奇説無惨絵条々

著者 :
  • 文藝春秋
3.38
  • (3)
  • (5)
  • (11)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 55
感想 : 14
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163909844

作品紹介・あらすじ

超売れっ子の狂言作者・河竹黙阿弥のため、台本のネタ本を探す元絵師で新聞の編集人の幾次郎(落合芳幾)は、古書店の店主から五篇の陰惨な戯作を渡される。果たして〝人気者の先生〟のお眼鏡に適う作品はこの中にあるのか?「雲州下屋敷の幽霊」雲州松平家前当主・宗衍の侍女となったお幸は、どんな仕打ちにも恨む素振りを見せない。そんな彼女の背に女の幽霊の刺青を入れさせると……。「女の顔」南町奉行所の将右衛門は、材木問屋の娘・お熊が夫に毒を盛った事件で下女のお菊を取り調べる。彼女が頑なに口を割らない裏には恐るべき事実があった。「夢の浮橋」見世物小屋一座の智は若い男に頼まれて、身の上話をはじめる。貧乏漁師の家から吉原に売られた彼女は、花魁の八橋姐さんに可愛がられていたが……。ほかに「だらだら祭りの頃に」「落合宿の仇討」を収録河竹黙阿弥に捧げる、著者初の短編集京極夏彦氏から「戯作、斯(か)くあるべし。」との賛辞をいただきました!

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 初読み作家さん。
    古書店の店主から五篇の陰惨な戯作を渡される元絵師の幾次郎。
    「なんというものを読ませるんですかい」という幾次郎の言葉に思わず木霊したくなるぐらいの無惨な話。

    深い色をたたえた瞳にはこれさえも極楽に映るのか、そして人の心の奥底の本心を映しだすのか、「雲州下屋敷の幽霊」は背筋がゾクッとしながらも、この瞳に魅せられ一番ひきこまれた。

    幕間で語られる、事実と真実は別物、弱き人々のためのもの…「芝居」「物語」に対する清兵衛、黙阿弥の言葉がなんとも奥深い。

    物語とは…かくあるべし!まさに言いたくなる。

  • 時は明治、文明開化の華やぐ時代。
    だか、それは古いものを捨て行こうとする時代でもあった。
    かつて、落合芳幾の画号で浮世絵を描いていた幾次郎は狂言作者黙阿弥に書き下ろし台本を書いてもらうため、ネタ元を探してかつて書物問屋を営んでいた清兵衛を訪ねたのだ。

    そこで幾次郎が渡された5つの物語とは。

    面白い!
    時代の狭間にいる文化人の苦悩と、それを軽々と飛び越えていく物語。

    時代ものが好きな方には是非とも読んでもらいたい。

  • 入院中、病棟の本棚にあったので読んだ1冊目。
    血生臭い、奇怪な人情話の数々に無機質な入院生活を忘れ江戸の風を感じることのできた一冊。ラストの黙阿弥と幾次郎の対話には胸を打たれた。今まさに弱っている自分のためにあった物語だった。

  • 谷津矢車の2019年初版「奇説 無残絵条条」
    「おもちゃ絵芳藤」の中の登場人物で実際にいた絵師、幾次郎。
    浮世絵師としても名前をあげていたにもかかわらず、明治に入ると新聞の仕事につく。
    歌舞伎はその頃、破廉恥で荒唐無稽な江戸時代の芝居小屋の演目から、生き残ろうと喘いでいた。

    当時歌舞伎の脚本を書いていた黙阿弥がヒントを得ようと、幾次郎に依頼。ネタを探しに行った先は、元は版元で今では古本屋を営んでいる清兵衛の元。

    そこで、清兵衛から次々と5つの戯作を読まされる。

    全部が全部本当のことではないが、その中にも本当にあった事件が元になっているおどろおどろしいものであったり、浮かばれないような悲惨さが漂うような。

    明治政府主導の近代化は、江戸時代の文化の全否定から始まっていたようなものだ。
    そこで当時の文化の担い手が、どんな風に迷い争っていたのかを想像させるに十分な作品。

  • 読み進めるにつれて、作中作がだんだん面白くなってきた。それぞれ序盤から、結末がなんとなく透けて見える感じではあるけれど、最終的にそれら全体が“仕込み”だったところまで含めれば納得できる気もする。つい最近観た舞台「仮面山荘殺人事件」が思い浮かんだ。
    幕間に語られる、作家本人の決意のような思いを忘れないでおきたい。

