NHK 100分 de 名著 カール・マルクス『資本論』 2021年1月 (NHK100分de名著)

著者 :
  • NHK出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (116ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784142231218

作品紹介・あらすじ

気鋭の経済思想家が、エコロジー・脱成長の視点からマルクスを読み直す

長時間労働、格差、不安定雇用、低賃金――。資本主義の暴力性がむき出しになるなか、世界的にマルクス再評価の機運が高まっている。生産力が上がるほど人が貧しくなるのはなぜなのか。なぜ過労死するまで働き続けなければならないのか。『資本論』で構想された持続的で平等な未来社会像とは?ソ連型の社会主義とマルクスの目指した「コミュニズム」は何が違うのか。
150年前に書かれた『資本論』には、現代社会が抱える問題を考えるヒントが数多く記されている。とくに、自然との関係のなかで人間の労働のありかたを分析する「物質代謝論」は、これまでエコロジーの視点でほとんど読まれてこなかった。
マルクス研究の権威ある国際学術賞を最年少で受賞した斎藤氏はこの点に注目。難解かつ長大な『資本論』で展開される資本主義の構造的矛盾について平明に解説するいっぽう、マルクスが晩年に遺した自然科学研究、共同体研究の草稿類も参照し、『資本論』の完成を見ずに世を去った希代の社会思想家の真意を読み解いてみせる。パンデミックや気候変動といった地球規模の環境危機をふまえ、いまこそ必要な社会変革に向けた実践の書として『資本論』をとらえ直す、まったく新しいマルクス論。

感想・レビュー・書評

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  • 資本論の発刊から150年。ソビエト連邦の解体や中国の市場経済への軌道修正を経て、マルクスの思想は今では風化してしまったのだろうか?

    誰もが漫然とそう思っているようなところへ、「いや、マルクスの思想は現代でも生きている。それどころか、資本主義が加速度を増して数々の矛盾を生じさせている現代だからこそ示唆に富む」と、斎藤さんは力説しているようだ。
    つまり、マルクスの思想を教条主義的に狭く考えるのではなく、マルクスの残した断簡零墨を寄せ集めることで実は未解読な“泳ぎしろ”が多くあることを認識して、そして、マルクスを現代社会の諸事象にぐっと引き寄せ、両者のピントが合うタイミングを見つけ出そうというスタンスである。

    だが、そもそも私の大学生時代(80年代)ですら「マルクス経済学はもう古い」と揶揄され、多くの学生が近経(近代経済学)の講座申込みに集中する一方で、抽選に漏れた学生が不本意ながら選択するのがマル経だった。
    ところが斎藤さんは忌避するどころか、資本論でマルクスが最も力を注いだ「商品」という概念が人間の経済活動へもたらす影響を、私たちが誰でも知る最近の事例で解説している。
    -例えば、タピオカ店が街中にあふれたかと思うと急速に消えていった現象。
    -例えば、マスクが店頭から消えて買占めが起こったかと思うと供給過剰で投げ売り状態になった現象。
    つまり斎藤さんは、なおざりにされていたマルクス思想がちょうど一周して、社会を読み解くテキストとして元の位置に戻っているのを正しく掌握し、それを広くアピールすべく旗を振っているのである。

    実は私がマルクスに興味をもった瞬間は過去にもあった。ナニワ金融道を連載していた青木雄二さんが「一生に一度は資本論を読め」と強く勧めていたときである。
    青木さんの作品からは、商品の交換価値を表示するために人間が発明した便利なツールであるはずの「カネ」が、現実では人の欲望や思惑によって形質を変化させ、人間を惑わすさまを見せつけられる。青木さんが示す「カネ」の変質は、そのまま人の手の統御を離れ勝手な振る舞いをする「資本主義」と同質だ。その独特のリアリズムがマルクスに立脚していたと知り、私の中で急にマルクスが現代性を帯びてきたのを覚えている。

    しかし実際に私が資本論を精読しようとするところまで背中を押してくれる本はなかった。
    このたび、満を持して斎藤さんが登場したという感じだ。ちょうど将棋ファンにとって藤井聡太が登場したようなインパクトだろうか。
    それにしても、勢いがある人とは、まさに斎藤さんのことを言うのだろうか。
    「人新世の資本論」が前段にあるとはいえ、さらにこれだけ濃い内容のテキストをまとめられるのだから。

