津波の霊たちーー3・11 死と生の物語

  • 早川書房
4.31
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本棚登録 : 388
感想 : 50
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152097422

作品紹介・あらすじ

在日20年の英国人記者は被災地で何を見たのか? 震災直後から東北に通い続けた著者は、大川小学校事件の遺族たちと運命的な邂逅を果たす。取材はいつしか相次ぐ「幽霊」の目撃情報と重なり合い――。『黒い迷宮』の著者が悲しくも不思議な津波の余波に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • 311から13年経とうとしており、あの大津波災害が朧げになっていないかと、『思い出せ』という気持ちで年明け旅行の本に選んだ。
    まさかの、元旦の能登半島地震。津波。
    最近の地震は津波を伴わないものが続いてたけど、起こるとまた甚大な被害を引き起こした。

    本では、まずは大川小学校。ニュースでよく聞いていた名称であるが、個々人の思いや、何故裁判にまで及んだのか、わからないままの事、隠蔽されたままの事は何なのかがよくわかる。教育委員会をはじめとする行政の闇。組織を守る第一主義。

    イギリス人が書いてるから、我々にとって当然の事に名前をつけられて、所々ではっとする。宗教や信仰は希薄なようで、先祖崇拝が強い。これが自然体すぎて宗教や信仰と繋がっていないけれど、これも信仰か。

    我々は苛烈な自然現象が多発する国土に住っているから、『受け入れる』ことや『我慢する』『耐える』世界に入りすぎているのかもしれない。受け入れたら、この先も良い社会にはならない事だってたくさんある。この生きる姿勢に気付き、行動する。とんがっててもいいじゃないか。
    そんな事を考えた。

  • 2023年5~6月期展示本です。
    最新の所在はOPACを確認してください。

    TEA-OPACへのリンクはこちら↓
    https://opac.tenri-u.ac.jp/opac/opac_details/?bibid=BB00540060

  • 映画「生きる - 大川小学校 津波裁判を闘った人たち-」を観たあとの監督のお話に、遺族の間にも色んな立場の人がいる、彼らは大川小学校遺族の代表のように写るけど実際は立場は様々である、と伺い、もっと知りたいと思い手に取った一冊。
    読めば読むほど、遺族の間の立場にも様々であることをより深く知れた。さらに、金田住職の話はとても興味深く、霊的現象を信じない私でもそういうこともあるのか、と感じざるを得なかった。
    そして、こういう感想を書いてる時点で、私もやはり非当事者の域を出ることはないのだなと、考えさせられた。

  • 背ラベル:369.3-パ

  • 2023年1月25日読了

  • 日本人ジャーナリストが取材した海外のNFを読むような感覚。
    3.11については無意識に当事者的な視点と感情を内面化してしまうので、冷静な他者の視点が暗黙のうちにインストールされるのが新鮮でした。

  • 東日本大震災で起きた大川小学校の遭難についてのルポルタージュと、震災後に被災された方などが、体験された心霊現象とそれに向き合った僧侶の経験。タイトルから心霊のイメージが感じられるが、内容的には、大川小学校の話が中心である。

    「九月、東京の路上にて」に続き、重い内容の本だった。震災時の状況、遺族の想い、変容するコミュニティーの様子など、実際の取材による生の言葉や状況描写から、改めて被災時の惨状や現地の方への影響が響いた。

    74人の児童と10人の先生が亡くなったことについて、亡くなった児童の家族に丹念に取材していくことで、報告書や議事録には残されなかった会議や行政、学校側の様子もわかる。遺族内も何あったか知るために訴訟を起こす人たち、行方不明の子供を探すことに注力する人たちとそれぞれの想いで分かれる。根本に行方不明のままかどうかという点があったりするのもつらい。

    著者は、丹念な取材の中、日本人の受容の精神に耐えきれないとの苛立ちを見せる。地域コミュニティーで、声を上げることへの圧力も触れている。東北という地域性にも触れているが、日本の持つ問題を認識させられる。

    霊については、起きている現象や僧侶の活動を通して触れられる。オカルティックな面ではなく、その現象と向き合うことで、精神的な落ち着きにつながっていく様子が見える。

    中で震災経験を伝える人が、各地で行った際に、自分に起こるものと認識できてくれていないことにショックを受けている話がある。震災から10年、いろんな情報が入ってきたが、自分のことに置き換えられてはいなかった。置き換えられるものか?という点はあるが、この本を読んだことで、自分にも起きることと、改めて考え直していきたい。

  • 大川小学校のことはもちろん知ってはいたが、きちんと知るのが怖くて避けていた。
    どの家族の話も読むのが辛い。涙が出る。

    震災の夜、子供たちが小学校の屋上にいると聞いてなんとか心を落ち着かせた母親たち。
    でも翌日になっても子供が帰ってこない。
    ぽつりぽつりと子供が発見され...

