ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか?
- 早川書房 (2012年11月22日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
- / ISBN・EAN: 9784152093394
感想・レビュー・書評
-
下巻はとことん、経済合理性で説明できない意思決定の解明へ。本書の専門用語を用いれば「プロスペクト理論と損失回避性」という事だが、〝損失や期待値が幾らなら賭けに乗るか“という事をアンケートから徹底的に追求し、数値化した点は素晴らしい。人間は、得をしなくても良いから、それ以上に損をしたくない生き物だ。
ー 損失回避というコンセプトは、心理学から行動経済学への貢献の中で、おそらく最も重要なものだ。また脳は単に象徴的な危険に対しても敏感に反応する。感情的な言葉はすぐに注意を引きつけるし、戦争や犯罪といった危険を払う言葉は、幸福に満ちた言葉よりも早く注意を喚起する。
死ねば終わり、という事を無意識に知っている。この本を読んで痛感したのは、人間はセックスや飽食よりも、自己保存つまり防衛本能が勝るという事。それはそうだろう。殺されそうになれば、それらの行為を中断するはずだ。つまり「防衛」が全てに勝る。という事からも、リスク回避最強説は自明とも言えそうだ。承認欲求や不正忌避、徒党を組むような所作も全て「防御本能」だ。
経済合理性など、生命には勝たん。ゆえに。
合理的存在のエコンなど、理論上の存在だ。
では、「生命>経済合理性」をどのような基準値で判断しているのか。命の値段、命に間接的に関わる意思決定のボーダーラインとは。本書が面白いのは、この見えない境界線を探りに探りまくる所。
ー 感情は正確な確率に反応しない。自爆テロにより利用可能性の連鎖を引き起こす。痛ましくも鮮明な死者や負傷者のイメージが報道や日々の会話によって絶えず増幅され、広く身近な取り出しやすい情報となる。自分では制御できない連想的で自動的な感情覚醒が起こり、どうしても防衛行動を取りたいと言う衝動に駆られてしまう。
バスでテロが発生。そんな非日常が起こる確率はほとんどないのに、著者はバスに近寄ることさえ敬遠する。コロナ禍でもよく分かった。確率など大多数には無意味だ。
ー 自分の選考が客観的事実ではなく、フレームに左右されていると言うことに気づく機会が滅多にない。例えば死亡率10%、生存率90%であれば生存率90%の方が手術を受けやすい。
ー 身銭を切って投資したものに対して、きちんと元を取ろうとする感覚。メンタルアカウンティング。
言葉の印象から、自らの身体的危機を見抜く。大切なのは、数字ではなく直感。しかしそれは正しくない。ただ、直感で動かなければ、捕食されてしまう可能性もあるため、元来人間に備わった機能だ。また、お金をかけたものを大事にしたいという感情もよくわかる。お金はカロリー交換券だ。だから、執着する。マネーマネー。生きるために。
ー 日常生活のいくつかの場面では、損失は利得の約二倍の重みを持つ。損失という言葉は、費用という言葉よりずっと強い嫌悪感をかき立てる。
分かる、分かる。共感する。人間にインプリントされた基本機能だ。自分たちのプログラミングをリバースエンジしていく。
ー 重要なのは記憶である。素晴らしい旅行をした後にその記憶が消されるのであれば、人はその旅行にお金を全く払いたくない。また苦痛を伴う手術をしてもその記憶が消されるのであれば、人はその苦痛を我慢しようとする。
自身のメモリーを守れ。そのために必要な行動をせよ。時に、悠長に考えている時間はないのだと。また、面白い本と出会った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読みやすいけど、腑に落ちる感覚があまりない。
人間の思考について書かれているが、応用先が思いつかなかった。
上下巻共に読むのに時間をかけすぎた。
一気に読破すると見えてくるものがあるかもしれない。
とりあえず寝かせて、数年後にでも戻ってきたい。 -
下巻では、まず行動経済学として知られることになった人間の選択行動について論じられている。さらに、二つの自己として、経験する自己と記憶する自己の違い、苦痛や幸福の評価軸の違い、について論じられている。双方とも興味深いテーマである。
第四部は経済的合理人である「エコン」に対して、系統的に誤る「ヒューマン」を対峙させる。この議論が、行動経済学の名で知られる意志決定に関する理論である。プロスペクト理論という名前でも有名で、S字を描く価値関数のグラフで知られている。人の選択において「参照点」「感応度逓減性」「損失回避」の特性を考慮すべきとされている。いったん保有するとその価値以上に手放すことを忌避する傾向「保有効果」も有名だ。
たとえば、同じ金額であっても選択にあたっては、変化の絶対値よりも割合の方を重視するとか、得る方よりも失う方を重視するというものだ。これらは「システム1」の特質から導き出せる。期待値よりもリスクを嫌う、変化の大きさに反応する、ということが人が適者生存の過程で生き残るにおいて有利に働いたということだ。言われてみればそうだよなというものだが、慎重にデザインされた実験から導き出されたのは最近の研究からだ。この辺りの議論は、本書でも何度も取上げられているがセイラーとサンスティーンの『実践行動経済学』と合わせて読むとよいだろう。
めったに起りそうもないことに対して過大な重みづけをすることも知られているが、「システム1」で解釈可能とされる。質問の表現の仕方(「10%が死ぬ」か「90%が生き残る」か等)で選好が大きく変化することを示したフレーミング理論も行動経済学の大きな功績とされている。
これらの選好に関する結論だけでなく、その結果が導き出される実験についても解説が詳しい。本書が長くなっている原因でもあるのだが、非常に重要なポイントでもある。
第五部は、「経験する自己」と「記憶する自己」の話。
記憶に基づく評価はピーク時と終了時で決定され、その持続時間には影響されないというものである(持続時間の無視とピーク・エンドの法則)。つまり、記憶されるものは経験されたものと同じではないということである。記憶する自己自体は「システム2」の産物かもしれないが、その快楽の評価は「システム1」から来るものである。それは記憶というものが何のために進化の過程で獲得されたのかをも示している。
まとめると、これらのことを「システム1」と「システム2」という仮説モデルにて説明したのが、本書である。ある分野の活性化など脳神経学の知見にも一部言及されているが、今後より具体的な研究が進む分野となるだろう。コールドウェルの『価格の心理学』でも参照されているが、実際のビジネスや政策にも適用される分野で広がりが期待できる。
改めて、細かいところは飛ばしてもいいので、読むべき本。 -
心理学者にしてノーベル経済学賞を受賞した著者が、直感的・感情的な「速い思考」と、意識的・論理的な「遅い思考」の比喩をたくみに使いながら、人間の意思決定の仕組みを解き明かす。下は第3部第22章〜第5部を収録。【「TRC MARC」の商品解説】
関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40176573 -
人間の認知選択の特性はこの本を読んでおけば事足りるのではないかと思えるくらい網羅的に書かれている。
プロスペクト理論により選択を間違えることはかなり多そうなので、計算に基づいた選択をするように心がけていこう。 -
展示図書 思考力フルスロットル!!!
「考えを学ぶ」「考えを鍛える」「考えを描く」図書
【配架場所】 図・3F開架
【請求記号】 141.8||KA||2
【OPACへのリンク】
https://opac.lib.tut.ac.jp/opac/volume/379927 -
面白い本だった。
人間のシステムと傾向について、意思決定の側面からの考察が興味深かった。 -
感想は上巻に同じ。
-
・結論だけでいいんちゃうか
-
認知について学べる。が、やや常識的になりつつある話かもしれない。