帰らざる故郷 (ハヤカワ・ミステリ 1967)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (506ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150019679

作品紹介・あらすじ

1972年、アメリカ。ベトナム戦争中に海兵隊を不名誉除隊させられ刑務所にいた兄と、数年ぶりに再会した弟。しかし、町で起こるある惨殺事件が、彼らを引き離す――戦争が人々の心に残した傷跡、そして兄弟の絆を描くクライム・フィクション。解説/吉野仁

感想・レビュー・書評

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  • 時は1972年、ベトナム戦争の最中。
    双子の兄を持つギブソン。
    優しくヒーロー的存在だった上の兄ロバートは戦死。
    一方下の兄ジェイソンは、ロバートを追うように戦地に赴いたが、不名誉除隊処分を受け帰国後薬物に溺れ服役。

    2年の服役期間を終えたジェイソンが街へ戻ってきた。
    素行の悪いジェイソンをギブソンに近づけたくない父母、ジェイソンに対する少なくない恐れを感じながらも血の繋がり故の湧き上がる親近感を拭えないギブソン。

    物語の書き出しがうまいなぁ。
    家族の分裂と兄弟の友愛、そのすき間に仕組まれた犯罪により深まる溝。
    弟に見せる親愛の情、悪に染まりきっていない言動を見れば、どこかに誤解があることはわかる。
    ただその誤解がうまいこと解かれる方向には進んでいかず、いじらしい展開。

    悪の絶対王者、二流シリアルキラー、黒幕二人の自己満行動で物語をたたみにいってしまうのがちょっと残念な方向性で、星5にはできないところ。

  •  1972年。舞台はノース・カロライナ。ヴェトナム帰還兵とその一家の物語。作者のジョン・ハートは1965年生まれだから、本書の背景の時代は、実は作家7歳の幼年期ということになる。翻って、読者のぼくはこの年、16歳。反戦のフォークソング、悲劇的で衝撃的なアメリカン・ニュー・シネマのショッキングなエンディングに、もろに曝されて育ったあの多感な時代。

     だからこそ、というだけではないにせよ、この物語の時代背景を記憶に蘇らせながら、そこを通り抜けたアメリカの青春群像を生き生きと、現代に読み返し、想い出してゆくという読書行為は、何とも心にうずくものを抱えているような、妙に懐かしくも心の痛む、不安と緊張に満ちたものであった。

     本書の主人公であるギビー(18歳)もまた、多感この上ない青年である。殺人課刑事の父の息子である彼のもとに、戦死した兄ロバートの双子の弟・ジェイソンが帰郷した。戦地で29人殺したという伝説を携えて。収容所での不審な収容期を終えて。

     ジェイソンが帰還後、現地民虐殺の疑いで放り込まれていた州立刑務所には、一方でXという途方もない怪物がいて、事実上刑務所を支配しているという構図である。劇画的誇張が過ぎるようにも見受けられるが、刑務所幹部たち含め、彼の走狗である猟奇殺人者リースともども、物語の現代を横軸として綴る緊張が張り巡らされる。

     ノースカロライナの田舎町に起こる凄惨な女性殺人事件と帰還兵、反社会組織のバイカー集団、血に飢えた殺人者と、彼を刑務所から操るX。そうした幾重にも絡み合った暴力の嵐が、青年ギビーの家族や周囲に吹き荒れる。まさしく凄まじいまでに。

     読者だけが知らされる危険この上ない状況の中、巻き込まれ翻弄されるギビーの青春とと、その家族たち。兄、警察官である父、以上とも言える母、恋人、親友。一見、平和に見えていた家族やその周囲の人々を、ヴェトナムから持ち込まれた暴力の風が巻き込んでゆく。

     ヴェトナムに起こった村民虐殺事件の真相を背景に、徐々に見えてくる構図、散乱した事実への落とし前の付け方が、なんともスリリングな読みどころである。この作家は骨太でしかも確かな書き手との印象がやはり強い。七作目の長編ということであるが、これだけで食べて行けるアメリカの出版環境に改めて驚かされる。じっくりゆっくり作品を作ることが許される環境なのだ。それこそがこうした力のこもった大作を生み出せる要因であるように思う。

     何とも頼もしい作家による、確かな傑作であり、家族小説であり、青年の成長小説でもある。アメリカでしか成し得ないプロットでも、本書は良く成功しているように思う。

  • 1972年、アメリカ。ベトナム戦争中に海兵隊を不名誉除隊させられ刑務所にいた兄と、数年ぶりに再会した弟。しかし、町で起こるある惨殺事件が、彼らを引き離す――戦争が人々の心に残した傷跡、そして兄弟の絆を描くクライム・フィクション。