  • NHKテキスト恐るべし。資本論について勉強したいと思って取った。
    薄いのにしっかりした内容。とてもわかりやすい。このシリーズ買おう。
    マルクスって社会主義のイメージあったけど、思ってたのと違った。
    ポスト資本主義にマルクスが注目されるのは興味深い。
    Commonの再生って、まさにSDGsに繋がることだなと思った。

    「使用価値」と「価値」という単語が出てくるが、違う本では「交換価値」とされていた(多分、池上彰さんの本)。
    恐らく「価値」が元の訳なのだろう。

  • 大学は経済学部だったけど、そういえばマルクスのことは全然知らないできちゃったな、ということで、100分de名著で取り上げられたので、どうせだから読書会のテーマに指定して読んでみました。よく言われるように、マルクスの思想は旧ソ連とかの社会主義者のそれとも違うし、もちろん資本主義者のそれとも違います。資本主義にどっぷり染まった僕たちが、普段意識しないで行なっていることは、実は非常に資本主義的で、その歯車になているという指摘は、今なお、というか今だからこそ、再考する価値があると思いましたね。

    ◆「商品」に振り回される私たち
    マルクスは商品と富を区別していきます。「商品」は、値段の付いた売り物ですね。他方、「富」は必ずしも貨幣換算できません。美味しい空気や水、公園、図書館、知識や技能などは全て、値段が(はっきりと)つくわけではないですが、人を豊かにしてくれるものですよね。こういうものも全部ひっくるめて富と呼んでいます。マルクスは、資本主義によって、誰もがアクセスできるコモン(みんなの共有財産)だった「富」が資本によって独占され、貨幣を介した交換の対象、つまり「商品」になっていったと批判します。

    商品には2つの顔があるといいます。ひとつは「使用価値」。これは、人間にとって役に立つこと(有用性)、人間の様々な欲求を満たす力を指します。もうひとつは「価値」。これは、交換の基準、ものの値段ですね。もともと人間はその使用価値のためにモノを作っていたが、資本主義では「価値」のためにモノを作るようになりました。人間がモノに振り回され、支配されるようになったのです(これをマルクスは「物象化」とよんでいます)。

    「使用価値」を無視した効率化は、必要なものやサービスまで削り、社会の富を貧しくしていきます。筆者はその例として、公立図書館をあげています。図書館は市民にとって非常に使用価値の高いものですが、利益は生み出しません。その結果、徹底したコストカットにより司書は非常勤職員ばかりになっているといいます。なかなか十分なサービスは提供できないでしょうし、一生懸命働いてくれていたとしても賃金はそれに見合わないものになってしまいます。

    ◆なぜ過労死はなくならないのか
    資本主義では本来「富」であったはずの労働力が商品化されます。生きるために働いていたはずが、働くために生きているかのようになってしまいます。

    他方で資本家は、同じ給料でたくさん働かせれば商品をたくさん生産できるわけですから長時間労働をさせる誘引があります。現代では残業規制がありますが、形骸化している実態もありますし、マルクスの時代の工場労働者の長時間労働時間ぶりなんて、まあ酷いものでした。

    資本主義における労働者には2つの自由(free)があったとマルクスはいいます。ひとつは、強制労働させられない自由。もうひとつは、生きていくために必要なものを生産する手立てを持たない(共有の農地もないし、獣を狩りにもいけない)ということです。

    奴隷は最低限の生存保証はされていました(家畜をむやみに殺したりしないのと同じで、主人は奴隷をモノとして大切に扱う)。他方で、資本主義社会では生存保証はありません。資本主義は共同体という「富」を解体し、人々はそこにあった相互扶助助け合いの関係性からも切り離されてしまったのです。

    また、労働者を突き動かしているのは、「自分で選んで自発的に働いているのだ」という自負だといいます。こう思わせるのが巧妙なところですが、自由で自発的な労働者は、資本家が望む労働者像を、あたかも自分が目指すべき姿、人間として優れた姿だと思い込むようになっていきます。もう死語ですが、モーレツ社員は自ら望んでなっていたわけですよね。

