日本SF短篇50 III: 日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー (ハヤカワ文庫 JA ニ 3-3)
- 早川書房 (2013年6月6日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150311155
作品紹介・あらすじ
栗本薫、椎名誠、山田正紀ら80年代の作品を中心に精選収録。オールスター傑作選第3弾
感想・レビュー・書評
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第1巻から読み進めてきましたが、このあたりから、読んだことのない作家さんが増えてきますね。つくづく自分は古参のSF者になってしまったのだなぁ、としみじみする今日この頃。
「交差点の恋人」山田正紀
「戦場の夜想曲」田中芳樹
「滅びの風」栗本薫
「火星甲殻団」川又千秋
「見果てぬ風」中井紀夫
「黄昏郷 El Dormido」野阿梓
「引綱軽便鉄道」椎名誠
「ゆっくりと南へ」草上仁
「星殺し」谷甲州
「夢の樹が接げたなら」森岡浩之
欧米のSFに肩を並べようとパワフルに貪欲に突き進んでいった60年代、日本人にしか描けない世界観をSFに取り込み始めた70年代ときて、SFというジャンルが日本の文化土壌に根付いてきたのでしょうね。80年代以降の作品は、良い意味で肩の力が抜けた気取らない作品が多いと感じました。おそらく、この時代になるとことさらに欧米SFを意識して書く作家はいないと思われるのですが、それでも欧米SFを彷彿とさせる筆致の作品が散見されるのは、日本SFが「こなれてきた」ということか?草上仁「ゆっくりと南へ」はフレドリック・ブラウンが書いたと言われても違和感のない作風ですし、栗本薫「滅びの風」はジョン・ヴァーリィあたりが書いていそうな感じ。森岡浩之「夢の樹が接げたなら」は「ヘタレ男と傲慢な女」の組み合わせが実にグレッグ・イーガンそのもの(笑)。
面白く読めたのは、山田正紀、川又千秋、中井紀夫、椎名誠の4編。いずれも独自の世界観を前面に押し出し、詳細な説明抜きでぐいぐいと、あるいは淡々とストーリーを押し進めていくタイプの作品ですが、受けるイメージは4編全て異なります。
山田正紀「交差点の恋人」は、猥雑にして先鋭的な「ボーイ・ミーツ・ガール」の物語。ワイドスクリーン・バロックといって差し支えのない作風かと。川又千秋「火星甲殻団」は、80年代にもなって西部劇ですか!?と突っ込みたくなる、ある意味チャレンジングな作品(笑)でも一周してきて面白いんだなぁこれが。中井紀夫「見果てぬ風」は、筒井康隆「旅のラゴス」を思い起こさせる、異世界を舞台にした爽やかな成長譚です。
インパクトがあったのが、椎名誠「引綱軽便鉄道」。この世界観は、ワン・アンド・オンリーですね。ほのぼのしたエッセイを書く人、というイメージだったので、情感を一切排したドライな筆致にも驚きました。
それから、ある意味興味深いのは、この第3巻から、どうしても「合わない」作品が出てきたことです(笑)
第1巻・第2巻は、イマイチかなぁと思いつつもそれなりに楽しく読み進められたのですが、第3巻は読んでるうちから「うわー、ダメだわこれ」と思ってしまう作品がぼちぼち登場。それだけ、作家の個性が強く打ち出される時代になってきた、ということなんでしょうね。因みに、鴨がダメだったのは田中芳樹と野阿梓です(^_^;
第4巻以降の「合わない作品」数が増加しないことを願いつつ、続刊も楽しみにしてます!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
夢の樹が接げたなら 森岡浩之
天才を作る言語、発想がすごい
ゆっくりと南へ 草上仁
謎の生物とそれを囲むひとびとの話。ハイラインのような語り口がいい。
見果てぬ風 中井紀夫
誰かの言った知ったかぶりの一言を信じて実行した人の話。
滅びの風 栗本薫
実態が何か分からないが、なんか怖い話。 -
航宙刺激ホルモンの分泌によって何百光年も跳躍する宇宙船と現代のめまいがするリンクを描いてみせる山田正紀の「交差点の恋人」(ギャップどころではなく、もう、題名からはまったくわかりません。汗)を始めとして80年代の第3世代の作家が活躍。