    今回はポケミスのみの刊行。
    予想の斜め上を行く展開。後半は違う作家の作品を読んだような印象。うーむ。

  • ずっと待ってた著者の新作。四年?五年?ぶり。待ってた甲斐があったすごく好みな作品。1972年のヴェトナム戦争時のアメリカ。家族の形が壊れた一家の物語。親と子、兄と弟。犯罪者として刑務所にいる兄と善良な弟。警察官の父。離れていく兄と近づこうとする弟。この二人の関係性とそれぞれを思う感情がいい。孤独、不安、恐怖を感じながらも兄を追うこと。自分の世界から遠ざけようとする兄。そこに隠されているもの、隠されている弟への思い。壊れている家族でもどこかで繋がっているように見えるこういう作品が大好きで本当に面白い。何度も読み返すことになりそうなくらいたくさん感情を揺さぶられた。

  • 2022.6 残虐な緊張感が漂い続ける欧米の監禁もの。家族愛と紹介されているけど家族愛はどこ?、何につけ残虐な設定以外は中途半端な小説でした。

  • 読み逃していたジョン・ハート第二弾。
    海兵隊員だったジェイソンのベトナムでの行動は立派だけど、Xの正体は最後まで明かしてもらえないのね。それがストレスだったかな。

  • 2021年発表
    原題:The Unwilling

  • この作者らしい家族の物語。ベトナム戦争に従軍した長兄は戦死し、次兄は帰還したものの犯罪者となってしまい、残された三男ギビーはもうすぐ徴兵される年齢になる事に複雑な思いを抱えている。そんな中刑務所に入っていた次兄が出所しギビーに会いに来る。次兄は両親から疎まれているが、ギビーは彼を慕っている。だが彼らが会った数日後、次兄の彼女が残虐な殺され方をし、次兄は容疑者となってしまう。両親も警察も彼を信じないが、ギビーだけは無実を信じて独自に真相を突き止めようとする。
    精神の不安定な妻も息子たちにも上手く対応出来ずに、でも精一杯家族を守ろうとするお父さんに一番共感できた。次兄に異様に執着する悪人の存在がいまいちフィットしてない気もするが、家族の話、少年の成長の話として面白かった。

  • ベトナム戦争当時、戦争から帰国した兄と弟を中心とした家族の話。あらすじから、ベトナム戦争での経験が物語の重要な部分をなすのかと思っていたが、ウェイトとしてはそんなに大きくない。逆に終盤は全く関係ない展開で、、、。
    この作家の作品は好きだが、今回は今一つ。
    次作に期待。

  •  ノースカロライナ州シャーロットの殺人課刑事のビル・フレンチの双子の息子で次男のジェイソンはベトナム戦争中に除隊させられ2年間刑務所に居たが出所してきた。ビルは、この息子を避け末っ子のギブソンには兄とは関わらない様に伝えていたがジェイソンはギビーと女の子2人を誘ってドライブしマリファナ、飲酒、性行為を楽しんで居たが、女の子の1人タイラが拷問状態で殺された。

     ジェイソンの部屋から凶器が見つかり逮捕され2年前と同じレンズワース刑務所に収監された。世間は、ベトナム戦争で虐殺を繰り返したギブソンが真犯人で麻薬・銃器・殺人を平気で犯すならず者だと噂するが、刑事の父親と弟のギブソンは、それぞれにジェイソンの無実を証明しようと奔走するが、ジェイソンは真犯人とその目的を知っている様だ。

     死刑囚Xの策略で殺人犯し仕立てられたジェイソンを危険を覚悟で真犯人を探る高校生の弟ギブソン、大人しく優等生だった彼が兄ジェイソンとの接触で女性を知り、勇敢さを知り、危険な状況下で友情や信頼の大切さを学んだ。この物語は、家族・恋人・友人を通じて1人の高校生が大人になるストーリーです。
     小説冒頭で石切場からダイブすることの出来なかったジェイソンが、全てが解決した終盤に見事にダイブを決めるシーンでこの小説の背骨がはっきりと解るのでした。

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著者プロフィール

1965年、ノース・カロライナ州生まれ。ミステリ界の「新帝王」と呼ばれる。2006年に北米最高のミステリ賞であるアメリカ探偵作家クラブ(エドガー)賞最優秀新人賞候補作『キングの死』で華々しくデビュー。その後、2007年発表の第二長篇『川は静かに流れ』で、同賞の最優秀長篇賞に輝いた。2009年の第三長篇『ラスト・チャイルド』は、エドガー賞最優秀長篇賞および英国推理作家協会(CWA)賞最優秀スリラー賞をダブル受賞。エドガー賞最優秀長篇賞を二年連続で受賞した唯一の作家となる
『終わりなき道 下 ハヤカワ・ミステリ文庫』より

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