盆土産と十七の短篇 (中公文庫 み 5-2)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122069015

作品紹介・あらすじ

えびフライは、口のなかに入れると、しゃおっ、というような音を立てた――。

東京へ出稼ぎに行った父が、えびフライを携えて帰る「盆土産」ほか、「金色の朝」「春は夜汽車の窓から」「とんかつ」など、中学・高校の国語教科書で親しまれた名作を中心に編んだ、文庫オリジナル短篇集。

川端康成文学賞受賞作「じねんじょ」を収録。

自作について綴った随筆三篇を付す。〈巻末エッセイ〉阿部 昭


【目次】

盆土産

金色の朝

おふくろの消息

私の木刀綺譚

猫背の小指

ジャスミンと恋文

汁粉に酔うの記

方言について

春は夜汽車の窓から

おおるり

石段

睡蓮

星夜

ロボット

鳥寄せ

メリー・ゴー・ラウンド

とんかつ

じねんじょ

  〇

〈自作について〉

「盆土産」のこと

「金色の朝」のこと

一尾の鮎

  〇

〈巻末エッセイ〉

仕事場の住人 阿部昭

感想・レビュー・書評

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  • この著者の作品は多く読んで来たつもりでも、初読のものが結構あった。
    今回通読して感じたのは食べ物にまつわる表現が見事だということ。海老フライやお汁粉を食べている時の描写はもちろんのこと、それらに対する憧れを切々と紡いでいる部分に読んでいるこちらの空腹感をいや増す力があった。
    「甘いものでも沢山食べると酔ったような気分になる」そんな感覚を持った記憶はないのだけれど、それほどに「甘さ」が遠かった時代があったのかと思い知らされた。そしてそれを体験できたことを少し羨ましく思った。飽食の時代の現在では喪失した感覚かも?
    作品の一行目に重点を置いてそこで全体のリズムを掴む、というのが短編を書くこつだそうな。巻末の随筆にそのようなことが書かれていた。
    それを念頭に置いて各短編を見直してみると、確かにどの作品も冒頭を読んだだけで、その先が読みたくなる仕掛けになっているように思う。それも仰々しいものでなく、例えば普段生活していてふと視界をかすめた景色がいつもと違っていて、なんだろう?と気になって振り返りたくなるようなささやかさ。読者を作中世界に引きずり込むのでなく、こちらから近付きたくなるようなさりげない一文が心地いい。

  • 様々な短編が収録されているが、その多くに死のにおいが漂っている。しかし、それが殊更に強調されているわけではなく、日常の延長線上に存在しているものとして淡々と描かれているように思う。
    中でも、『盆土産』『金色の朝』『睡蓮』『ロボット』『鳥寄せ』『メリー・ゴー・ラウンド』など、子どもの視点で書かれた作品に心惹かれる。

    『メリー・ゴー・ラウンド』は特に良かった。沈鬱な父親の描写と無邪気な娘の姿が対照的に描かれており、だからこそ余計に切なくなるけれども、娘のその無邪気さに小さな希望も見える気がした。

  • 懐かしいエンビフライ。
    他の短編もしみじみほのぼの、と思いきやそれだけでない、ひんやりするものも。短編小説の名手。上手いなあ。

  • 今まで読んだ短編集で、最も心に突き刺さる一冊だった。
    夫の「えんびふらい、っていうやつ。あれ、なんていう小説だっけ?」をきっかけに探して読んでみた。小説まったく読まない夫が、唯一、覚えてた作品が、この短編集所在の「盆土産」だった。切ない。これ以外にも、三浦哲郎氏本人の体験に基づく母や娘とのエピソードや「回転木馬」など、捨てコンテンツなしの正しく名短編集。「回転木馬」は八戸の暗い海を思い浮かべながら読みました。何でかな、八戸の海、季節問わず何回も行ってるけど明るいな、って感じたことがない。そのイメージにピタッと重なる作品でした。
    小説にいまいち興味が持てない人や今までファンタジーとか口当たりの軽いものを読んできた人も、まずこれ読んでほしい。そしてできれば、これに続けて『JR上野駅公園口』(柳美里さん)にトライしてほしい。 

  • エビフライを食べると
    必ず話題に上る、教科書で触れた名著を再読。昭和の暮らしが生き生きと描かれて心地よい。金色の朝の主人公の少年がとぼけているが、カッコいい!

