改正民法のはなし

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  • 東京大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784130332064

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  •  著者は言わずと知れた債権法の泰斗。法務省参与として関わった民法改正作業におけるエピソードを交えながら、121年ぶりの改正の背景と内容を解説する。「読み物として読んでいただけるように解説した」とあるが、元々が「民事法務」という法務スペシャリスト向け機関誌の連載をまとめたものだけに、門外漢にとって決してとっつきやすい内容とは言えない。あくまで「難易度はともかく、教科書や専門書に比べれば分量は少なめ」という程度の認識に留めるべきだろう。図表や条文の引用も少なく、初学者向けとは言えないと思う。学者、実務家、役人の三極のせめぎ合いについても描写が淡白。もっと迫真した内実の暴露があれば一般受けするのにと思う。

    (以下メモ)
    第1章
    ・旧民法の起草の実態は民法の最先端の成果を日本に導入したことであり、自らの経験に基づいて自前の改正をするのは今回が初めて
    ・債権法改正の目的は①社会・経済的変化の反映②国民にわかりやすいものにすること
    ・現在の民法学会の主潮流である「契約中心主義」を反映…「契約及び取引上の社会通念」に照らして履行可能性を判断
     
    第2章 消滅時効
    ・短期消滅時効の廃止
    ・主観的起算点…権利行使ができることを知った時から5年(新§166)
    ・客観的起算点…権利を行使できる時から10年(同)
    ・不法行為の除斥期間20年⇒時効期間とする(新§724)
    ・生命・身体の侵害における損害賠償債権の時効期間は20年(新§167)
    (旧法では、債務不履行か不法行為かで消滅時効期間が異なっていた)
    ・事項の「中断」⇒①新たな時効の開始=「時効の更新」②中断事由のある間は事項が完成しない=「時効の完成猶予」
    e.g. 「請求」…手続き進行中は「完成猶予」、確定判決が出れば「時効の更新」
    ・協議による完成猶予(新§151−1)…①協議の合意があった時から1年②1年未満の期間を定めた場合はその期間の経過③協議続行拒絶の通知から6か月

    第3章 法定利率
    ・下級審で損害賠償額を定めた判決が出たのち、上級審でも同額が維持された場合、支払義務が生じた時(下級審判決)から法定利率5%の遅延損害金の支払義務が生じる
    ・中間利息(割引率)は法定利率を用いる(新§417の2)
    ・緩やかな変動制(実態はほとんど固定制)…過去5年間の国内銀行貸出金利平均が1%以上変動した場合に、1%刻みで反映
    ・商事法定利率⇒削除

    第4章 保証
    ・既存実務を明確に目指して改正された数少ない論点の一つ
    ・3つのレベルの保証人保護
    ①情報提供義務…保証人からの請求に基づく、主債務者の債務不履行の有無、残高等に関する債務者の情報開示義務(N§458の2)※保証人が法人でも適用
    ②個人根保証における極度額の定め…定めなければ無効(N§465の2)※不動産賃貸借の保証にも適用
    ③事業債務の個人保証に対する制限
    ⑴保証意志宣明公正証書(貸金等債務の場合)(N§465の6)
    ・執行受諾文言付で作成することも可能⇒第三者保証を抑制
    ・経営者保証は除外 ※経営者の配偶者は、現業従事者のみを経営者とみなす(N§465の9③)
    ⑵主債務者に対する保証人への情報提供義務(N§465の10−1〜3)

    第5章 定型約款
    ・約款は「付合契約」…読まないのが普通
    ・3つの立場
    ①契約アプローチ…契約に近いため拘束力あり、ただし希薄な合意しかないので不当条項の効力を制限するルールを置くべし
    ②制度アプローチ…契約とは異なるため、他の独立した方策によって不当条項を排除
    ③特則不要論…普通の契約と同じ、規制は不要
    ・「定型取引」…不特定多数の者を相手方として行う取引で、画一的であることが双方にとって合理的なもの ※企業間で用いられる「約款」を改正民法の枠から外すために新たに考案
    ・「定型取引合意」以下の2つがあれば、定型約款の個別条項にも合意ありとみなす
    1.組み入れ合意…定型約款を契約内容とする合意
    2.定型約款準備…準備者があらかじめその定型約款を契約内容とする旨を表示
    ・不当条項規制…①相手の権利を制限or義務を加重し、②定型取引の態様・実情並びに取引上の社会通念に照らし信義則に反し、相手方を一方的に害する条項 ⇒合意がなかったとみなす ※不意打ち条項(条項自体は合理的でも、契約内容に含まれるとは合理的に判断できない条項)
    ・定型約款の変更要件…相手方の一般利益に資するor合理的
    ・非定型約款(BtoB)…契約の一般原則に従う

    第6章 債権譲渡
    ・「譲渡禁止特約」…債権者の資金調達の資金調達を阻害していた(e.g. ABL)
    ・「指名債権」…債権者が特定、譲渡を予定しない
    ・改正点:
    ①譲渡制限特約があっても譲渡は有効(N§466-2)
    ②譲受人が特約の存在につき悪意or重過失ある時は債務者は弁済を拒み、かつ譲渡人に対する弁済等を持って譲受人に対抗できる
    ※ABLを前提とすると、債権譲受人は譲渡人に弁済受領権限を委託しそこから回収を行うので、このように譲受人の権利を制限しても問題ない ⇒譲受人の催告権、供託請求権(N§466-4、§466の3)
    ・預貯金債権…譲渡制限特約につき悪意or重過失ある譲受人との間では譲渡の効力なし(銀行の管理コスト増加を防ぐ)

