ポストカード

  • 早川書房
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (552ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152102607

作品紹介・あらすじ

2003年、パリ。ある朝、著者の自宅にポストカードが届いた。差出人名はなく、1942年にアウシュヴィッツで亡くなった著者の曾祖父母とその子どもの名前のみが書かれていた。誰が、何のために出したのか。差出人の謎と戦争の記憶を著者が辿る、実話に基づく物語。

感想・レビュー・書評

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  • 第二次世界大戦中のフランス・ヴィシー政権下のユダヤ人迫害の実態を描いたノンフィクション小説。

    物語は、母方の祖父母(エフライム、エマ)と叔父(ジャック)、叔母(ノエミ)の名前のみが記された一枚の匿名ポストカードが自宅に突然届いたところからスタートする。カードに記された4人は61年前にアウシュヴィッツで亡くなっている。母親(レリア)と私(アンナ=著者?)は、過去を辿り、殺された4人とホロコーストを生き延びた祖母ミリアム(ノエミとジャックの姉)の足跡を徐々に明らかにしていく。「母が十六年前に受け取ったあのポストカードを誰が書いたのか、何が何でも捜しだそうと思った」(byアンナ)。

    ユダヤ人とは結局なんなのか? 本作はユダヤ人のアイデンティティ探しの旅でもある。アンナがたどり着いた結論は、「ユダヤ人とは、『ユダヤ人とは言うものの何か』を自問する者だ」というもの。

    「わたしの細胞には、ひどく危険な目に遭った記憶が刻みこまれている。時折、自分自身が本当にそういう経験をしたか、あるいはこれから経験するのではないかと思われるほどに、はっきりと。わたしにとって、死はいつも身近にある。何かに取り憑かれているのではないかと思うことがある」、「わたしは、生き残った者たちの娘であり孫だ」、というアンナの独白、強烈だった。

    フランスのユダヤ人ホロコーストをテーマとした作品、初めて読んだ。なかなか衝撃的だったな。訳者あとがきによれば、「フランスでユダヤ人迫害を率先して行ったのは、ドイツ人ではなくフランスの警察と憲兵だった。各地の県知事や市町村長も警察の指示にしたがった。親独民兵隊も、レジスタンス掃討やユダヤ人逮捕を嬉々として行った。フランスは、決して「渋々と」ではなく「積極的に」ホロコーストに手を染めたのだ」という。作中にも、小学校の体育の先生に「おまえはさすがに悪徳商人の血を引いた子どもだな」と言われたことをジェラールが回想する場面が出てくる。現在に続くユダヤ人差別・迫害の根っこのところには、やはりユダヤ人が商売上手であることへの根深い妬みがあるのだと思った。本作でも、エフライムの父ナフマンが事業を経営したり、エフライムがパン製造を発明して特許を取ったり、と確かに商売上手として描かれているし…。キリスト教コミュニティに属さないやり手グループが嫌われてしまうのは、仕方ないのかな??

    「自由、平等、博愛」の国フランスにとって、ユダヤ人迫害はプライドを揺るがす大きな汚点なんだな、きっと。

  • 凝縮された想いの一冊。

    突然届いたアウシュビッツで亡くなった家族の名前が記された差出人不明のポストカード。

    誰が?なぜ今頃?

    ミステリアスさを軸に知られざる家族の歴史を紐解く作品。

    史実が浮き彫りになる過程は夢でうなされるほど苦しかった。
    想像を絶する負の遺産。
    人を人とも思わない迫害行為に一体どれだけの意味があるのか、今の世の中を重ねながら問いが渦巻く。

    家族の中で一人だけ生き残った祖母の苦しみ、著者の"ユダヤ人"を通して自分を見つめる姿も印象的。

    最後の一文にこれまでのぎゅっと凝縮された想いを感じ、ただ祈りたくなる。

  • 2003年1月、著者アンヌの母のもとに1枚のポストカードが届く。差出人不明のそのポストカードには、著者の祖母ミリアムの両親、妹、弟の4人の名前だけが記されていた。4人は1942年にアウシュビッツで亡くなっていた。
    61年の時を経て、誰が何のためにポストカードを送ってきたのか。
    なぜ祖母だけが生き延びることができたのか。

    この小説はノンフィクション小説と呼ばれるジャンルで、実在の人物が登場し、事実や資料にもとづいて構築されている。
    家族の過去やルーツを知って欲しいという著者の気持ちを強く感じたので、個人的には再構築の部分も良かったと思う。

    家族の物語であるのと同時に、『ユダヤ人とは何か。』というテーマが今も根強く続いていると思い知らされる。
    イスラエルとパレスチナの社会情勢を見ても、簡単に片付けられるような問題ではないと分かるのだが、いつまで犠牲が繰り返されるのだろうという虚しい気持ちにもなる。

  • ‘La carte postale’ by Anne Berest Wins First Ever ‘Choix Goncourt United States’ | Villa Albertine
    https://villa-albertine.org/the-villa/la-carte-postale-anne-berest-wins-first-ever-choix-goncourt-united-states