  • 表題作の「盆土産」は過去に教科書で読みました。
    ゆったりとした空気感、方言、貧しいながらも温かい家族の団欒、特に大きな出来事が起こるわけでもなく、淡々と綴られる文章が教科書の素朴な挿絵と共にずっと心に残っていてました。その後ずっとタイトルが思い出せず、ふとネットでキーワード検索してみたところあっさり見つけられました。懐かしくて、早速図書館で借りて読み返したら目に飛び込んできた「えんびふらい」の単語に「確かにこんなのあった!」となんだか嬉しくなりました。

    三浦哲郎さんの「百日紅の咲かない夏」も好きです。

  • 一尾の鮎を念頭において作品を書きたいという著者。無駄な装飾がなく簡潔ですっきり、でも早瀬に押し流されない力強い作品。まさにそのとおり。素晴らしい短編集です。80年代に教科書にのったというから、文章はもちろん秀逸だが、さらにその織りなす世界は多様性に富んでいます。250ページに17篇だからどれもかなり短いのですが、どっしりしています。ぜひぜひおすすめします。最近の小説にはない繊細さと品格と情緒と。ジーンとくる読後感です。ゴテゴテと盛りすぎ作品の作家たち、こういう文章を読め!!

  • すごく良い本。短篇しか読まないと言っていたあの子にも読ませたい。

    以前読んだ短篇がおおい、さらにいいなあ2回目。やはり根底にこの作者の文章を味わいたいという気持ちがあるからだろう。そんな書き手になりたいものだ。あとでもうすこし詳しく書く。

    巻末の三つのエッセイがほんとうによい。
    ちなみに短篇の前半にも家族のことについて書いたエッセイ寄りの小説がある。おふくろの消息、私の木刀綺譚、猫背の小指、ジャスミンと恋文、汁粉に酔うの記、方言について、春は夜汽車の窓から。

    巻末の三つは盆土産のこと、金色の朝のこと、一尾の鮎となっている。研究としても、書き手の心得的にもよいものを読んだ。

  • Panasonic melodious libraryで知りました。
    とても面白かったです。
    エビフライとつぶやいてしまう男の子。
    睡蓮の泥池に入ってしまう男の子。
    ロボットになり切ってしまった男の子。
    家族の話が多くどこか悲しみもあり、そして温かい家族の愛情も。
    どの短編もじっくり読みました。知らず知らずじっくり読んでしまう。
    そして気になるのは『睡蓮』
    睡蓮の泥池に入ってどんどん沈んでいく悟はどうなったのでしょうか?
    『メリーゴーランド』の父と娘はどうなったのでしょうか?
    ほんとうに気になります。

  • どの短篇もほのぼのしました。オススメですよ。

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著者プロフィール

三浦哲郎

一九三一(昭和六)年、青森県八戸市生まれ。早稲田大学文学部仏文科を卒業。在学中より井伏鱒二に師事した。五五年「十五歳の周囲」で新潮同人雑誌賞、六一年「忍ぶ川」で芥川賞、七六年『拳銃と十五の短篇』で野間文芸賞、八三年『少年讃歌』で日本文学大賞、八五年『白夜を旅する人々』で大佛次郎賞、九一年『みちづれ』で伊藤整文学賞を受賞。短篇小説の名手として知られ、優れた短篇作品に贈られる川端康成文学賞を、九〇年に「じねんじょ」、九五年に「みのむし」で二度にわたり受賞。他の著作に『ユタとふしぎな仲間たち』『おろおろ草紙』『三浦哲郎自選全集』(全十三巻)などがある。二〇一〇(平成二十二)年死去。

「2020年 『盆土産と十七の短篇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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