    労働時間を減らしていこう、という動きは現代の政治にもあり、フィンランドのサンナ・サマリン首相は、「週休3日、1日6時間勤務」を公約としています。個人的には、労働に縛られないそんな世界がくれば嬉しいですが、資本主義の仕組みを考えると一筋縄ではいかないでしょうね。


    ◆イノベーションが「クソどうでもいい仕事」を生む!?
    経済学者のケインズは、「生産力が上がれば労働時間は短くなる。2030年には労働時間は週15時間になる」という予想をたてています。たしかに生産力は上がっているんですけど、いまのところその予想は実現しそうにありません。

    資本主義におけるイノベーションは何かというと、労働者に対する「支配」の強化でした。生産性を上げるため、生産工程を細分化して労働者たちに分業させます。そうすると「構想」(どんなモノをどうやって作るか考えること)と「実行」(実際の作業)が分離し、労働者は一人では何も生産できなくなってしまいます。確かに生産性は上がるんだけれども、人間が機械に使われる(奉仕させられる)、とマルクスは批判します。

    現代でも「人間にしかできない仕事」、しかも社会的に重要な仕事に従事するエッセンシャル・ワーカーたちに長時間労働と低賃金という負荷がかけられていいます。逆に広告業やコンサルとかは、世界全体からすると何の役に立っているかよくわからない「ブルシットジョブ」(クソどうでもいい仕事)だという指摘があるのですが、こんな仕事ばかりが増え、しかも給料が高い。


    ◆コモンの再生
    日本の国土の7割が森林で、スギやヒノキが伐採されずに荒れ放題になるくらい恵まれているにも関わらず、安い木材を大量に海外から輸入し、国内の林業を衰退させています。資本主義は価値の増殖を「無限」に求めるのですが、地球は有限です。したがって、構造的に環境問題が発生します。

    資本主義に代わる新たな社会において大切なのは「アソシエート」(共通の目的のために自発的に結びつき、協同すること)した労働者が、人間と自然との物質代謝を合理的に、持続可能な形で制御することだとマルクスは指摘します。

    「個人的所有」は否定しないが、水や森林、あるいは地下資源といった根源的な富は「コモンとして」みんなで管理していこう、つまり、分かち合いや助け合いの相互扶助によって、富の持つ豊かさをシェアしていこうということですね。

    この点は、僕としては疑問があって、「村社会に戻れ」ということを言っているのでしょうか?村社会は村社会で暴力的な側面を持っていますし、イデオロギーを共有するには「顔と顔が見える」必要があります。ある程度小さいコミュニティであれば可能だと思いますが、今の都市規模でそれができるかというと、どうなんでしょうか。

  • もっと早く勉強すべきだった
    共産主義や社会主義の胡散臭さから、二の足を踏んでいたことを反省

    資本主義の限界を伝えるものなのだから、今こそ読まれるべきであろう

    500円とかで、すぐ読めるので、今、みなに読んで欲しい

    ・世界がすべて商品になっていくことの意味

    ・交換のための便宜だったお金が、お金を増やすための交換になっていくこと

    ・人を労働者に留めるため、構想→実行、のうち、実行だけしかできない人を大量に増やしていく
    構想ができる人には、その人自身の構想ではなく、資本家の資本を増やすための構想をつくらせる

    ・「機械は労働者を労働から解放するのではなく、労働を内容から解放する」

    ・生物的環境の循環過程と、資本主義の増大過程との乖離

    学ばねば死ぬ

  • 会社員になる前に読んでいてよかった。
    この本に出てくる取り組みを後追い取材したい。10年単位とかで。


    ●うなずけた点、抜粋と落書き
    ・資本家すら資本の増殖を止められない

    ・ギルドでは労働の構想と実行が守られていたことで労働環境と仕事が守られていた

    ・労働者が労働から抜け出せないのは自由さゆえ。「自分が選んだんだ」という責任感と、生きていくための手段を持たない(フリー)だから。

    ・資本の専制と労働の疎外を乗り越え、労働の自立性と豊かさを取り戻す「労働の民主制」を広げていく必要がある

    労働者が結束してストライキして会社側(資本側)に労働条件の改善を求めて成功した例もある。それも大事だが、もっと根本的な労働のあり方を変えなきゃいけないとも思った。

    ・ミュニシパリズムや市民電力など市民営化の動きが現代のコモン再生の黎明か?

