象 (村上春樹翻訳ライブラリー c- 8)

  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784124035070

作品紹介・あらすじ

作家としての輝きのピークにあって、病に倒れたカーヴァー。生前に発表された最後の一篇であり、壮絶さと、淡々とした風情が胸を打つ「使い走り」ほか、秀作全七篇を収録した最晩年の短篇集。ライブラリー版のために改訳。

感想・レビュー・書評

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  • 苦いコーヒーの味が残っている感じ。そして静かな迫力を感じた。また読み返したい本。

  • 最後の使い走りがよかった

  • カーヴァー最晩年の短編集。最後の「使い走り」が良かった。この作品執筆時点で、自身も同じような運命をたどるのかもとどこかで感じていたのだろうか。

  • 《そう、自分が目に見えない一線を跨いでしまったみたいに感じるのだ。自分がそんなところに来ることなんてあるものかと思っていた場所に来たみたいに感じるのだ。どうしてこんなところに来てしまったのか、わけがわからない。ここでは害のない夢と眠たげな早朝の会話が、私と消滅についての考察に私をひきずりこんでいく。》(p.68-69)

  • 7つの短編小説と、訳者の村上春樹による回想を含めた長めの解題から構成される。

    「引っ越し」
    引っ越しを繰り返す厄介者の母は、僕とパートナーの住む町から去ろうとしている。
    面倒な母親だが不思議な存在感があり、心に残る。

    「誰かは知らないが、このベッドに寝ていた人が」
    深夜の間違い電話と、夜明けまで続く妻との会話。妻は植物人間になった場合にどうすべきかを夫に問う。

    「親密さ」
    小説家の男は別れた妻の町を訪れ、4年ぶりに再会する。妻は夫の裏切りを非難し、責め立てる。

    「メヌード」
    いまの妻と関係を持ったことから前妻と別れた男は、向かいに住む家庭ある女性と関係を持つようになる。
    それぞれのパートナーに浮気が発覚し、男は決断を迫られる。
    メヌードは友人アルフレードが作ったメキシコの内臓料理。

    「象」
    だらしない母、別れた妻、ヤクザな男と結婚し二子をもつ娘、大学生の息子にそれぞれ仕送りをする男。さらには失業した弟からも金を無心されるようになる。
    男は子どもの頃に肩車をしてくれた父を象のように感じていたことをふいに思い出す。
    暗い状況にもかかわらずユーモラスで勢いのある表題作。

    「ブラックバード・パイ」
    愛する妻は牧場主に連れ去られる馬たちと保安官補とともに、不可解な手紙を残して男の元を去ろうとしている。死をイメージさせるシュールレアリスティックな作風。
    タイトルの料理は現実には存在しない。

    「使い走り」
    チェーホフの臨終までと、最後を過ごしたホテルでの出来事を描く。
    作者はこの小説を書いている時点で医者によって癌を宣告されていた。

    <解題>
    冒頭で出版の経緯や作者の作品群のなかでの位置づけが紹介されたあと、訳者が作者の墓参りと妻のテスに再会したときの回想がつづく。訪れたカーヴァーの部屋ではマーク・ストランドによる「物事を崩さぬために」という詩に偶然出会う。各章の解題は後半に記される。

  • カーヴァー最晩年の短篇集。多くの短篇に死の要素が現れる。『大聖堂』などと比べるとどうも自分は淡々と読んでしまった。年を重ねるとより理解できるかもしれない。

  • 最後の短編『使い走り』以外の話に登場する中年男性はみんな、離婚経験がある。もしくは妻に出ていかれるところである、という具合だった。離婚経験の有無でその人の価値が決まるとは思わないけど、どのおじさんもどうしようもないひとばかりだった。

    一度も結婚したことがない自分からすると、何度も離婚しているいうことは結婚も同じ回数していることだからすげえなって思ってしまう。すごいけど、ダメダメな中年男性たち。彼らを描いたレイモンド・カーヴァーの短編に自分はハマっている。完全に。これは間違いない。

