- Amazon.co.jp ・本 (434ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150118976
作品紹介・あらすじ
男が全身に彫った刺青は、夜になると動きだして18の物語を演じはじめた。短篇集新装版
感想・レビュー・書評
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今夜限り世界が……──GQ JAPAN編集長・鈴木正文 | GQ Japan
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刺青の男〔新装版〕 | 種類,ハヤカワ文庫SF | ハヤカワ・オンライン
https://www.hayakawa-online.co.jp/smartphone/detail.html?id=000000001915詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
青年の前に現れたのは、全身に美しい刺青が彫られた一人の男。未来を予言するというその刺青は、夜な夜な勝手に動き出すという。そしてある夜青年の見ている前で、刺青は動き出し様々な物語を語り始め……
というプロローグなのですが、しょっぱなからブラッドベリ節が炸裂します! この刺青の動く描写というのが、妖しくも幻想的で、そして美しい。ブラッドベリを読むのは久々でしたが「これこれ!」とテンションが上がってしまいます(笑)
そして刺青から語られる短編も多種多様。未来のテクノロジーを扱ったものから、タイムトラベル、宇宙ものなどなど。読み心地も幻想的な描写が光るものもあれば、切ないもの、心温まるもの、不気味なもの、奇妙なもの、とこちらも多種多様。このあたりはさすが名手だなあ、と感じます。
以下、印象的だった短編をつらつらと。
『万華鏡』は宇宙船が事故で壊れ、宇宙空間に投げ出されてしまった宇宙飛行士たちを描く短編。
確実な死という絶望と恐怖が近づく中で、最期に人は何を思い、願うのか。広大な宇宙空間を想像させるやりとりに、切なさや感動のある作品でした。ブラッドベリの自選短編集の表題作にもなっているそうですが、それも納得の出来!
『形勢逆転』火星に移住した黒人たちのある決断を描く短編。
ブラッドベリの、そして全人類の祈りと願いの詰まった作品だと思います。ストレートな話なのですが、このストレートさが気持ちいい!
『長雨』はずっと雨が降り続ける惑星が舞台。
個人的に雨自体はそこまで嫌いではないですが、靴のつま先や底に雨が染みてくると、途端に嫌いになります(笑)この話に登場する探検隊は、数日間、野宿のときもレインコートが役に立たないくらいの雨の中を行進するのですが、そりゃストレスだろうなあ。
そしてただの雨がここまで、不気味さを醸し出すとは……
『ロケット・マン』は宇宙飛行士の父を持つ息子の話。
家族を愛しながらも、宇宙に囚われはるかな空を見上げ続ける父親。それをバカだとか、家族をないがしろにしていると言うのは簡単ですが、でもそうした愛すらも超えるロマンがあるというのも、また事実なのかもしれません。
ブラッドベリの『火星年代記』を読んだときも思ったのですが、ブラッドベリ作品の幻想や美しさは宇宙や未知の惑星に対しての、一種のロマンの結実なのではないか、と個人的には思うのです。この『ロケット・マン』も、切り口は違えど、そんな宇宙や未知の惑星への憧れが表われた作品のように思います。
『狐と森』は1938年のメキシコにタイムトラベルをした夫妻を描く話。
話の結末は割と分かりやすいのですが、この作品に描かれる監視・管理社会のイメージが強烈で、それがまたサスペンス感を盛り上げます。
『ロケット』は裕福ではない家庭の宇宙旅行をめぐる短編。
この作品集は全体的に不気味さのイメージの強い短編が多かったのですが、だからこそこの短編の優しい雰囲気は、強く印象に残りました。そしてこれもまた、宇宙への憧れやロマンが詰まった話でもあるように思います。
テーマや切り口はいろいろあるのですが、ところどころで『火星年代記』や『華氏451度』といった、ブラッドベリの名作のエッセンスも感じることができる短編集でもありました。 -
ブラッドベリは火星や金星やその他宇宙の様々な場所を作品の舞台に選ぶのだが、結局のところ彼が描くのは地球人、すなわち我々人類だ。彼の作品は一種の思考実験のようなもので、人間のある一面を描写するために最適な条件を作り出しているのだ。それが、ここでは宇宙というわけである。
この短篇集のなかでも『万華鏡』は、道具立ての妙が特に光っている。ロケットから宇宙空間にばらばらに投げ出された男たちという特異な状況。この理想化された条件こそ、まさに思考実験の真骨頂だ。想像力は自由であり、小説家はどんな設定でも創造することができる。
