〔少女庭国〕 (ハヤカワ文庫 JA ヤ 10-1)

著者 :
  • 早川書房
3.69
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本棚登録 : 478
感想 : 35
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150313821

作品紹介・あらすじ

中3の羊歯子が受ける卒業試験はn-m=1。扉を開けると別の少女、次の扉にも少女、扉を開けるたびに無限に増え……"少女小説"

感想・レビュー・書評

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  • ねーーーーえーーーー〜:(´ºдº:;`):ヒィ-

    この本ヤバい!
    まーたヤバい本読んだっ!!!

    矢部嵩さん……天才!!( ˶°⌓°˶)♡


    ーーーーーーーーーー


    いや、これっ…、、、何も言えんよっ!(>_<)

    だってAmazonの内容紹介にも、何も書いてないんだもん。

    それって、言っちゃダメって事だよね…。

    私も、何も知らないで読んで驚いた人だし(^▽^;)

    うん、知らないで読んでほしい。是非!


    卒業式の日、講堂へ続く狭い通路を歩いていたハズなのに、気が付くと暗い部屋に寝ていた。

    部屋は四角く石造り。

    部屋には2枚のドアがあり、一方には張り紙が。


    ーーーーーーーーー

    卒業試験の実施について

    ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n−m=1とせよ

    (本文より)

    ーーーーーーーーー


    これだけでもう面白そう…⁝(ᵒ̴̶̷᷄⌑ ᵒ̴̶̷᷅   )⁝♡

    いわゆる『CUBE』のような展開を思わせた。


    ……が、違う!!!


    和製脱出モノでもこんな展開見たことない…。

    ただの脱出ゲームじゃないんです…((((;゜Д゜)))

    2部構成になっているのですが、全ての話に意味があり、全体が見えてきた頃……この作品の素晴らしさに気づいてきます……。

    これ…、SFなのかなぁ…。
    ジャンルを問われると悩みますが…。

    注意点としては、結構グロテスクです。
    ここは知らないとグロ苦手なのに間違えて読んでしまう方の為に書いちゃいます。

    ただ、グロもただのグロじゃない。

    う〜、説明したいけどしちゃダメだぁ〜(༎ຶ⌑༎ຶ)

    素晴らしさを語りたい〜!!

    何がすごいかって、人◯の◯◯を描いている上に、行きつく先には人の◯◯を色濃く描いており、なおかつ◯◯◯で◯◯の◯◯を◯◯してさらに今現在の◯◯の◯に起こっている◯◯を◯◯して垣間見る事が出来る小説だった…。(途中で何言ってるか分からなくなってきたから、丸の数無視)


    賛否両論あると思いますが、私はこの作品大好きです!


    めっちゃ私好みの作品!!(⸝⸝⸝ᵒ̴̶̷̥́ ⌑ ᵒ̴̶̷̣̥̀⸝⸝⸝)*゜♡
    読めて良かった…。
    面白かった…。

    SF好きだからかなぁ…。
    好きな作品に、早川が多い気がする…

    次に更新する時『名刺がわりの小説10選』に入れます!はい

    マニアックかもしれませんが、我もマニアックだよという方に是非おすすめしたい!!!!(ノ*°▽°)ノ♡


    • shukawabestさん
      shukawabestです。
      ○(伏字)が多くて笑ってしまいました。おもしろそうですね。
      shukawabestです。
      ○(伏字)が多くて笑ってしまいました。おもしろそうですね。
      2022/11/26
    • Kaniさん
      shukawabestさん、コメントありがとうございます❀.(*´▽`*)❀.

      ネタバレにならないよう伏せていたら、自分でも何言ってるか分...
      shukawabestさん、コメントありがとうございます❀.(*´▽`*)❀.

      ネタバレにならないよう伏せていたら、自分でも何言ってるか分からなくなってしまいました(´>∀<`)ゝ

      グロ系大丈夫でSF好きでしたら、面白いです〜ヽ(´▽`)ノ
      2022/11/26
  • 卒業式会場に向かっていた中三の羊歯子は、気づくと暗い部屋で目覚めた。部屋は四角く石造りだった。部屋には2枚ドアがあり、内一方には張り紙がしてあった。
    "卒業生各位 下記の通り卒業試験を実施する。ドアの開けられた部屋の数をnとし、死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ。時間は無制限とする"