    何がこんなに面白いのかはよくわからないし、そもそも理解できない話もある。(本の最後に載っている村上春樹氏の解題を読んでみると、訳者である彼ですら何が言いたいのかわからない部分があるみたいだった)
    ただひとつ言えることは、理解することだけが楽しむ方法ではない、ということじゃないだろうか。負け惜しみみたいなセリフだけれど。

    どの話も、タイトルは思い出せないけど内容は突然思い出したりするタイプの内容だった。
    表題作の『象』に出てくるおじさんもひどかったな。
    自分の母親、学生の息子、子持ちの娘、別れた奥さん、弟。色んな人に金を貸したり、送ったりしなくちゃいけないせいで生活が苦しい中年男の話。

    どうしようもない話にただただ惹かれている。

  • 『引越し』
     どんなことでも悪い側面ばかり取り上げて、終始一貫して執拗に文句を並べ立てる引越し魔の母親。うんざりすること必至だが、物語の最後のほうで、かつての父と母が睦まじく、家族が安住できていたことが示唆される。今ある母親がなぜそうなったのか、創造が膨らむ。

    『誰かは知らないが、このベッドに寝ていた人が』
     わけのわからない間違い電話が未明にかかってきて、そのまま眠れなくなった夫婦が、ベッドに横になったまま煙草を吸いながら健康問題についてあれこれ話し合っているうちに、なんとなく安楽死についての真剣な会話となり、それがそのままずるずると尾を引くことになる。避けて通れない死についてのひとつの問いに、静かな緊張が走る。

    『親密さ』
     なんらかの文章を書くことを生業にする主人公が、別れた妻(すでに再婚している)の元を訪れる。二人の間には未練などなく、歓迎されるはずもない。積年の恨みだけが二人をつなぎとめ、苦しいほどの言い合い(というか一方的な妻の攻撃)が続く。
     彼女に自分の書いたものや記事、インタビューを、なぜ何年も送り続けていたのか、連絡もなしになぜ彼女を訪ねたのか、理由がまったくわからないから少し怖い。

    『メヌード』
     向かいの家の女房と深い仲になった中年男。相手の女は亭主に怒りの最後通牒をつきつけられている。以前は別の女と結婚していたが、その女は精神的におかしくなってしまった。最初の離婚の後、友人がメヌードを作ってくれて…というとりとめのないストーリー。難しい。

    『象』
     母や別れた妻、娘、息子。さらには実の弟まで金の無心をする始末。働いても働いても彼らに送金し、さらには借金をするんだからしょうがない。そんな家族見捨てちゃえば?と言いたいが、彼にはできない。決して希望はないけれど、爽やかな読後感。

    『ブラックバード・パイ』
     妻の筆跡ではない手紙(と男は語るが、真実は定かでない)を残し、家を出て行こうとする妻。“そこからなぜ妻を娶ることは歴史を娶ることである”“私は今歴史の枠外にいる”という論に発展するのか、理解が難しい。

    『使い走り』
     アントン・チェーホフの死を題材にした作品。訳者あとがきによると、作者自身が癌を宣告された後に執筆されたものだという。チェーホフとレイ・カーヴァーの間には短編小説家、不治の病で若くして死ぬなど、生きた国や世紀は異なれど共通点が多くある。
     ボーイの視点を借りて自分の死を静かに見つめているような作品だった。

  • レイモンド・カーヴァーの最後の方の作品群。好きです。村上春樹さんが訳しているからと、読み始めて、『カーヴァーズダズン』で、村上春樹さんよりも好きな作家になってしまった。平凡っぽい風景を描いていて、そこに人間の情が染み込んでいるのがいいです。

  • 秋になったらすべてうまくいくはず。
    彼の背負う今までの罪と、極限までの疲労と貧困と。でも、秋になったらすべてうまくいくはず。
    そう。そんなわけあるか、と突っ込むことはできない。

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