あるときの物語(下)

  • 早川書房
3.78
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本棚登録 : 98
感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (321ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152094421

感想・レビュー・書評

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  • 一冊の本を目の前にして理系がからっきしの自分がどれだけの数存在しうるのか、内容もまた表紙を開いたりページを捲るときに変化しうるとかの理論なんかひとつも飲み込めてないし、合ってるのかさえ分からないけど凄くドキドキした。これが本を読むのを読められない理由のひとつかもしれないと思う。ナオの書くジコウの人生を物凄く読みたい、読んでる私も存在しているかもしれないと思うとまたドキドキする。六十四億九万九千九百八十の刹那を28×365と少しを一刹那も感じず大事にしなかった。時折、指を鳴らして刹那を感じてみようかな。

  •  10年以上前に日本で書かれた日記が、時空を越えてカナダの小島にいるルースに語りかける。
     我々読者は、ルースと一緒に祈る。「どうか彼らが無事生きていますように」と。
     アメリカ企業を解雇されて日本に帰国した父の自殺未遂、語り手ナオへの凄惨を極めるいじめ、それらの先に彼らがみたものは?日記が3.11の波によって流されてきたものなのであれば、ナオたち家族は無事なのか?ハルキ①の日記はどうやってナオの手元に渡ったのか?
     これらの疑問を物語が解き明かしてくれることを期待するも、謎は謎のまま終わってしまう。ただ一点だけ明らかになったのは、「ヤスタニハルキ(父)とヤスタニナオ(娘)は存在していた」ということだけ。物語が終わった今も、やはり祈ることしかできない。

     ふたりのヤスタニハルキに共通するかっこよさに私は震えた。戦争を憎み、「波と戦ったほうがまし」と海に自分の飛行機を向かわせた①と、自分の作ったインターフェースが軍事に利用されることに耐えられなかった②。その良心ゆえにふたりとも生きづらさを抱えるのだけれど、とっても美しい生き方だしかっこいいと思う。何の慰めにもならないけど、かっこいいよって伝えたいと思う。

     物語の肝となる量子力学やシュレーディンガーの猫については残念ながらよく理解できなかったが、時間を粒子と捉える禅の考え方ははっとさせられた。刹那、刹那、刹那。『いま、いま、いま、と指でおさえているうちにも、いま、は遠くへ飛び去って、あたらしい「いま」が来ている。』と太宰も書いてたのを思い出した。刹那の連続の中に、世界中の選択が重なっていると思うと、「今」が奇跡みたいに思えてくる。

  • 読んでいて苦しい
    つらい
    哀しい
    でも・・・よかった

  • 下巻は量子理論が出てきて,さらに難解。
    過去と現在,夢と現実が混ざり合い,互いに影響し合うという,さらに幻想性を増しています。

    個人的にはハルキ①のパートが心を打ちました。
    ただ,ハルキ①のノート,どうやってジコウの手元に届いたのかという点については消化不良のまま。
    ハルキ①がとても魅力的な人物だっただけに,ここは何らかの結論があった方がよかったように思います。

    父娘が未来へ歩き出していく様子をうかがわせて物語は終わり,読後感は悪くありません。
    壮大で読み応えのある小説です。

    もっとも,手元に置いて何度も読み返したいかというと私にとってはあと一歩というところでした。
    個人的な好みですが,それは以下の点から。
    ・過去と現在が混ざり合わなかった上巻の方が好み。
    ・ファンタジーが入るより,とことんリアルに進んでほしかった。
    ・ハルキ①のノートが残っていた経緯,日記がどうやって流れ着いたのか,何らかの結論が示されている方がよかった。
    ・ジコウと過ごし,感化されたはずなのに,あっさり売春に走るのはどうかと思う。この点は受け入れられない。

    以上が読了直後の率直な感想です。
    不満もありますが,深い余韻を残す作品だと思います。

  • 読み終わり。物語の完成直前に東日本大震災が起きて,一から書きなおされたという小説。仙台が出てきます。慈眼寺というお寺も。(その名前のお寺,うちの近くにあるよ)

    時間と場所と登場人物がいったり来たりする不思議な小説で,とても引きつけられました。ナオのその後が知りたい。

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