    無限に囚われた少女たちの話。以前ハヤカワ文庫さんが行っていた、「ハヤカワ文庫の百合SFフェア」の対象作品のうちの1冊で、先に言っておくとなかなかの奇書、あるいは実験小説の類に近いかと思います。
    ちなみに、ここは個人的見解によると思いますが、私はあまり百合味は感じませんでした。

    卒業式に向かっていた少女、気が付くとそこは暗い石造りの部屋の中。部屋には2枚のドアと、そのうち一方に貼られた張り紙しかなく、張り紙には「卒業試験」と称する脱出の条件が。ドアを開けても開けても、一部屋につき一人の少女しかおらず、中三の女子は無限に増えていくばかり。
    これは、そんな無間地獄に囚われた少女たちの記録です。
    即座に隣室の少女を殺害しようとする少女がいれば、ひたすらドアを開け続ける少女、開拓を目指す少女もいる。
    表題作は『〔少女庭国〕』ですが、『〔少女庭国補遺〕』がその3倍くらいある。基本的には、ずっと説明したような謎の空間に閉じ込められた少女たちがどう生きたかを追っているだけです。
    ストーリー紹介だけをさらっと見るとデスゲーム系小説っぽいのですが、そういう感じではなく、数倍速でみる建国史のような、予想外に壮大な話。
    そんな中でも中三女子はやっぱり中三女子で、リアルな口語に近いセリフ(「~~じゃんでも」や「まじだとやだねっつってたのだから」など)が簡単に脳内再生できてしまって、こんな荒唐無稽な話なのに感情移入しやすいのが不気味で何となく嫌な感じ。
    それと同時に、知覚できない上位存在に弄ばれる卑小な存在である人類、のような概念を感じ取ってしまい、虚無的な気分になれます。

    ちょっと変わった小説を読みたい方にお勧めです。

  • 作者の凄さは、異常さは、狂気は、普通なら短編で終わらせるべきこのシチュエーションドラマを、〈補遺〉という形で長編にしてしまった点にある。

    〔少女庭国〕。そこは卒業式に参加するはずだった少女たちがひとつの教室に一人ずつ眠った状態で取り残された異空間。”卒業条件”として書かれた紙には〈ドアの明けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の数をmとする時、n-m=1とせよ〉とある。

    およそ210ページほどあるこの小説は最初の50ページほどで、このシチュエーションにおけるひとつの”結末”を提示するのだが、恐ろしいのはその先にある〈補遺〉の部分で、だいたい本の3/4を占めるこの箇所は、ここで起きた”あらゆる別の結末”を次々と提示していく。

    あるときは隣の教室にいる少女を迷いなく殺したり、あるときは自殺することで卒業条件を達成したり、またあるときは話し合いで死ぬ者を選んだり……。やがて少女たちは1000人を超える規模に拡大し、帝国と言えるほどの体制を築き上げ……という思考実験SFのような地点にまで行きついてしまう。

    これを何らかのメタファーとして受け止めることも可能だろうが、どちらかと言えば私がこの本を読んでいて感じたのは”禁忌”に対する反応の薄さであり、例えば「食人」であったり、「人体破壊」であったり、「奴隷制度」であったり、およそモラルを逸脱した展開を、それに対する忌避感をほぼ描くことなく、ただ淡々と進めていく点だった。

    そのため本作は、これほど時間も場所も広がって行くにもかかわらず、シチュエーションと描き方によって、”誰かに感情移入する”という機会がゼロに近い。それでも果たしてこの先どうなってしまうのか気になって読んでしまうあたり、作者の筆力(変態性と言い換えてもいいだろうけど)は高く、シチュエーションドラマとして強度の高い出来となっている。

    この「現象」にどんな理由があって、どんな解決方法があるのか。そういうことを期待しながら読むのはやめた方がいいだろう。最終的に”卒業条件”を達成したどの少女たちも、その後元の世界に還れたのかどうか、一切説明してはくれないし、作者としても書きたかったのは、伝えたかったのはそこには無いと思うから。

