朝のあかり-石垣りんエッセイ集 (中公文庫 い 139-1)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784122073180

作品紹介・あらすじ

自分の住むところには自分で表札を出すにかぎる――。銀行の事務員として働き、生家の家計を支えながら続けた詩作。五十歳のとき手に入れた川辺の1DKとひとりの時間。「表札」「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」などの作品で知られる詩人の凜とした生き方が浮かび上がる、文庫オリジナルエッセイ集。〈解説〉梯久美子

感想・レビュー・書評

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  • ベスト『朝のあかり 石垣りんエッセイ集』 | 教文館ナルニア国《3月26日掲載》
    https://x.gd/Z7iDB

    石垣りん「朝のあかり 石垣りんエッセイ集」 働き励む、生きる基本を書く|好書好日(2023.06.13)
    https://book.asahi.com/article/14930353

    100分de名著forユース (4)言葉で自分を見つめ直す 「石垣りん詩集」 - 100分de名著 - NHK(初回放送日:2024年3月25日)
    https://www.nhk.jp/p/meicho/ts/XZGWLG117Y/episode/te/489GMR67NW/

    朝のあかり -石垣りん 著|文庫|中央公論新社
    https://www.chuko.co.jp/bunko/2023/02/207318.html

  • 「死者の記憶が遠ざかるとき、
    同じ速度で、死は私たちに近づく。(中略)
    戦争の記憶が遠ざかるとき、
    戦争がまた
    私たちに近づく。
    そうでなければ良い。」(「弔詞 職場新聞に掲載された一〇五名の戦没者名簿に寄せて」)

    石垣りんさんの詩は知っていても、どういう人生だったのかはまるで知らなかった。
    女性が仕事をすることも女性がパートナーを持たないことも白い目で見られた頃から(それらが今完全に終わったわけではないけれども)、定年まで勤め上げ、買った一部屋で暮らし、言葉を綴る。
    どのエッセイも、触れれば切れそうな鋭さの中に温かなものがあって、何度も読み返したくなるものだった。

  • 石垣りんの代表的な詩をいくつか知っている程度で読んだ。
    石垣さんは14歳で銀行に就職し、定年まで働いた。
    ほとんど昇進はしなかったが、これはもちろん当時の日本の会社が女性を男性と同等に扱っていなかったからである。
    石垣さんが詩人としてどれほど才能があっても、結婚も出産もしなかったから「君は半人前だ」といい放つ上司、「なぜ結婚しないのか」で書かせる雑誌編集者と付き合わざるを得なかった。ホント、何様だよ、と怒りが湧くが、石垣さんや当時の女性はうんざりするほどそういう扱いを受けてきたのだろうと思うと暗澹とする。そんな毎日の中、感じたことが詩となり、エッセイとなったのだから、よしとすべきか?いや、そんな毎日がなかったとしても石垣さんは詩を書いただろう。違う詩になっただろうけど。
    私ならあからさまに怒ったり悲しんだりしそうなところを、ぐっと押さえて余韻を残す文章にできたのは流石と言うしかない。

    梅の木肌に手を置いて「また来年の花に会わせてください」と願い、「春は来るのではない、生きてこちらが春に到達するのだ」(p131)。
    「納められる税金を「せつなく」受け取って、大事に使ってくれる」政治家はいないのか。(p249)
    「さしあたっての希望は、欲しがらない人間になりたい、ということ。誰が何をしてくれなくても。さみしかったら、どのくらいさみしいか耐えてみて、さみしくゆたかになろうと―。」(p57)
    これらの言葉を忘れないようにしたい。

  • 大正生まれ。銀行の事務員として働き、戦前戦後のなか定年まで勤めて、84歳で死去するまで詩作を続けたひとりの女性の生涯。男社会で働く苦労。独身の侘しさと自由。老いと生活。その日々を紡いだ人生は、生きる事とはすなわち詩を詠むことに他ならない。

  • やられた。
    また、師匠がひとり誕生してしまった。
    母ほどの年齢の人なのに、感性が、考え方が自分に似ていて、大きな企業の最下層にいる環境まで同じで。
    「誰が何をしてくれなくても、さみしかったらどのくらいさみしいか耐えてみて、さみしくゆたかになろう。」
    南の国でのんびり暮らそうとと誘われてそれもいいですねと答えながら、今から覚える拙い言葉で自分の心のひもじさは耐えられないと。私のふるさとは日本の言葉だと言い切る。
    ほんとにそうだよなとなんとも腹落ちのすることよ。

    ネットでお顔を拝見したら笑顔のチャーミングな方で、ますます好きになったのでした。

  • 心の中にある背筋が伸びた。
    働く人の生活を蝕んでまで得る経済の成長とか便利な生活ってなんなんやろう。役に立つかどうかで測られる人間の価値ってなんなんやろう。
    「詩を書いても栄達にも報酬にもつながらないことが書く理由(意訳)」というのが私を本を読む理由に重なった。

