- Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150314811
作品紹介・あらすじ
小川一水、北野勇作、菅浩江、津原泰水、飛浩隆、林譲治らベテランから、小川哲、高山羽根子、藤井太洋ら新鋭まで豪華20作家競作
感想・レビュー・書評
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○○洋子さんという同窓生がいた。
小川某氏と結婚して "小川洋子" になっていた。
これだけでも、「おおっ!」となるが、
男の子を産んで "哲" と命名していた。"小川哲"。
凄い名前の親子だと思うだろうが、なんと "哲" 君は、あの "小川哲" だった。
つい最近そんな事実を知り、読んでみようと思ったのが本書。
エッセイがあれば読みたかったのだが、まずは短編に触れて作風を知ってみようかと。
小川哲さんに加えて柞刈湯葉さんの名前もあったので、この二人の作品だけでも読んでみようと思った次第。
本書の19名のSF作家さんのうち、名前を知っているのはこの2名だけだった。
小川哲さんの作品は「黄金の書物」というタイトルで一番目に登場する。
とても読み易く、面白かった。
こういう感じの作品は好きな部類だ。
小川哲さんは、まだ若いのに、日本SF大賞、山本周五郎賞、直木三十五賞などを受賞している。
私が最も信頼している本屋大賞でも『君のクイズ』が6位と、一般読者にも受け入れられているようだ。
読みかけの本や、読みたい本は沢山あるのだが、どこかにねじ込んで、
『君のクイズ』と『君が手にするはずだった黄金について』は読んでみようと思う。
本書はまだ小川哲さんの作品しか読んでいないが、それが目的だったのでレビューを上げておく。
なので、評価はなし。読書状況はズルして読み終わったにしておきます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
19の短編からなるアンソロジー。編者が既存の作品から特定のテーマに沿って集めたものではなく、19人のSF作家が人類とパンデミックをテーマに書き下ろしたもの。予めテーマが決められているせいか、駄作と言えるものは入っていない(と思う)。
パンデミックを描いた小川一水氏の「天冥の標2 救世群」を読んだ後だけに、興味深く読めた。 -
2021年4月ハヤカワJA文庫刊。書下ろし。新型コロナ以降の世界をテーマにした、19編の短編アンソロジーと2020年の第40回日本SF大賞に関わるエッセイを収録。COVID‑19パンデミックの経験が長いめなので、よく考えられた力作が多い。各人各様のポストコロナの世界観が興味深く、楽しかった。コロナにとらわれない話もあり、多彩。少し玉石混交ありました。
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現実がSFじみてくる世界のなかで、あえて「ポストコロナ」を描くことのできるSFというジャンル。あらためて、いま、SFが元気だよなと実感する。おもしろかったものをいくつか。
・柴田勝家「オンライン福男」なんで福男?(笑)それだけでもう笑えるし、このどんどんエスカレートしていく感じ(しかも、すごくこまかいのに壮大w)ほんとおもろい。
・若木未生「熱夏にもわたしたちは」 日常が回復されたけれど接触忌避の生活様式が残る世界、ってリアルだな。でもそれ以外はふつうにかわいくてみずみずしい、女の子同士の青春だった。
・柞刈湯葉「献身者たち」柞刈さんて生物学者だったのか。国境なき医師団の感染症対策班のとてもリアルな物語でよかった。
・林譲治「仮面葬」葬儀代行サービスというパンデミックの時代にいかにもありそうなセッティングで、子ども時代の恐怖の対象に意外な形で出くわす男の物語。
・菅浩江「砂場」 ・津久井五月「粘膜の接触について」 どちらにも全身を膜で覆うアイディアが出てきて、おお、となった。
・立原透耶「書物は歌う」 子どもだけが生きのこる世界で、伝説上の存在だった「図書館」に出会った少年の物語。図書館ものっていいよね。本作では図書館と図書館がつながっていくのだけど、頭の中で今までに読んだ図書館物語もつながって、なんか多重構造のようになった。
