シオンシステム[完全版] (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (553ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150310578

作品紹介・あらすじ

新種の原虫アイメリア・シオンを体内に取りこみ免疫力を向上させる、「虫寄生医療」の開発者・新海英知。失った過去の記憶を取り戻す療養中に、体の欠損部の"再生"に気づいた常和峰。親友の二人が人生を懸け叶えようとする、無邪気な少女ハルカに秘められた"弱竹の姫"の願いとは?人類の夢たる医療革命が倫理の一線を突破するとき、シオンは宇宙の秩序を問う試金石となる-。傑作メディカル・バイオSF完全版。

感想・レビュー・書評

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  • 惹句などからはどうしてもバイオホラー的な展開を予想してしまうが、前半は医師・製薬業界に大打撃を与えるような、完璧な医療法を巡る政治的駆け引きを描くポリティカル・フィクション、謀略小説の色合いが強い。中盤からはホラー・サスペンスっぽくなり(でもバイオではない)、派手なカタストロフがあっても、お話は終らず、工学寄りの宇宙SFの尻尾をぶら下げるという感じ。アイメリア・シオンの正体を巡って奇想が連発する感じで、プロパーのSFファンには好まれそう。ただ、読んでいて、なんとも言えない齟齬みたいなものも感じる。小説になってない何かを読まされるような感じというか。「クレイン・ファクトリー」を読んでたときにも同じようなことを思ったから、作者さんの味なんだろうけどね。おかげで最後まで作品世界に入り込めなかった。

  • もう少し読めば、あと少し進めば、世界に入っていけるかと必死にページを送ったが、最後まで無理だった。

  • ニューハーフとか、レズ、ホモといった侮蔑語がするっと出てくるところが気になってスムーズに頭に入ってこないのが残念。時代設定が近未来か現代のSFだと思うのだけれども、バイオ系の研究職のMtFトランスジェンダーがニューハーフを自称するとは思えないです。
    あと、卓上のドラフトって狭くて作業進みにくいと思いますけど…

  • 著者のこれまでに発表してきた作品の集大成。おすすめ。

  •  サナダムシなどをおなかに飼っていると花粉症にならないとかいう話があったが、寄生虫によって健康を増進するというのが本書のアイディア、虫寄生医療。虫といっても、サナダムシやギョウ虫ではなく、単細胞の原虫である。これを寄生させることで免疫系を賦活し、感染症と癌にはかからなくなる。そのうえバイタリティにも溢れ、百歳までも生きられるようになる。よってその処置を受けた者をセンテナリアンという。しかしそんなものが広まれば医者は商売あがったりだ、それにどんな副作用があるやもしれぬ、と医師会や薬剤師会、看護協会などが虫寄生医療の保険適用に反対する。といった政治状況。そして虫寄生医療をさらに越えたシオンシステムなるものも開発されているらしい。

     主人公・常和峰は記憶を失っている。最近3年の記憶は続いているがそれ以前がない。しかも記憶を失って発見されたとき、若返っていたのだという。とすると峰はそのシオンシステムの被恩恵者にして犠牲者ではないかと、だいたい推測がつく。
     峰はイナホを収容する施設のボランティアになっている。それとともにかつて世話になっていた中条老人のもとで競争鳩の飼育をしている。

     イナホというのは虫寄生医療の出現とほぼ時を同じくして出現した、特異なうつ状態の人々だ。うつ状態というより、意志を失ったとでもいった状態で、ほとんどコミュニケーションも断っている。イナホも虫寄生医療と何か関係がある。恐らくその暗黒面と。
     さらに峰の恋人だったハルカはかつてイナホのような状態だったのを峰に救われたらしい。峰はハルカの存在を忘却しており、ハルカは峰の居所を知らない。

     そしてなぜか鳩競争の話が平行して語られる。というのも虫寄生医療のもととなった原虫はそもそもシオンと名付けられた鳩に寄生していたものだから。

     例によって複雑にからみあった設定のため説明がややこしいが、おおむねこんなところ。
     そして、シオン・システムの開発者・新海英知は常和峰の親友であり、彼もまたハルカを愛している。この三角関係と鳩の帰巣本能、そしてかぐや姫のアリュージョンが作品の核である。つまり帰る場所。
     ハルカはなぜか自分の故郷は空にある見えない星だと思っており、峰と英知はそもそも恒星間飛行を可能とするための宇宙船と生命維持装置の開発を目論んだのだ。

     アクション・シーンなどがほとんどない群像劇は、登場人物の強烈な個性をキラキラさせながら、しかし淡々と進み、事態の全貌は次第に明らかになっていく。明らかになったら決着をつけねばならない。
     『ダイナミックフィギュア』同様、ここには悪人は登場しない。みなそれぞれの思いで生き、そして少なからず道を誤る。
     医師会会長の細江義臣も重要な登場人物だが、彼がシオンシステムに抗うのは、商売あがったりになるからだけではない。「命の重みを忘れたときに人間は崖から足を踏みはずして谷底に落ちる」。