  • 生前に刊行されたエッセイ集三冊から選ばれた71篇による文庫オリジナル。

  • 14才から銀行に勤め続けて定年を迎え、つつましくひとり年をとる女性の暮らしと心の動きを写し取るものとしては、近年流行の元気前向き一人暮らしおばあちゃんの本よりもむしろずっと共感できる。

    P36 2月21日【前略】このところ、隣の家の念仏が十二時を過ぎても低く続く。一時を回る頃には近くの保健所工事現場から、鉄筋を打ち込む音が規則正しく響き始める。私の所在を知って台所口に呼びに来たのは野良猫シロ、夜食をよこせというのであった。貧しくにぎやかな夜更け。寒い冷たい夜更け。

    2月24日【前略】未婚者が自分の資質をゆがめず、素直に年をとるにはどうしたらよいか、その困難さについて先輩女性と語り合う。

    P57 さしあたっての希望は、欲しがらない人間になりたい、ということ。誰が何をしてくれなくても。さみしかったら、どのくらいさみしいか耐えてみて、さみしくゆたかになろうと―。

    P76 祖父がなくなる前、年をとったひとりの女が生きてゆくことをどのように案じるか、たずねました。「お嫁にも行かないで、この先、私がやってゆけると思う?」「ゆけると思うよ」「私は、私で終わらせようと思っているのだけれど」「ああいいだろうよ、人間、そう幸せなものでもなかった」
    闇の世を立ち出でてみればあとは明月だった、という句を、祖父は口移しで私に伝え、やがて逝きました。

    P86 シジミをナベに入れるとき語りかけます。「あのね、私といっしょに、もう少し遠くまで行きましょう」

    P101 けれど洗濯機のない貧しさは、一面そんなことをしていられる時間のぜいたくさでもあって、家族が何人もいたら、とてもできない芸当に違いない。そんなことはさっさと片付け、一人暮らしならなおさら、もっと時間を有効に使わなければいけない、とけしかけるものの声がする。【中略】人が手を使うことより、頭を使うほうがずっと有効だ、というのはそのほうが高級でそれは高給につながるから得なのだ、という世間の風潮、その底からの呼び声である。

    P204 (男対女の綱引きになぞらえて)男が力任せに引く綱に、ざざっと引き倒されて、軽く腰を浮かせてしまう、残念無念な女性群像も次第に見えてきた。降参した時点で、選ばれた女性が相手方の陣営に招かれていく。【中略】私は捕虜の光栄にも浴さず、戦士のように倒れて抱き起されることもなく年をとった。男を語る資格がない。

    P229 働かないと、書くことも思い浮かばない、といった習性のようなものが、私の身についたのではないか、と案じられます。そして、物を考えているのは私の場合、頭だろうか?手だの足だので感じたり、考えたりしているのではないだろうか?

    P249 せつない、という言葉の重みは、心の中のどの部分に寄りかかろうとするのでしょうか。寄りかからせる優しい部分は、どこにどのようなかたちで存在するのでしょうか。うれしさとつらさ。有難さとすまなさ。恋しさと恨めしさ。いろいろな感情が、その時その時で違った混ざりかたをする、そのせつなさ。

    P252 かりに好意で5年置いてもらったところで、いずれはやめなければならない。それなら少しでも早く一人になる稽古をしておこう。【中略】定年時の手習いが私の場合「一人立ち」だとしたら、これはどういうことになるのだろう。会社とはなんだったろう。【中略】ちょうど建物と同じで外から古く見えても、中で暮らしている限り変化はない。並んでいる新しい家と古い家の窓から見える空は同じなのよ、というと、同年配の人は、ほんとにそうね、と答える。

  • 昔も今も働く女性は変わらないと思っていたけれど、このところ急に世の中のシステムが変わった。しかし、心は変わらない。

  • 若くして銀行に就職し、銀行で働き続け家計を支える一方で詩を書き続けた詩人・石垣りんのエッセイ。
    当時の女性としては少数派であったであろう自身をアウトサイダーを称しつつ、自分の職場をはじめ「社会」を批判的な鋭い眼差しで見ており、フェミニズムの潮流を感じた

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著者プロフィール

石垣りん一九二〇年東京生まれ。詩人。高等小学校時代から詩作を始め、少女雑誌に投稿する。小学校卒業後、十四歳で日本興業銀行に就職。二十五歳の時に敗戦を迎え、戦後は職場の組合活動にも参加しながら詩作に集中。三八年同人誌「断層」を創刊し福田正夫に師事。五九年第一詩集『私の前にある鍋とお釜と燃える火と』刊行。六九年第二詩集『表札など』でH氏賞、七一年『石垣りん詩集』で田村俊子賞、七九年『略歴』で地球賞を受賞。二〇〇四年没。

「2023年 『朝のあかり 石垣りんエッセイ集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

石垣りんの作品

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