    さて、ではそろそろこの小説の確信に迫ろう。
    と言ってもこれは登場人物の会話や、小説の書き方から何となく感じたことなので、明確な答えではないのだけど。

    以下、考察に移る。
    この小説を読んでいてなんとなく思い出したのは『異常』という小説で、あの小説は「シミュレーション仮説」という世界の捉え方を物語内に組み込んでいた。例えば『〔少女庭国〕』の世界そのものも、シミュレーションされたのもだとしたらどうだろうか。上記したように登場する少女たちは、殺人や食人といったことを厭わず、通常の倫理観が著しく欠如している。それは、彼女たちの存在自体が一種のプログラムされたモデル――そもそもが現実ではない場所で起こっていることなのではないかと思う。そして、それでもなお、最初の50ページの短編〔少女庭国〕から悪趣味で不愉快で荒唐無稽な展開を読み進めているのは――それが〈補遺〉だと自覚しながら読んでいるのは、読者である我々であり、そのことに気づくと、悪趣味なのは――それでもまた別の”不愉快な死に様”を見ようとする「我々読者の方」ということになるのではないだろうか。この小説がやろうとしたのは、そういう”意趣返し”であり、だから少女たちが捕らわれた原因も解決法も、脱出できたかどうかも書かれることはないのだろう。

    とりあえず、よくもまあこんなシチュエーションを考えたものだし、長々とその「果」まで書いたものだなと思う。世の中には色んなことを考える人がいるもんだなあ。

  • 〈ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ。時間は無制限とする〉という卒業試験に放り込まれた中3女子たちのお話。
    〔少女庭国〕よりも〔少女庭国補遺〕からが本番でした。
    大叙事詩…勃興と滅亡を繰り返す中3女子たち。
    世界には部屋と扉と中3女子しかなくて、生きていくとしたらそれらでどうにかやっていくしかない。食べ物飲み物、生活の道具…部屋と扉と中3女子しかないので“それらでやっていくしかない”。
    レポートのように書かれる子もいれば、しっかりストーリー仕立てで描かれる子もいました。
    SF、デスゲーム系、百合、架空の歴史書…どれにも当て嵌まるし、でも初めて読む質のお話。終わらない小説でした。
    過去方向へ進んでいった子たちが、一面に花々が咲き乱れる部屋に辿り着くのが良かったです。(何から生えてんだ…)と思ったので、その感慨もちょっとで終わりました。

  • 「女子中学生といういきものの観察記録」

    表題作はどこか感傷的で儚い小品。補遺からが世界観の本番だった。
    残酷で不条理で、たくさんの死と生が積み重なっていく様子がドライな文体で綴られていく倒錯感。ちょっと他じゃ味わえない感覚ですね。
    殺し合い、人肉食、奴隷制度……まーグロいしエグいし目を背けたくなるような場面が続くんだけど、文体がどこまでも客観的なので想像力を適度に下げながら読めて安心。安心かな?
    観察日記みたいな距離感で進めといて最後のふたりのパートで急にエモくなる緩急の付け方もずるい。好き。

  • ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の数をmとする時、n-m=1とせよ。
    卒業試験として課された命題だけを見ると、脱出ゲーム、デスゲーム、バトルロワイヤルなどが想像されますが、そういうものも含めた人類史のような一冊でした。
    意外な広がりもありつつ、核心には触れない。映画CUBEを見たときの感覚に近い。
    少女たちを閉鎖空間に閉じ込めて何やかんやという話が好きなんでしょ、ということかな。
    五九[東南条桜薫子]のエピソードがこの本のすべてという気がしました。

  • こ、これは、
    き、き、き、奇書かッッッッ!!?
    なんだこれはッッッッッッ!!
    がしかーし!!
    すごい…………⁝(ᵒ̴̶̷᷄⌑ ᵒ̴̶̷᷅   )⁝すげぇ〜
    なんということや……
    まさか……誰がこの展開を予測出来た事か!!

    物語は暗い部屋に1人の女子中学生が寝ていました
    そして…………ノンノンノンノンッッッッッッ!!
    危ない、危ない、これから先はネタバレになるところでした⊂( • ̀ㅂ•́ )⊃セーフ
    こちらの作品あまり語ってしまうとネタバレに
    なる恐れがあるのでここから先は

    読んでからの〜お・た・の・し・み♪

    今、イラッたとされた方、申し訳ございません。ww
    話しが脱線してしまいましたね!
    多く語れないのですが……
    これは1人の女子中学生から始まる
    ウルトラ!スーパー!ハイパー!グレート
    マックス!エボリューションなッッ!!
    壮大すぎるストーリーなのです!!
    想像できないでしよ?(。-∀-)ニヤリ
    わかるわかる!
    かくいう私も全くの想定外!
    読んでいる途中で驚きのあまり笑いが止まらない
    アヒャヒャヒャヽ(´>∀<`*)ノアヒャヒャヒャ!!ガハハハ!!
    そのぐらいびっくりした展開でした!!
    これから読まれる方へとにかく頭を空っぽにして
    川の流れに身を委ねて読んでください。
    では少女庭国の世界行ってらっしゃい(*^^*)
    あ、グロい描写あるよ♪www
    苦手な方はキツイかもwww

  • 花は死んで、積み重なって、仇花咲かす。あなたの名前はなんですか?