川又 千秋の「火星甲殻団」も今読むと大分印象が違ってます。椎名 誠「引綱軽便鉄道」、谷 甲州「星殺し」と印象深い作品が並びますが、だんだん、タイプにあわない作品も出てきているのもこの時代から・・・やっぱり野阿 梓はあわなかった。
森岡浩之「夢の樹が接げたなら」は、そのラノベ的装丁とタイトルで敬遠してたのですが傑作です。オリジナル言語を作って脳にアップロードすることが流行している近未来。先天性言語機能不全者の治療用に開発された言語セットを移植すると・・・言語をテーマになかなか刺激的な作品。 -
日本SF短篇50 III: 日本SF作家クラブ創立50周年記念アンソロジー (ハヤカワ文庫JA)
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2013年6月15日、初、並、帯無
2015年8月13日伊勢BF -
シリーズ第3集。
私としては以下が良かった。
滅びの風by栗本薫。
火星甲殻団by川又千秋。
見果てぬ風by中井紀夫。
夢の樹が接げたならby森岡浩之。
この中ではこの夢の樹~が一番良かった。言語デザインという不思議なテーマと人間の進化をテーマにしています。 -
どれも面白くて満足。
自分が83年うまれなので、リアルタイムよりちょっと上の世代なんだよね。森岡浩之「夢の樹が接げたなら」はずっと読みたかった作品で、期待に違わぬ傑作だった。あと、野阿梓「黄昏郷」がなんとも好みで、この人の他の作品読みたくなりました。 -
第3弾となる本書は、1983年から1992年までに発表された全10篇を収録。
全体を通じて、一風変わった作品に目を見張るなか、かつての洗練さに磨きをかけたような作品もちらほら。ただ、これまでに見られた力強さは鳴りを潜めた印象です。落ち着いてきたのかな。
山田正紀著「交差点の恋人」は、冒頭から難解な言葉が連なり、理解に苦しむ作品ですが、なんともSFらしい作品です。逆にSFらしさを雰囲気の中に留め、人情の機微に触れた栗本薫著「滅びの風」が印象に深いです。これはSFなのかと問われると、少し首を傾げてしまいがちですが、それとは関係なく読ませる筆致があります。
中井紀夫著「見果てぬ風」や草上仁著「ゆっくりと南へ」は、独特の世界観を有し、ユニークさに意味を含有させた作品。この2作品は面白かったなあ。前者は好奇心を高める良さがあり、後者は壮大なロマンに触れる味わいがあります。
一方、ユニークさを前面に押し出した作品といえば、椎名誠著「引綱軽便鉄道」と谷甲州著「星殺し」あたりでしょうか。とりわけ「引綱軽便鉄道」は、鉄道ならぬジェットコースターのようで、次々と出会う光景に感嘆の一言。
本書最後の森岡浩之著「夢の樹が接げたなら」は、なんだか本書を総括した作品の印象。オリジナル言語という発想は中々興味深いです。
▼以下、収録作品
1983年:交差点の恋人 山田正紀
1984年:戦場の夜想曲 田中芳樹
1985年:滅びの風 栗本薫
1986年:火星甲殻団 川又千秋
1987年:見果てぬ風 中井紀夫
1988年:黄昏郷 El Dormido 野阿梓
1989年:引綱軽便鉄道 椎名誠
1990年:ゆっくりと南へ 草上仁
1991年:星殺し 谷甲州
1992年:夢の樹が接げたなら 森岡浩之 -
日本特集!
最初の「交差点の恋人(山田正紀 )」でこけた。ダメだ。あわない。パスしよう。
「戦場の夜想曲(田中芳樹)」 はハードボイルド。でも SF 色が薄くて残念。
緩やかな「滅びの風(栗本薫 )」は意外といいなぁ。こんな手もあるんだなぁと感心。
火星がリアルに迫る「火星甲殻団(川又千秋)」 はプロローグだな。続き読みたいなぁ。探してみようかな。
「見果てぬ風(中井紀夫)」はロマンチック。ただ、脱線が多い気がする。
なんかサッパリ乗らなかったのが「黄昏郷(野阿梓)」 。嫌い。
不思議な雰囲気の「引綱軽便鉄道(椎名誠)」 は破滅的近未来だが、雰囲気だけで、あまり面白くはない。
乗り切れないままだったからか「ゆっくりと南へ(草上仁 )」 もほぼパス状態。つぎに期待しよう。
既読の記憶がある「星殺し(谷甲州)」 は、ダークだけどすばらしい作品。淡々と語られる超知性体の物語はゾクゾクする。
ラストの「夢の樹が接げたなら(岡浩之)」はかなりユニーク。動ではなく静をとる言語という発想はいい。でも、わかりにくいのが難点だ。
総じて、粒ぞろいとは言わないものの、なかなかの力作揃いだな。