黒い氷 (ハヤカワ・ミステリ文庫 ラ 16-3)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (567ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784151778537

感想・レビュー・書評

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  • 「オーロラの向こう側」の続々編。

    レベッカは心に深い傷を負い、
    弁護士を辞め故郷のキールナ―へ戻った。
    地元の特別検事となり、また休みもなく働き始めたところに、
    身元不明の女性の惨殺死体が凍った湖で見つかる。

    このシリーズが北欧ものにしては明るく読めるのは、
    独り身で好きなだけ仕事に邁進するレベッカと
    警察の仕事も夫も子供も愛するアンナ=マリア・メラの二人の女性が
    魅力的で共感できるからだと思う。

    被害者の周囲の人物たちの過去が、
    事件に関係あるのか無いのかもわからないまま、
    これでもかと長々と語られるのにも我慢できる。

    というかは正直、そっちの人々の人間関係の展開よりも、
    レベッカと元上司、アンナ=マリアと夫や同僚、
    そしてレベッカとアンナ=マリアの交流の方が気になってくる。
    最後には、レベッカが勇気を出して元上司を迎えに行き、
    自分の家に連れてくることが出来て良かった。

    あとは、
    湖で凍死しそうになった釣り人が、
    死体を発見してしまう場面は面白かった。

    後半の3部作があるらしいが、日本語に訳されていなくて
    本当に残念。

  • スウェーデン発ミステリー、主人公レッベカ・マーティンソンの第3作目。前作で心に傷を負ったレベッカは心療病棟から退院し、故郷に戻ったのだった…。
     ミステリー部分は鉱業会社の女性部長が殺害、簡単な事件かと思えば、かなりの国際規模に発展。
     合間にはさまれる、登場人物の細かな描写が前作より面白くなっている気がする。たいていなら、本筋と関係ない、脇役の過去なんか邪魔なだけのはずが、興味をもって読み進められる。今作は特に、そのちりばめられたエピソードが実は伏線で、ラストの部分に関わってきたところはちょっと感動した。(鉱業オーナーの妹のところ)。
     レベッカはレベッカでなんとか再生への道も歩んでいて、最後は幸せになって欲しい。あと3作らしいけど、いつ新刊なんだろう。

  • 「オーサ・ラーソン」の長篇ミステリー作品『黒い氷(原題:Svart stig、英語題:The Black Path)』を読みました。

    「オーサ・ラーソン」作品は、今年1月に読んだ『赤い夏の日』以来ですね。

    -----story-------------
    傷を負ったのは、身体だけではない。
    心も深く傷ついていた…長い療養生活の後でようやく退院した「レベッカ」は弁護士を辞め、故郷のキールナへ戻った。
    乞われて地元の特別検事の職に就いた彼女が立ち直りはじめた矢先、凍結した湖で女性の惨殺死体が発見され、またも事件に関わることになる。
    被害者の身辺を調べると、複雑な背景が浮かび上がってきた―
    スウェーデン推理作家アカデミー賞を連続受賞した注目作家の最新作。
    -----------------------

    「ヴィヴェカ・ステン」、「カミラ・レックバリ」に続きスウェーデン作家の作品… 再び北欧ミステリがマイブームですね。

    前作『赤い夏の日』で心が傷ついた「レベッカ」は精神科病棟での長く痛ましい闘病生活を経て、弁護士を辞め故郷キールナに戻ってきていた… 地元で特別検事の職に就き立ち直り始めていた矢先、凍結したトルネトレクス湖の氷上の箱舟(地元住民が氷結した湖上で釣り等を愉しむための滑り板に載せた小屋)の中で女性の惨殺死体が発見されるという事件が発生、、、

    「レベッカ」は殺人事件を捜査するキールナ警察の「アンナ=マリア・メラ」、「スヴェン=エリック・ストールナッケ」とともに真相を探ることに。

    被害者の「インナ・ヴァトラング」は、大規模な鉱業会社「カリス鉱業」の情報部長で、付近にある会社の山荘に滞在している際に襲われていた… 被害者の身元や殺害現場が比較的早期に判明したことから、事件は解明に向かうかと思われたが、徐々に複雑な背景が浮かび上がり、彼らは国際的大企業カリス鉱業を巡る事件に巻き込まれて行くことになる。