    『星の王子さま』作者はなぜ死んだのか 解明のヒントかもしれない「暗号612」:朝日新聞GLOBE+(2021.12.05)
    https://globe.asahi.com/article/14493153

    @anneberest • Instagram写真と動画
    https://www.instagram.com/anneberest/

    2023/8/2 ポストカード アンヌ・ベレスト/田中... [小説・エッセイ] - 新刊.net - 書籍やCD、DVD、ゲームの新刊発売日を自動チェック
    https://sinkan.net/?ean=9784152102607&action_item=true

  • ユダヤ人の置かれた状況やアウシュビッツなどのシーンは、辛くて辛くて読むのが鈍るほどだったが、届いた1枚のハガキを追いかけるアンヌの情熱や思いに、引きずられるようにしてついていった。
    やはり最後まで読むべき。よかった。

    これを選ぶフランスの高校生もすごいな。

    ネミロフスキーのことも出てきた。

  • ナチス占領下のフランスにおけるホロコースト あとがき参照
    ユダヤ人家族の苦難の歴史をひもとく
    、祖母だけが生き残った理由。
    『わたしが忘れるわけにはいかないの。
    この人たちが生きていたことを覚えてる人が、誰もいなくなっちゃうから。』
    ポストカードはミリアムが自身に書いたものだった。自身が記憶をなくしかけていると自覚してたから。

  • 四人の名前のみ記された謎のポストカード
    から始まる、過去に封印された
    一家の辿った悲劇の足跡を探す物語。
    ユダヤ人を襲った戦争の悲惨さ、
    それでもその恐怖に立ち向かい助けようと
    する人々。
    ポストカードの送り主の最後の思いは
    後世の娘や孫に無事に受け継がれ
    二度とこの様な世界にならない様
    読み手の私達も心に刻まなければならない。

  • 今の時代、特に日本では考えられないほど、ドイツやイタリア、フランスでのポストカードが持つ存在は大きい。自分の今いる存在や空気、心理的精神的な呟きを伝える一枚のポストカード。
    著者の曾祖母とその子供の名前だけが記された・・そこに込められた事実をすこーしずつ糸を手繰るかのように事実を探っていく。
    ノンフィクションとは言いつつ、良くも悪くも筆者の類まれな才能がキラキラと随所で煌めいているのは読み手の好みによるだろう・・事実のみを読みたかったと。私も、ン申し訳ないがそう感じた一人。

    まず装丁が好み、淡い色彩を載せたモノクロ調が20世紀のその時間を感じさせる。

    ストレートな独逸支配下を俯瞰したドキュメントや史実の解明は読んできたが、露仏、そしてイタリア、スイスでの時間的なつぶさの解明は初めて、そして驚く。

    作中、ずーっと流れるジューディッシュ、ユダヤ教の厳格な空気感と共に生きていくことの苦しさを糧に歴史を積み重ねてきた民族を垣間見た気がした。

  • 差出人不明のポストカードには、「わたし」=作者アンヌ・ベレストの曽祖父母とその子供たち……かつてアウシュヴィッツで命を落としたラビノヴィッチ一家4人の名が記されていた。でも、いったい誰が、なんのために?
    ポストカードに記された4人、そして一家のなかで唯一収容所行きを免れた祖母ミリアムのたどった道のりを追いながら、みずからのルーツとアイデンティティについて自問するアンヌ。それぞれの心の動きがつぶさに、彼らを取り巻く環境とともに重層的に語られて、ずしりとした読み応え。最初はノンフィクションかと思って手に取ったため、小説としての肉づけがされていないものを読みたかったという気持ちもあるが、それでも、家族が生きた記憶を消し去りたくないという作者の思いが強く伝わってくる作品だった。

  • つらい小説を読んでしまったと、ちょっと気持ちが沈んでいたので、感想も難しく、娘の卒業文集に没頭してしまっていた。ほんと、先生チェックなしの高3の卒業文集ほど面白いものはない。約300人分ぜんぶ読んだ。

    で。

    フランスの高校生が選ぶ、ある賞(調べればすぐわかるのだが調べたところで、だ)を取った小説。違う、小説かと思っていたら、ノンフィクションだったのでさらに、重くのしかかってきたのだった。

    ある日、アウシュビッツで生涯を終えた、祖母を含む家族4人の名前のみが書かれたポストカードが筆者の母親の元に届く(表紙のこれ!)。そこから彼らの歴史が動き出すーー。苦しすぎて途中、胸がつかえたりもするのだけど、勇気ある人たちに希望も持てる。でもすぐに、戦争さえ、迫害さえなければそんな危険をおかさずに済むのに、と暗澹たる気持ちに戻っていく。4人は確かに生きた、でももっと生きられるはずだった。やりきれない。惨すぎる。こんな過去があったのになんで人はまだ戦争をしているのだろう、と深く落ち込む。

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