- Amazon.co.jp ・本 (474ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150707217
感想・レビュー・書評
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ミステリーではあるのだけど、どちらかというと普通小説的な要素が強い作品であると言われている。実際に読んでみると、確かにフランシスの作品の中では異色であると言っていい。
事件らしい事件が起きるまでが長い。じっくりと主人公やその周辺の人間模様を描いてから、事件というより主人公の職業上のトラブルという形で事件が起きる。結果的にそのトラブルが犯罪によるものだったからミステリーになったけれど、そうでなければ企業の内幕を描く長編小説である。
主人公は銀行員である。かなりのエリート。なにせ巨大銀行の創業者の甥である。能力もあるし、仕事を楽しんでいる。人間関係も良好で、作品中で出世もする。まさに「名門」なのだ。なんとなく腹が立ってくるくらい出来過ぎの人物なんだけど、嫌みではない。作中で描かれる彼の恋愛が人間的だからだろうと思う。
恋愛についてわりあい印象的なエピソードを用意してくれることの多いフランシスだが、この作品はその中でも1,2を争うのではないか。全編を覆うプラトニックなやりとりは、添え物というレベルではない。ある意味びっくりしてしまった結末も含めて、この小説の大きな魅力だと思う。
こう書いた後だけど、実はミステリーとしても面白い。シリーズの中でも犯罪としての「後味の悪さ」ではトップクラスではないか。このあたりは、ふつう小説的なアプローチが実によく利いている。主人公を殺そうとする犯人の計画にしても馬をこのように扱うこと自体がまさに犯罪的で、よくフランシスがこんな設定を作ったものだと思ってしまう。基本的にはハウダットのプロットだと思うけど、意外性がある。それ以上に「なんでこの人を被害者に選んだんだよ」と作者を蹴飛ばしたくなるけれど。
ただし、もっと前のフランシスなら、さらに膨らませていたのではないかと思う部分もある。たとえば主人公が「名門」であるということについてなら「飛越」ほど作品に味わいを与えていないと思うし、むしろ名馬から生まれた不幸な子馬などだって、もっと作品に響かせることができたのではないかと感じた。主人公と犯人の関係についても興味深いのだけど「度胸」に比べたら見劣りがする。
全体としてとても魅力的な作品だけど、名作と云うには今ひとつ。ただしシリーズ中唯一の設定で切ない名台詞が詰め込まれた恋愛模様は、それだけでも一読の価値がある。 -
年上の美女に恋するが、尊敬している人の妻なので互いに身動きがとれない。
馬の素晴らしい血統の話は面白いんですけど、馬の苦難がかわいそう。
円熟の味があります。 -
21
主人公は名門銀行の一族の若者。
馬に出資を渡河、アニメーションに出資を、とかいろいろと融資の話を受けながら、出資した馬の不正を暴く話。
冒頭のパーキンソン病の上司の幻覚がリアルでした。
筆が乗っています。