スペード&アーチャー探偵事務所

  • 早川書房
3.83
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152090928

作品紹介・あらすじ

1921年、コンチネンタル探偵社を辞めたサム・スペードは、サンフランシスコに自身の探偵事務所を構えた。さっそく持ち込まれた依頼は、密航を企てている息子を止めてほしいという銀行家からのもので、調査するうちにスペードは、折しも発生した金貨盗難事件に巻き込まれていく。さらにスペードのもとには、プールで変死した男に絡む黒い噂、美しい中国人女性からの謎めいた依頼など、いわくありげな事件が次々と舞い込んでくる。そんなある日、スペードは旧知の同業者で汚れ仕事を得意とするマイルズ・アーチャーと再会。二人はパートナーを組むこととなり、かくして"スペード&アーチャー探偵事務所"が誕生することとなった!ハメットの研究家としても知られるゴアズが、文体、雰囲気、時代背景にいたるまで原作の世界を見事に再現。ハードボイルドの金字塔『マルタの鷹』のルーツを描く話題作。

感想・レビュー・書評

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  • 古き時代のハードボイルドかな。
    マルタの鷹読もっと。

  •  ハードボイルド・ファンなら、誰しも、この本が十年に一度あるかないかの重要な話題の対象となることを理解するに違いない。

    何しろハードボイルドの創始者であるダシール・ハメット、その代表作である『マルタの鷹』の前日譚というふれ込み、ハードボイルドの代名詞として今も生きるサム・スペードという名の、あまりにも有名な私立探偵とその時代に反映されるほどの存在感、さらに現在彼を甦らせる作家が、ジョー・ゴアズ、と、これ以上ないほどに出揃い尽くしたネタの宝庫。これらを前にして、ハードボイルド・ファンが手を拱いて静観しているだけのわけがない。

     ゴアズは、その作品『ハメット』のなかで、ハメットがピンカートン探偵社に働いていた時代のエピソードを探偵小説として作り上げている。フランシス・フォード・コッポラ製作、ビム・ヴェンダース監督、フレデリック・フォレスト主演で映画化された話題作でもあった。

     ましてや、ゴアズ自身、探偵社での勤務経験を生かしたハードボイルド作家であることから、ハメットとの共通点がしばしば取り上げられる。ゴアズのDKAシリーズは、ハメットによく似た文体で書かれた、実際の経験に基づくリアルな探偵小説として知られている。シリーズは、今も書き継がれているが、未邦訳の作品がまだまだ多いのが残念だ。

     さて本書は前日譚と言いながらも、独立した事件を三つの中編小説のように綴りながら、なおかつ三編に共通する仇敵を、スペード持ち前の負けん気の強さで追い詰めるまでの一貫した一つのストーリーとしても成立している。

     それらの事件ファイルを通じて、スペードを取り巻く人間模様をゴアズは、より精緻に描いてみせる。

     エフィ・ペリンが初めて秘書になったときの様子、ダンディ警部補との事前の罵り合い、アーチャーと共同経営に至るまでのいきさつ、アイヴァ・アーチャーとの奇妙な関係、シド・ワイズ弁護士とのそもそもの馴れ初め、などなど、無論賛否はあろうが、『マルタの鷹』一作で書かれていないスペードを取り巻く環境を、ゴアズはその想像力で補強してみせたことになる。

     しかもス、トーリーは期待通りに絡まり合った単純ならざる人間絵図を基盤とし、1920年代のサンフランシスコという、今いる地点からみると、相当に遠い時代・場所を活写してみせてくれる。言わばハードボイルドの神髄と風格とを、現代に追体験させてくれるのだ。

     すべての事件が解決したとき、お馴染みのシーンでこの本は幕を閉じる。エフィが来客を告げ、スペードが誰かと尋ねる。エフィが応える。どの道会ってみたくなるわよ、ワンダリーと名乗るその女はとびきりの別嬪さんだから。通してくれ、とスペードが答える。『マルタの鷹』の1ページ目だ。

     勿論、細部を照合するために、ぼくは続けて『マルタ』本編を一気に読み始める。3度目の『マルタ……』だ。この、最初は難物であった作品が、不思議なことに、以前よりもずっと読みやすくなっていることに我ながら驚かされる。ゴアズによってスペードを取り巻く世界への理解が、予め準備されていたことによる影響に違いない。

     ハメットの素晴らしさを改めて知るための重要な補填資料としても、完全に独立したゴアズ作品単品として捉えても、いずれ優れた、渾身の一作であることに間違いない。できればもう一度『マルタの鷹』を手に取られ、連続して読まれることをお勧めしたい。

  • 『サミュエル・スペード探偵事務所』

    『三人の女』

    『マイルズ・アーチャー』

  • 表紙が好きです手に取った本。

  • 『マルタの鷹』は未読である。映画をずいぶん昔に観た記憶があるだけで、ほとんど初心者に近い。ハードボイルドは好きなサブジャンルなので、いつかはハメットを読みたいと思っていた。順番は逆になったが、予習をした上で原作を読むのも悪くないかなと思う。
    どこまでも簡潔な筆致で構成され、徹底して心理描写を排した特徴的な作風は、きびきびとしていて実に心地よい。一見、読者を突き放したつくりにも感じるが、逆に言えば、それだけ想像の余地が残されているということ。荒削りな雰囲気と乾いた世界観、それこそがハードボイルドの醍醐味であり、他のサブジャンルと一線を画すポイントなのだろう。
    ストーリーは三つの事件から構成されている。基本的にはそれぞれが独立しているが、ある人物で繋がっている。ホームズのような謎解きのスペシャリストもいいが、人と場所の間で常に緊張を強いられるスペードのような私立探偵も魅力的でよい。サム・スペードはハメットの考える理想の探偵像らしい。確かに、これ以上しっくりくる主人公もいないだろう。それを再現したゴアズの手腕には敬意を表する。

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