- Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163907406
作品紹介・あらすじ
朝比奈あすかさんは群像新人文学賞を受賞して小説家デビューしましたが、純文学の枠にはまりきらない活躍を続けてきました。いつも現実社会の動きの中にテーマを見つけている作家であるといえるかもしれません。この「人間タワー」で描かれる組体操は小学校の運動会の花形であり、その危険性がマスコミを一時騒がせたことは記憶に新しいです。親、子供、教師などの複数の視点から幾何学のように描かれていますが、この人間タワーをめぐる動き、思いを描くことで、世界のあり方まで筆がおよぶのが朝比奈さんという作家の鋭敏さではないでしょうか。人間の負の面や不穏な空気を扱いながらも、いつも爽快さを失わないところがこの小説の稀有の魅力でしょう。
感想・レビュー・書評
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運動会の人間タワーをめぐるものがたり。物理的なタワーと人間関係のカースト制としてのタワー。この人の小説は、いつも内面が吐露されすぎて、読んでいて胸が苦しくなるほど。けれど一気読みした。
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人間タワーってなに?と思ったら、組体操「人間ピラミッド」のタワー版のことでした。
小学校の運動会で、毎年6年生全員が参加して行っていた「人間タワー」が崩れてしまい、そのことが多くの人の心に、さまざまな波状効果をもたらす。
おそらく、「組体操は危ない、時代錯誤だ」という議論に着想を得て生まれたであろうこの小説。
こういう、社会問題や実際の事件に着想を得て、さまざまな心の動きを追った本、好き。
学校関係者については、本当に見てきたようなリアルさでした。
私が小中学生の時も、議論はするものの、それは結論ありきの議論でしかなく、結局生徒は教師の思った通りの結論に誘導されていた。
それだけ、これまでやってきたことを自分たちが止めるという「変化」を起こすことは、ものすごいエネルギーがいる。だから、生徒たちもどこかで反対する事に疲れてしまい、最終的に多数派の生徒、教師におもねってしまうんだ。
ラストは綺麗事のようにも感じたけど、「タワーをやりたくない」という少数派の子供の声を無視することなく、みんなで納得できる形になるまで話し合いをしたのかな、とホッとした。
我慢する事で成長できることもあるけど、皆で話し合って少数者を切り捨てない経験も、子どもにとって大事なことだ。
下の子が感じる「痛い」という体の痛みと、上の子が感じる「こわい」という心の問題は比べられない。心と体は同じではないから。という女の子の言い分はとても的を射ていた。
あの子は、みんなの前でその話を出来たのだろうか。
それとも、あの子の話を聞いた優等生の男子が、さも自分の意見のように皆の前で堂々と述べたのだろうか。
小学生達が、どんな話し合いをしてあの結論に辿り着いたのか、そこに教師達のどんな力添えがあったのか、書かれていない部分まで想像してしまうほど、私はこの本の子供達を身近に感じた。 -
組体操「人間タワー」をめぐる人たちの話。児童、教師、親、だけでなく、それをテレビで見ていただけの人など。
人間タワーと直接の関わりが無い人の話では、視点の据え方でこんな表現も出来るのかと感心した。 -
組体操かぁ。問題になったりしているよね。
自分のときは? 中学時代に男子生徒だけやっていたんじゃないか、というくらいしか覚えがない。
あまりにも危険なことをやらせる意味がわからない。それ以外のことで協力とか協調とかを学ばせればいいんじゃないのかな?
この、夫はヒドイな。自分のことばっかりじゃん。 -
人間ピラミッドならぬ「人間タワー」を、シングルマザー、おじいさん、生徒、タワーを成功させたい先生とどうとも思っていない先生、そして卒業生の視点から描いた作品。見るものに対して勇気・感動を与えるが、実際にやる児童にとっては苦痛でしかない。世論というのが変わりゆく中、そのタワーというのをどのように成立させるのか、というのが一つの主題であるように感じられる。惜しむらくは、最後のタワーがどのようにしてああいうふうになったのかという過程を聞かせてほしかった。タワーから力をもらったはずの先生は、果たしてそれで満足か。
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小学校の体育祭で伝統的に行われてきた「人間タワー」。問題視する声も最近聞くこの行事を指導する教師、参加する児童、その親などの視点からその行事の是非を問う…わけではもちろんなく(作者の作品をほかに知っていればわかると思うのですが)…、いやまったくないわけでもないですが、かかわる人々のそれぞれの置かれた環境における心理描写に重きを置いた連作短編集です。
印象的だったのが介護施設に入居している一人の老人の日常を描いた短編でした。今となっては物悲しいといえる状況なのだけれど、確かな幸せな日々があったとじわりと暖かくなる描写がとても胸を打ったのでした。輪郭を無くしていきながら、心のどこかに存在しつづける「支え」があることは、やはり幸せといえるのだろう、とそう思いました。
題材こそ人間タワーと結構タイムリー?なものを扱ってますが、丁寧な心理描写と弱くもいとおしい人々の描きかたがとても細やかで、作者らしい読み心地のある話でした。 -
桜丘小学校の運動会で行われる組体操のメインのシーン、人間タワーで繋がる連作短編。
息子が桜丘小学校に転入した離婚したばかりの雪子。
人間タワーに感動し投書をしたことのあるホームで暮らす伊佐夫。
桜丘小学校の教員、自分の名にコンプレックスのある沖田。
母の過度の学歴意識に振り回される桜丘小学校の生徒澪。
自分は子供に好かれるいい教師だと信じていた桜丘小学校の教員島倉。
桜丘小学校の卒業生で、いじめにあった過去から、小学校にいい思い出がなかった高田。
立場の違う登場人物のそれぞれの立場での思いや気持ちがリアルで、興味深く読みました。
好感の持てる登場人物はあまりいませんが、ブラックな部分を描くのが上手い作家さんだなといつも思います。
雪子、島倉、高田の章の、一歩進んだ終わり方が良かったです。 -
予想と違った話の流れでした。語り手がコロコロ変わるので、読みにくいなあと思っていたら短編集だったのかと最後の方でやっと気付いた。
一番面白かったのは教師の視点。子どもたちの個性に対応しながら、何とか学年をまとめようとする二人の教師のそれぞれの手腕が興味深かった。
沢山の主人公が出てきたけれど、どれも尻切れトンボで終わった印象で話は面白かったのに残念だった。もっと読みたかった。