    第7章 解除と危険負担
    ・改正の2本柱…①催告解除/無催告解除、②解除につき帰責事由は一切不要
    ・解除は履行を受けられない債権者を契約から解放するための制度
    ・原則は「催告解除」だが、不履行が「契約及び取引上の社会通念に照らして軽微である時」は除外
    ・催告し履行もされなかったが、軽微な部分的不履行のみが残った場合は解除できるのか?できないとすれば催告の迫力がないことになるのでは?
    ・民法は「過失責任主義」をおくが、履行遅滞で催告期間内に履行されたかった場合で、無過失だからと言って解除を認めないという判例はほとんどない
    ・ということは、過失責任主義は実務上機能していなかったことになる
    ・しかし、帰責自由のない履行不能で解除を認めると、解除と危険負担が重なる
    ・危険負担
    原則:債務者主義。双務契約の一方の契約が双方の帰責事由なしに履行不能となった場合、債務も反対債務も消滅する(O§536−1)。
    例外:債権者主義。特定物の場合は債権者主義(債権者はなおも反対給付を要する)
    ・危険負担の原則を定める536−1は、債務者に帰責事由のない履行不能と同じ(解除可能)⇒危険負担制度は廃止で良いのでは?
    ・しかし実務家サイドから強く反対、履行拒絶権(N§536−1:債権者は反対給付の履行を拒むことができる)として残る ⇒「債務は消えないけど履行は拒否できる」ことに
    ・債権者の帰責事由の履行不能では、債権者は反対給付の履行を拒むことができない(N§536−2)
    ・しかしこれだと、労働契約で使用者(債権者)側の都合で役務提供ができない場合、労働者は賃金支払を請求できるが、今後は「使用者側が反対給付の履行を拒めない」となり、宛も債務が発生していることを前提にしているように読めてしまう
    ・危険負担の債務者主義を履行不能で処理すると、債権者が解除しない限り、債務者主義では消滅していたはずの反対給付が残ることになる。不都合ではないのか?
    ・債権者からすると、帰責事由の有無はまだ確定的に覚知することはできず、また帰責事由のないことの挙証責任は債務者にあるので、普通は帰責事由があるとの前提で解除するはず
    ・債務者からしても、帰責事由がないと主張しても結局改正前の危険負担が適用されて反対給付を受けられないので、そんな抗弁はしない
    ・以上、実務上は危険負担を廃止しても問題がないが、実務上問題になっていない規定を理論上不整合だから廃止するというのはおかしい、という実務家の主張で履行拒絶権として残ることに
    ・自分の債務が履行不能になった債権者から請求を受けた債務者が、解除せずに代金債務の履行のみを拒絶する、ということがあり得るのか?

    第8章 「瑕疵担保責任」から債務不履行責任へ
    ・「法廷責任説」…通常であれば債務不履行が適用され、完全給付の請求が可能なところを、瑕疵担保責任が買主が行使できる権利を解除と損害賠償に限定し、その期間も1年に限定したことを説明するための解釈論 …改正して債務不履行へ
    ・「特定物ドグマ」…特定物についてだけ瑕疵担保責任が適用されることを支える理論。ありのままの品物を引き渡せば、品質が悪かろうが債務不履行責任は生じない。契約と実際の品物の差を埋めるのが歌詞担保責任 ←古代ローマの奴隷売買で使われていた考え方。しかし、現代の品物はほとんど工業製品で、欠陥があっても売主に修繕義務がないというのは常識に反する。
    ・改正では、従前通常有すべき品質性能に満たないことを指していた「瑕疵」は、契約に定めた基準に適合していないことであると構成しなおし、債務不履行に含める(当事者の合意を基準に判定することにする)。併せて救済パッケージが4種設けられる
    ・競売における瑕疵の種類ごとの扱いの違い…物の瑕疵…瑕疵担保あり、権利の瑕疵…瑕疵担保は生じない(O§570但書)。法律上の制限の瑕疵がどちらに該当するか条文上不明瞭に
    ・期間制限(瑕疵があったという事実を知ってから1年以内に権利を行使)…「権利を行使」⇒売主に通知(N§566)、消滅時効にかかる
    ・ただし、この期間制限は数量不足や権利の不適合には及んでいない=種類物を想定していない。不動産売買の場合の数量不足は?⇒改正法では数量不足では期間制限を課さず

  • 2020.16th
    改正民法をやっと勉強できました。
    時効に関しては注意してもしすぎることはない。
    あとの改正も判例の明文化とかが多いのかな。
    保証も結構保証人の保護が厚くなってる。
    本全体の感想としては改正に至るまでの議論の展開とかも書かれていて、知る人が読むとそれなりに面白い。知らない人が読んでも理解できないと思うのでこの本が対象にしてるのは、実務家と司法試験受験生くらいでしょうかね。

    2022.16th
    再読。☆☆☆
    今まで慣れ親しんだ旧法から変わるとなかなか慣れません。。
    ということで再読しました。
    細かい典型契約の改正は、取扱うごとにちゃんと調べないと…!!と思いました。 

  • 東2法経図・6F開架:324A/U14k//K

  • 結局のところ、民法改正とは何だったのか?

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著者プロフィール

東京大学名誉教授

「2023年 『民法判例集 担保物権・債権総論〔第4版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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