- 本 ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163299006
感想・レビュー・書評
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人の絆なんて脆いもの
ねと嘆息します。
愛情や信頼も儚いもの
ねと・・・。
人は「共同体的動物」
であるとかなんとか。
耳慣れないタイトルは
アリストテレスの言葉
に由来するそう。
ところで共同体的とは
なんでしょう?
友を愛して人のために
生きよと、
いかにも共同体らしい
高邁な理念に賛同して
集った人たちでさえ、
いつしか煩悩丸出しで
睨み合う。
四六時中、既得権益や
好きな男女を奪い合い、
私がこんなに頑張って
るのにあの人はなにも
してないと、
醜く罵り合うのが現実
です。
愛情や信頼は泡の如く
人の絆は幻の如し。
共同体「的」とはどこ
までいっても共同体に
成りきれない、
共同体とは一線を画す
私たちの現実を表して
るのでしょうか。 -
ぼくにとっては不可思議な作家というジャンルでトップ3に入るのが、桐野夏生である。読んでみないと面白いのかつまらないのか、わからない。最初は探偵・村野ミロのシリーズでエンタメ界に登場したものの、徐々にシリーズ外作品での独自性を見せ始める。その切り替えスイッチとなったのは、まぎれもなく『OUT』だったと思う。
かつてのぼくの桐野評。『ぼくがリスペクトしたいと思うクリエイターは、どちらかと言えば、馴れ、という領域を逸脱しようと、常にチャレンジする精神を維持し続けている部類の作家である。』
もう一つ。『通り一遍の評価を受けることで満足することなく、次から次へと異色の作品を出し続け、いい意味で読者の予想を裏切り続ける女流作家としては、トップ・ランナーである。』
そう、本作『ポリティコン』は、実験小説のようにも見える。一つの原始共産主義的な<村社会>を東北の一山村に作り上げた一族の血を継いで、現代の若き村長が時代に沿った変革を施してゆく、というと聴こえは良いが、この新村長となる主人公の東一(といち)は、ページを繰るにつれ、軽薄で身勝手で、獣欲に身を任せるエゴイストで、様々な意味での愚かさを全身に纏った出来の悪い男であることが明確になってゆく。それでいて妙な自信を備えていて、性格も弱いくせにプライドは強い。客観性がなく、村民たちへの思いやりも薄いし、怒りっぽい。理想を抱えているのかどうかわからないが、自分の中では何となく整理できているらしいし、これといった信念がないせいか、ある程度の危機を平気で乗り越えてしまいそうなタフさと不思議なまでの強運は備えている。それにしても読んでいて、ああやだ、こんな男は嫌だ、と嫌悪感を感じてしまう類いのキャラクターであることは間違いない。
「私は白黒つけがたい、善悪がわからない、そんな薄気味悪い中間地点にいるような人が、好きなんですね。最近、善悪だけでなく、物事をわかりやすくしようという傾向が文学でも強いと思いますが、私はそれに乗りたくないんです。人はそんなに簡単に分けることができないし、差異は常にある」
というのが、作者の言葉なので、これを読むとなるほどと思うが、この主人公が規制のキャラクターという概念から抜けているのも、かく言う作者が読者たちに向けて投じた一石のおかげなのかもしれない。
ちなみに本書の主人公は基本的には、唯腕村(いわんむら)である。大正時代にユートピアとして作り上げられた共同体としての開拓村である。そしてそこに住む個性の強い村人たちである。桐野作品の凄さはこれら村人の個性をしっかりと描き分けて造形してしまうところである。『東京島』という奇妙な場所をクリエイトした作品との共通項でもある。
そして不思議なことに、こんな内容の作品なのに、読んで面白い。リーダビリティが抜群なのである。これと言ったストーリーがない代わりに、大作ゆえに、時代のうねりのようなものが二世代三世代の村の歴史に生じていて、そこを出入りするキャラクターたちのバリエーションも桐野作品らしく個性豊かで興味深い。いわゆる「何が起こるかわからない」実験現場のような作品でもあるのだ。
さらに言えばタイトルの『ポリティコン』という言葉は作中に一度も登場しない。このあたりのアンチ・サービス精神も、作品を説明しないという桐野力学の一部なのだろう。ポリティコンとは、政治的動物のことであるらしい。本書は共同体の構築と運営を描く小さな建国神話であるようだ。読後感としては、村の規模が小さすぎるため、建国という言葉とは僕の中では全く結びつかない作品であったように思うが、ともかく。
タイトルもストーリーも含めてかように謎に満ちた作品なのだが、何となく面白く読まされてしまう。それぞれの人間の個性も、彼らの間に働く物語性と、対抗する力学のようなものも、ギリシャ喜劇でも観ているかのようで何となく親和性を覚えつつ、キャラクターの一部は愛すべきで、一部は苦手と感じてしまう。まるで読者の生きる現実世界の鏡面のような物語世界を、不思議がるのも、面白がるのも、投げ出すのも自由、といわんばかりの謎めいていて、人を食ったような大作。
桐野作品の中では異常に長い小説である。著者が五年の歳月を費やして書いた作品だと言う。人間の多様さ、罪深さ、たくましさ、愛と性、貧富、生きる方途、その他、すべてを凝縮して描き切る桐野夏生という極めて個性的な作家の、記念碑的作品であることは間違いない。
それにしても主人公の人間性の悪さが鼻について仕方がなかった。第二部が、不幸な女性マヤの側面から描かれるようになって、だいぶ心が安らいだ。彼女が如何に不幸であれ、その逞しさは伝わってくるせいかもしれない。しかし、全体を通して、東一への憎悪をエネルギーに変えて読めてしまう不思議作品であるのかもしれない。奇妙だ。こんな作品はどこにもない。 -
宗教2世ならぬユートピア2世の青年が主人公。「どす黒い気分になりそう」と思ったけど、つい惹かれて読み始め、悪い予感しかしないのに先が気になり読み進めた。更に立ち込める悪い予兆の中、上巻が終わり下巻を買って帰ろうと心に決めている 笑 すっかり引き込まれました。
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あれ??
想定以上に面白いです!!
(生意気言ってすみません)
山形県に創られたユートピア「唯腕村(イアンムラ)」
理想郷。
村の過疎、高齢化、貧窮、村改革、村復活??(上巻ではわからず)
村の小さな集合体が・・・
やべぇです。下巻気になりますわ。 -
桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/525596 -
感想は下巻で。
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2021.01.10 図書館
著者プロフィール
桐野夏生の作品






たくさんのイイねとフォローをありがとうございます!
コルベットさんのレビューは詩のように流れ込みます(ღ*ˇ...
たくさんのイイねとフォローをありがとうございます!
コルベットさんのレビューは詩のように流れ込みます(ღ*ˇᴗˇ*)。o♡ウットリ♡
”いいね”をもらうと以前書いたレビューを読み返すこともあり、へぇ~こんなこと書いたんだとビックリすることも・・・。
ところで、桐野さんの『ポリティコン』はファンでありながら見逃していたようです。早速図書館に予約を入れました。
ありがとうございました!