- Amazon.co.jp ・本 (375ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150504830
作品紹介・あらすじ
金や時間などが足りないと感じたとき、認知能力は落ちている。欠乏が欠乏を生む仕組みを精査し、行動経済学の常識を塗り替える書
感想・レビュー・書評
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この本は「欠乏感」がもたらす多大な影響と余裕「スラッグ」の大切さについて、多面的な角度から検証した本です。
めちゃくちゃ面白く、ためになりました!
ぜひぜひ読んでみて下さい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ハーバード大の経済学教授(ノーベル経済学賞の受賞も噂されてるそうですが、今年は残念ながら…だったようで)とプリンストン大の心理学教授の共著による、「欠乏」をテーマとした1冊。
原著を直訳すると「欠乏:なぜ足りないことがそれだけ意味を持つのか」でしょうか。
人間は、欠乏しているモノ/コトに意識を奪われてしまう。ただ、それだけではなくて、その分野に強い能力を発揮することもできる、と。
読了して感じたのは、「本当の問題」を探すことの重要さと大変さ。
貧困に悩む人々に補助金を支給しても、結局貧困から抜け出せないという事例が出てきます。それを「貧困者たちのマインドが欠如している」みたいに言い訳を連ねるのは簡単ですが、結局それじゃ世の中はいつまで経っても良くならない。
彼らを貧困に繋ぎとめているのは経済的な欠乏だけでなく、様々な悩みに気を取られる「処理能力の欠乏」もあって…という話。
ではどうすれば良いのか。著者が例に出したのが、米軍の爆撃機でパイロットが着陸後に(なぜか)車輪を引き上げる事故が多発していた事例への対処。パイロットの訓練や資質の問題ではなく、コクピットの設計が紛らわしくて事故が起きてしまっていた。
制度の設計も同じで、支給の仕方を上手く考えないといけない、という話でした。
本著の内容とは少し外れますが、個人的に感じたのは、今後の世の中において、潤沢なリソースを活用できるのは贅沢な一部のプロジェクトに限られると思うので、常に「欠乏」と付き合う必要があるということ。
そう思った時、本著のように現場に目を張り付けて事例を分析して解決策を見つけ出して、みたいなアプローチができるかしら…とちょいと暗い気持ちになりました(^^;
ちょっとした工夫で乗り切れそうなものもありましたが、それも現場へ落とし込むのは大変だよなぁ。。と。
ちなみに、本著、なぜか読むのにすっごい時間がかかりました。とにかくモチベーションが湧かず、図書館の返却期限に追われて(本著にある「集中ボーナス」そのまんま…)なんとか読了した次第です。
「時間がない」とか「欠乏」とか表紙に書かれて、中身もそんな事例ばっかだからでしょうか…。行動経済学者の皆さまには、この事象の解明をぜひお願いしたいです!(笑 -
「時間管理術」のビジネス書のようなタイトルだが、そうではない。副題の「欠乏の行動経済学」のほうが、内容を正確に要約している(こちらをメインタイトルにしたら本が売れないと判断したのだろう)。
著者は、ハーバード大の経済学教授(センディル)とプリンストン大の心理学教授。2人とも、経済学と心理学を融合させた「行動経済学」の研究者で、貧困問題などの解決を目指すNPOの共同創設者でもある。
本書も、タイトルからは想像もつかないが、じつは貧困問題を考えるための書でもある。というのも、「時間がない」「お金がない」などのさまざまな「欠乏」が、我々にどのような心理的影響を与えるかを研究した書だから。
時間の欠乏についての章もあるから、タイトルは偽りではないが、じつはお金の欠乏=貧困に重点が置かれている。
貧困問題を行動経済学の視点から考察した、類のない書である。
とくに目からウロコが落ちたのは、貧困がさまざまな「処理能力」を大幅に減退させることを論証している点。
