すべての医療は「不確実」である (NHK出版新書 567)

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  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140885673

感想・レビュー・書評

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  • 健康状態は個々人によって異なり、どんな病気、それに対する医療行為にも絶対は無い。例えばよく聞く「あなたの余命はあと何年です」というのは、あくまで中央値を示しており、自分自身にそれが当てはまるとは限らない。そんな医療の不確実性をロジカルに解説しているのが本作。エビデンスベースで認められた医療は厳格な科学的検証に支えられており、その為にプロフェッショナルたちは日々努力を積み重ねている。一方で、巷ではお手軽なエセ医療が広まり、無知な人々はそれに飛びついてしまう…。これからの時代、一人ひとりが自分たちの健康に責任ある行動を取るべきだが、その前提となるリテラシーをまず高める必要があるだろう。まえがき・あとがきからは、そうした社会の実情を変えていきたいと願う著者の熱意を感じた。

  • 文字通り、医療は「不確実」であり、俗説に対して異を唱えるもの。

    医師が書いたもので、内容的に面白みはないが、その分確実に信用できる感じ。

  • 疫学の立場からの現代医療論。医療が万能でなく、それは将来にわたってもそうであるということは頷ける。が、同時にエビデンスが明らかでない医療行為は断固として認めない、というスタンスのようだ。最後のところには違和感あり。

  • 最新の科学的根拠を応用・実践して行われる医療のことを、科学的根拠に基づく医療(evidence based medicine)という。

    「これさえ食べていれば」の罠
    ベーコン二切れを我慢すべきか?
    食事と健康の関係に意外性を求めるべきではない。「◯◯だけ食べて健康に」とか「△△というスーパーフード」といったお手軽な情報は、ほぼ無意味である。

    かぜに抗菌薬はむしろ有害
    抗菌薬は抗生物質ともいう。かぜはウィルス感染が主な原因である。抗菌薬は細菌には効果があるが、ウィルスには効果がない。つまり基本的にかぜには抗菌薬は無効である。

    普通の人がビタミンCを常時摂取しても、かぜの予防には効果がないことが明らかにされている。

    「トクホ」は要注意

    トクホや機能性表示食品は病気の人々を対象にしていないという大前提がある。

    医薬品のような大きな効果はない。

    グルコサミンに効果なし
    グルコサミンはアミノ酸の一種であり、関節の中に存在している。昔から健康食品として販売されているが、グルコサミンを経口摂取しても、関節の痛みを軽減する効果はないし、関節疾患の予防効果もない。

    CTによる被曝量は胸部X線の百倍

    がんはかかると覚悟せよ

    家族であることを直接の原因として発生するがんは、がんの全体の約五%に過ぎない。

  • ●臨床疫学とは、基礎実験データではなく、多くの患者たちの臨床データを集め、応用統計学を駆使して、より確実な医療とは何かを探索し続ける学問である。
    ●動脈硬化とは、動脈が硬くなり、結果の内側の壁がもろくなる現象である。血管の中が狭くなったり詰まったりして血液を送れなくなる。全身の他の動脈にも送り得る。冠動脈が完全に詰れば心筋梗塞、脳動脈が完全に詰れば脳梗塞を起こす。
    ●心臓マッサージを受けた人のうち、AEDを受けなかった人の社会復帰率が14.4%であったのに対しAEDを受けた人は31.6%であった
    ●「科学的」と言うためには、「再現性」「反証可能性」がなければならない。
    ●昔の漢方医学における「五臓六腑」には、膵臓が含まれていなかった。膵臓の存在すら認識されていなかったようである。
    ●医学論文 不採用となった質の低い論文の受け皿となるようなジャーナルを「ハゲタカジャーナル」と呼んだりする
    ●タミフルを飲むと異常行動を起こすのか?現在では、インフルエンザ自体の症状の1つとして、異常行動が起きることが明らかになっている。
    ●喫煙と肺がんの因果関係。ヒルの基準を満たしていることになり、肺がんになる確率が高い事は確かである。
    ●脳卒中とは、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の総称であるが、中でも脳梗塞が多い。脳梗塞の最も多い症状は、体の半分のどちらかに急に力が入らなくなると言う運動麻痺である。
    ●画像診断はAIの仕事になるであろう。Googleの研究グループが、網膜の画像を用いて、糖尿病網膜症と糖尿病黄斑浮腫を自動検出するアルゴリズムを開発した。
    ●私に対するアンケートで抗がん剤治療を受けるかどうかを尋ねたところ、4人に1人が消極的であったと言う。理由は、根治しない、時間が無駄、延命を望まない、副作用が辛い、などだったと言う。
    ●代替医療をなりわいとする日医療従事者が溢れている。彼らが語る「効果」とは、ほぼ全て体験談に基づくものであって、それはすなわちプラシーボ効果や疾患の自然経過で説明ができることであり、真の効果とは言えない。
    ●臍帯血に美容効果やアンチエイジングの効果があると言う科学的根拠は全くない。
    ●コクラン・ライブラリ ビタミンCによる風邪の予防及び治療と言うレビューがある。さほど効果は見られなかったみたいだ。
    ●ワクチン接種の普及によって将来の子宮頸がんの罹患率が低下すると言うエビデンスはほぼ確立している。しかしメディアが連日報道した「副作用」のせいで例えば札幌市内の子宮頸がんワクチンの接種率は、約70%から0.6%まで低下したと言う。
    ●グルコサミンについては昔から健康食品として販売されているが、グルコサミンを経口摂取しても、関節の痛みを軽減する効果は無いし、関節疾患の予防効果もない。スポンサー無しの論文は、いずれも効果は否定されている。
    ●CTによる放射線被曝量は15ミリシーベルト程度であり、X線撮影の100倍位になる。
    ●罹患リスクと死亡リスクが乖離しているものは、男性では前立腺がん、女性では乳がんである。
    ●世界的に見れば、認知症が増加している地域は日本を含む東アジアなどに限られる。欧米では過去25年間で減少している。
    ●人生100年時代、今から90年後の世界では半分の人々が百彩以上生きられると言う予測である。

