AI vs.民主主義: 高度化する世論操作の深層 (NHK出版新書 614)
- NHK出版 (2020年2月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (231ページ)
- / ISBN・EAN: 9784140886144
作品紹介・あらすじ
テクノロジーは民主主義を滅ぼすのか?
AIが世論を誘導する? 一見すると信じがたいことが、いま世界中で「選挙戦術」として実装されているのをご存じだろうか。
米大統領選やイギリスEU離脱の国民投票では、国民が無意識のうちにWeb上に提供している多くの個人情報がAIに解析され、選挙キャンペーンに利用された。
それらはパーソナライズ化されたSNS広告によって人々の憎悪を煽り、個人の不安に訴えかける「マイクロターゲティング」という巧みなサイバー戦略によってもたらされたものである。
そうした「マイクロターゲティング」の手法から、ウソかどうかをすぐに見分けるのがほぼ不可能な、複雑化するフェイクニュース(ディープフェイク)まで、選挙戦術をめぐる技術は急速に高度化し続けている。
ある意味で、そのひとつの端緒となったのは2016年米大統領選だった。
Facebookの個人情報の流出、および他国からの選挙介入をめぐる一連の事件は記憶に新しい。
2016年米大統領選、トランプ政権の発足、そして2年前の中間選挙の裏側で何が起きていたのか。
そしてその流れの中で2020年11月に控える、大統領選のゆくえは。
米大統領選の取材・観測を長期にわたって続けてきた「クローズアップ現代+」制作チームが、
トランプ陣営の選挙戦略を担った広告会社(ケンブリッジ・アナリティカ)の元社員やデータアナリスト、AIによる世論操作の権威と呼ばれる科学者など、“キーマン”への長時間の独占取材を敢行。
最新のAI技術を駆使した世論操作とはいかなるもので、権力者にどう利用されうるのか。
日本は本当に他人事でいられるのか。
そして今、民主主義は、テクノロジーの手によっていかに変容しつつあるのか。技術に対抗する手段は――?
徹底した現場取材から浮かび上がる、「デジタル・ポピュリズム」の実態と民主主義の危機。
感想・レビュー・書評
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K図書館
あとがきより
ソーシャルメディア、データ、アルゴリズム、 AI の時代に民主主義は損なわれるのか
それは私たち市民一人一人がネット上で何が起きているかを理解し、情報の真贋を見抜くスキルにかかっている
本書がその一助になればと切に願う
《感想》
参考文献資料が13ページほどにもわたる
NHK取材班だけあって、良い切り口で興味をそそられる
個人データが利用され、傾向を分析され、カスタマイズして表示されているとは、考えてなかった内容だった
誘導というか洗脳に近いことを表示してくるのだろう
日本でも起こりうることとしかと受け止め、特に政治はあらゆる方角からの意見を見聞きしないといけない詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/737206 -
トランプ大統領誕生の一因ともいわれる、AI(人工知能)による世論操作。テクノロジーの進展は、民主主義をどう変容させるのか?関係者らへの取材を基に、その実態を描き出した書籍。
2016年の米大統領選では、データ分析会社のケンブリッジ・アナリティカ(CA)が、トランプ陣営の選挙キャンペーンを担った。同社はフェイスブックが保有する膨大な個人データを不正に入手し、SNSの政治広告の製作に利用していた。
CAの元社員によると、同社は個人データをAIに解析・学習させ、世論を操作しようとした。そのカギとなったのが「マイクロターゲティング」。これは、有権者の政治的傾向
を割り出した上で、個々にカスタマイズする形で政治広告を作り、それをSNS上の有権者に効果的に送りつける手法。
今日、人はインターネットで自分が知りたい情報を得られる。
このように情報がパーソナライズされた世界では、知るべき情報よりも知りたい情報が優先され、人は次第に自分と異なる他者への想像力を失っていく。それは、民主主義を成熟させるための議論が成り立たなくなっていくことを意味する。
多くの研究者らは、次の大統領選で「ディープフェイク」という技術が現れると警鐘を鳴らす。それは人の声や表情を容易にねつ造でき、偽物だと見抜くことは難しい。こうしたフェイク画像や動画が、有権者情報に基づき届けられる恐れがある。
今の政治システムは、新たな段階に入りつつある。SNS上の個人データをAIが分析し、広告を流す技術は、従来の民主主義では想定されていなかった。2016年の大統領選で、トランプのキャンペーンメッセージを人々に届けていたのもAI技術だ。だが、その影響について分析と対策は進んでいない。 -
2016年のアメリカ大統領選挙
総得票数ではヒラリー・クリントン候補が286万票も多く獲得したにもかかわらず、民主党の牙城だった3州をトランプ候補が7万7千票差、率にしてわずか1.1ポイント差で制した結果、選挙人総数で上回り勝利したと言われる