    • nag_shoさん
      予備論発表ですよね?頑張ってください〜
      予備論発表ですよね?頑張ってください〜
      2021/01/25
    • Kanako Minakiさん
      了解です!
      ありがとうございます!頑張ります!

      水曜にさつきに来てくれはるって聞きました、遠いところありがとうございます
      了解です!
      ありがとうございます!頑張ります!

      水曜にさつきに来てくれはるって聞きました、遠いところありがとうございます
      2021/01/25
    • nag_shoさん
      おけです!
      おけです!
      2021/01/27
  • 人新世の資本論を読了後に本書テキストとテレビを視聴。
    マルクスの資本論をわかりやすく、斎藤幸平さんの視点で解説されていてとても良かった。テキストだけでも読みごたえあり。
    人新世の資本論を読む前にこのテキストを読んでおけば、もう少しすんなり読めたかも…。

  • 「カール・マルクス『資本論』」斎藤幸平著、NHK出版、2021.01.01
    129p ¥576 C9433 (2021.02.13読了)(2020.12.26購入)

    【目次】
    【はじめに】人新世の危機に甦るマルクス
    第1回 「商品」に振り回される私たち
    第2回 なぜ過労死はなくならないのか
    第3回 イノベーションが「クソどうでもいい仕事」を生む!?
    第4回 〈コモン〉の再生 ―晩期マルクスのエコロジーとコミュニズム

    ☆関連図書(既読)
    「超訳『資本論』」的場昭弘著、祥伝社新書、2008.05.01
    「超訳『資本論』第2巻」的場昭弘著、祥伝社新書、2009.04.05
    「超訳『資本論』第3巻」的場昭弘著、祥伝社新書、2009.04.05
    「高校生からわかる「資本論」」池上彰著、ホーム社、2009.06.30
    「マルクス・エンゲルス小伝」大内兵衛著、岩波新書、1964.12.21
    「共産党宣言」マルクス・エンゲルス著、岩波文庫、1951.12.10
    「賃労働と資本」マルクス著・長谷部文雄訳、岩波文庫、1949..
    「ドイツ・イデオロギー」マルクス・エンゲルス著、岩波文庫、1956.01.25
    「ゴータ綱領批判」マルクス著・西雅雄訳、岩波文庫、1959.02.15
    「婦人論」マルクス著・H.ポリット編、国民文庫、1954.09.30
    「空想より科学へ」エンゲルス著・大内兵衛訳、岩波文庫、1946.09.20
    「家族・私有財産および国家の起源」エンゲルス著・村井康男訳、国民文庫、1954.03.
    (アマゾンより)
    気鋭の経済思想家が、エコロジー・脱成長の視点からマルクスを読み直す

    長時間労働、格差、不安定雇用、低賃金――。資本主義の暴力性がむき出しになるなか、世界的にマルクス再評価の機運が高まっている。
    生産力が上がるほど人が貧しくなるのはなぜなのか。なぜ過労死するまで働き続けなければならないのか。
    『資本論』で構想された持続的で平等な未来社会像とは?ソ連型の社会主義とマルクスの目指した「コミュニズム」は何が違うのか。
    150年前に書かれた『資本論』には、現代社会が抱える問題を考えるヒントが数多く記されている。
    とくに、自然との関係のなかで人間の労働のありかたを分析する「物質代謝論」は、これまでエコロジーの視点でほとんど読まれてこなかった。
    マルクス研究の権威ある国際学術賞を最年少で受賞した斎藤氏はこの点に注目。
    難解かつ長大な『資本論』で展開される資本主義の構造的矛盾について平明に解説するいっぽう、マルクスが晩年に遺した自然科学研究、
    共同体研究の草稿類も参照し、『資本論』の完成を見ずに世を去った希代の社会思想家の真意を読み解いてみせる。
    パンデミックや気候変動といった地球規模の環境危機をふまえ、いまこそ必要な社会変革に向けた実践の書として『資本論』をとらえ直す、まったく新しいマルクス論。