・小川一水「受け継ぐ力」。Covidがうんと変異しまくっている未来の宇宙での話。そうだよね。完全に清浄な世界なんてもともとないしこれからもないよね。俯瞰させてくれるSFの力を感じる作品。
・樋口恭介「愛の夢」 これもまさにSF的な作品。壮大で、心をはるか彼方まで飛ばせてくれた。
・北野勇作「不要不急の断片」は100文字SFの流れ。SFというより風刺、風刺のオンパレードでにやっとしちゃう。
あとがき代わりの「SF大賞の夜」は記録として貴重だと思う。ツイッターや新聞など同時性のあるメディアはどんどん流れていって残りにくいので、こういう形でそのときの空気を閉じこめたものを書籍に残すのは大切。
総じて、読みごたえのあるアンソロジーでした。 -
コロナ後の世界を描いたSF短編アンソロジー。
恥ずかしながら、著者の皆さんは殆ど知らない方ばかり。
読んでみて、SFって肌に合う作家さんとそうでない作家さんがこんなに顕著なのかなあ、という感想を抱きました。
個人的に好きだと感じた作家さんを今後は掘り下げることにして、短編アンソロジーはある意味、そこが肝のような気がしています。
自分の趣味に合う作家さんを発掘すること。そのためには数多くの作品に出会わなければならないのですが、短編アンソロジーともなると、この本一冊で19人もの作家さんの作品が手軽に読めるわけです。
一つの話が10~15分くらいで読み切りなので、「この作風は私には合わないな」と思ったとしても、すぐに次の作品にとりかかることができるのです。
そう言うと作家に失礼だとか、作品を作る側の思いを汲めないのか、という意見が出てきそうですが、個人的には気に入られないで自分の作品が腐るよりも、短編でいわばお楽しみとしてアンソロジーなり何なりを読んでもらって、本当に興味がある方にじっくり楽しんでもらいたい、と思う作り手もいるんじゃないかなと思います。
ここまで書いて、個人的に気になった作品を挙げますと、
・黄金の書物
・熱夏にもわたしたちは
・粘膜の接触について
・カタル、ハナル、キユ
の4つです。
「黄金の書物」[小川哲(おがわさとし)著]
は流れて行くストーリーというよりは、後半の不可思議な世界認知の描写が素晴らしく、こういう表現をするのって才能だなと感じました。
実際には体験できそうもないことを疑似体験させるというのが小説の醍醐味ですから、その点でこの作品はSFを読むうえで一番の肝となる「想起できる不思議」が存分に展開されていると感じました。しかもあの分量で、実に濃厚な世界が展開されていることに驚きでした。
「熱夏にもわたしたちは」[若木未生(わかぎみお)著]
これは青春物語と言えるのですが、それと同時に、衛生面での新しい技術が導入されていく社会で、旧時代を生きてきた人間(ここでいうジャクジーのおばさんたち)と今の時代を生きている人間(主人公たち)の「幸せ」という観念の違い、互いにとっての「普通」の違い、といったかなり社会的な話が盛り込まれたお話です。しかし、それでいて主体となるのはシロとナツカの恋愛、という絶妙なバランスで両者がまぜこぜになった話でもあります。心理描写が細かく、読んでいてほっとするような感じがありました。いつの時代になっても幸せは別の形で存在していると思ったら、そこに救いがあるんだなと感じました。
「粘膜の接触について」[津久井五月(つくいいつき)著]
これは「スキン」と呼ばれる装備が開発された世界で、主人公を含む三角関係が描かれている物語です。三角関係が描かれている、と言っても恋愛メインの話ではなく、実際には別の形でウィルス感染の危機がある世界で考え方の違いから軋轢が生まれてくる、という感じのストーリーです。
スキン越しに互いに触れ合う世界において、直接肌に触れるということの意味合いが変わってしまったので、主人公たちはスキン越しでなければ快楽を感じない(またはすごく薄れる)ようになってしまっています。哺乳類というのは肌の接触によって育つ動物だと言いますが、この世界ではスキンというものの開発によって、哺乳類の基本的な性格さえも変化させられてしまっています。