この7万7千人に個別に有効な政治広告を届ける技術がSNSを利用した「マイクロターゲティング」だった
AIを活用して個々の有権者にカスタマイズした政治広告を届ける──夢物語のようなことがすでに起き、民主主義を脅かそうとしている
NHK国際部、社会番組部が渾身の取材で明らかにしたトランプ陣営のデジタル選挙戦略の取材記録
(2018年11月に「クローズアップ現代+」で放送)
この大統領選挙にはフェイスブックから流出した8700万人分の個人データが使われた疑惑もあり、知らずに利用するこわさを実感する一冊
《米フェイスブックは26日、米アップルが近く導入する新基本ソフト「iOS14」の搭載端末からは、自社のアプリを通じた利用者ごとの端末データ収集をやめると明らかにした。》──「ブルームバーグ」2020.8.27配信記事
利用者側にとっては個人データ提供の歯止めになる変更となる
……NHK政治部にも渾身の取材を期待したいところだが -
・toppointで読む
・出版タイミングが随分と遅い内容 -
東2法経図・6F開架:314.8A/N11a//K
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SNSは個人が様々な人や情報との接点を持つことを可能にし、その結果として2011年当時の「アラブの春」と言われるような、情報統制下の民衆に広く情報を提供して民主化を加速する要因となりました。一方、2016年アメリカ大統領選挙では、SNSを介してロシアの介入や、現在に至る民衆の”分断”の原因ともなっています。
科学技術が生活を便利にする一方、使い方を誤ると多くの弊害が発生するのと同様に、SNSもその使い方次第で民主主義を加速することも、また衰退させることにもなります。本書はその後者の側面について、2016年アメリカ大統領選挙の実態に迫りつつ、もはやSNSなしでは成り立たない現代において、SNSから発信される情報とどう関わり合うべきかという点について、警鐘を鳴らす内容となっています。
現代ではネットを通じて個人の様々な行動が本人の意識しない間に収集され、それを基に個人の嗜好や性格に至るまで分析されている状況となっています。2016年アメリカ大統領選挙においてもトランプ陣営はそれをフルに活用し、自陣営への投票を促す政治広告だけではなく、民主党支持者が投票しないようにする政治広告も利用しました。本書に登場する民主党支持者は自らの判断で民主党へ投票しないという行動をとりましたが、それはSNSによる巧みな誘導による結果であった可能性が指摘されています。
SNSで個人がどのような投稿に「いいね」をしたのか、100個ほどのデータがそろえば、その人となりはかなり正確に把握できると専門家は断言しています。その分析(プロファイリング)に基づいて、その人が好むような政治広告を集中的に表示させる技術(マイクロターゲッティング)が確立されると、もはや自分とは異なる価値観や考え方に触れる機会が奪われ、分断が深まる(フィルターバブル)という構図が本書で解説されています。
このような時代に、情報とどう向き合うべきかという点を本書後半で述べています。情報過多と言われる昨今ですが、情報の質を見極める力が問われているのは間違いなく、これからの時代で非常に重要なテーマを分かりやすく扱った1冊だと思いました。 -
アメリカ大統領選挙での主戦術、SNSを用いたマイクロターゲティングは、従来の有権者への「訴え」が絨毯爆撃なのに対し、精密爆撃で個々を狙い撃ち誘導する手法。ゲッベルスがAI化され、ネットにて高精度で大衆煽動するイメージで、人々が無意識のうちに操られる世界に、民主主義は機能するのかという問題提起がなされている。とはいえ、もともと民主主義や選挙が、良心的で煽動とは無縁だと考えるのも、無理がありそう。形態が変わっただけで、本質はさほど変わってないのではないか、そんな思いはした。前回は大金を投じたトランプが勝ち、新戦術の有効性が立証されたものの、対立陣営が同じ事をすれば、良くも悪くも公平に収斂するような気がしないでもない。もう一つの論点は、日々吸い上げられ利用される個人情報保護、あるいはコントロールの問題だが、情報を渡さないで生きていく事が既に不便な時代。タップ1つがどんな意味と結果を持つか、再認識する所から始めるしかない。
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アメリカで民主主義が歪められていた実態はよく分かった。日本においても政策決定過程で民意が反映されていないと感じられるのに、日本の現状についてはほとんど触れられていない。自民党ネットサポーターズクラブとか、削除されたけどJCの宇予くんとかの実態にももっと迫ってもらいたかった。
終盤、プライバシー権を憲法上の人権として位置付けるべきのと意見には賛成できるが、表現の自由を含めた自由権の自己統治の価値について著者(NHK取材班)がうまく消化できてないように思える。日本におけるプライバシー権の議論と日本における民主主義の現状、あり方の議論とを、もう少しリンクさせて論じて欲しかった。
今の閉塞感を破れるきっかけになりそうな議論を含んでいるのに、もったいないと思う。