    まず、万人にとって本当にどうでもいい事柄ですが私がこの書を手に取った経緯について軽く説明します。ハヤカワ文庫が「百合SFフェア」の一環として本書を売り出した、その一点に尽きます、以上。
    カテゴライズは言ったもの勝ちという事情はさて置くとして、本書は確かに「百合」ではありますね。

    読み進めるにつれ、この断言に自信と懸念という相反するふたつの感情が付きまとうのはさて置いて。

    とにかく、この作品が俗にいう奇書として位置づけられていることは確かでしょう。
    作品の前提に置かれたルールがそのまま舞台設定に紐づいて置かれていること、それと後述しますがリズムの取れた構成・文体もあって、可読性(読みやすさ)自体は高いのですが……。

    全体の四分の一を占め、口火を切った表題作の短編『少女庭国』が普通の小説の体裁を取ったかと思いきや、それに続くおそらくは本番の『少女庭国補遺』が実に曲者だったりします。
    控えめに言ってしまえば悪趣味としか思えないシチュエーションが延々と続きます。

    読者の食道にこみ上げるものが生まれないようにする配慮か、食糞、人肉食、それから殺人などに関しては詳細な描写は絞っており、どこか俯瞰したような淡々とした説明に徹するのが救いでしょうか。
    結果、いつの間にか、自然とあるものとして飲み込ませることに成功しています。

    ……なんでこんなことになってしまったかについて追々説明していきますね。
    SFとは思考実験、ありえない「もしも(IF)」を置いてから思索を広げていくジャンルだと仮置きするのだとすれば、この作品はその条理(ルール)を知った上でどう動くかという点にこの上なく忠実です。

    理不尽だと憤る以前に、不条理の極みな舞台設定に惑わされがちですが、設問としてはまともです。
    ただし、最終的にこの異常な舞台設定がなんなのか? などの巨大な疑問に対しての答え合わせがされないことからわかる通り、そちらの着眼は切り捨てて楽しむ必要アリですね。

    なお、本作で提示されるルールは卒業式を眼前に控えた女子中学三年生が扉だけある石造りの立方体の部屋に放り込まれ「扉の開けられた部屋の数より一つ少ない人数にせよ」なる指示を知るというものです。
    なお、強制力は働きませんし、アナウンスの方法も張り紙ひとつと投げやり気味です。

    ちなみに指示をクリアした場合、この舞台からは解放されるのだろうと察することはできます。
    ただし、クリアした後の女子中学生の顛末はそれこそ頑なに描かれることはありません。

    あまたいる読者にも登場人物にも、仮初であろうと解放感を与えてくれずに、「謎」に縛られたままで進んでほしいというメッセージなのかもしれませんね(実際、構成として埋伏の毒の如く効いてますし)。
    そう考えれば、ここも本書が抱える意地悪、いいえ悪意のあらわれのひとつといえるのかもしれません。

    それと本作、本邦では二十世紀の終焉を飾った小説のひとつ『バトル・ロワイアル』を端緒とするいわゆる「デス・ゲーム」というジャンルに属するのでしょうが、イマイチ釈然としない読者も多いはず。
    私も言われて初めて気が付いた程度なのでその辺はあまり重視していません。

    なぜかと言われたら、作中でも登場人物の考察で追認されるように、いわゆる黒幕に該当する何者かは最後までいるかいないのかすら判然としない点が挙げられるでしょう。
    舞台だけ設定したら後は野となれ山となれといった、適当さ加減を感じます。

    女子中学生という「パラメーター」を揃えた上での実験なのか、単なる愉快犯なのか。
    これが現実なのか、夢なのか、データ上での出来事なのか、一切合切明らかにされない辺りからもこの小説が「結末」より「過程」に重きをなした作品であるかが、わかろうというものなのかもしれません。

    それと、作中で導き出され、この作品世界を支配する最適解自体ははっきりしています。
    「事態を把握したらすぐ扉を開けて目覚めたばかりの隣人を殺せ」とごくシンプルです。

    けれど、四半分の一『少女庭国』は、読者への導入も兼ねてか、少し違ってくれます。
    実感が湧かないこともあって「二分の一」から「十三分の一」へと分の悪い命の選択にを迫られてしまった女子中学生たちの、あっけらかんとして乾いた死の物語がはじまり、続き、そして終わってくれます。

