漱石の白百合、三島の松-近代文学植物誌 (中公文庫 つ 34-1)
- 中央公論新社 (2022年6月22日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784122072183
作品紹介・あらすじ
漱石の『それから』に登場する白百合はテッポウユリかヤマユリか。植物オンチと言われた三島由紀夫のほかにはない克明な描写からその汚名をそそぐ。鏡花、芥川、安部公房ら、広大な文学作品の森に息づく草花を植物学者が観察。新たな視点で近代文学を読み解く。
〈解説〉大岡玲
Ⅰ
漱石の白くない白百合/描かれた山百合の謎/『金色夜叉』の山百合/白百合再考
Ⅱ
『虞美人草』の花々/朝顔と漱石/毒草を活けた水を飲む事/泉鏡花描く紅茸/「ごんごんごま」とは?/ごんごんごまの本名/クロユリ登場/芥川の心象に生えた植物
Ⅲ
三島由紀夫と松の木の逸話/再説三島と松の木の逸話/洋蘭今昔/志賀直哉と藤の巻き方/スイートピーは悲しみをのせて/『デンドロカカリヤ』異聞
Ⅳ
関東大震災でカビた街/小説とチフスの役割/小石川植物園を読む/三四郎池の植物散歩
あとがき/文庫版あとがき/〈解説〉大岡玲
作品名索引
感想・レビュー・書評
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塚谷先生というと、最近南方熊楠賞を獲られたと報道されていた。
が、自分には以前Eテレでやっていた『エウレーカ』という番組に何度も出演していたことが思い出される。
においに辟易する又吉さんをしり目に、ドリアンを次々鉈で割ってむしゃむしゃ食べていたシーンが印象に残っている。
本書は、近代文学に出てくる植物について考証したエッセイ集である。
漱石の『それから』に出てくる「白百合」は鉄砲ユリではなくヤマユリである、鏡花の『二、三羽―十二、三羽』に出てくる「ゴンゴンゴマ」とはヤブガラシ…などという考証は、さすが専門家。
その専門家の視点では、志賀直哉の描写はかなり正確であると高く評価されていたのが面白い。
作中に出てくる花々と重ねられる女性登場人物たちの関係を読み解いた「『虞美人草』の花々」などは、どこか文学研究者の文章のようでもあった。
が、その文学研究者にも塚谷先生は手厳しい。
「実体を見たこともないままに(したがって状景を想像しないままに)机上の象徴論をしていることが明らかなものも見受けられる」(p103)
「小説の小道具としての植物を知らないのはともかくとしても、それならせめて、専門の文学の立場から、「詩を衒って」の「詩」や、「小説の真似事」の「小説」の指すところなどは、それぞれ何を指しているかくらいは把握して論ずるべきだと思うのだが、これも意外に手薄なようだ」(同)
この批判がどれくらいあたっているか、私にはわからないけど、文学研究者、立つ瀬なしである。
「関東大震災でカビた街」。
モニリアというカビが、大震災後の東京で大繁殖した一件を追った文章で、これも面白かった。
火事で他の菌が焼けてしまった間隙をついての大繁殖だったということだった。
文章の末に、東京大空襲の後にも同じ現象が起こったということが書き添えられていた。
これは東京だけの現象だろうか?
戦災で焼けた町は他にもあるが、例えば他の地方都市でも同じようにモニリアが大繁殖したなどということがあったりしなかったのだろうか? -
申し訳ないけれど、流し読みしてしまったので、評価せず。
植物学者が植物の観点から近代小説を読み、
作家や当時の世相に切り込む。
おもしろいのだけれど、植物の違いを縷々述べられると
最初は、しっかり読むのだけれど、途中で飽きる。
意外だったのは、三島のイメージ。
へぇ~と、うんちくになるかも。 -
虞美人草、スイートピーから紅茸まで、文豪は植物をいかに描写してきたか。広大な文学作品の森に息づく草花を植物学者の視点で読み解く。〈解説〉大岡 玲