- Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163909844
作品紹介・あらすじ
超売れっ子の狂言作者・河竹黙阿弥のため、台本のネタ本を探す元絵師で新聞の編集人の幾次郎(落合芳幾)は、古書店の店主から五篇の陰惨な戯作を渡される。果たして〝人気者の先生〟のお眼鏡に適う作品はこの中にあるのか?「雲州下屋敷の幽霊」雲州松平家前当主・宗衍の侍女となったお幸は、どんな仕打ちにも恨む素振りを見せない。そんな彼女の背に女の幽霊の刺青を入れさせると……。「女の顔」南町奉行所の将右衛門は、材木問屋の娘・お熊が夫に毒を盛った事件で下女のお菊を取り調べる。彼女が頑なに口を割らない裏には恐るべき事実があった。「夢の浮橋」見世物小屋一座の智は若い男に頼まれて、身の上話をはじめる。貧乏漁師の家から吉原に売られた彼女は、花魁の八橋姐さんに可愛がられていたが……。ほかに「だらだら祭りの頃に」「落合宿の仇討」を収録河竹黙阿弥に捧げる、著者初の短編集京極夏彦氏から「戯作、斯(か)くあるべし。」との賛辞をいただきました!
感想・レビュー・書評
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初読み作家さん。
古書店の店主から五篇の陰惨な戯作を渡される元絵師の幾次郎。
「なんというものを読ませるんですかい」という幾次郎の言葉に思わず木霊したくなるぐらいの無惨な話。
深い色をたたえた瞳にはこれさえも極楽に映るのか、そして人の心の奥底の本心を映しだすのか、「雲州下屋敷の幽霊」は背筋がゾクッとしながらも、この瞳に魅せられ一番ひきこまれた。
幕間で語られる、事実と真実は別物、弱き人々のためのもの…「芝居」「物語」に対する清兵衛、黙阿弥の言葉がなんとも奥深い。
物語とは…かくあるべし!まさに言いたくなる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
時は明治、文明開化の華やぐ時代。
だか、それは古いものを捨て行こうとする時代でもあった。
かつて、落合芳幾の画号で浮世絵を描いていた幾次郎は狂言作者黙阿弥に書き下ろし台本を書いてもらうため、ネタ元を探してかつて書物問屋を営んでいた清兵衛を訪ねたのだ。
そこで幾次郎が渡された5つの物語とは。
面白い!
時代の狭間にいる文化人の苦悩と、それを軽々と飛び越えていく物語。
時代ものが好きな方には是非とも読んでもらいたい。
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入院中、病棟の本棚にあったので読んだ1冊目。
血生臭い、奇怪な人情話の数々に無機質な入院生活を忘れ江戸の風を感じることのできた一冊。ラストの黙阿弥と幾次郎の対話には胸を打たれた。今まさに弱っている自分のためにあった物語だった。 -
読み進めるにつれて、作中作がだんだん面白くなってきた。それぞれ序盤から、結末がなんとなく透けて見える感じではあるけれど、最終的にそれら全体が“仕込み”だったところまで含めれば納得できる気もする。つい最近観た舞台「仮面山荘殺人事件」が思い浮かんだ。
幕間に語られる、作家本人の決意のような思いを忘れないでおきたい。 -
幕間6編でつなぐ短編集5編
戯作(黄表紙)のそれぞれが,短いながらも生き生きとしてこれが歌舞伎になれば面白いのではという内容.ミステリー風の「女の顔」と仇討ち物「落合宿の仇討」が良かった.
そして幕間の物語が落合芳幾の明治になったあたりの伝記のようで,それも興味深かった. -
戯作5編の短編集。
河竹黙阿弥の台本のネタ探しのため、古本屋店主から渡された5編の短編。無惨絵の主題になりそうな作品の放つ魅力は、どう表現すればいいのだろうか? -
初出 2016〜18年「オール讀物」の5話
蜂谷凉氏が「これからの時代小説界を背負って立つ」と評していた作品だが、今ひとつ響かない。
明治になって仕事をなくし、新聞に挿絵を描いている浮世絵師落合吉幾が、旧知の古本屋を訪れて話のネタになる本を紹介されるという狂言回し役で、その5冊の本が本編。
・島抜けした花鳥と父親の話は平凡
・隠居させられた前松江藩主の妄執と暴虐に淡々と向き合う女中の話は絵になる
・サディストの女主人の暴虐の無惨さもあるが、解決した同心の妻も怖い
・明石藩主に子供を殺された猟師の仇討ちが成功するのは、主人公の殺し屋との対比が際立つ
・吉原で花魁殺しに巻き込まれて手足を切り落とされ見世物小屋に売られた女の昔語りは秀逸