ドストエフスキー 父殺しの文学 (下) (NHKブックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784140910085

感想・レビュー・書評

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  • 上巻と同じスタイルの講義である。当時の爆弾あるいはテロ事件、テキストの概要、筆者の説明、筆者のドストエフスキーの足跡をたどる旅行である。
     ドストエフスキーの文学を卒論にするのであれば必読書であろう。

  • ドストエフスキーの癲癇と父殺し  -2006.03.27記

    以下、フロイトの孫引きになるが、
    「少年フョードルは、ライバルでありかつ支配者である父親を憎み、その反面、強者である父親を賛美し、模範にしたいというアンビバレントな感情に苦しめられていた。しかし、ライバルたる父親を亡き者にしたいという願いは、父親から下される罰、すなわち、去勢に対する恐怖によって抑圧されていた。そして、その父親が、彼の支配下であった農奴たちによって殺されたことで、図らずもその願いが現実化したため、まるで自分が犯人であるかのような錯覚にとらわれた」というのである。
    「ドストエフスキーの発作は、18才のときのあの震撼的な体験、すなわち父親の殺害という事件を経てのち、はじめて癲癇という形態-痙攣をともなう大発作の型-をとるに至った」或いはまた「この癲癇の発作においては、瞬間的に訪れるエクスタシー-アウラ-のあと、激しい痙攣をともなう意識の喪失に襲われ、その後にしばらく欝の状態が訪れる」といい、「発作の前駆的症状においては、一瞬ではあるが、無上の法悦が体験されるのであって、それは多分、父の死の報告を受け取ったときに彼が味わった誇らかな気持ちと解放感とが固着したものと考えていいだろう。そしてこの法悦の一瞬の後には、喜びの後であるだけに、いっそう残忍と感ぜられる罰が、ただちに踵を接してやってくるのが常であった」と。
    フロイトはさらに、少年フョードルの心の深く根を下ろしている罪の意識や、後年現れる浪費癖、賭博熱などいくつかの異常な行動様式にも同じ視点から光をあてている、としたあとでこの著者は、「60年に及んだドストエフスキーの生涯が<エディプス.コンプレックス>の稀にみるモデルを呈示していることは否定できないだろう。フロイトの存在も、フロイトの理論も知らなかったドストエフスキーは、父親の殺害と癲癇の発作を結びつけている見えざる謎を、ひたすら直感にしたがって論理化し、表象化するほかに手立てはなかったのだ。」と、ドストエフスキー文学の深い森の中へと読者を誘ってゆく。

  • ドストエフスキーの世界にどっぷり。登場人物を掘り下げる。ドストエフスキーを全部読んだからこそ、楽しめた論だったが、あの横溢したエネルギーの神秘には、迫れなかった気がする。

  • 亀山郁夫教授によるドストエフスキー文学の解説および伝記です。下巻では人生の後半部に表した『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』の解説を中心に波乱に満ちた人生から穏やかな晩年に至るまでを追います。

    ようやく読み終えることができました。亀山郁夫教授によるドストエフスキーの解説書。その下巻です。ここでは人生の後半部に起こった出来事や彼の人生および作品に重大な影響を与えた事件などを取り上げ、詳細な解説を行ったものです。作品では革命組織の内ゲバリンチ殺人とニコライ・スタヴローギンという『善悪の彼岸』に立ち続ける人間を描いた『悪霊』ひとりの『運命の女性』をめぐって父と子が相争う(どこかで聞いたことがある話ですね)『未成年』そして文学上にこめられるほぼ全てのテーマを盛り込んだ『父親殺し』を主軸とする『カラマーゾフの兄弟』の解説が作品世界の中心に。

    ドストエフスキーの人生は賭博や恋愛。さらには莫大な借金に苦しめられながら追いたれられるようにアンナ夫人の口述筆記で作品を書き飛ばしていた時代。政治事件でシベリア送りになって以来、常に皇帝。秘密警察の『目』にさらされ。テロリストによる国家転覆を目の当たりにし『終末』観が色濃く反映された『四大長編』は『予言の書』として幾度となく読み継がれていく理由が本当によく分かりました。

    ここでよく俎上に上げられているのは『教唆』(もしくは使嗾)のモチーフです。『悪霊』のニコライ・スタヴローギンや、『カラマーゾフの兄弟』のスメルジャコフを『唆した』イワン・カラマーゾフ。彼らを初めとする登場人物の『行動原理』を丁寧な解説で読み解いているところに、本書の価値があると思います。

    『黙過』と『使嗾(もしくは教唆)』という言葉に出会うことができた。そのことだけでも本当に価値があるものでございました。

  • 白痴、未成年、悪霊、カラマーゾフと後期の重量級作品群の説明です。特にカラマーゾフは後半ほとんどを当てています。悪霊のステパンとスタヴローギン親子の逆転、そして未成年のヴェルシーロフとアルカージー、など親子の確執に焦点が今回も中てられています。カラマーゾフのフュードルはドストエフスキーそのものの名前であるだけに本人が父ともあり、子ともなる投影がなされているというのはそのとおりだと思います。ドストエフスキーが当時の犯罪を非常に詳細に研究し、小説に生かしていることも彼の小説の迫力に繋がっていることを興味深く見ることもできました。最後に著者が想像したカラマーゾフの続編「偉大な罪人の物語」の粗筋はこのような本を読んだあとだけに説得力があります。実際にドストエフスキーが生きていればどのような内容になったのか、興味津々です。

  • 了。

  • [ 内容 ]
    神か、革命か。
    皇帝権力とテロリストの果てしない闘い―「終末」の様相を深めるロシアの大地に、国家の囚人として生きる晩年のドストエフスキー。
    生身のキリストと罪なき子どもに託されたロシアと世界の救済。
    しかし、真実はどこに?
    『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』に刻まれた「教唆」のモチーフを辿り、ドストエフスキー文学における最大の謎「父殺し」をついに読み解く。

    [ 目次 ]
    第2部 聖なる徴のもとに(犠牲、欲望、象徴;使嗾する神々)
    第3部 彷徨える大地の子ら(偶然の家族;プロとコントラ;解体の原理、復活のヴィジョン;「父殺し」の子どもたち)

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著者プロフィール

名古屋外国語大学 学長。ロシア文学・文化論。著書に『甦るフレーブニコフ』、『磔のロシア—スターリンと芸術家たち』(大佛次郎賞)、『ドストエフスキー 父殺しの文学』『熱狂とユーフォリア』『謎とき『悪霊』』『ショスタコーヴィチ 引き裂かれた栄光』ほか。翻訳では、ドストエフスキーの五大長編(『罪と罰』『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』)ほか、プラトーノフ『土台穴』など。なお、2015年には自身初となる小説『新カラマーゾフの兄弟』を刊行した。

「2023年 『愛、もしくは別れの夜に』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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