    この悲劇を学校側がきちんと説明しないこと、
    生還した唯一の先生も本当のことを話しているとは思えないのに姿が見えくなってしまうことに憤りを感じた。

    日本人の気質や考え方や宗教観、家長制度のなごりなど、日本人ではない筆者の分析がすばらしい。
    日本人だったらここまで明瞭に書けないと思う。

    失ったものの大きさによる隔たり。
    生還した子供の家族と、そうでない家族の隔たり。
    子供の遺体が見つかった家族と、そうでない家族の隔たり。
    学校と市に説明を求める家族と、それよりも子供を探すことを優先する家族の隔たり。

    今までは被災者とそうでない私たちの隔たりしか考えてなかったが、被災者の中でのすれ違いや居心地の悪さがあるなんて思いもしなかった。

    津波は命を奪っただけでなく、地域や友情や夢や生活も、全て奪ってしまった。

    読んだだけの私ですら辛いのに、被災者はどんなに傷ついて心が張り裂けているのだろう。
    心が震災前に戻ることはないのかもしれない。
    何もできなくて辛い。

  • 幽霊談はただのオカルトや怪談ではなく、生者が死者に折り合いをつけ納得していくための物語だ。大川小学校の逸話は嗚咽なしに読めなかった。
    保護者たちは皆、子供たちが避難したと思い込んでいた公民館で寒さに震えてるのではないかと心配し、温かい飲み物や食べ物を用意して、もはや帰らぬ子供達を待ち続けていたのだ。
    子供がいない自分でも辛い。子供がいる家の人は頭がおかしくなるんじゃないかと思う。

  • 多分ノンフィクション小説を読んだのはこの本が初めてだと思う。
    400ページ以上の超大作で、3月11日までに読み終えられれば良いかなと予定を立てていたが、ぐいぐい引っ張っていく文章力が素晴らしく、4日で読んでしまった。

    あの日、大川小学校で何が起こったのか?
    様々な人物の行動や視点から真実を辿っていく。
    外国人ジャーナリストだからこそ浮き彫りにできる日本の伝統的な家制度、そして政治に対する日本人の姿勢。
    このノンフィクション小説は悲しい物語だけを語るのではなく、何が原因だったのか、何が今後の課題となるのか。
    ひとつひとつ紐解いていく。
    あの日、子供達の命を奪ったのは津波だけが原因ではない。

    大事な人の遺体がいつ見つかったのか、そもそも遺体はまだ見つかっていないのか。
    そういう差で被災者同士の間に溝ができているのが印象的だった。
    遺体が見つかることによってそこで折り合いをつけて先に進もうとする人間と、遺体が見つからないためにいつまでも踏ん切りがつかない人間がいる。
    それらは彼らが選んだ悲しみとの向き合い方に帰結する。

    一瞬にして消えていった大切な家族の命。
    そして、誰かの命。
    沢山の人が語る体験談に目が離せなかった。
    今年は東日本大震災から10年という節目。
    是非この本を手に取って、改めて東日本大震災を振り返ってほしい。

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著者プロフィール

英『ザ・タイムズ』紙アジア編集長および東京支局長。1969年生、英マージーサイド州出身。オックスフォード大学卒業後、1995年に『インディペンデント』紙の東京特派員として来日。2002年より『ザ・タイムズ』紙に属し、東京を拠点に日本、朝鮮半島、東南アジアを担当。アフガニスタン、イラク、コソボ、マケドニアなど27カ国・地域を取材し、イラク戦争、北朝鮮危機、タイやミャンマーの政変を報じる。著書に、『狂気の時代』(みすず書房、2021年)のほか、日本を舞台にしたノンフィクション『黒い迷宮』(2015年)、『津波の霊たち』(2018年。ともにハヤカワ・ノンフィクション文庫)がある。『津波の霊たち』で2018年ラスボーンズ・フォリオ賞、2019年度日本記者クラブ賞特別賞を受賞。

「2021年 『狂気の時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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