ブルデュー『ディスタンクシオン』 2020年12月 (NHK100分de名著)

著者 :
  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (99ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784142231201

作品紹介・あらすじ

趣味と階層はなぜ結びつくのか?

「文化資本」や「ハビトゥス」といった概念を用いて、社会の仕組みを徹底的に解剖してみせたブルデューの主著。なぜ音楽の好みは人によって異なるのか? 話し方や立ち振る舞いの「くせ」はどこから生まれるのか? 精緻な理論と調査に基づく知の金字塔を、気鋭の社会学者が平易に解説する。

感想・レビュー・書評

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  • ハビトゥス、界、文化資本がキーワード。生まれた環境に人は大きく影響される。学歴を得るためには勉強をする必要がある。勉強をする為には机に向かう態度が身に付いていなければならない。
    一つの事柄を上手く進めるのにこれまで培ってきた態度がとても重要なものになってくる。いつの間にか習得しているものもハビトゥスに含まれるのだと思う。
    51ページの図がとても分かりやすかった。

  • 『ディスタンクシオン』は、30年前に出版され、当時よく使っていた大学生協の書店に置いてあった。銀から少し紫がかった色の重量感のある二部に渡る本。何度か手を伸ばそうとしたが、その価格の高さに少し尻込みをしてついに買うことはなかった。何が書かれた本なのかはよくわかっていなかったが、それでもどこか強く惹きつけるところがある本だったことを覚えている。ピエール・ブルデューという新進気鋭の社会学者という名前に惹かれていたのかもしれない。
    30年が経ち、評価も定着し、すでに古典のひとつにも数えられようかという『ディスタンクシオン』がNHK 100分de名著で紹介されるというので、録画をし、この本も手に取ってみた。紹介者の岸さんは、大学三回生のときにこの本を手に取って、夢中で1,000頁もあるこの本を一晩でむさぼるように読んだという。岸さんはその影響を受け、研究の道に入り、沖縄の人びとの生活史の研究を続けているという。

    la distinction - 英語と同じ綴りで「区別」である。個人的な趣味や嗜好が、いかに区分された階級などの社会的構造に規定されているのかについて、社会学的な膨大なフィールド調査をもとに明らかにしたものである。ハビトゥス(habitus)は著者によると「傾向性」「性向」
    であり、ブルデューによると「非常に深いレベルで私たちの嗜好や行動を方向づける「身体化された必然」」だという。ハビトゥスは個人のパーソナリティよりも、家庭や学校の中で人びとの相互行為の中で社会的に構築され、多くの趣味嗜好を方向付けるものなのである。例えば、自分がこういう本を読むに至ったのも自分が過ごした学校の中で形作られたハビトゥスの結果なのだ。日本における「学校」が生み出すハビトゥスへの影響は自分がそう思っているよりも強いのかもしれない。また、JAZZを聴くようになったのは大学時代にたまたま田園調布に家庭教師に行った際に、その教え子が聴いていたものを紹介されたからだが、そこではおそらくはJAZZを聴いていいと思うような家庭のハビトゥスがあったからだろう。

    「「眼」とは歴史の産物であり、それは教育によって再生産される」というブルデューの言葉は、それが逃れられないものではないにせよ、想像するよりも強く個人を縛るものであるように思われるのだ。

    この本の中では『ハマータウンの野郎ども――学校への反抗・労働への順応』が紹介されるが、同じように最近の本で、映画化もされるようだが、『ヒルビリー・エレジー 』も同じような労働者階級が自ら固定されていく様とそこからの離脱に教育の果たす役割、逆説的に彼らがいかに教育から離されているか、を個別の事例であるが示したもので興味深い。
    ブルデューは、学校は格差を再生産する場と考えたが、文化資産を獲得する場でもあると述べていると書かれているが、その両義性を意識しておかないといけないのだと思う。