  • イラストや具体例を多用し、放送を補う形で構成されているテキスト。
    わかりやすいテキストで、マルクスの晩年の思想がわかる。今の働き方、職のあり方がどうなのか問いかける。
    エッセンシャルワーカーが注目されている中、その反対にあるブルシットジョブについてもわかりやすい。エッセンシャルワーカーの社会的地位向上には深く同意する。

  • 【読もうと思った理由】
    人新生の資本論を読みたいと思い、その前に予備知識としてマルクスの資本論について予備知識を多少ほしいと思ったため。

    【読んで認識したこと、思ったこと】
    マルクスの資本論は、資本主義社会の課題、問題点を指摘し、その論理は今も通じると感じた。
    自分が労働者であるがために、自分の労働力が商品に閉じ込められ、自分の労働力であるはずなのに、生活するために商品とするしか選択肢がない、自由なのは職業選択のみという、一種富の囲い込みを受けていることに気付かせてくれた。
    かなり分かりやすく解説してくれているため、自分でもなんとなく理解しながら読めたと思うが、理解すればするほど、労働者である自分が悔しく、また虚しく感じてしまう。
    資本主義の問題点は、確かにそうかもしれないと思うが、今の発展が資本主義によるもので、資本主義をすぐに捨てることは困難と思われ、今の人口を維持するという点からも自然からの略奪は長く止められないと思う。
    資本主義の先のシステムが何か現時点で答えはないが、社会の富を再び取り戻したとして、そもそも資本主義以前の社会の富というのは、人々みながリッチな状態にあったのか疑問がつきまとう。
    資本家から取り戻したとして、リッチな状態の維持には結局そもそもの消費量を減らすという世界人口を減少させねば等にならないか、結局解決困難な問題に直面するのではないかと思う。いずれにしても、人間社会に綻びが出始めていると思う。
    また、このように労働者にもかかわらず、資本主義を擁護するような感想を書く自分に、すでに資本主義に洗脳された、資本の論理に包摂された存在なのではないかとさらに虚しくも思う。


    《以下自分用要約》

    ・カール・マルクス(1818~1883)はドイツプロイセン王国出身。資本主義の矛盾や限界を明らかにした『資本論』を執筆した人。

    ・労働とは、人間が自らの欲求(家、服、食べ物等を得る)を満たすために、自然に積極的に働きかけ、自然を変容させる行為(自然を規制し、制御する行為)のこと。このような自然と人間の循環的な過程を、物質代謝と呼んだ。もちろん、自然を汚せば人間にその汚れが返ってくるので循環的ととらえられる。

    ・動物と違い、人間だけが、本能のみによらない意識的な「労働」を介して自然との物質代謝を行っている。

    ・マルクスは、人間の意識的かつ合目的的な活動である労働が、資本主義のもとでどのように営まれるかを考察することで、人間と自然の関係がどう変わったか明らかにし、資本主義の歴史的特殊性に迫ろうとした。

    ・資本主義的生産様式が支配的な社会の富は、「商品の巨大な集まり」として現れ、個々の商品はその富の要素形態として現れる。
    資本主義社会の富は、商品という形で現れるということ。
    資本主義社会の労働は、商品を生み出す。裏を返せば、資本主義以外の社会における労働が生み出す富は、必ずしも商品として現れない。
    社会の「富」とは、貨幣で必ずしも計測できないが、一人一人が豊かに生きるために必要なものがリッチな状態のこと。(例;キレイな空気や水が潤沢にあること、緑豊かな森、憩える公園、図書館等があること、知識や文化、芸術等も社会の「富」。)

    ・富を維持、発展させることが労働だが、社会の「富」が資本主義社会では、次々と「商品」に姿を変えてしまった。資本主義以前にも商品はあったが、多くは交易品や贅沢品で、日常生活に必要なものは基本的に自分たちで集めたり分け合って暮らしてきていた。

    ・資本主義社会では、「資本を増やす」こと自体が目的になっている(資本主義以前の社会では、人間の具体的な欲求を満たすことが目的であった)ため、生産活動・利潤追求を止められない。

