なめらかな世界と、その敵 (ハヤカワ文庫JA JAハ 11-6)

著者 :
  • 早川書房
4.14
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本棚登録 : 1185
感想 : 59
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150315184

作品紹介・あらすじ

並行世界を行き来する少女たちの1度きりの青春を描いた表題作など、ベストSF2019[国内篇]1位に輝いた傑作集がついに文庫化

感想・レビュー・書評

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  • 読みたかったので文庫でようやく読了
    どの話も楽しめて大満足。

    一話目の表題作から強く引き込まれ
    毎話読み終えてからすぐ次に進めない余韻があった。

    書き下ろし作品
    新幹線が超常現象災害に巻き込まれる話で
    この話自体を楽しむことが作中で「災害をネタに騒ぐ人々」と重なるようで構えてしまったが、暗い結末になるのではとソワソワしつつ読むも登場する男女の掛け合いに"昔のボーイミーツガールSF"感を感じ、終わり方がとても良かった。
    (私自身、そんなにSFを読んでる方では無いので錯覚なのだろうけど)
    この話を遅延する電車の中で読むことになったのはなんかの因果…

    著者のあとがきにて
    幼少期から触れていたSFへの愛と埋もれてしまう物語たちへの想いについて語り、企画して発掘していくことの重要性を説いていた。
    その成果としてSF作家の作品集やアンソロジーを出しているようなので、そちらも読んでみたい。

  •  読了後に、本書単行本紙版印税が、放火事件に遭った京都アニメーションに全額寄付されること。また、本文庫本紙版の本年5.31まで発行の印税全額が、ウクライナ人道危機救援金として寄付されることを知りました。  
     著者にとって、京アニ作品は青春の一部で、恩返しがしたいとのこと、さらに著者は、一刻も早くロシアが撤退して戦争が終結すること、傷ついた人々が救われること、世界各地の紛争に関心が寄せられることを願っているとのことで、痛く感動しました。

     さて、本書はSFの短・中編6編が収められた作品集です。個人的には、SFにクールなイメージを勝手にもち、なかなか関心を持てていないのが実情です。
     本書の6作品からは、私個人がもつSFイメージから(良い意味で)若干外れる部分も垣間見た気がします。創造・空想を超越した高次元な世界、洗練された表現や驚きの設定・構成があるんだなと感じました。
     ただ私の頭に柔軟性が足りず、理解が遅くて後から納得することも多々ありました。それでも、「ゼロ年代の臨界点」から著者のSF愛が感じられ、日本のSFの創成期・第一世代について記され、興味をもちました。

  • SF物は久しぶりに読みました。
    読む時間がなかなか取れず、戻って読み、戻って読みを繰り返していたのでかなり読み終えるのに時間が掛かってしまいました。
    SF物は大昔に読んだ星新一以来かも知れません。
    構成、発想が非常に面白く、緻密に書かれており面白かったです。
    後書きにも書かれているが、著者はSFが非常に好きなんだと分かる。
    表舞台にSFは、なかなか出てこないが、新しいSF界を築き盛り上げて行ってもらいたいですね。

  • ずっと気になって伴名練さんのSF短編集をようやく読んだ。
    一話一話がとても印象に残る作品集でした。
    その話ごとにある”設定”が、ストーリーにおいて重要な要素となっていて、その設定があることで最大限の面白さを引き出しているなと思いました。
    とにかく読んでいて引き込まれるし、中々濃密な世界観だったので読むのに時間はかかりましたがとても楽しめました。
    どんどんSFを読もうと思います。

  • 書店にて赤坂アカ先生の描いた書影に惹かれて手に取ったところ、帯書きに『SFに苦手意識がある人にこそ読んでほしい』と記載が。
    本格的なSFを読んだ経験がほとんどない私が、どこまで世界観に浸れるのか試したくなり購入を決意。

    結論から書くと、衝撃を受けるレベルで良かった。

    本作は6つの物語からなるSF短編集。
    6つの短編すべてがそれひとつで長編が作れるであろうレベルの素晴らしい熱量で描かれており、濃密な設定に没入する気持ち良さを実感できた。
    一番印象に残った作品はやはり『ひかりより速く、ゆるやかに』だろうか。
    『低速化現象』によってその在り方を変えてしまった世界を描く同作は、壮大なミスリードをひっくり返してからの爽快な読了感を味わえ、まさに傑作と呼んでいい作品に仕上がっていた。

    小難しい印象を持っていたSFというジャンルだが、実際難解・独特な設定も多く、SF慣れしていない私は普段読んでいるミステリなどと比べ、読破するまで約2倍近くの時間を要した。
    しかし、読み終えたときの得も言えない読了感に魅了されたことはたしかで、すでに他のSF作品を読みたくなっている自分がいる。

    始めにも書いたが、私はこれまでの人生で、意識してSFを読んだことがほとんどない。だがそんな私でも、この作者が尋常ならざる才能と溢れんばかりのSFへの愛を持つ人物であることは伝わってきた。
    SFにハマるきっかけを作ってくれてありがとうと、伴名練氏に伝えたい。

  • どの短編も楽しめたが、伊藤計劃トリビュートに収められた「美亜羽へ贈る拳銃」と、別々の人工知能によって支配されたロシアとアメリカの戦いを描いた「シンギュラリティ・ソヴィエト」はとても印象深かった。