    こうやって、NHKの放送とサブテキストであるこの本を読むと、その言いたいことは非常に明解なように思われる。それにも関わらず、この本は難解な大著と見なされ、その評価は30年前に本の価格以上に自分をこの本から遠ざけた原因でもあった。ブルデューも通俗的な理解にならないように敢えて難しく書いたところもあると推察される。
    中国人の部屋などで有名な哲学者のジョン・サールが、フーコーに対してなぜあんなに難解な書き方をするのかと聞いたところ「フランスで認められるためには理解不能な部分が10%はなければならない」と答えたという。そのことを、さらにブルデューに話したところ、「10%はだめで、少なくともその二倍、20%は、理解不可能な部分がなければ」と語ったという。ハビトゥスについて、次のように書かれた文章を読むと、そのことが実感される。そして、それがまたある階層のハビトゥスの中で積みあげられた何かをいたく刺激していたのだ(それが売れるということにつながった)。

    「ハビトゥスとは、持続性をもち移調が可能な心的諸傾向のシステムであり、構造化する構造(structures structurantes)として、つまり実践と表象の産出・組織の原理とっして機能する素性をもった構造化された構造(structures strucurees)である。(『実践感覚1』)」

    著者は『ディスタンクシオン』を次のように評する。

    「いずれにせよ、「その人がその人である理由」を、非常に強力な理論で緻密に言語化したのがブルデューの『ディスタンクシオン』です。その晦渋で難解な文体とは裏腹に、彼がやっていたのは実は、人生の社会学なのです。ここで描かれているのは、自分たちなりに自らの人生をより良いものにするために懸命に闘っている人々の物語なのです」

    著者は、『ディスタンクシオン』を「私たちがどれくらい不自由なのかが描かれた、自由についての本」だという。自由意志も、行動の自由も含めて、「自由」はわれわれにとってそれほど自明なものではありえない。そして、逆説的に「自分の自由を制限している構造的な条件づけの、その条件自体を知るということは、人間が成し得るもっとも知的で自由な行為である」と言う。自分が『ディスタンクシオン』を読みたいと思うのもハビトゥスから来るもので、それはある意味では自由な行為ではないのかもしれないが、歴史的に築かれた構造によってなされた行為なのだ。普及版が出て少し安くなっているようなので、いつか読んでみたい(できればkindleで)。

    『ディスタンクシオン』をサポートする本としてはとてもよい。何より読みたい、知りたいと思わせる内容。NHK 100分de名著はセンスがよいな。


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    『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(J.D.エバンス) のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4334039790

  • ”文化資本”や”ハビトゥス”などの概念を提唱し、社会学のみに留まらず、近接する人文社会科学に大きな影響を与えたピエール・ブルデューの主著『ディスタンクシオン』。

    本書はNHK Eテレの「100分de名著」のテキストとして、先日京大文学部の社会学研究室の教授に就任したことで話題になった(少なくとも私の中では)岸政彦氏が平易に解説をしてくれている。

    ブルデューの種々の概念は学生時代にも見聞きしていたし、『ディスタンクシオン』については数年前に普及版という新版が出版されたこともあり購入したのだが、これが全く歯が立たずに30ページ程度で読めなくなってしまった。

    そんな難著を、社会学者として、人文社会科学の研究者として、そして文筆家としても多いの尊敬している岸さんが解説するということで期待していたのだが、これが期待を遥かに超えるわかりやすさで感動すら覚えてしまった。

    一見、難解なテキストを解きほぐしながら、単なる解説に留まらず、ブルデューの思想自体のエッセンスを
    ・「社会には複数の合理性が存在する」
    ・「不自由を知るという自由」
    などの形でまとめ上げ、その思想が今日的にどのような意味を持つのかという点まで、全く難しい言葉を用いずに描き切る岸さんの力に敬服。

