八月の路上に捨てる

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (122ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163254005

感想・レビュー・書評

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  • 表題作は、明日離婚する男と離婚経験のある同僚の先輩女性社員の、男に関する結婚生活などのプライベートの会話と間に挟まれる男の結婚生活の回想の物語。
    夫が夢を追うこと、そしてそこにお金の問題(貧困)が原因なのは、よくある離婚のパターンではある。しかし、この作品を書いた伊藤たかみさん本人も離婚を経験しており、その自身の経験も交えた物語であるとすると、また別の見方ができると感じた。婚姻届を提出するシーンで佐藤(男)の戸籍上の苗字の藤の漢字がハフジ(草冠の部分がハ)であることが判明したのだが、そこで藤の漢字にそんなちょっとの違いがある旧字があることを初めて知った。
    読みやすい文体で、それゆえにあっさり読み終わってしまい、物語の本質や著者が伝えたいことを汲み取れなくなってしまいそうで、慎重に読み進めた。

  • きっと敦は離婚後の自分がどうなるかがホントのところはまだわかっていない。それを知ってる水城さんは敦から離婚の経緯の話を引っ張り出すけど、自分が辿ったホントのところは教えてあげず、うまくはぐらかす。敦と知恵子はもはや相手の何が気に入らないのかわからずに、不愉快さを持ち寄る。敦が水城さんではない他の誰かに相談をしていたらこの物語はきっと成立しないのだろう。敦が水城さんには浮気や離婚のことを話せたのはなぜなんだろう。実は好きだったのかな。そこまでオープンに話してもらって水城さんが相手にするわけないよなぁ。でも、水城さんみたいな人がいたらいいなぁ、と思う。

    淳一と鮎子の何でも話し合える普通に楽しい関係を懐かしいなと思いながら読んだ。ずっとそのままなら幸せなんだけど……。オイラは気が付いたら臭い生ゴミみたいな扱いになってたけど。しまっていこうっ!

  • 夜風が届くと、レースのカーテンは淳一の胸元まですっぽりと包み込むように膨らんだ。
    中に入ると、貝の中にいるようだった。
    貝の中に寄生して暮らす小さな生き物になった気分になる。
    生まれて死ぬまで、この風景しか知らないちっぽけな存在。
    何が欲しいと言うこともないし、何が要らないと言うこともない。
    流れ込んでくるものをただ食らい、眠って起きて死んで、それが幸せかどうかさえ感じることもない。

  • 自動販売機の補充の仕事で同じトラックで決められたルートを廻る水城さんと敦。水城さんが配置転換でトラックを降りることになった八月最後の一日を描いた作品。水城さんはバツイチ。敦は結婚しているが明日には離婚届を出すタイミングとの設定。水城さんと敦との仕事中の会話を中心に話しは進む。淡々としてテンポも心地よい。水城さんの言葉は常に微妙な雰囲気で、はっきりした癒しも慰めも励ましないのだが、強さと優しさが感じられて素敵だ。

  • 芥川賞を受賞した表題作と、もう一つの短編が収録された一冊です。
    仕事中、先輩の女性社員に話を促され、体を動かしつつも結婚生活を振り返る主人公。
    関係の浅い相手だからこそ正直な気持ちを話せるのは分かるが、そこ“のみ”の共感です。
    さらさらと読ませますが、この男に一切の魅力を感じません。被害者みたいな顔しやがって 身勝手すぎるだろう…
    どうしてやろうか!とメラメラした読後感。著者が男性だと知り驚き(名前のイメージから女性だと思っていた)男が描いた男に共感はできないよなぁと納得。

  • 初読

    対照的なようでいて、地続きというか
    ちょっとしたことで夫婦関係はだめになっていくし
    幸せを感じるのもまたちょっとした事だったり。

    そんな2作のバランスが良い。

    表題作より、やはり幸せな
    「貝からみる風景」が好きだな。
    ふう太郎スナック気になるし。

  • 植本一子さんの選書フェアより。選者のとおり、表題作よりも2作目が良かった。

  • 暑い夏の一日。
    僕は30歳の誕生日を目前に離婚しようとしていた。
    愛していながらなぜずれてしまったのか。
    現代の若者の生活を覆う社会のひずみに目を向けながらその生態を明るく軽やかに描く。

  • 三編の短編集。どれも淡々と主人公と一番近しい相手とやりとりしながら主人公の心の移り変わりを丁寧に描いた作品。
    それぞれに人生の一場面にスポット当てているけれど、おそらくターニングポイントなんだろうと。
    物語としては「安定期つれづれが」一番好き。年を重ねても、迷いながらそれでもパートナーとうまくやろうとか娘に対しての思いやりだとか滲み出る感情がよく表現されている。
    表題作の中の水城さんの台詞が深い。破天荒のようできちんと本質を言い当てているように感じた。

  • これも一種のリノベだろうか。自販機会社でアルバイトをする敦が一緒に回る水城に明日離婚することを話す。そして、その水城は明日営業所を去るのだが……。紙切れ一枚で始まって紙切れ一枚で終わる、何だか切ない。
    同時収録されている「貝から見る風景」も良かった。私もスーパーのお客様の声時々読んでます(苦笑)
    それにしてもこの作家さん、タイトルのつけ方とか、構成が秀逸だと思った。

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著者プロフィール

いとう・たかみ
1971年兵庫県生まれ。1995年、早稲田大学在学中に「助手席にて、グルグル・ダンスを踊って」で第32回文藝賞を受賞し作家デビュー。2000年『ミカ!』で、小学館児童出版文化賞、’06年『ぎぶそん』で坪田譲治文学賞受賞、「八月の路上に捨てる」で芥川賞受賞。主な作品に『ドライブイン蒲生』『誰かと暮らすということ』『 そのころ、白旗アパートでは』『秋田さんの卵』『ゆずこの形見』『あなたの空洞』など。

「2016年 『歌姫メイの秘密』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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