合成生物学の衝撃

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163908243

作品紹介・あらすじ

二〇〇〇年代初頭、マサチューセッツ工科大学に集まった科学者たちは、生物学を工学化することを思いつく。コンピュータ上でDNAを設計し、その生物を実際につくってみるのだ。「合成生物学」と呼ばれるようになるその学問はビル・ゲイツをして「もっともホット」な分野と呼ばれるようになる。企業が血眼になり、軍の研究機関が莫大な予算を投じる。そうした中、孤高の天才科学者が二〇年かけてついに人工生命体を作ることに成功する。ヒトまでも人工的につくる時代が来るのだろうか?『捏造の科学者-』で新たな科学ノンフィクションの地平を開いた著者が放つ大宅賞受賞後第一作!プロローグ わたしを離さないで第一章生物を「工学化」する マサチャーセッツ工科大学で学ぶトム・ナイトは、コンピュータの性能は一八カ月後に倍になっていくというムーアの法則が物理的限界に来ていることに気がついた。ナノサイズの半導体をつくるもっとも洗練した方法は生化学によって得られるのでは?第二章人工生命体プロジェクトはこうして始まった MITの講座による協業の流れとまったく違う流れは、たった一人の科学者によってつくられた。クレイグ・ベンター。NIHという最高峰の研究所を辞めたベンターは、ヒトゲノムを読み、人工生命体「ミニマル・セル」を創り出すプロジェクトに着手する。第三章究極の遺伝子編集技術、そして遺伝子ドライブ 一文字からの修正も可能な遺伝子編集技術「CRISPR・Cas9」。二〇一二年に開発されたこの技術をもちいて、ある遺伝子を集団内で一気に広めることのできる技術が開発された。マラリア蚊の撲滅、生物多様性の維持などへの使用が考えられるが。第四章ある生物兵器開発者の回想 旧ソ連では合成生物学を使った生物兵器の研究が実際に行なわれていた。私は、機密研究に携わった一人の科学者のインタビューに成功する。ペスト菌と脳脊髄炎をひきおこすウイルスを掛け合わせた新しい病原体の研究など、セルゲイ・ポポフは証言する。第五章国防総省の研究機関は、なぜ合成生物学に投資するのか? ベトナム戦争での対ゲリラ戦の兵器を次々と開発した実績のある国防総省の研究所DARPA。そのDARPAは合成生物学研究の最大のパトロンと言ってもいいかもしれない。二〇一四年だけで、一億一千万ドルもの予算をその研究に拠出している。第六章 その研究機関、DARPAに足を踏み入れる 厳重なセキュリティに守られたその研究機関の中で、私は所長とプロジェクトマネージャーに会った。「軍部の意向は反映するのか?」「機密研究を行なっているのか?」これらの質問に対して彼、彼女らは、まず「われわれは世界のために研究をしている」と。第七章 科学者はなぜ軍部の金を使うのか? 「DARPAからのお金を使えば、それだけミサイルの開発に振り向けられる予算が減るだろう?」。遺伝子ドライブの方法を開発したケビン・エスベルトはDARPAのプログラムに応募した理由をこう語った。が、拒否する科学者たちもいる。第八章 人造人間は電気羊の夢をみるか?ヒトゲノム合成計画が発表された。しかし、人工でつくられたゲノムを受精卵に移して、代理母に出産させれば、親のいない「人間」の誕生になる。問題はないのか? 私は以前取材した人工授精で誕生したことを告げられた人々の苦悩が頭をよぎった。第九章 そして人工生命体は誕生した ヒトゲノムを公的チームよりも早く読み切った孤高の科学者クレイグ・ベンターは「ヒトゲノム合成計画」を嗤う。「彼らは細胞ひとつすらくれないではないか」。そう、ベンターだけが、人工の生命体「ミニマル・セル」の作成に二〇年越しで成功したのだ。エピローグ マダムはなぜ泣いたのか?あとがき主要参考文献 証言者

