ドラゴンがいっぱい!―アゴールニン家の遺産相続奮闘記 (ハヤカワ文庫 FT ウ 4-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150204648

感想・レビュー・書評

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  • 気分転換。人間臭すぎるけど。

  • ドラゴンが、人間よりも北の土地で、市民生活を営んでいるという設定。
    いきいきしていて、めちゃくちゃ面白いです。

    一代で財を築いたアゴールニン家の当主であるドラゴンが、地下の洞窟で死を待っている。
    邸は娘婿のデヴラク士爵が継ぐことになるが、既に家を構えている上の子達は形見だけをとり、年下の息子エイヴァンと二人の娘セレンドラとヘイナーに財産も遺体も分けるようにと遺言する。

    遺言を聞いたのは、長男のペン。
    ベナンディ珀爵領で、教区牧師となっている。
    妹のセレンドラを引き取って、結婚相手を見つけようということになる。
    ヘイナーはデヴラク士爵のもとへ。
    セレンドラとヘイナーは仲が良い姉妹で、泣く泣く生まれ育った家を離れるときに、ある約束を交わす。
    他ならぬ若きシャー・ベナンディ珀爵がセレンドラに興味を示すが、いささか身分違い。セレンドラは珀爵には婚約者がいると思いこんだまま。

    ペンの妻フェリンは堅実な賢い女性で、セレンドラを注意深く見守る。
    都市計画局に勤めるエイヴァンは、書記の女性と大人な関係。
    この恋の行方は?

    19世紀イギリスを思わせる暮らしをしていて、途中では時々、人間のそういう話かと思ってしまう。
    財産相続や、結婚話でのもめ事、身分違いを乗り越えられるかどうかといった問題が話題の中心。
    セレンドラ姉妹の恋愛など、まるでジェイン・オースティンを読んでいるようなんですよ。

    だけど、ドラゴン…ていう。
    綺麗な帽子をかぶっていて、身分や立場が察せられる。その凝りようを読んでいると、そもそも服は着ていないということも忘れそう。
    恋に落ちると女性のドラゴンはピンク色になりかけ、花嫁は皆ピンク。
    迫られて身体が接触しただけでもピンク色になり、未婚の娘は不名誉な立場になってしまう。
    出産すると赤くなり、何度も出産した女性は紫がかった濃い紅に。
    出産は命がけで、慎重に間を開けなければいけない。これは19世紀だと人間でもそうだったんじゃないかな。

    ところが、死んだ竜の身体はみんなで分けて食べることになっていて、その分け前を巡って争いが起きる。
    竜の身体を食べると、ぐっと力がつき、男性の体格は巨大になるので、その後の一生に関わることだから。
    これは竜のさがなので、誰も何とも思ってないらしい。
    時々そういった要素が差し挟まれるのが、秀逸なブラックユーモア。財産争いや親子の葛藤などは、ある意味、命をむさぼるような面もあるので、風刺的なニュアンスもあるかと。
    領主が反抗した召使いを食べてしまい、ショックを受けた娘が奴隷身分の召使いを結婚後は解放しようと考えるいきさつも。

    作者はトロロップのファンで、19世紀の作家や、19世紀風の物を書く作家の作品が好きなんだそう。
    夫の一言を勘違いしたことから書き上げた作品だそうです。
    2004年度の世界幻想文学大賞を受賞。
    後に書いた歴史改変物の「ファージング」でも有名です。

  • タイトルで損してると思います。
    『ドラゴンがいっぱい!』って、確かにそうだけど、だから何?って感じじゃないですか。
    以前のタイトルは『アゴールニンズ』これまた、この愉快な作品を想起することのできないそっけないタイトル。
    だけど、だまされたと思ってこれ読んで。
    すっごく面白いから。

    最初はドラゴンの社会というのがよく分からなくて戸惑いますが、慣れるとこれがいろいろと伏線になっていることがわかります。

    まず、ドラゴンたちは共食いをします。
    死者の遺体のほかに、体の弱い子どもや老い先短い年寄りの召使いなどは、さくっと食べられてしまいます。
    その理由は、ドラゴンの肉体を大きく成長させるためにはドラゴンの肉を摂取するのが必要だから。
    文字どおり弱肉強食の社会なのです。

    さらに、体の色…鱗の色が成長とともに変わります。
    特に少女時代の金色から、恋愛を知った後のピンクに変わるというのは、ドラゴンたちの中では大変重要なことです。
    婚約もしていないのに体がピンクというのは、とてつもなくふしだらなことになるからです。

    そして結婚には女性の持参金が欠かせません。
    両想いであれ、二人ともが貧乏貴族の場合は、添い遂げることができません。
    また、女性は、親や夫という後見人がいないと社会的に認められません。
    下手をすると食べられてしまいます。

    というわけで、アゴールニン家の兄弟姉妹の話です。
    父の代からの貴族なので、格式が高いとはいえません。
    その分多額の持参金や援助をもって、長男ペンは貴族のお抱え牧師となり、長女はやり手貴族のデヴラク士爵と結婚し、生活の目途は立っています。

    なので父親は、自分の遺骸は残された3人の子どもに十分食べさせるよう遺言を残しました。
    が、デヴラク子爵は自分とその家族で大半を食べてしまい、残りを弟妹に与えました。
    これでは大きくなれません。

    次男のエイヴァンは、一応都市計画美観局に勤めていて出世の希望はありますが、何か一つでも間違いをおかせば食われてしまう危険と隣り合わせ。
    それを回避するには体を大きくするしかなかったのに。

    次女のセレンドラは兄・ペンの元へ、妹のヘイナーは義兄・デヴラク子爵の元へと引き取られます。

    ここからが本題。
    恋愛や身分や訴訟やあれこれが複雑に絡んで、めっちゃ面白いの!
    さながらジェーン・オースティンの世界なのよ!
    オースティンなので勧善懲悪、大団円(嫁姑問題は除く)は保証されてます。
    彼女の作品が好きな人には、超絶おすすめ。

  • 図書館で。ファーシングは断念。こちらは駆け足で読みましたがあまり好みではない。が、まあハッピーエンドなのかなあ?
    登場人物がドラゴンばかりであまり感情移入もできずそうなんだ~で終わってしまったというか。

  • 最初はドラゴンが登場人物ということで、何となく入り込みにくかったです。
    美人と言われても、うろことか、鉤づめを想像すると、共感しづらかったから…。

    でも、後半すごくおもしろくなりましたね。みんながそれぞれの幸せを掴みそうだと見えたあたりから。伏線の回収が見事です。別の作品も読んでみなくては。

  • 人間じゃなくてドラゴン社会の話。
    遺産相続でモメたり、嫁姑問題があったり。
    ドラゴンならではの風俗や一般常識はあっても、人間と同じような事でモメたり悩んだりしてます。

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