NOISE 下: 組織はなぜ判断を誤るのか?

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152100689

感想・レビュー・書評

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  • 行動経済学という学問をまさしく一般に普及させた立役者の一人といえば、『ファスト&スロー』等の著作で知られるダニエル・カーネマンであろう。彼が、ナッジ理論の理論的中枢もであるキャス・R・サンスティーンらと記した新作にあたり、行動経済学の新たな世界が開けた、といっても過言ではない面白さに満ち溢れている(私はこの本をコロナワクチン3回目接種の副反応で寝込んだベッドの中で読み通してしまった。そのくらい面白い)。

    行動経済学の定義は幾つかあると思うが、オーソドックスな定義の一つは”人間の不合理な行動やエラーというのはなぜ起きるのかを解き明かす学問”であるというものではないか。その際によく言及されるのが”バイアス”と呼ばれる人間のものの見方の偏りである。

    しかし、不合理な行動やエラーを起こす要因としてもう一つ大きなものがある。それが本書のテーマ、”ノイズ”である。本書は行動経済学の中で”バイアス”ばかりが語られている点を是正すべく、いかに”ノイズ”が我々のエラーを巻き起こしているのか、そしてその対処法までを明らかにする。

    ここでいう”ノイズ”とはいわゆる分散の概念である。
    例えばダーツに的を投げたときに、
    ・投げたダーツが一定のエリアに集中している⇒”バイアス”
    ・投げたダーツがバラバラに散っている⇒”ノイズ”
    ということになる。

    合理的な意思決定をしているようで実は”ノイズ”によって人間の意思決定がてんでばらばらであるということを明らかにする事例として、同一人物による病気の診断や保険金の支払査定などのバラつきのデータを見ると、これが恐ろしいほどの分散を見せる。その分散はあまりにもひどいため、過去に自身が判断したデータを用いて簡単な機械学習モデルを作ると、遥かに機械学習モデルの方が高い精度を出せるという。

    ”ノイズ”の要因は色々あるが、大きいのはそのときの人間のストレス、気分などである。疲れを知らず感情に惑わされることがない機械学習モデルが高い精度を出すのも、むべなるかな、というところであろう。

    さて、そうした”ノイズ”の実態、それがどれだけのエラーを巻き起こし、結果として社会にどれだけの余剰コストを生み出しているかを考えると、この対処策が重要になってくる。本書では簡単なテスト形式で、具体的に組織の”ノイズ”を減らすための処方箋も示されている。

    ”バイアス”が行動経済学のキーワードとなったように、ワーディング自体は全く珍しくもなんともないものの正しくその弊害が認識されていない”ノイズ”をいかに扱うか、これは行動経済学の実践としてより良い社会・組織を作っていく上で、必須のものになっていくのではないか、という強い期待すら感じた。

  • ノイズを減らすための各ステークホルダーの合意は取れるのだろうか。
    そのプロセスに大きなコストがかかりそうな気がする。

  • 東2法経図・6F開架:141.5A/Ka19n/2/K

  • レビューはブログにて
    https://ameblo.jp/w92-3/entry-12728413113.html

  • 個人のバイアス(認知の偏り)より恐ろしい、集団内の判断のばらつき=「ノイズ」について解説した書の下巻。

    4部 ノイズはなぜ起きるのか(承前)
     16章 パターン
     17章 ノイズの原因
    5部 よりよい判断のために
     18章 よい判断はよい人材から
     19章 バイアスの排除と判断ハイジーン
     20章 科学捜査における情報管理
     21章 予測の選別と統合
     22章 診断ガイドライン
     23章 人事評価の尺度
     24章 採用面接の構造化
     25章 媒介評価プロトコル
    6部 ノイズの最適水準
     26章 ノイズ削減のコスト
     27章 尊厳
     28章 ルール、それとも規範?
     まとめと結論 ノイズを真剣に受け止める

  • 意思決定の誤りをバイアスとノイズに分けて、様々なノイズを考察する。人が違えば同じ事象に異なる判断をしたり、時期を違えば同じ人が同じ事象に異なる判断をしたり、人によってそれぞれ判断がぶれやすい事象があったり。そのほか、ノイズを生む要因として、直感や第一印象での判断に固執し、都合の悪い情報をねじ曲げたり、無視したり、判断を裏打ちしてくれるような質問をしてみたり、という事例が挙げられている。自身でも思い当たることばかりだ。
    人間らしさと言えばそれまでだが、これが裁判官であったり、医師であったりしたら確かに看過できない。
    本書の後半にはノイズを防ぐ対策が記載されている。タスクを細切れにして独立して判断してみたり、直感に頼るタイミングを遅らせようとしてみることはできそうだ。
    全般的に納得できる内容だが、繰り返しが多く冗長に感じた点が多かったのが少し残念。

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著者プロフィール

心理学者。プリンストン大学名誉教授。2002年ノーベル経済学賞受賞(心理学的研究から得られた洞察を経済学に統合した功績による)。
1934年、テル・アビブ(現イスラエル)に生まれへ移住。ヘブライ大学で学ぶ。専攻は心理学、副専攻は数学。イスラエルでの兵役を務めたのち、米国へ留学。カリフォルニア大学バークレー校で博士号(心理学)取得。その後、人間が不確実な状況下で下す判断・意思決定に関する研究を行い、その研究が行動経済学の誕生とノーベル賞受賞につながる。近年は、人間の満足度(幸福度)を測定しその向上をはかるための研究を行なっている。著作多数。より詳しくは本文第2章「自伝」および年譜を参照。

「2011年 『ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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