紳士たちの遊戯 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ハ 25-1)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (620ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151775512

感想・レビュー・書評

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  • 伝統校セント=オズワルド校で次々と起こる不可解な事件。学園を破壊しようとする犯人と、学園に古くから勤めるベテラン教師、それぞれの視点から語られる学園ミステリ。

    拾い物、と言ったら失礼かもしれないけれど予想以上に面白かった。訳者あとがきによると著者ジョアン・ハリスは、ジョニー・デップ主演映画で、アカデミー賞ノミネート作品『ショコラ』の原作者だそう。
    そういうストーリーテラーとしての地力がある作家だけあって、語り口が抜群に上手い印象でした。

    物語は二つの視点から語られます。一方の語り手は、セント=オズワルドに古くから勤めるベテランラテン語教師のロイ・ストレートリー。
    生徒たちからはおおむね慕われているものの、ベテランであるため学園の上層部からやや煙たがれ、教育をめぐってはフランス語やドイツ語を教える他の外国語教師も確執がある。
    また本人もかたくなと言うか、意固地というか、学園の教師たちがそれぞれ職場用のパソコンでのメールで連絡を回す中、パソコンを一向に使う気配がない、とやや老害気味なところも感じます。

    こうした教師間での確執や、小さなトラブルが面白い。正直、なんでストレートリーが生徒に慕われているかは、読んでいてあまり伝わってこなかったけど(笑)
    一方で教師間の人間関係、仕事関係でのいざこざが、こまごまとリアルに描かれていて、学園ドラマの教師パートを見ているような映像が、自然と頭に浮かんでくる。

    もう一方は犯人視点から語られる。いわゆる倒叙サスペンスの書き方なのですが、犯人の正体は伏せられていて、ストレートリー視点で登場した人物の中の誰が犯人なのか、と予想しながら読み進められます。

    こちらも語りと空気感の作り方が巧い。伝統校であるセント=オズワルドの弱点。トラブルやスキャンダルを極端に恐れる保守的かつ閉鎖的な雰囲気の隙をつき、人間関係を巧みに操り徐々に学園を混乱の渦に巻き込んでいきます。

    今でも学校現場はいじめ問題の表面化を恐れたり、教師の処罰が甘いなどといった、閉鎖的な雰囲気をニュースからも感じることは多いけど、
    その空気感を小説で表現しつつ、教師たちがトラブルに巻き込まれ、あるいは不祥事を公表されて、学園が不安定な状態に堕ちていく様子が、なにかぞくぞくする後ろ暗い、不謹慎な面白さを感じてしまいます。

    そして所々で挿入される犯人の回想。なぜ犯人はセント=オズワルド校を狙うのか。犯人の学生時代のエピソードは、思春期特有の居場所のなさであったり、承認欲求であったり、破壊衝動であったり、友情や恋であったり、憧れであったりを描き、青春者としても面白く読めました。

    ストレートリー視点、犯人視点、そして犯人の回想と3つの話の軸があり、その分ストーリーの進みは遅く感じる部分もあったし、物語の仕掛けも途中で勘づくところはあったものの、
    語り口の巧さ、心情表現の巧さ、学園のリアルな雰囲気づくりといった技術や文章の巧さがそれをカバーして、全体的に見るとサスペンスとしても、青春者としても及第点以上の満足度がありました。

    ちょっと興味をもって『ショコラ』のあらすじを調べてみると、この『紳士たちの遊戯』とはまったく毛色の違う作品のようで、その作風の幅の広さにも驚きました。いずれは小説・映画の『ショコラ』も鑑賞したい。

  • かつて自分の父親が働いていたイギリスの有名男子校に、その身分を偽り教師として赴任した人物。その目的はその学校を崩壊に導くことであった。そのようなことが画策されているとは知らない教師たちは、偶発的に起こる事件に翻弄される。
    話はそのターゲットとなったラテン語の老教師、ロイ・ストレートリーとその教師の視点から描かれる。何も知らないロイが、様々な小さな出来事や事件に戸惑い翻弄されながら微かな違和感(疑問でもなく、ましてや確診でもなく)をもつ様子が自然でおもしろい。
    謎の教師の正体は誰か、途中もしかするとと気が付いてからはすべてがパズルがはまるように符合した。最後に大どんでん返しがあるわけでもなく、物足りなさが残らないわけでもないが、分量の割には一挙に読み進めさせる力はある。

  •  イギリスの伝統ある男子校を舞台としたサスペンス。作者はジョニーデップ主演で映画化もされた『ショコラ』を書いたジョアン・ハリス。彼女がサスペンスを書いていたのは全く知らなかったので意外だったが、実に良くできた作品で、2015年のアメリカ探偵作家クラブのエドガー賞最優秀長編賞にノミネートされている。
     物語はジュリアン・ピンチベックという謎の人物から語られる視点と、男子校の老教師ロイ・ストレートリーから語られる視点が相互に繰り返しながら進んでいく。
     サスペンスとして物語の筋が面白いのは勿論、それぞれ登場人物が魅力的で読んでいて楽しい。特に主役の一人でもある老教師ロイ・ストレートリーの皮肉混じりのユーモアには何度もくすりとさせられた。