  • 明治23年、浮世絵師としての筆を折った落合 芳幾。
    歌舞伎新報社の編集人として頑張るも、
    「新作が欲しければネタを持っておいで」
    と作家先生に追い返され、なじみの古書店にネタを求めてゆく……

    浮世絵好きなら、この序盤だけで読むべし!とオススメできる一冊。ただし思うところあって星は4つである。

    作中で、主人公が5作の戯作を読むのに合わせて、読者のほうもその戯作を読んでゆく体裁。
    そして、「明治23年文明開化の時代」という設定がある故に、主人公は躊躇い、
    「この戯作は、今の時代には出せない」
    と戸惑いを深めてゆく。
    国策の『演劇改良運動』で、史実に合致しない内容、風紀紊乱、勧善懲悪以外は排除されるのに。
    5作を読み終えてみると明かされる、『作家先生にネタをもってこい』を超えた目論見と、主人公の決断は……察しの良い読者なら、途中から予想はつく。予想がつく、それをきちんと描いて安堵できるエンディングなので、この点に不満はない。

    思う処あって星を減じたのは、「明治時代の検閲は、いわば官製検閲であって、それに下々の民間人、絵師や戯作者が反抗する」という大筋の部分が気に入らなかったため。
    先般のあいちトリエンナーレで起きた、『表現の不自由展』問題。展示内容の偏向(駅乃みちかや碧志摩メグは何故か取り上げられてない)、監督の津田大介氏の不見識と無責任、文化庁の交付金取り上げ(しかも決定に際して議事録無しという)等々。個別の問題の列挙にいとまがない、それほどの駄目づくしである。
    現代の検閲は、民間検閲である。
    民間人の企画し、発表した表現物に、同じく民間人(党派の下部組織である事例も散見されるが)が、女性や子供の人権を盾にして、発表の中止や取り下げを迫る構図が大半、である。
    明治が舞台になった物語が、現代の問題にはかすりもしない。
    そこは本作の咎ではないのだが、あくまで私見に基づき星を減じた事をお断りしておきたい。

  • 幕間6編でつなぐ短編集5編
    戯作(黄表紙)のそれぞれが,短いながらも生き生きとしてこれが歌舞伎になれば面白いのではという内容.ミステリー風の「女の顔」と仇討ち物「落合宿の仇討」が良かった.
    そして幕間の物語が落合芳幾の明治になったあたりの伝記のようで,それも興味深かった.

  • 超売れっ子の狂言作者・河竹黙阿弥のため、台本のネタ本を探す元絵師で新聞の編集人の幾次郎(落合芳幾)は、古書店の店主から五篇の陰惨な戯作を渡される。「先生に渡す前に読んでいないわけにいかない」と読み始めた幾次郎だったが…

    幾次郎が読むのはどれも陰惨で哀しい物語。五話の短編集ですが、読んだ戯作の内容に関して創作者の心持ちを書いています。事実を物語にすることで形となる。なるほど。

  • 戯作5編の短編集。
    河竹黙阿弥の台本のネタ探しのため、古本屋店主から渡された5編の短編。無惨絵の主題になりそうな作品の放つ魅力は、どう表現すればいいのだろうか?

  • 初出 2016〜18年「オール讀物」の5話

    蜂谷凉氏が「これからの時代小説界を背負って立つ」と評していた作品だが、今ひとつ響かない。

    明治になって仕事をなくし、新聞に挿絵を描いている浮世絵師落合吉幾が、旧知の古本屋を訪れて話のネタになる本を紹介されるという狂言回し役で、その5冊の本が本編。

    ・島抜けした花鳥と父親の話は平凡
    ・隠居させられた前松江藩主の妄執と暴虐に淡々と向き合う女中の話は絵になる
    ・サディストの女主人の暴虐の無惨さもあるが、解決した同心の妻も怖い
    ・明石藩主に子供を殺された猟師の仇討ちが成功するのは、主人公の殺し屋との対比が際立つ
    ・吉原で花魁殺しに巻き込まれて手足を切り落とされ見世物小屋に売られた女の昔語りは秀逸



全14件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1986年東京都生まれ。2012年『蒲生の記』で第18回歴史群像大賞優秀賞を受賞。2013年『洛中洛外画狂伝』でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』で第7回歴史時代作家クラブ賞作品賞を受賞。演劇の原案提供も手がけている。他の著書に『吉宗の星』『ええじゃないか』などがある。

「2023年 『どうした、家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

谷津矢車の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×