ラギッド・ガール (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション 廃園の天使 2)
- 早川書房 (2006年10月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152087676
作品紹介・あらすじ
人間の情報的似姿を官能素空間に送りこむという画期的な技術によって開設された仮想リゾート"数値海岸"。その技術的/精神的基盤には、直感像的全身感覚をもつ一人の醜い女の存在があった-"数値海岸"の開発秘話たる表題作、人間の訪問が途絶えた"大途絶"の真相を描く書き下ろし「魔述師」、"夏の区界"を蹂躙したランゴーニの誕生篇「蜘蛛の王」など全5篇を収録。"数値海岸"開設から長篇『グラン・ヴァカンス』に至る数多の謎を明らかにし、現実と仮想の新たなる相克を準備する"廃園の天使"シリーズ待望の第2章。
感想・レビュー・書評
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「零號琴」が面白すぎたので、遡って初期の作品を。この自由に広がり、複雑に(でも意外とシンプルに)絡み合う世界観をするっと受け入れられるかがまず問題だけど、設定以外はあくまで普段の会話で成り立っているから、意外といける人が多いのではないでしょうか。世に出ている下手なAI(人工知能)の書物を読むなら、この作品を読んだ方が身に迫ってAIがある感覚を味わえて、理解できるように思われます。五編からなりますが、「魔術師」がクライマックスというか、一気にモヤが晴れる感じで気持ちいい。ただ、読むのはほんと大変というか、図書館で3回借りてやっと読了しました。ぜひ先入観なくチャレンジしていただきたい作品です。
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数値海岸はどうできたのか?
大途絶とは?ランゴーニは何者?
…等々の、前作の謎があっけないほど開かされる短編集。
短編じゃなくて長編で読みたかったかも…。もったいない…
ともあれ、シリーズ新作の完成がより楽しみになる。 -
すごいすごいすごい。すごくおもしろかった。すごく好み。仮想リゾート<数値海岸>の中の嗜虐趣味に満ちた<夏の区界>だけではなくて、<大途絶>も<数値海岸>そのものも、誰かの欲望の中で生まれたようなもの。傷つけたい傷つけて欲しい。現実世界では自分をコントロールできる普通のヒトが持っている、いわゆる<殺し愛>的な倒錯した欲望。諸々。なのに仮想リゾートの中で演算されるAIの人格を通して「ただの著作人格なのに、それでもいたたまれない。この感情はいったい何なのだろう。」なんて突きつけられたら読者の傍観者的立ち位置なんて揺らいでしまう。ショッキングだ。そうして最後にあとがきで、『クラッシュしたハードディスクのデータたち(=<小途絶>に遭ったデータ群)に捧げる』…なんてものすごく身近なところに話を落とすなんて!そんなに念を入れて衝撃を与えていかないで欲しい!(褒め言葉)1作目の『グラン・ヴァカンス』に至るまでの前日譚的な5編の中編集。
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飛さんの頭の中を覗いてみたいって思うのは、おいらだけではないに違いない。でも、この中編集を読んだあとで「頭の中を覗く」なんていうのは、かなり失礼なのかもしれないね。
読みながら、どっかアラを見つけてやろうって、あれ、これはちょっと違うんじゃないの、なんて思う度に、何ページかあとで辻褄が合ってたりしていて、口惜しいけど降参です。「ラギッド・ガール」「クローゼット」と書き下ろしの「魔述師」の現実側三作で、なんだかわかったような気にさせてくれて、ちょっと余裕で「蜘蛛の王」に入ると、ああそうだったのかと、またガツンとやられちゃう。この配置も巧みですね。
何年か前に、飛さんに薦められたファウルズの「魔術師」、未だに読んでいないことに、今、本当に後悔しています。しまった。
ところで、ノートで「ラギッド・ガール」から"思ってもみない怪物がごろりと出てきて、びっくりした"なんて言ってるけど、それは飛さんから出てきたもの。つまり、あなたも怪物ですよ、って思うわけです。おいら達は飛さんの<活字海岸>に翻弄されているわけですね。 -
ベストSF2006年1位
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mmsn01-
【要約】
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【ノート】
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47:「廃園の天使」シリーズ第2弾。前作は「数値海岸」のAI視点のみでしたが、「数値海岸」の製作者、リアルの人間側の描写を交えることで世界観がぐっと深まりました。情報的似姿、アイデンティティ境界、区界のリソース、区界を行き来する鯨。心躍るキーワードの意味が明かされ、「大途絶」の背景が見えたかと思いきや、その何重もの構造に気が遠くなる。「わたし」とは? 「わたし」は実在するのか? 答えのない問いをぐるぐる考えたくなる。細かな設定好きにはたまらない。文庫版購入検討中。
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区界や大途絶の成り立ちが明かされるので、前作『グラン・ヴァカンス』の納得のいかなさは多少解消されたものの、やはり続編を待たねばならないので収まりがつかず、落ち着かない。思えば連載式の物語を読むのが何十年ぶりだから、こちらに耐性がないのだろう。
読んでいて嫌な汗が出そうなほど残忍な性格のキャラクターがぞろぞろ出てきて、それが一様でないのはよい。が、それ以外の面が見えないので、彼らがそうあることの切実さが立ち上がってこなかった。 -
裏舞台を高みから眺めた感じ。一気に前作が箱庭世界の雰囲気に。