  • 変わった話で 一応”紳士たち”との表題があるのだけど
    だまされたわァ(笑)
    あのショコラを書いた作者とは 思えない・・・・

  • 伝統あるセント・オズワルド校を愛し、忠誠を尽くす老教師と、その学校を破滅させるために赴任した若手の教師。事件は2人の視点から交互に描かれる。百学期の永年勤続を間近に迎えたロイ・ストレートリーが受け持つ古典語学科は、コンピュータサイエンスにおされ、縮小を余儀なくされていた。それでも、いつもと変わらない新学期が始まったはずだった。だが、物の紛失、生徒の卒倒と数々の小さな事件が頻発する。例にならって危機を処理していく伝統校を、憧れと憎しみで染まった頭脳が巧みに陥れていく。

    『ショコラ』などに見られた甘酸っぱい雰囲気はありませんが、読後に漂う香りはやっぱりジョアン・ハリスです。なごやかで、まろやかな心地でした。犯人は狂気じみているものの、過去の出来事が細やかに記されているせいか、一定の理解を寄せることができました。また、ストレートリーの魅力が結末を穏やかな方向へ導いているような気がします。歳を重ねているだけの経験と知己があり、心から学校と生徒のことを愛しています。彼のようなベテラン教師がいる学校は素敵だなと思いました。
    ミステリや推理小説として捉えると少し物足りなさを感じますが、ジョアン・ハリスの一作品として読むと、今までと違った雰囲気を純粋に楽しめると思います。
    http://www.geocities.jp/british_women_novelists/writers/Joanne_Harris.html

  • 「ショコラ」の原作者だそうです。
    グラマースクールを舞台のミステリ。
    グラマースクールとは、昔はラテン語を主に教えた中高一貫の私立の名門男子校。
    ここにあこがれを抱いたが入れなかった子供と、成長したその人物、33年勤続の初老のラテン語教師ストレートリーの三つの視点、から描かれます。
    現時点でのたくらみと、過去に何が起きたかという謎があるわけで。
    子供の心情には共感してしまう描き方。
    作者は12年グラマースクールの教師を務めた経験があるそうで、変わりゆく環境を嘆くのは実感らしい。

  • トリックはなきに等しいのでそういう部分を重んじる方には物足りないかもしれませんし犯人もわりと分かりやすいのですが心理描写が巧みで面白かったです。私はラストも好きでした。

  • なかなか入り込めなくてとても時間がかかって。
    期待したほどではなかったけれど、読み味はよかった。
    でももう一回は読めないけどね。

  • 2008.08.23. 「ショコラ」とは打って変わったミステリ。でも、心理描写や日付ごとに少しずつ(時には大胆に)進むストーリーがおもしろい。陰険な、まるでいじめみたいなことをこっそりと、だけど確実に相手にダメージを与えていく犯人。だけど、犯人の子ども時代の描写とかがなー切なくて。嫌いになれない。彼女の他の作品も、ぜひぜひ読みたくなった。

  • 原題は、GENTLEMEN & PLAYERS、男子校が舞台なのと、紳士淑女の競技と言われている盤上の格闘技、チェスに物語がなぞらえられていることから、こういう邦題になったと思われます。
    映画化もされた『ショコラ』、その世界観とちょっとつながりのある『ブラックベリー・ワイン』を読んで大好きになったジョアン・ハリス。<学園に忍び寄る影 さあ、頭脳ゲームの始まりだ! すべての読者に挑戦する大胆不敵な知的ミステリ> という帯からすると、同姓同名の別人かも?!っと思いましたが、著者紹介を見ると、同じ人物。読了後、解説を読んでいたら<予想されるのが大嫌いと公言している>とあったので、ちょっと納得しました。『ショコラ』や『ブラックベリー・ワイン』と同じ世界観を期待して読むと手痛いしっぺ返しを喰らいます。でも、テイストは全然違いますが、さすが!という、とても緻密で良くできた丁寧な作品でした。ユーモアは健在で、それで救われます。それが無ければ、むしろその丁寧さ緻密さが逆に怖い作品です。
    セント・オズワルド校という、伝統ある男子校、特殊な閉鎖社会に勤め上げた老齢のラテン語教師(もはやラテン語など何の役に立つのだ?!とコンピュータ学科や管理者から前時代の遺物と見られている)、ロイ・ストレートリーを学園を象徴するキングに見立て、地元の柄の悪い学校に通っていじめられ、学園に忍び込んでは現実逃避をするという二重生活を送っていた、ジュリアン・ピンチベック(学園の用務員だったスナイドの子で、ピンチベックは偽名)のポーンがそれに挑む、構造。学校という閉鎖的な独特の価値観とルールに支配された虚構に、雑魚であるポーンが、大人になってから、学園のスタッフとしてもぐりこみ、教師や生徒の人柄、悪癖、秘密の情報をもとに、そこにちょっとした脚色を加えて演出しマスコミや警察に必ずしも正確ではないがまことしやかな情報を流すことによって、長年の復讐を果たすべくじわじわと攻撃をしかけます。
    チェスのキングの駒とポーンの駒が、交互に語り部になり、アリがゾウを倒すように、徐々に徐々に策略に崩されてゆくのですが、このアリであるポーン、かつての通称ジュリアン・ピンチベック、用務員ジョン・スナイドの子どもだった人物が、いったい誰なのか、それが一番の謎です。その謎を、キングになぞらえられたロイ・ストレートリーが、解くことが出来るのか、それとも学園はピンチベックの思惑の通り、崩壊してしまうのか?!
    どうやって決着をつけるのか、最後の最後まで疑問でしたが、さらなるどんでん返しがあるわけでもないけれど、期待はずれということもなく、至極すとん、と、いう具合に、落ち着きました。すごく面白かったです。でも、こんな作品も書くのか!!っと、ジョアン・ハリスという作家のすごさには、驚きました。

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