    ・資本主義社会では、かつて誰もがアクセスできるコモン(みんなの共有財産)だった「富」が、資本によって独占され、貨幣を介した交換対象、「商品」になる。
    資本家が、富を商品にするには労働力が必要となり、商品を手に入れるために貨幣が必要となった者が労働者となり労働力を提供するとともに商品の買い手となって、資本家へ市場を提供した。資本家には二重に好都合であった。
    人々にとっては、自然という富から切り離され、貧しくなることとなった。

    ・商品には、使用価値と価値の2つの側面がある。
    使用価値は、人にとって役に立つこと、人の様々な欲求を満たす力のこと。(水には喉の渇きを潤す力がある等)
    価値は、物と物を比較したとき共通した基準で比べることができる、その共通した基準のこと。人間の五感ではとらえることのできないまぼろしのような性質がある。日常生活では値札をつけてかろうじてその輪郭をつかむことができる。
    価値は、その商品を生産するのにどれくらいの労働時間が必要であったかによって決まる、というのがマルクスの労働価値説。

    ・価値は、人間の考えや思いとは関係なく天気のように絶えず、そして突然変動する。そのため、価値のためにモノを作る資本主義では、それ以前と立場が逆転し、人間はモノに振り回され支配されるようになる。この現象を物象化と呼ぶ。

    ・公共事業の民営化や規制緩和は、商品の領域を広げることとなるため、一種の現代版コモンの囲い込み。
    市場は、お金の持っている人しかアクセスできないので、民主的ではない。富は使用価値の論理に支えられるが、商品は価値の論理で動く。社会の富の商品化は、使用価値を無視した効率化につながり、必要な物やサービスまで削り、あるいは質を低下させるため、社会の富を貧しくしていく。

    ・資本とは、絶えず価値を増やしながら自己増殖していく運動のこと、とマルクスは定義している。
    この運動のことを「GーWーG'(ゲー・ヴェー・ゲー)」という式で表している。Gはお金、Wが商品、G'は最初のお金に儲けが上乗せされた状態。資本とは、金儲けの運動でありこの運動が延々と続くのが資本主義。

    ・価値が増大していけばその力は増す。お金や商品は「価値」の仮初めの姿。姿を変えながらも自己を貫徹して増大していくのは「価値」であり、価値が主体となって、その運動が「自動化」されていくことになる。
    市場では、常に競争にさらされ、儲けにこだわらなければ他社との競争に敗れ淘汰され、従業員の賃金を払うどころではなくなるかもしれないため、儲け続けなければならない。つまり、資本家も自動化された価値増殖運動の歯車でしかない。人間も自然も、その運動に従属して、利用される存在に格下げされてしまう。

    ・労働者と資本家の間で等価で売買されるのは労働力。資本家が、労働者から買った労働力という商品を実際に使って初めて「労働」が発生する。新しい価値を生み出しているのは、この「労働」である。
    資本家は「労働が生み出す価値」を労働者から買っているのではなく、「労働力という商品の価値」に賃金を払っている。

    ・仮に日給一万円の労働で生み出された商品の価値が一万六千円になったとしたら、6000円分を剰余価値という。資本家はなるべく多く剰余価値を獲得したいと考え、手っ取り早くできるだけ長く働かせようとする。労働時間の延長による剰余価値の生産を「絶対的剰余価値」の生産という。

    ・労働力は、人間が持っている能力で、本来は、「富」の一つ。ところが、資本主義は、この労働力という「富」を「商品」に閉じ込めてしまう。
    →囲い込みのように、お金のないものは商品を手に入れることができない。自分の労働力さえも、商品となり、資本に独占され、自分で自由にアクセスすることができない状況であるということか?

    ・過労死は、19世紀にもあり、21世紀の今なお存在し、改善されきっていない。
    職業を自由に選べる自由、生きていくために必要な生産手段からも自由(フリー、生産する手だてがないということ)、この2つの自由が労働者を追い詰めている。
    労働者は100%自由に職業を選ぶことができる。しかし、労働力を売った途端に働き方の自由を100%失う。自分で選んで、自発的に働いているという自負からくる、責任感や向上心、主体性が、資本主義社会では、資本の論理に「包摂」されていくことになる。
    →より一層、価値を増殖させる(資本主義の目的の)ために、自己を犠牲にし働こうとするということか?そしてより一層労働者は苦しくなっていくということか?

