南からの日本文化〈上〉~新・海上の道 (NHKブックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140019801

作品紹介・あらすじ

柳田国男は、その晩年に、稲作文化の伝播のルートとして「海上の道」を提起した。南中国を起点とする海上の道を稲作を携えた我々の祖先がたどり、日本列島に到達したとする仮説である。著者はこの柳田とは異なる視点として「南島農耕論」を提起する。『稲作以前』以来、日本人とそのアイデンティティの基礎にある伝統文化の形成を追究してきた著者による日本文化の道をたどる研究の集大成である。

感想・レビュー・書評

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  • 2003年刊。上下巻の上巻。
    著者は国立民族学博物館名誉教授。

     いわゆる日本文化の基底を「照葉樹林文化」と見て独特の論を展開してきた著者が、柳田國男の(南からの)「海上の道」をリライトしようとした著である。

     勿論、現代において、柳田説は考古学的知見に依拠できず、説得力が乏しいという前提は否定できず、リライトといえ彼の説と内容は違う。
     加え、本書を見ると、南西諸島と本土との共通部分よりも、その差異が目につく。
     いわゆる水田耕作を基軸とする本土に比し、冬作・雑穀栽培・サトイモ等の栽培重視という点で、南西諸島は東南アジア島嶼、マレー半島との近縁性が見て取れるのだ。
     そして、南からの文化伝搬は台湾を経由したものとみられる。

     一方、南西諸島と本土との境界線と目される場所はどこか。両者の断絶は奄美以南とそれより北のラインが最も大きい。

     もっとも、かかる文化的断絶は、両地域の交流の不存在を意味するわけではない。文化が違えば、文物は違い、それらを交換するための交流は、活発であったとみるべきであろう。
     そして、その最たるものとして、熱帯ジャポニカと言われる稲種が挙げられる。
     元来インディカ・ジャポニカで区別された稲の種のうち、ゲノム解析の結果、後者の中でも熱帯ジャポニカと、温帯ジャポニカとに区分けされることが判明した。
     かつ、日本で栽培されていた温帯ジャポニカは自然交配ではなく、人為的品種改良により熱帯ジャポニカと交配させられ、結果、その他の種より寒冷に強い品種が生まれたということが判りかけてきたのだ。
     これが、近時、青森県などで弥生初期の水田遺構が発掘され、そこにあった植物遺跡から判明した事実から得られた解釈である。
     
     確かに、南西諸島との文化的断絶は大きいが、文物の流入、就中、米の本土全域への伝搬に果たした熱帯ジャポニカ流入の価値は減じることはないのだ。

  • 柳田国男は稲作が南西諸島を経由して伝搬したと考えたが、筆者はそれとは異なる海上の道の説を展開している。稲の品種やその性質、分布域などから、伝わった道筋を描くさまは興味深い。

    南西諸島の稲作は冬作で、インドネシアの在来稲ブルによく似たジャバニカ(熱帯ジャポニカ)を用いる。本田準備の際に行う家畜による踏耕は、東南アジアの島嶼世界で広くみられる。冬雨の地域は踏耕の分布域とよく一致しており、夏の収穫後に繁茂した雑草を踏み込むために大型家畜が必要になると考えられる。

    現在、熱帯アジアの低地部にはインディカ稲が、山地には熱帯ジャポニカが分布している。縄文時代に伝搬した稲は、粗放な畑稲作に適応する熱帯ジャポニカだったと考えられる。南西諸島の在来稲の中には熱帯ジャポニカの品種が存在しており、南西諸島を経由して西日本に伝えられた可能性が高い。熱帯ジャポニカは、新しく伝搬した温帯ジャポニカと交雑して早生種の稲が生まれ、短期間に東北地方の北部まで進出したと考えられる。

    熱帯系のサトイモあるいはヤマノイモの分布から、それらが稲と同時か先行して南西諸島を伝って日本本土まで達した痕跡が認められる。

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著者プロフィール

出席者
佐々木高明(前・国立民族学博物館館長/財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構理事長)
野村義一(北海道ウタリ協会前理事長)
榎森 進(東北学院大学教授)
加藤一夫(静岡精華短期大学教授)
常本照樹(北海道大学教授)
大塚和義(国立民族学博物館教授)
尾本惠市(国際日本文化研究センター教授)
吉崎昌一(静修女子大学教授)

「1997年 『アイヌ語が国会に響く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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