ラブ・パレードと呼ばれる交流会のようなイベントの描写が凄まじく、ある一定の温度を持って迫ってくるような感じが個人的に好みでした。
「カタル、ハナル、キユ」[津原泰水(つはらやすみ)著]
野生動物が媒介する病気が流行する寺に、取材で訪れた男と唯一の日本人である関係者との交流を描いたお話。
コロナ禍においてもウィルスを媒介した動物はなんだったのか? という話題が昇ったことがありましたが、この物語の主格は動物媒介ではなく、その裏にある社会の秘密にあります。
最後のシーンの物悲しさがとても美しいお話でした。
今だからこそ楽しめる短編アンソロジーです。
気になる方は是非、あえて今ステイホームの中で読むのが良いんじゃないかと思います。 -
2021年のコロナ禍に買ったけど、日常もコロナ、読書もコロナになってしまい、読んでて辛くなったので積んでいたもの。
こういう企画ではその時期の状況や空気感も本の一部なので、すぐに読んだほうがよかったなとは思った。
2022年末の今では、その後のウクライナ戦の衝撃と影響が強すぎて、疫病の影響のみ受けた未来には違和感を感じてしまう。
疫病の影響が文化となって取り込まれ、さらにその先の未来の話が面白かった。特に「カタル、ハナル、キユ」「木星風邪」、コロナ関係なく「オンライン福男」「熱夏にもわたしたちは」も好き。
現代人はみんな大なり小なりコロナ禍を体感したわけで、これからSFに出てくる疫病の描かれ方も変わってくるんだろうな。
少なくても、危機にリーダーシップをとって迅速に対応する政府とかはもう出なさそう。 -
久しぶりに、SFという文学ジャンルの底力を見せつけられた作品集です。一昨年あたりからSFアンソロジーが大量に発刊されていて鴨もいろいろと読みましたが、これが一番読み応えがありました。
「ポストコロナ」という1点をお題として、現代日本SFを代表する気鋭の若手からベテランまでが、全て書き下ろしで臨んだ作品集。表紙に並ぶ参加作家名を目にするだけでも錚々たる眺めで、これだけタマが揃っているなら半分ぐらいは当たりかな〜、なんてちょっと失礼な期待を持ちつつ読み進めたところ、ほとんどがあたりというクオリティの高さ。日本SFの最新シーンを体感するには持ってこいだと思います。
そして何よりも、「ポストコロナ」という共通のテーマでの共作でありながら、ここまで多様性に満ちたランドスケープが広がる文学ジャンル・SFの豊穣さ。コロナ禍という災厄そのものを中心に据えた作品はほとんどなく、大半の作品においてはコロナ禍は何かのきっかけかガジェット、または歴史に溶け込んだ背景に過ぎません。メインテーマとして描かれているのは、コロナ禍を超えた先に各SF作家が幻視する、人の意識と社会の変容です。
現実問題として、ワクチン接種や医療体制の拡充が進んでコロナ禍がひと段落ついたとしても、社会が「コロナ禍前」と100%同じ状態に戻るとは考えづらい、漠とした不安感が世界中に広がっていると思います。そういった、まるで「現実こそがSF」的な時宜を得た、いろいろな意味で興味深い作品集だと思います。鴨が好きなのは柴田勝家、藤井太洋、小川一水、北野勇作各氏の作品。他の作品も粒揃いです。でも、百合だけはよくわからんなぁ(^_^; -
「ポストコロナ」という、まさに今読むべき小説。19人のSF作家の書き下ろしはかなり贅沢だ。ポストコロナってどんなにも変化しうるんだと想像できるし、どの短編も読み応えがある。まず、池澤春菜のまえがきから面白い。柴田勝家の「オンライン福男」と天沢時生の「ドストピア」のぶっ飛んだ発想がとても面白かったが、1番印象に残っているのは樋口恭介の「愛の夢」。スケールがデカすぎて、凄いという感想しかない。
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・柞刈湯葉のツイートで知り、柞刈湯葉をめあてに購入。
・『異常論文特集』(「裏アカシックレコード」)ではふざけた柞刈湯葉が最高だったが、こちら(「献身者たち」)のまじめな柞刈湯葉も最高だった。とくに好きだったのは、コロナ騒動の嵐によって隠れてしまった“もの”が書かれていたところ。
・ほかにも、とくに比較的若い書き手の作品をおもしろく読んだような気がする。