渡辺えり3: 月にぬれた手/天使猫 (ハヤカワ演劇文庫)

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  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151400476

作品紹介・あらすじ

敗戦後、光太郎は東北で亡き智恵子を見る……「月にぬれた手」。賢治の一生を入れ子構造で描く「天使猫」。"震災後文学"の秀作二篇

感想・レビュー・書評

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  • 劇団3○○は90年代に一時期はまって結構見ていたのだけど97年には解散、昨年(2018年)40週年記念公演は久しぶりに観に行きましたが、その間の活動は感知していなかったので、この二つの戯曲に触れるのは初めて。

    「月にぬれた手」の主人公は高村光太郎。『智恵子抄』は昔読んだけれど光太郎自身がどういう人物かはあまり知らなかったので、第二次世界大戦中、光太郎が戦意高揚のための戦争協力詩を書いていたこと、東京のアトリエが空襲で焼けてから岩手県の花巻に疎開、その疎開先が宮沢賢治の実家(賢治はすでに亡く、弟の清六の家)だったこと、戦後自分の書いた戦争協力詩を後悔した光太郎は自ら花巻郊外に粗末な小屋を建てて移り住み、数年間独居自炊生活を送っていたことなど改めて知った。

    戯曲はもちろん幻想を交えたフィクションながら、この花巻郊外での独居生活中の光太郎を、さまざまな人(地元の農家の母娘、光太郎の詩のせいで息子が戦死したという母親、東京から訪ねてきた若者、光太郎を追ってきた女、智恵子の亡霊など)が訪れ、若き日の留学時代のパリや、東京のアトリエなどさまざまな時間や場所を行ったり来たりしながら光太郎の苦悩や半生を忠実に描き出している。

    光太郎を尊敬する北山少年のモデルは渡辺えり自身の父親で、彼が光太郎に会ったときのエピソードは実話らしい。光太郎の父親・高村光雲は上野の西郷さんの銅像も作った有名な彫刻家(彼の自伝は読んだ)で、アート界において光太郎は一種の七光りの二世。父への反発、そのくせその父のお金で海外留学、そこで味わうアジア人コンプレックスなど、光太郎の苦悩はもとより、当時今以上に男尊女卑の世の中、芸術の世界における智恵子の苦悩やさまざなな立場の女性の辛さも織り込まれており、苦しくなった。

    「天使猫」のほうは震災後に書かれたので、冒頭から妻の遺体を探している猫の姿が描かれ切ない。主人公は宮沢賢治。彼の童話の登場人物たちや、弟妹たち、親戚、そして親友の保阪嘉内らが登場する。余談だけどこの保阪嘉内については、たまたま5月頃にEテレで再放送していた「宮沢賢治 銀河への旅~慟哭の愛と祈り~」(https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/20/2259635/index.html)という番組を見て、まるで賢治が同性愛者で彼をずっと恋していたかのような話になっていて驚いた(諸説あるようで)

    戯曲としては、「月にぬれた手」のほうが好みだったし、完成度も高いように思ったけれど、実際の舞台だとまた違うのかもしれない。

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