    視点人物たる「仁科羊歯子」のどこか追認的でとぼけていて、葛藤などをある程度端折ったことであえて生まれる味と物悲しさ、そして顔と名前が読み取れる描写密度を覚えておくべきだったなと思いました。

    ただし!
    残りすべて『少女庭国補遺』では上記の最適解を踏まえたうえで、名前だけがお出しされた女子中学生各人が数行~一ページの文章量で殺し殺される個別の事例数十ばかりほどポンポンとお出しされます。
    テンポよくスタッカートのように、消費されていく彼女たちの姿にどことなく歪んだ心地よさを感じてしまった私もいましたが、そこに生まれるのはドラマというより単なる情報に近しい詩の楽しさなのかも。

    かと思えば、一対一か一対一桁の命の選択に満足できなくなった発想の持ち主は、レガートのようにひと続きの物語を志向したりもします。ここで生まれるのは命の消費を越えた浪費で空費で乱費の無駄遣い。

    「持ち込まれるのは女子中学生の身体、制服と付属する少々の所持品」
    「女子中学生たちは同じ中学の三年を過ごしたという意味ではほぼ同一の経験を有する」
    「ただし何千何万と集まろうと、互いに事前の面識はない」
    「部屋はおそらくは無限に続き、女子中学生も生成?され続ける」
    「部屋は破壊可能、ただし覚醒のトリガーは扉を開けることに限られる」

    何十何百何千それ以上と集まって打開策を練ることにした集団の場合、ほかにもありますが以上のルールを彼女らは知ることになります。ルールを知れば破りたくなるのは世の常です。
    ルールを把握したうえで悪用(?)したくなるのも人の心理というものですね。
    そして往々にしてルールとはそれを熟知した上位者の味方だということも。

    で、この世界のルールの都合上、供給される資源は女子中学生とその付属品に限られるため、食料供給の面から同じ人間を食べて社会を維持するという方向性に早々に走るのも、納得させられてしまいます。

    先に申し上げた通りに描写としては絞られているものの、延々続くので段々嫌になってきます。
    とは言え、部屋が無数に連なる以上は、たとえひとつの試みが潰えようとどこか別の地点で異なったトライ&エラーが発生します。

    つまり、一集団としての連続性は途切れても別のポイントで上手くいった集団は継続して発展(?)し、歴史を紡ぐことに成功するということ。
    読者はうまく行ったケースを順番に見せてもらえているだけなので筆者にダマされているだけだと後になって気づくんですが、それでも段々と進行していくこの構成に小気味よさを感じるのも確かです。

    掘削による開拓と奴隷を採用した階級制度からなる集団を組織して、食人によって生命を維持し、女子中学生という共通認識と追憶を軸に独自の文化さえ成立させる――。架空の世界の歴史書そのものですね。
    食人をはじめとして、目をつむるべきところは多くとも、感動すら覚えるのだから不思議なものです。

    とは言え、我に返ると怖気が走る部分もあったりで複雑な読書体験が私の下にやって来るのも確かです。
    人類史を追ったかのような文化や技術の体系の成立を思わせる、太字の挿入が入ることに関しても、記述法が編年体か紀伝体、どちらであるかなんて疑問が勝手に浮かび、勝手にわかる気がしなくなりました。

    で、以上の通り説明したスタッカートめいた短文の集積とレガートめいた歴史書の長文が交互にやって来る構成で終始するのかなと思ったりもしました。

    しかして、歴史が佳境に差し掛かると改行を放棄して長文をまくしたてたり、著者の本音めいた地の文や登場人物に代弁させたような会話文が混じったりとなんだか段々カオスになっていきます。
    かと思いきや架空の女子中学生史を投げ出すことなんてなく、体裁は繕っている辺りは最悪にして最高。

    そういったわけで物語は恐ろしいことに作品のタイトルをここに来て別の形で回収してしまいます。
    具体的には唯一この世界に持ち込める有機物である女子中学生の堆積を経て「農耕」を成立させ、ギリギリの見せかけの平穏を保ったディストピアを社会形態として紹介するという形でやってくる。

    そしてここまで、散々極限にして無茶なシチュエーションを構築したのは筆者自らの手だという当たり前の事実を確認した上で言わせていただきます。
    パンドラの箱の数珠繋ぎでお膳立てしたのか、ディストピア体制に馴染める馴染めないで、反目する女子ふたりという構図を成立させたのか、あなた自身の手で綴ったのか、「矢部嵩」先生!

