安らぎの生命科学

著者 :
  • 早川書房
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150502041

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  • (要約)
    生命科学者として順調なキャリアを歩んでいた著者は、原因不明の難病に倒れ、仕事も地位も失ってしまう。病気は悪化し、自分の能力も次第に失われていく自覚の中で、研究者としての道をを絶たれてしまった著者は、絶望の淵に沈んだその時、それまでにない至福体験を味わう。病気の激しい苦痛の中で、感受性は研ぎ澄まされ、自然の変化への感動を深めていく。やがて宇宙の鼓動を感じ、宇宙のリズムにあわせることが、安らぎをみちびき、苦痛の鎮静効果をもつことを体験した。科学者である著者はこの神秘的な体験を、生命科学の知識をもとに、脳の発生としくみで説明する。人間の脳には、生きていくために自己中心性と欲求が、遺伝的にプログラムされており、我欲の原因となっている。しかし、死を待ち望むほどの苦しみの中で、様々な欲求への執着、さらには生への執着を断ち切ったとき、死への恐れが消えて心が解き放たれ、生きる喜びに満ち溢れる。本書は、科学の論述的な記述を損なわないようにしながら、芸術のように読者のイメージを喚起する表現の工夫により、生命もつの神秘性や美しさと悲しさを伝えることを試みる、生の賛歌ともいえるエッセイ集である。

  • 読書録「安らぎの生命科学」3

    著者 柳澤桂子
    出版 早川書房

    p134より引用
    “ ものごとがすべて順調に進んでいるとき
    には、その中にふくまれるいろいろな要素は
    とかっく見過ごされがちである。障害にぶつ
    かったときにはじめて見えてくるものがあ
    る。”

    目次から抜粋引用
    “貝は海の瞼です
     死は一個の卵である
     樹の中では血は立ったまま眠っている
     星は語らない”

     サイエンスライターである著者による、生
    命科学を基にしたエッセイ集。
     人の記憶についてから人と科学の行く先に
    ついてまで、叙情に溢れた文章で書かれてい
    ます。

     上記の引用は、人間の情動と科学研究につ
    いて書かれた項での一節。本当に大事な物は
    目には見えない、というやつでしょうか。
    あってあたり前の物事は、無くしたり、ある
    のに使えなくなって、その有り難さがわかる
    のでしょう。
    病気を患って、その苦難の時期を過ごした中
    で、著者は文章を書く喜びを見つけたそうで
    す。
     穏やかで流れるような文章ですので、ゆっ
    たりとした時間を取ることが出来る時に読む
    のいいのではないでしょうか。
    バタバタとあわてて、速読で読むたぐいの作
    品では無いと思われます。まあ、エッセイと
    言うジャンルは、慌ただしく読むものでは無
    いのかも知れません。

    ーーーーー

  • 大病から克服した科学者の著書で、今まで疑問だと思っていたことが、結び目がするっとほどけるように解けた。楽しく、そして、命について今まで考えたことない疑問も生まれた。
    科学とはとても身近なものだったと当たり前のことに気づいた。
    おすすめの一冊。

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著者プロフィール

柳澤 桂子(やなぎさわ けいこ)
1938年、東京都生まれ。お茶の水女子大学卒業。コロンビア大学大学院修了。Ph.D.(遺伝子専攻)。お茶の水大学名誉博士。生命科学者,サイエンス・ライター。著書に『脳が考える脳』『遺伝子医療への警鐘』『生と死が創るもの』『いのちの始まりと終わりに』『患者の孤独 心の通う医師を求めて』『生命の秘密』『われわれはなぜ死ぬのか』など多数。



「2022年 『リズムの生物学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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