物語に幕が下りたとき、読者はきっと自らの生と死のことを思うことだろう。そして、目の前にした舞台装置がどんなに優れていたかに気づくだろう。ないた。
解説にあるように『感受性をはぐくむ者と、はぐくまぬ者とのたたかい、想像力を尊重するものと、尊重せぬものとの葛藤――つまりは、芸術と非芸術との闘争』というのがブラッドベリの小説のひとつの大きな主題となっている。(なお、このテーマが最も顕著に現れているのが『華氏451度』だろう。そこでは本を愛する人間と本を燃やす人間の相克が描かれた。)
この主題は本書でも健在で、『亡命者たち』や『コンクリート・ミキサー』といった物語にはとりわけ色濃く感じられる。強く印象に残ったのは、そのどちらにおいても芸術は敗れ去るという点だ。実際的で無味乾燥な世界の前に、あるいは低俗で堕落した世界の前に。
実のところ、こうした感覚は現代の私たちにとっても決して縁遠いものではないのではないかと思う。電車に乗り合わせた人々がほぼ全員スマートフォンに釘付けになっている、この世界では。
地球人がとうに失ってしまった感受性、想像力、そして芸術は、今も火星に生きている。ブラッドベリのこうした空想は幾分感傷的に過ぎるが、それでも彼を信じたくなる夜もあったりする。 -
ブラッドベリのどこが好きかと言われたら、物語の終わり方がいつも最高な所と答えます。
男の全身に彫られた不思議な刺青が、18編の物語を演じる形で進む短編集。下記は特に好きなもの。
「形勢逆転」
差別を加害者と被害者の立場が逆転した時、被害者だった方はどう動くか。よくある心温まる系の話ですが、最後の言葉が響きます。
「火の玉」
火星に宣教師が布教に行く話。神のあり方を今一度考えさせられる。
「今夜限り世界が」
終わる話。蛇口を閉めるシーンが印象的。
「町」
2万年待ち続け復讐する町の話。終わり方が最高にカッコいい。
「ゼロ・アワー」
ブラッドベリの書く子供は時折異常に怖い。錠が溶けるシーンから怖くてしょうがない。 -
☆4か5で迷ったが☆4に。
ブラッドベリは『火星年代記』〜『刺青の男』〜『華氏451度』とつながっていて、やはり大体似たような内容。『火星年代記』にあった『第二のアッシャー邸』とほぼ同じテーマの『亡命者たち』という作品なんかも入ってる。
序盤は大して面白くないなと思いつつ読んでたけど、中盤以降からすごく面白くなってきた。『その男』『長雨』『ロケット・マン』『火の玉』『今夜限り世界が』『亡命者たち』『日付のない夜と朝』『コンクリート・ミキサー』『ゼロ・アワー』……そして最後の『ロケット』はとても良い話だったので、思わず涙腺が緩んだ。
『コンクリート・ミキサー』なんかはとても好きな話。これと『亡命者たち』を足して二で割ると、『華氏451度』になると思う。
『今夜限り世界が』『日付のない夜と朝』『ゼロ・アワー』、最高。
ただ、全体的に毎回オチが弱いのが若干残念だった。
数多くの人がブラッドベリに影響を受けてると思うけど、日本だと手塚治虫、藤子不二雄、星新一なんかが好きな方には、すっと入りやすいと思う。
コレクターズの加藤ひさしも、ダニエルキイスやブラッドベリに影響受けてるけど、『ロケット・マン』も元ネタのひとつなのかなと。 -
短編集。
ブラッドベリの華氏451度が良かったので他も読もうと思い手に取った。
刺青の物語が動き出すってなんか変な導入だがSF感があっていいね -
永遠の命いらない派の人間だったけど、揺籃期を越えた人類がどうやってものを考えるのか知らないで死ぬの、やだなと思わされた でもたぶん、この本みたいにふるさとあたらしさは常に在り続ける
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全身に18の刺青を彫った大男。月あかりを浴びると刺青が動き出し18の物語を演じ始める。この前提は何?ブラッドベリにそんな理屈を求めても仕方ないので単純に18のストーリーを楽しむ。それは宇宙や原水爆、宗教、人種問題など当時関心の高かったテーマを取り上げている。そして不穏なエピローグ。ここに来てブラッドベリが言いたかったことがわかる。世界には多くの問題が溢れ人類は互いに殺し合い滅びていく。当時広く浸透していた悲観的世界観を感じさせる。
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映画ロケットマンに関連して購入。一部難しいテーマもあったがシュールかつ先見性もあるストーリー、情景描写も鮮やかで刺激されます
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キリスト教的な作品が多い印象で、そういうのが記憶に残る。