感想・レビュー・書評

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  • 思っていたのと若干違う内容と視点。
    私の頭ではわからない単語がたくさん。わかってはいたけど、未来が怖くなる。

  • 中々面白い。
    実現されるナノマシンとは、生物工学によって生み出されるのかもしれない。

  • 文系偏重の日本の出版界にあって、科学の専門的知識を知識を備えた作家のノンフィクション、を期待して読み始めるが、ワクワク感は薄れ、やや失望を感じる本だった。
    日本のメディアがやってきた手法、インタビューの発言の中から一部を広い上げ、メディアイデオロギー的に「角度をつけた」方向から情緒的に叙述する。そのせいで肝心の科学的解説が雲散…。これは左右の政治的党派性の強い言論やラジカルなポリティカル・コレクトネス、特にオールドメディアの代表、日本の新聞で目につく手法である。 で、筆者が毎日新聞の記者ということで納得?
    特に「DARPA」に関する章では国家権力や軍事が研究を利用するという批判が中心をなし、その視点からインタビューした科学者の発言から科学とは関係の薄い倫理的情緒的な部分が切り取られ集められる。肝心の合成生物学の最新の知見や可能性についてはあまり描かれていない。
    膨大な研究資金の捻出は多くを国や企業に頼らざるを得ず、特に軍事は技術的進歩と共に弊害を生み出したことは周知の事実である。ただここでの批判もよくある一般的な批判にとどまる。だが結果的にワンパターンな批判や予測が実は的外れで意味のなかった例は枚挙に暇が無い。ここで取り上げられる「DARPA」はインターネットを生み出した存在としても有名だが、そのインターネットも批判や予測を超えて、国家の意図を超えて、自律的に進化し世界を変えている。逆にイデオロギーやアナキズムの偏狭な正義が悲惨な結果となったのとは対照的である。
    国家に管理されない技術がテロによって破滅的な災難をもたらす危険が戦争以上の身近な現実にある時代、旧来の「国家権力批判」に聞こえなくもない。米欧の科学ものの良書はこの辺の科学的説明がしっかりしていて、日本の情緒的要素の多い科学ノンフィクションとは一線を画している。
    著者は期待される科学ジャーナリストだと思うので、文学的物語的構成で第一とする編集者ではなく、科学的説明に重きをおいた編集者と組んだ科学ノンフィクションを期待したい。

  • 2018.5.7 amazon

  • 2021I181 460/Su
    配架場所:C2

  • 香美市図書館 579.9 スタ

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50109011

  • 研究所の資金はどこから来ているのか?が主題。
    研究成果が知りたくて読み始めたために、若干肩透かしを食らった印象。

  • 今まで自分が読んできた本とは全く毛色の違う本。
    訳あって合成生物学という分野に興味を持ち、SNSで情報収集をしていた際におすすめされていた本でした。

    文系出身の自分にはそもそもがわかっていないところも多いですが、数年前の時点でここまで技術が発展しているとすれば、今はもっと伸びているんだろうなと。

    地球にあるものは基本的に有限だと思うので、必要不可欠な物質をより効率的に環境負荷がなく大量に生産できることはますます重要になってくると思う。

    その点、合成生物学やゲノム編集で救われるものは多いと思う。倫理的な問題や軍事転用の問題はずっとついてまわると思うがこの本を読んでいる限りアメリカはやってのけるだろうなぁという印象でした。

  • 「合成生物学」って名前からしてインパクトがあります。ピンポイントで遺伝子を改変でき、その形質を100%次の世代に伝えることのできる「CRISPR-CAS9を使った遺伝子ドライブ」というイノベーションから、人類が初めて合成に成功した自力で分裂できる「人工生命」まで、生命科学の最前線が分かります。陰謀論を信じる気はあまりありませんが、技術的にはウイルスの人工合成は可能のようです。
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