「欠乏」は、人間の処理能力に大きな負荷をかける。
時間がなくてバタバタしているときは、仕事でミスが生じがちだ。同様に、貧困層はお金の工面のことでつねに頭が一杯になっているから、生活の中で要求されるさまざまな処理能力が大幅に減退してしまっている。
たとえば、貧困層は医者にもらった薬の飲み忘れが多い。また、子どもに対する気配りに欠ける「悪い親」は貧困層に多く、富裕な農民より貧しい農民のほうが農地の適切な除草を怠りがちだという。
それは、「貧困層のほうが怠け者で愛情が薄いから」ではない。貧困という欠乏がもたらす処理能力の減退のせいなのだ。
《ほぼあらゆる仕事には作業記憶が必要である。これは、いくつかの情報を使うまで頭のなかで生かしておく能力だ。貧困によって作業記憶に負荷がかけられると、人はあまりうまく仕事ができなくなる。
(中略)
処理能力に過剰な負荷がかかるということは、新しい情報を処理する能力が下がるということだ。たとえばあなたがつねに心ここにあらずだとして、大学の講義はどれだけ頭に入るだろう? ここで、家賃の工面についてたえず考えてしまう低所得の大学生について考えてみよう。彼女の頭にどれだけ入るだろう?》
《処理能力は人の行動のほぼあらゆる面を支えている。ポーカーで勝つ確率を計算するのにも、人の表情を読み取るにも、自分の感情をコントロールするのにも、衝動を抑えるのにも、本を読むのにも、独創的な発想をするのにも使われる。高度な認知機能のほぼすべてが、処理能力に依存している。しかし処理能力への負荷は見逃されやすい》
処理能力の減退は、仕事や勉強、人間関係などに広範な悪影響を与える。ゆえに、貧困層は人生において、心理的にも大きな不利にさらされている。それこそが「貧困が貧困を生む」要因の一つなのだ。
いわゆる「貧困の連鎖」をこのような視点から解き明かした本は、これまでになかった。 -
最後の解説が良いまとめ。良くまとまっていて、あのボリューム読まなくても解説だけでも良いかもしれない。
集中ボーナス
トンネリング
スラック
間違えない仕組み作り
解説通りに、「時間がない」ことの解決方法を示してくれるかと思いきや、「時間がない」のは欠乏のせいであることの分析。フィールドワークや例、過去の調査結果をエビデンスに論拠をはっている。
なんか違和感があったのは…欠乏による人の反応が帰納法で見解を示していて、なんかこう医学的というか科学的に理由付けがほしい。あまりにも人間の行動が単純過ぎるように思えてならない。 -
いつも時間が無い、借金を重ねてしまう、ダイエットが続かない・・
これらはバラバラに見えて、実は原因は同じではないか?という話。その原因は、「欠乏」(自分の持っているものが、必要だと思う量よりも少ないこと。心に余裕がないこと。)。欠乏が起こると、脳の処理は欠乏に対して大きく使われてしまう。これをトンネリングという。トンネリングには、「集中ボーナス」がつくことがある(締切効果)。とはいえマイナスの方が大きいので、欠乏が起こらないようにすることが大切。
自分は、夏休みの宿題を初日に全部終わらせるタイプだし、プロジェクトは二週間は余裕がないと不安。欠乏をひたすら避けてきたと思う。他要因で切羽詰まったプロジェクトは全部失敗してきた。
・適切な期限を設ける
・適切なバッファを設ける。
色々書いてあったものの、結局はこれだけなんじゃないか。 -
欠乏は集中力を増し処理能力を上げる一方トンネリング(視野狭窄)を起こして処理能力を下げる。ちなみに処理能力の高低は能力そのものの高低ではなく欠乏が生み出した状況である。後者は負の連鎖を起こすためネガティブな影響が大きいが、この状況に陥るのを防ぐためにはスラック(余剰、ゆとり)を持つことが有効である。聞けば当たり前に聞こえるが、世界の貧困問題からタスクに追われる家庭人、ビジネスパーソンにも広く影響するこの欠乏問題は省みられていないことが多い。日本語タイトルがミスリードな所が惜しいが大変貴重な名著。