    「カリス鉱業」の社長「マウリ・カリス」は、キールナ出身で、立志伝中の人として有名で、貧しく孤児同然の環境から、株取引で天才的な才能を発揮して、無一文から巨額の財を成し"スウェーデンの奇跡"とも呼ばれる人物… 「インナ」の弟「ディディ」は、「マウリ」と大学の友人で、姉弟は「マウリ」とは異なり上流階級で育ったが、三人は若い頃から協力して国際的な大企業を築き上げていた、、、

    「マウリ」を中心とする人間模様が過去と現在を行き来しながら丹念に綴られ、「レベッカ」は金融知識を調査能力を駆使して「カリス鉱業」の内実や三人の私生活を金銭面から暴き、意外な事実を浮かび上がらせます。

    序盤の導入部分や、終盤のスリラー小説風のアクションは面白いのですが… 多くの登場人物の過去が描かれる中盤は、ちょっと冗長な感じ、、、

    なかなか真相に近付かず、もどかしさを感じて、かなり雑に読んじゃいましたね… 中盤部分で「マウリ」の母親の狂気や、「マウリ」の母親が精神病院で産んだインド人との混血の娘「エスター」との関係、彼等の幼少時代の生活が丁寧に描かれているからこそ、終盤で「エスター」が「マウリ」を命懸けで救おうとするシーンが生きてくるのですが、ちょーーーっと集中力を欠いちゃいました。

    前作まで不幸のどん底だった「レベッカ」が元上司の「モーンス」との関係を修復し、安らぎに満ちた幸福感が伝わってくるエンディングは印象的でしたね、、、

    集中力を欠きながらも、550ページを超えるボリュームを読み終えて満足感のある作品でした… 次作以降は翻訳されていないので残念だなぁ。




    以下、主な登場人物です。

    「レベッカ・マーティンソン」
     弁護士

    「モーンス・ウィングレン」
     レベッカの上司

    「マリア・タウベ」
     レベッカの同僚

    「マウリ・カリス」
     カリス鉱業のオーナー

    「エバ」
     マウリの妻

    「エスター・カリス」
     マウリの妹

    「インナ・ヴァトラング」
     カリス鉱業の情報部長

    「ディディ」
     インナの弟

    「ミカエル・ヴィーク」
     カリス鉱業の警備部長

    「エリヤン・ビョールンド」
     新聞記者

    「アイリ」
     エリヤンの妻

    「アンナ=マリア・メラ」
     キールナ警察の警部
     
    「スヴェン=エリック・ストールナッケ」
     同警部。アンナ=マリアの同僚
      
    「フレッド・オルソン」
     同刑事
       
    「トミー・ランタチレ」
     同刑事
       
    「アルフ・ビョルンフォット」
     検事長

    「ラース・ボーヤネン」
     監察医

    「ロベルト」
     アンナ=マリアの夫 

    「シヴィング・フェリボリ」
     レベッカの隣人

  • デビュー作「オーロラの向こう側」でスェーデン推理作家アカデミー最優秀新人賞を受賞し、続く「赤い夏の日」では最優秀長編賞を受賞した著者の3作目。
    前2作と同じシリーズに属する小説です。

    では前置きはこの位にして以下にあらすじ紹介。

    「赤い夏の日」で衝撃的な殺人事件に遭遇し、精神が壊れてしまった主人公・レベッカ。
    弁護士だった彼女は、それにより長期間に渡り精神病院に入院。
    退院後は故郷・キールナに帰って、幼い頃より親しんできた隣人以外とは付き合いを全くしない、ひきこもりの生活を送っていた。
    そんな折、彼女の経歴に目をつけた現地の検察トップのスカウトを受け、特別検察官として働き始めることに。

    彼女の復帰早々、キールナで女性の他殺体が発見される。
    被害者は一代で財を成した立志伝中の人物の片腕として働いてきたキャリアウーマン。
    彼女の足首には電線の跡があり、生前拷問を受けたのか、もしくは過激なセックスプレーによる事故死なのかと様々な推測がなされる。
    そんな中、現地捜査官に請われる形でレベッカは事件捜査に乗り出す。

    しかし、彼らの前に立ちふさがる企業の壁。
    果たして彼らは壁の向こう側にある真相を暴き出せるのか?