     話は、しかし、単に生命倫理を問うバイオものに終わらず、SFとしてはいささか破綻している感があるが、かぐや姫の物語になっていくところがユニークだ。
     2007年徳間書店刊『シオンシステム』に、翌年雑誌に発表された続編を加えて推敲した「完全版」である。

  • 中盤辺りまで医療系SFだったのが、最後には宇宙にまで進出するなんとも壮大な物語となっていた。
    登場人物が多く視点もよく変わるのだけれど、それぞれの思惑や繋がりなど楽しく読めた。
    ただ肝心の趣旨であるところの「帰るべき場所」への終着点がぼんやりとしたまま終わってしまったように思える。
    不満は残るものの夢中になって読んでしまう程面白かったようだ。

  • 面白い。
    近未来、寄生虫を使った治療が開発された。ほぼどんな病気も治療できるが、子供にも強制的に感染してしまうため女性は治療出来ない等の問題もあった。さらにシオンシステムと呼ばれるものは若体化も可能にしたが、それにより膿も出していた。
    最初は医療系のSFかと思ったら、「宇宙」やら「かぐや姫」やらが出てきて、壮大な話になった。寄生虫による治療は本当に出来そうな気がした。が、命の流れは一方通行というのは変わらないと思う。伝書鳩のレースも出てくるが、色々知らない事が沢山で面白かった。

  • ダイナミックフィギュアと同じく、相変わらず、出だし、世界観が分からないまま話がスタートするため、とっつきが悪いが、そこさえ乗りきれば、中盤から後半にかけては怒涛の展開で一気に読み進み、最後の結末が物語の終わりを惜しむかのようにハードSFから反転、ファンタジーめいて、余韻を残して、また物語の続きを読者に考えさせるかのように唐突に終わるのは相変わらず。本作では、異様の存在との戦いのシーンが少ないが故に、命や医療の在り方というテーマがストレートに出ているのも良いし、医師会会長、投資家、事務次官、破天荒な民間あがりの元大臣からニューハーフまで、相変わらず多くの魅力的な登場人物が物語を彩っている。竹取物語と鳩、寄生虫という一見、何の関係性も無い話が見事に作品中で昇華しているが、カグヤ姫が本当の姫だった理由や、何故、姫の周りにシップとベットの製作者が集ったのか、何故、姫のゲノムにマップがあることが分かっていたのか、因果の膿とはなんだったのか等、謎は謎のまま終わる。

  • なんて幅広い小説なんだろう。

    かぐや姫を大きなモチーフに据えながら、寄生虫による免疫力向上、寄生の系逆転、鳩の血統、厚生官僚、存在事実の喪失、還るべき場所とさまざまなテーマを持ちかけてくる。
    それぞれが撚りあわさり物語が進んでいく。

    複雑さに飽くこともなく、それでいて美しさを感じさせる。

    次々と物語を進める人間は変わっていく。
    それぞれ、一つの終息に向かっていく。

    今現在どんどんと拡大を続けている宇宙が、いずれ収縮していくという説明を聞いたことがある。

    そんな宇宙の定理と同じように進んでいくのが美しいのだろうか。


    寄生虫をネタにした話を考えたことがある。

    “食料不足に陥った未来(一種のデストピア)で、人類は体内に寄生虫を住まわせてセルロースを分解する酵素を手に入れる。しかし、寄生虫を手に入れられるのはまだほんの一握りの人間だけで、その卵を求めて争いが続いている。”

    ある種の寄生虫を体内に飼っている人間は花粉症にならないという藤田紘一郎氏の著作にあった話を元に考えたネタだ。

    今、花粉症になってしまった自分には寄生虫がいないことが分かった。デストピアも本当は嫌いだと感じている。



    デストピアを描く作品が増えることは科学の発展にとって好ましくない、と言うようなことをグレッグ・イーガンが言っていたらしい。

    僕自身もハッピーエンドを求めている。

  • うーん、難しい。でも、エンターテインメント性は失われていない。色々なものを盛り込みすぎのような気もする。研究所が燃えてしまうところで終わりでよかったのでは。その後が蛇足のような気がしてならない。

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著者プロフィール

1969年生まれ。関西大学工学部電子工学科卒業。『ルナOrphan'sTrouble』で第4回日本SF新人賞を受賞し、2003年にデビュー。その他の著書に、『ダイナミックフィギュア』『シオンシステム[完全版]』『ガーメント』『ウルトラマンデュアル』などがある。

「2021年 『クレインファクトリー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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