。
    「私はこう見えて、多くの人間たちに「可愛い」と頭を撫でられる身であるが、人間のこうした道理の通らない考えや行動こそ、可愛く見える。
    愚かしいことはときに可愛い。可愛いことは、おおむね愚かしい。」
    何だか、周りの大抵の人を愛おしく思えそうな言葉だ。

    この直後、タモツさんとサエコさんのすれ違いのシーンが何とも良い感じだ。
    にっこりしてしまう。
    にっこりシーンは畳み掛けるようにやってくる。
    なんとジャンゴの友人、テツ君が!笑笑
    それは読んでからのお楽しみ。
    "あとがき"もとても良いので必読。



    "今回の美味しい"は、クロケット定食。
    夜、雨、瓜二つの兄弟など、吉田さんらしいシチュエーションやキーワードも登場する。

    ☆ジャンゴ・ラインハルト…ベルギーのジャズギタリスト。曲は陽気なスウィング・ジャズだ。「Honeysuckle Rose」など。

    • mihiroさん
      傍らに珈琲を。さ〜ん*\(^o^)/*
      おはようございます♪
      3作目も良かったですよね〜!
      親方がいい味出してましたよね♡
      ほんとに美味しい...
      傍らに珈琲を。さ〜ん*\(^o^)/*
      おはようございます♪
      3作目も良かったですよね〜!
      親方がいい味出してましたよね♡
      ほんとに美味しい時は言葉なんて出ないもんなのかもですね!あぁ私もクロケット定食食べてみたい♡
      そしてジャンゴとすれ違った時のテツ君の恥ずかしそうな姿を想像すると可愛くて〜笑
      今年もちょこちょこ吉田ワールドに浸りたいなぁ♪♪
      2024/01/07
    • 傍らに珈琲を。さん
      mihiroさん、こんにちは!

      うんうん、良かった~( ≧∀≦)ノ
      美味しくて無言で立ち去ってしまうのも親方らしいし。
      私もクロケット定食...
      mihiroさん、こんにちは!

      うんうん、良かった~( ≧∀≦)ノ
      美味しくて無言で立ち去ってしまうのも親方らしいし。
      私もクロケット定食食べてみたいです。
      コロッケ定食ではなく、出来れば"ビストロ"って頭に付いているお店で!笑
      そうですね、今年も吉田ワールド浸って行きましょ♪
      2024/01/07
  • 3部作の完結篇。映画館の番犬ジャンゴの視点で描かれる、月舟町の人間模様。
    あの世界観が終わってしまうのは寂しいけれど、昔からの映画館を訪れた時、サンドイッチを買う時、雨が降った時…ふとした時にこの本を思い出すと思う。
    親方が教えてくれた、好きなことは続けられること、続けるには宿題が必要なんだということ、私ももう一度頑張ってみよう。

    出会えて良かった物語。

  • 月舟町三部作の完結編  
    今回は月舟シネマで飼われている犬ジャンゴの視点で進む

    このジャンゴ、犬とは思えない豊富なボキャブラリーで商店街の人々の日常が語られる。この豊富なボキャブラリーは、古本屋の親方の言動と映画から学び習得したものらしい
    まるで『吾輩は猫である』の犬版だ

    人は犬に内面をさらけ出し、話しかけるので、すべてお見通しというわけだ
    我が家にも二頭の犬がいるが、心の中でどんなことを考えているのだろうと気になった

    完結編にふさわしく月舟町に住むそれぞれの人ーーー
    古本屋の親方、、月舟シネマの直さんとそこのパン屋の初美さん、スーパーコンビニ店員のタモツさん、果物屋の青年、食堂のサエコさん、雨降りの先生・・・が
    自分なりの終着点を見つけて、読者を安心させてくれた

    特に古本屋のデ・ニーロの親方の言葉には、長い人生を生きてきた重みがあり、教えられることが多かった

    そして、何よりもタイトルの「レインコートを着た犬」のいわれもなかなか愉快だった
    黄色いレインコートのレイ、水色のレインコートのジャンゴ、赤いレインコートのテツ、三匹もがレインコートを着るはめになった

    最初は渋々、遠慮がちに、恥ずかしがりながら、そして
    最後には満足気に

    これにて月舟町三部作は、一件落着だが、この後、タモツさんとサエコさんは結ばれ、二人でカフェを開いたのだろうか? 直さんと初美さんの仲は?
    など、ぜひ後日談を書いて欲しいものだ



  • 〈月舟町〉シリーズ三部作の完結編。
    (だけど順番バラバラで読んでいる・・・)
    (バラバラで読んでも面白い)

    〈月舟シネマ〉の番犬ジャンゴが語り手となって物語が進む。
    このジャンゴがとってもかわいい!品がある口調で健気で愛おしい・・・

    内容も穏やか。
    特に、「目印」と「宿題」の話が良かった。
    「好き」だということを忘れないように、何かしら「目印」を作っておく。それは、人によっては犬の名前で、人によっては敢えてちょっと面倒な作業で、言うなれば「宿題」のような。
    自分の存在意義を見失わないように、「自分はこれが好きなんだ」と時々確認する。大切だなと思った。

    ジャンゴが、笑うことができるし、調べたいことを本で自由に調べられるし、忘れないように記録を残す手段をもっているし・・・と、人間を羨ましく思うたびに、ああ、もっと一生懸命生きようと思えた。


    「不安になると、つい言葉に頼りたくなるけど、自分が好きなことをきっちりやってれば不安になる暇もないだろう。俺はたぶん、いつからか、きっちりやってなかった。やっているふりをしてただけだ。どこかで手を抜いてた」

  • 犬目線で、犬が語っていることに、ほのぼのと癒され、口元が緩みっぱなしでした。
    この本は、月舟町三部作の最後に当たるもので、前作を読んでからしばらく時間が経っていたのですが、〈月舟シネマ〉や古本屋のデニーロ親方や、十字路の角に建つ食堂のことを少しずつ思い出すことができて、懐かしかったです。
    「どっちもどっち」という言葉が心に残ります。
    「追う者」も「追われる者」も、「騙す方」も「騙される方」も、どっちもどっち。哲学的な表現が多く出てきて面白い。
    そして、完全なものなど、どこにも存在しないし、みんな答えを求め続けている。
    映画館も古本屋も食堂も、そのまんまそこにある。
    本当に好きなら、やめないこと。
    終わりは、まるで〈月舟シネマ〉で上映されてた映画を観ているようでした。

  • 「月舟町三部作」ラストです。〈月舟シネマ〉の犬・ジャンゴが語ります。表紙のイラストで、レインコートを着せられて微妙な表情を浮かべていますが、彼の視線はやさしく深く、人々を見つめています。それぞれの商売が、理屈抜きの自分の「好き」から始まったことを思い出していく後半、心が高鳴ります。
    若い頃はたまに映画館に行ったけれど、印象に残っているのは、何故か、一人で行ってがら空きだった時だなぁ。

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著者プロフィール

1962年、東京生まれ。小説を執筆しつつ、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作、装丁の仕事を続けている。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞受賞。『つむじ風食堂とぼく』『雲と鉛筆』 (いずれもちくまプリマー新書)、『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『モナリザの背中』(中公文庫)など著書多数。

「2022年 『物語のあるところ 月舟町ダイアローグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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