    事件捜査の様子を描いたと言うよりは、登場人物たちの過去など彼らの内面を描いた感じです。
    また、ある登場人物が¨特殊¨な能力を持っており、(それによりストーリーが深みが増している点もあるのですが)この点が評価の境目になるのかも知れません。

    本書に限ったことではありませんが、(少なくとも私が読んだ範囲では)北欧の小説の日本語翻訳版と言うのは、どうやら現地語から英語やドイツ語、フランス語などに翻訳されたものを日本語に訳したものが多いらしく、これによって余程売れていない限り、日本語翻訳版を目にすることがないと言う状況みたいです。

    著者の後書きによれば、本書はシリーズ全6作の内の3作目との事ですが、この書評を書いている時点で2009年出版の本書以降のシリーズ続巻の日本語翻訳版が出版されていません。
    これは上記の理由が影響を与えているのかも知れませんね。

    何にせよ、「ミステリはこう有るべし」と言った感じの硬くなさが無ければ、十分楽しめる内容ではないかと思います。

  •  文章がとても好み。ヘニング・マンケルみたい。登場人物も作りこまれていて、すばらしく感情移入できる。ただ後半、中央アフリカの鉱山からの暗殺がらみといった展開は、スケールが大きすぎて追いつけなかった。奔放なインナが、なぜいきなり良心の呵責を感じてマウリにあのような行動を取ったのかも十分に説明できていない気がする。
     シリーズ三作目ということだけど、この『黒い氷』から読んだので新鮮だった(´ ▽ ` ) キャラクターに思い入れができてしまったので、他の二作も読んでみたい!

  • 心身ともに傷ついたレベッカは弁護士をやめて故郷に戻り、特別検事の職に就いたが、地元で女性の惨殺死体が発見され、またしても事件と関わることになる。

    シリーズ3作目。
    今回は国際的でかなり大掛かりな事件が中心に据えられている。
    そのせいもあってかレベッカと事件がうまいこと噛み合っていない印象。
    そもそも1作目からレベッカと警察の窓口として描かれているアンナ・マリア=メラの絡みのずれ具合が気になっていたのだけど、ここにきて事件、アンナ・マリア=メラ(警察)、レベッカと物語を構成するすべてのちぐはぐさが際立ってきて辛すぎる。
    現在の描写が過去形で、過去の描写が現在形と言う文体も読みにくい一因かと思われる。
    どうやらここまででシリーズの半分らしいのだけど、次作への引きを読んでも続きが気にならなくてなあ…。

  •  <レベッカ・マーティンソン>シリーズ第3弾。主人公は転機を迎える。ところが、第3弾の本書では主人公レベッカは直接事件に絡んでこない。このシリーズを3作読んで感じるのは、事件は二の次ということ。読みどころは、登場人物たちの心情だからだ。とにかく誰も彼も個性的で、魅力に溢れている。読者は、誰かしら自分と似た者を見つけ、共感したり反感を持ったりすることだろう。巧妙なトリックを描くミステリを好む読者より、人間の心の葛藤を描く作品に惹かれる読者に向いているかもしれない。内容(「BOOK」データベースより)傷を負ったのは、身体だけではない。心も深く傷ついていた…長い療養生活の後でようやく退院したレベッカは弁護士を辞め、故郷のキールナへ戻った。乞われて地元の特別検事の職に就いた彼女が立ち直りはじめた矢先、凍結した湖で女性の惨殺死体が発見され、またも事件に関わることになる。被害者の身辺を調べると、複雑な背景が浮かび上がってきた―スウェーデン推理作家アカデミー賞を連続受賞した注目作家の最新作。 本書で、主人公レベッカは恋にも悩む。毛嫌いしていたはずの、プレイボーイの上司のことが頭を離れない。「一方では、わたしは彼を忘れるべき、他方では、わたしは溺れる女みたいにわら一本分の愛にすがるべき。一方では、それは複雑なものになる、他方では、単純なはずがない。愛というのは」2作目の事件で心に傷を負ったレベッカは、終始気持ちが塞ぎがち。わざと煩雑な仕事を選び、気を紛らわせている。動いていないとおかしくなってしまうかのように。新たな事件が刺激となり、顔をひっぱたかれたかのごとく、ハッと目が覚める。仕事はひとつじゃない。人はどこでも暮らしている。裕福と貧困の違い? 人間関係って?いろいろなものが覗く。そんな物語か。スウェーデン極北の田舎町。その大自然を想像しながら、主人公とともに悩むのも充実した時間に思えた。

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