    悪辣で邪悪なことこの上ないことに、「戦火の恋」ではありませんが、ちゃんと女子同士で、この舞台だからこそ描ける関係性を挿入し、やがて歴史の合間の物語と呼べる幕間へと昇華されているのですね。

    間違いなく「百合」と呼べるソレであるために、なんだかクラクラとしてしまうようです。
    ここまでレビューとしては状況の整理に終始して、人間ドラマについて説明が及ばなかった私としてはなおさらです。つまりはなんだか敗北感ってことで誰に向けるかはともかく素直に負けを認めておきます。

    情景、心理を中心とした描写の濃淡と絞り込みを巧みに使い分けて、ここにまで至ったのかと考えると、繰り重ね巧みな構成をお持ちですね。ここに、私は本作に対して素直に感服の意を表しておきます。

    そうやって、先に申し上げた通り設問と仮説だけよこした末に読者に最後にもたらす文については、ここに来て『少女庭国』そのものに回帰したかのような真摯に向き合った八ページが実に卑怯で最高でした。
    ここまで使い捨ててきた「一対一」の関係性に、最後になって真摯に向き合うか、花の儚さに思いを馳せてくれるのか、と、罵倒と賞賛の両方が私の中には渦巻いています。

    短長あわせて六十あまりに倍するとして、登場する女生徒女生徒に付けられた名前の珍名比率が高いのに、最後はただ人の名前でふたりを合わせるのだから、この辺も示唆的です。きっと気のせいですが。

    それでは最後に総評も兼ねて。
    途中で読書を放棄するのでなければ酷評と絶賛を行き来しながら評価を固めていく類の作品なので、確実に読者は選びますが「奇書」と知った上で読むとするなら相当に読みやすい方だと感じました。

    結局は酷評に傾くか、罵りの言葉すら楽しむための糧にするか、それもまた人それぞれ。
    一面の花畑を見てそれを草花が群がっていると感じるか、摘まれた花を見て名前を知るか。
    けれども花畑を支える土くれに目を向ける人はいないのだなと思い、私はただただ物寂しくなりました。

    国破れて山河ありというけれど、その山河が屍山血河でできたのなら、なにを慈しめばいいのでしょう。

  • Jコレクションが刊行された時から、何となく気にはなっていた1冊。文庫になったのでいそいそと購入した。
    設定……というか、物語の冒頭自体はさほど珍しいものではない。所謂『●●すれば、×人だけ脱出出来る』という、『デスゲーム』ものと呼ばれるジャンルのお約束を踏襲している。しかし殺し合いが始まるのかというとそうではなく、登場人物の人数が増えるに従って記号的な要素を増してゆく。描写の多寡はあれど、『補遺』に至っては完全に『記号』だと言えるのではないか。
    さて、『デスゲーム』と言うからには、何らかの形で、脱出するなり、死ぬなり、場が破綻するなり、いずれにせよ、その世界が永劫に続くわけではない……というオチを想像する読者が大半だと思う。が、本書は『デスゲーム』としての『ラスト』を迎えることはない。ひょっとすると、この『〔少女庭国〕 』という小説自体も、本当の意味で『終わり』を迎えることはないのでは……?

  • 卒業式会場へ続く通路を歩いていた少女は、ふと暗い石造りの部屋で目覚める。この部屋には二つの扉があり、片方にしかドアノブがない。ドアには以下のような文面の張り紙がある。「ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n‐m=1とせよ」。扉を開けると次の部屋にも少女がおり、張り紙があり、また次の部屋にも少女がいる。

    このシンプルな条件から、どんな物語を想像するだろう。この物語は、おそらくその想像の通りには全くならない。

    異常な世界に突如放り込まれた少女たちの思考と行動はリアル。羅列された「生命行動」はデスゲーム系への否定的命題を投げかけるし、それは「物語」というもの自体に対してまで波及する。

    クローズサークル化での卒業試験は、世界のルールであり、この物語の上ではそれ以上の何も表していない。だからこそラストの展開はどこか理不尽な世界への一つの答のような気がしてくる。
    この理不尽で広大な密室は、我々が住む世界と本質的にどれほど違うのだろうか。そんなことを想う。

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著者プロフィール

武蔵野大学在学中の2006年、本作で第13回日本ホラー小説大賞長編賞を受賞してデビュー。

「2008年 『紗央里ちゃんの家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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