    特に後者は、人工知能に支配された世界では、国民は人工知能の指示に従わざるを得ないが、その指示の意図は人間の知識では分かりえないという、まさに盤上の駒に成り下がった未来の人間の姿がリアルで、シンギュラリティを推し進める現代人の愚かさが身に染みた。ちなみに、人工知能の指示に従わないと、その人の愛国心の評価が下がり、その国での生活がしにくくなるという設定。

  • とにかくエモい伴名練。どの物語もハードな設定ながら、人間(感情面)も濃厚に描かれているのがいい。特に表題作と、最後の「ひかりより速く、ゆるやかに」。想像を掻き立てるパラレルワールドや時間がテーマのSFに、青春ミステリー的要素が加わって読み応えは十分。心揺さぶられた。

  • また凄いSF作家が出てきた…。
    最後の短編「ひかりより速く、ゆるやかに」を読了した衝撃を残しながら、「あとがきにかえて」では著者のSFに対する溢れる愛と熱量を浴び、「文庫版によせて」では本年4月にこの文庫版を送り出すにあたって著者が最善の努力をされた旨が伝わってくる。
    面白いだけでなく、プロとしての矜持があり、日本SF全体を想っている。これは生半可なことじゃないと思いました。

    6編の短編の並べ方も、コース料理のよう。最初の「なめらかな世界と、その敵」の冒頭の書き出しは読み手に「あぁ、これは頭切り替えないとな」と思わせて伴名ワールドに誘い、緩急のついた短編の並びの中で最後の「ひかりより速く、ゆるやかに」で最高潮の感動を得られるという妙。
    『低速化』によって変わってしまった世の中を描いた同作、2つの場面を交互に見せながら、どうしても読んでいて絶望的な結末を想起してしまうのですが、こう来たか!という心地良い驚きと感動がありました。
    『低速化』というテーマは、個人的には『三体』の暗黒森林理論を連想しましたが(あんまり書くとネタバレになりそう…)、「あとがきにかえて」では梶尾真治氏の短編の影響を受けている旨の記載があって著者の圧倒的な物量を感じました。
    (どーでも良い話ですが、鉄道マニア的には新幹線の両数と最高速度が現実とビミョーに違うのが、敢えてやってる?と気になりました(笑)

    たまにはSFでも、と思ったら今は本著がイチオシです。
    今後も、著者の創った/編んだ作品に、もっと触れていきたいと思った次第です。

  • ・・・うーん、なんと言ったらいいんでしょう。
    SFとしての完成度がとても高く、間違いなく面白いのですが、「閉じている」。そんな印象です。

    並行世界を駆け抜ける少女たちの青春。改変歴史における日本SF第一”女流”世代の生き様。伊藤計劃へのオマージュを込めた精神改造恋物語。特殊能力を持つ姉と平凡な妹の相克。AIが幻視する人智を超えたソヴィエト連邦。超低速現象に見舞われた新幹線の乗客を救うべく奔走する者の悔恨。
    今風に言うと、「エモい」です。求めても得られないモノを、得られないと分かっていても手を伸ばさずにいられない心の痛みを、熱量の高い筆運びでドラマティックに描き出します。熱量が高い、と言っても、日本SF第一世代のような暑苦しいまでの熱気ではなく、スマートな語り口の行間から熱量を感じさせるところが、これまた今風、ではあります。

    が、鴨の率直な感想を述べさせていただきますと・・・
    SF好きで、SFの歴史やファンダムやマーケット等もよくわかっている人が、同じSF好きに向かって「みんな、こういうSF読みたいんでしょ?ほーらほらほら」とアテ書きで書いた作品、という印象が強烈過ぎて、それを拭えないのです。
    とても地頭の良い人なのだと思います。あとがきを読むと、SFへの果てしない愛情と該博な知識を強く見せつけられます。そんな「SF大好きでSFをわかっている人」が書いたSFを「そうそう、こんなSFが読みたかったんだよ!!」と熱狂的に受け入れる読者層も、間違いなく相当います。
    ただ、その読者層は、かなり、かーなーりー、狭い。一SF者としての、鴨の率直な感想です。

    これからSFを読んでみようと思っている人には、オススメしやすいと思います。エモさをトリガーにして、作品世界に没入することができます。
    ただ、このエモさにあざとさを感じずに読み進められるのは、20代止まりかなぁ・・・とも思います。
    SFとしての完成度の高さは間違いありませんので、これからも読みたい作家さんではあります。なお、鴨的には、女性キャラのリアリティの無さがとても印象的で(SFとして欠点ではありません、念のため)、女性SF者の感想をぜひうかがってみたいです。

  • 「美亜羽へ贈る拳銃」「ひかりより速く、ゆるやかに」の二篇には本当に心を打たれた。
    これまでの読書生活で最高ランクの書でした。

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著者プロフィール

’88年生まれ。’10年「遠呪」で日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し、受賞作を改題・改稿した『少女禁区』でデビュー。編書に「日本SFの臨界点」シリーズなど。最新作は『なめらかな世界と、その敵』。

「2022年 『ifの世界線  改変歴史SFアンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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