  • 「重力を知ることで人は飛ぶことができる」ーブルデュー。不自由さ、制約、構造を知ることで、人間にとっての自由を知ることができる。

    ハビトゥス、界、象徴闘争、文化資本。

    幻想を抱くものはすぐに幻滅しがち。

  • 入門、概要用に。
    階級の再生産のための文化資本、経済資本は肌感覚として理解できる部分が多い。ただ、結論より議論の過程を読んでいきたい。

  • ずっと読んでみたいのにぶっとい単行本2冊の勇気がでないディスタンクシオン、まずはこれから。

    確かオリザさんの授業で習った「文化資本」ってここから来てる概念なんだなとか、ハマータウンの野郎どもで書いてあったこととの親和性めちゃ高いなとか、これまで断片的に知ってた知識は実はこの本から来ていたのか!ということが色々結びついて楽しかった。
    「趣味は闘争である」というのも、極端な言い方ではあると思うがとてもよくわかる。
    何を好きになるにしても「〇〇を好きな私(ドヤ)」みたいな側面があるって絶対否定できない。
    私の惚れ惚れする本棚もまさに象徴闘争と言われてしまえばそれまで。

    『自由からの逃走』もそうだけど、戦後の知識人は、「主体性ある個人」を否定しまくっているなと感じる。
    第二次世界大戦を経て、主体性ある個人なんて幻想だという揺り戻しがきたのだろうか。
    いずれにせよ、個人は社会によってがんじがらめにされているということを認識するのは大変知的な態度に思える。

  • 好きで選んだ趣味でさえも実は社会構造に縛られ、生育歴に方向付けられていることに気づかなければならない。私たちはそんな不自由な中でも必死に生きているのだ。そしてその構造の正体を見極めることこそが、人間が成し得るもっとも知的で自由な行為である。と、「ディスタンクシオン」をそんな解説を岸政彦氏がしている。ブルデューを読もうかな。うーん難しそうだ。

  • なぜ私はクラシック、アート趣味を理解できないのか。
    ハビトゥス、文化資本、界(場)。3つの概念によってなんとなく理解できた。
    ディスタンクシオン最入門書としてオススメ。

    併せて「差異と欲望」「ブルデュー 闘う知識人」も読んでみる。

  • テーマとしてはめちゃくちゃ興味深いので一気に読んだけど、やはりまだ本質までの理解に届いていない感じがする。原著を読め、と言われればそれまでだけど。

  • 東京と地方の断絶、階級の再生産といった言葉がずっと心に引っ掛かっていた。何でそのようなことになるのか、ブルデューがハビトゥス、文化資本などの概念を使って説明してくれた。私にとっては長年の疑問が解決され、目から鱗でした。

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著者プロフィール

岸政彦(きし・まさひこ)
1967年生まれ。社会学者・作家。京都大学大学院文学研究科教授。主な著作に『同化と他者化』(ナカニシヤ出版、2013年)、『街の人生』(勁草書房、2014年)、『断片的なものの社会学』(朝日出版社、2015年、紀伊國屋じんぶん大賞2016)、『質的社会調査の方法』(石岡丈昇・丸山里美と共著、有斐閣、2016年)、『ビニール傘』(新潮社、2017年)、『マンゴーと手榴弾』(勁草書房、2018年)、『図書室』(新潮社、2019年)、『地元を生きる』(打越正行・上原健太郎・上間陽子と共著、ナカニシヤ出版、2020年)、『大阪』(柴崎友香と共著、河出書房新社、2021年)、『リリアン』(新潮社、2021年、第38回織田作之助賞)、『東京の生活史』(編著、筑摩書房、2021年、紀伊國屋じんぶん大賞2022、第76回毎日出版文化賞)、『生活史論集』(編著、ナカニシヤ出版、2022年)、『沖縄の生活史』(石原昌家と監修、沖縄タイムス社編、みすず書房、2023年)、『にがにが日記』(新潮社、2023)など。

「2023年 『大阪の生活史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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