狩りの時代

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163905013

作品紹介・あらすじ

逝去直前まで推敲を重ねた津島文学の到達点顔も知らぬ父、15歳で早世した兄。絵美子と母を気遣う、大勢のおじ・おばたち。大家族の物語はこの国の未来を照射する。遺作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 難の多い小説だった。序盤は10行に1人の勢いで増え続ける登場人物の数に圧倒され、途中からは過剰な時系列シャッフルに悩まされた。それがことさら効果的だったかというと疑問符がつく。

    もっと端的にまとめることもできた作品だし、さもなければもっと内容を充実させて、大長編にすることもできたのではないかと思う。どちらでもいいのに、どちらでもない。なんともバランスが悪かった。

    ただそれも、この作品が病苦を押して書かれた絶筆だとなれば仕方がないのかもしれない。作家の問題意識の置きどころとか、個々の登場人物の心情の書き込み、といった部分にはスムーズについてゆくことができたから、それで粗が多かったわりには読後感がいいんだろう。

    この作品をことさらお薦めはしないけど、津島佑子さんのほかの作品は読んでみたくなった。思いがけない掘り出し物があってもおかしくはない。

  • 差別をテーマに人間模様を描いたドラマ。
    記憶と事実と夢と、いくつもの物語が折り重なって、絡み合いながら進みます。
    テーマの普遍性とプロットはノーベル文学賞的です。著者は亡くなる直前まで、表現をさらに磨きたかったのでしょうか。

  • 差別はどの時代にもあるというような描写があった。だから差別はあってしょうがないと諦めるのでなく、どうするかを考え続けなければならないのだけれど、簡単にその回答が出るわけでもなく、本当に難しい問題なのだと、この著書から改めて感じる。 タイトルがズシンとくる。

  • 私たちは互いに狩り合っていたのだ。無意識のうちに。

  • 学生時代にW村上・詠美・ばななで洗礼を受けた世代だが、その後、町田・小川・川上・平野とスルーして、専ら文芸は翻訳モノと決め込んで来た(まあ、笙野頼子は別枠としてw)が。この系があったか〜と鉱脈を掘り当てた気分…ってか、楚々とした倉橋由美子の感あり。
    ヒトラーユーゲントのエピソードって、フィクションだったらかなり悪趣味だし、相当なデリカシーを要求されるネタだと思うけど。更に早逝したダウン症の兄に大勢の家族親戚を巻き込んで、仙台・東京・東海岸にパリへと飛び回り、時代も親の幼少期からスポットで時代を交錯させて、見事な一大叙事詩に仕立て上げたもんだ。無難に逃げず、かと言って扇情的な表現に頼ることなく、よく処理したもんだ。

  • 絵美子にはダウン症の兄耕一郎がいたが、彼は15歳で亡くなる。それ以前に父遼一郎も亡くなっていて、彼女には父の記憶がない。
    思い出すのは、いとこが耳元でささやいた「フテキカクシャ」「ジヒシ」などの言葉。その言葉だけがぼんやりとわき出て、絵美子はその言葉がどういう意味で発せられたのか、なんだったのか知りたいと願う。

    役に立たないものを切り捨てることをすすめて繁栄をめざし、敗戦したドイツ。そのあとを追うような日本は、考えること、止めること、をせずにすすめる一方。

    無自覚のまま差別している恐怖。
    すべては無自覚のまますぎているのではないかという恐怖。

    すごい遺作を読んでしまって、困っている。

  • 津島さんの遺作.15才で亡くなった障害者の兄をずっと忘れられない絵美子.子供の頃に囁かれた「フテキカクシャ」という言葉にずっと捕らえられている.大勢の親戚縁者や行ったり来たりする時代や視点,ヒットラーユーゲント,原発,アメリカと様々な差別も含めて,とても雄大な物語となっていて,遺作となってしまったのが本当に残念だ.

  • こどもの頃に耳元で囁かれた言葉。フテキカクシャ、アンラクシ、ジヒシ‥誰が、どうして、そんなことばを言ったのか?こどもながらに「口にしてはいけないことば」の気がするが、確かめられない絵美子は、そのまま差別に対して無知で無自覚な「わたしたち」の姿でもある。
    あとがきで、本書が津島佑子さんの遺作だと知る。
    娘の香以さんが「なんとかして差別を克服しなくてはならないと思うのだが、自覚すらされない感情をどうしたら乗り越えられるのか?」と問いかけているのは、母娘の間で繰り返されていた会話なのかもしれない。
    ヒトラー・ユーゲントのこどもたちが担わされた役割を考えると、熱狂することへの警戒、ひとりひとりの責任の重さを痛感する。

  • 【逝去直前まで推敲を重ねた津島文学の到達点】顔も知らぬ父、15歳で早世した兄。絵美子と母を気遣う、大勢のおじ・おばたち。大家族の物語はこの国の未来を照射する。遺作長篇。

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著者プロフィール

津島 佑子(つしま・ゆうこ) 1947年、東京都生まれ。白百合女子大学卒業。78年「寵児」で第17回女流文学賞、83年「黙市」で第10回川端康成文学賞、87年『夜の光に追われて』で第38回読売文学賞、98年『火の山―山猿記』で第34回谷崎潤一郎賞、第51回野間文芸賞、2005年『ナラ・レポート』で第55回芸術選奨文部科学大臣賞、第15回紫式部文学賞、12年『黄金の夢の歌』で第53回毎日芸術賞を受賞。2016年2月18日、逝去。

「2018年 『笑いオオカミ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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