    ・賃上げより長時間労働の解消が重要。賃上げしても長時間働いてくれるというのであれば、資本家の儲けはかえって増える可能性があるため。さらには、家事代行等の商品の領域が広がり資本家のチャンスが広がる可能性もある。
    日々の豊かな暮らしという「富」を守るには、自分たちの労働力を商品にしない、あるいは商品とする領域を制限しなければならない。

    ・生産力の向上は労働者を幸せにはしない。ケインズは、生産力の向上により、労働時間が短くなると予見したが、そんなことはなく、機械の発展により人を雇う必要がなくなり、労働者は職を失う危機にある。さらには仕事がより単純になり、労働により得られる幸福はなくなり、「疎外」されることとなる。
    生産力向上により、資本家は、市場に生き残るため商品を安くする。マルクスは、労働力の価値は労働者が生活するのにいくら必要かで決まると言う。すると、生活するにあたって必要なお金は少なくなるので、給料も少なくなる。

    ・資本家は、イノベーションに、技術革新だけでなく、労働者に対する支配の強化も求めた。
    労働のプロセスは「構想」(精神的労働)と「実行」(肉体的労働)に分けられる。これらが、労働を分業により細分化させることで、誰でもできるレベルに単純化し、分断される。
    分業に飲み込まれることで、労働者は生産能力さえも失うことになる(もはやコモンにアクセスできたとしても能力がない)。こうして、ますます資本家と労働者の主従関係が強化される。

    ・生産力向上により、少ない労働者により同水準の生産が可能になるため、労働者があふれる。これにより失業者と就業者の分断を生み、労働者は団結できず、より一層立場を弱めていく。

    ・近年、ブルシットジョブ(高級取りだが、くそどうでもいい仕事)が増え、人間にしかできない社会てきに重要な仕事が長時間労働かつ低賃金という問題がある。

    ・資本は、人間だけでなく、自然からも豊かさを一方的に吸い付くし、人間と自然の物質代謝に取り返しのつかない亀裂を生むと、マルクスは警告した。
    資本主義は価値の増殖を無限に求めるが、地球は有限。

    ・マルクスは、資本主義に代わるあらたな社会において大切なのは、「アソシエート」(共通の目的のために自発的に結びつき協同すること)した労働者が、人間と自然との物質代謝を合理的に、持続可能なかたちで制御することだと綴っている。
    社会の富をコモンとして取り戻すということ。

    ・マルクスは、資本論のなかでは社会主義や共産主義という単語はほぼ使用せず、アソシエートという単語を使った。


  • 『人新世の「資本論」』 (集英社新書)を読む前に、こちらを手にとってみた。
     今話題の本は慎重に選んできたけれど、斎藤幸平さんの若さで、“マルクス”を語る姿が新鮮だったので読んでみた。
     
     こちらを選んで正解だった。『人新世の「資本論」』 は25万部以上売れているということで、知り合いの中にも釣られて購入したはいいが、難しくて投げ出した人もいる。

     マルクスのイメージが変わった。とは言っても、マルクスの本など読んだことがないんだけどね。
    それでも、社会主義や共産主義の元になった暗く、小難しいイメージがあったから、近づくのも憚られていた。

    ~〜
    人間の労働は、構想と実行、精神的労働と肉体的労働が統一されたものでした。

    「構想」は特定の資本家や、資本家に雇われた現場監督が独占し、労働者は「実行」のみを担うようになる。
    〜〜

    これが、“働きがい”など感じることができなくなった原因だったのか。


    それにしても、こんなことを確信的に計画していた張本人がいると思いきや、これは資本主義の構造的に孕んでいる欠陥だったなんて。救われない道を人類を突き進んでいる様に思えてくる。

     それでも、対価を求めない「贈与」、つまり、分かち合いや助け合いの相互扶助によって、富の持つ豊かさをシェアしていこうとする“アソシエイツ”の考え方が今ジワジワと、浸透し始めているということに明るい兆しを感じざるおえない。


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著者プロフィール

1987年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marxʼs Ecosocialism:Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy (邦訳『大洪水の前に』)によって権威ある「ドイッチャー記念賞」を日本人初歴代最年少で受賞。著書に『人新世の「資本論」 』(集英社新書)などがある。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

斎藤幸平の作品

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