  • 医師の人達からは、同様の意見をずっと聞いてきたが、データを元にエビデンスに基づく説明が素晴らしい。
    ただ、結局メディア情報による誤った医療を信じる人には、本書は届かないだろうが。

  • 最近、がん患者とやらになった。
    家族はもちろんそれを知っているし、職場にも伏せてはおけない。
    だから、最近、こういう本を人前で読むのに、ちょっと気を遣う。
    周囲の人に、私が不安になっていると思わせてしまうのではないか、と。

    筆者は臨床疫学の専門家。
    臨床医学とは、患者の臨床データを集め、統計処理を施し、より確実な医療を探索する学問。
    そして、その立場から出された命題が、書名でもある「医療は不確実なものである」ということだったのだが。
    センセーショナルに見えるこの命題も、現代の医学でさえほとんどの病気の原因が不明であり、医療の効果になぜ個人差があるのかを説明できないのが現実だというから、納得せざるを得ない。
    実際、自分の癌は再発するのかは、きっと私の主治医も、手術が終わって数か月の今の時点では何とも言えないわけで、身をもって医療の不確実性を味わったことになるのだろう。

    この本のキーワードは、EBM(科学的根拠に基づく医療)。
    患者の診療に最新かつ最良の科学的根拠に基づくのと同時に、患者の意向と臨床能力を統合して行う医療だという。
    ここで目を引くのは「患者の意向」。
    医師は専門的な見地から、治療法を提示するが、それを受け入れるかは患者だということ。
    自分自身、手術直後、再発を予防するための再手術を提案され、手術のメリット、デメリットの説明を受け、選ぶことになった。
    手術しないことを選んだのだが、正直、正しかったのか今一つ自信がない。
    先日、首の血管からの人工透析を断って、透析再開の意向ももらしつつも、再開されることなくそのまま亡くなったという患者さんのことがニュースになった。
    体の苦痛から、意思が揺れ動くことは、自分のこととしても想像できる。
    患者の意向を尊重してもらえることは、間違いなくすばらしいことだ。
    でも、患者として自己決定が十全にできるのかは、とても難しいと思う。
    最後に頼るべきものは自分の治癒力ーとしても、そこまで自立した患者になれるかどうか。

    で、患者としてどうあるべきかを考えるヒントを与えてくれた本書には感謝するが、やはり当事者として割り切れないのが、統計から割り出した事実と、患者の現実とのギャップ。
    私は手術前に、おそらく良性腫瘍と言われていた。
    もちろん、悪性である可能性も告げられていたし、切って病理検査をしてみないとわからないことは納得している。
    同じようなケースのうち、「まれにがんのこともある」と書いてある本もあったのだが、その「まれ」なケースに当たってしまったわけだ。
    確定した病名をググったら、国立がんセンターの希少がんセンターのページにつながってしまったほど。
    統計的に、つまり、ある症状の患者の何パーセントの確率で○○病だ、と言われることと、当事者の感覚は全く違う。
    当事者にとっては、0か100かとしてしか存在しない。
    5年生存率なる、やはり統計的な数値があるけれど、これとどう付き合ったらいいか、いまだにモヤモヤしている。

  • EBM
    診療ガイドライン
    人はいずれ死ぬ。いずれガンにかかる
    そんなとこを気にするよりもQOLを考える。
    QOL向上のためには今から健康に気をつけるべきだ

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著者プロフィール

康永 秀生(東京大学大学院医学系研究科教授)

「2023年 『目の前の患者からはじまる臨床研究』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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