笑うマトリョーシカ

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (418ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163911502

作品紹介・あらすじ

親しい人だけでなく、この国さえも操ろうとした、愚か者がいた。

四国・松山の名門高校に通う二人の青年の「友情と裏切り」の物語。
27歳の若さで代議士となった男は、周囲を魅了する輝きを放っていた。秘書となったもう一人の男は、彼を若き官房長官へと押し上げた。総理への階段を駆け上がるカリスマ政治家。
「この男が、もしも誰かの操り人形だったら?」
最初のインタビューでそう感じた女性記者は、隠された過去に迫る。

『イノセント・デイズ』の衝撃を越える、そして、『店長がバカすぎて』とも全然違う、異色の不条理小説が誕生。

国際政治学者・三浦瑠麗氏、推薦!
「冷酷とは真に空っぽであることなのかもしれない。読了してそう思った。
政治のみならず人間の怖気だつような貌を描き出す小説。ルサンチマンのもたらす破壊力はかくもすさまじい」

感想・レビュー・書評

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  • とても面白い小説でした。

    永田町で47歳にして官房長官の清家一郎とその元で政策担当秘書として働く鈴木俊哉は愛媛の高校からの同級生でした。

    第一部は二人の高校時代、一郎を生徒会長に俊哉がしようとするところから始まります。

    一郎は元銀座ホステスの美しい母浩子と、当時官房長官として活躍中だった政治家の父、和田島芳孝の隠し子でした。
    亡くなった母方の祖母の願いが「一郎を政治家にすること」だったのを母の浩子が引き継ぎ、俊哉に女の武器を使って一郎のブレーンにしました。

    その後二人は俊哉は東大、一郎は早稲田に入学します。
    一郎には、シナリオライター志望の彼女、美和子ができますが、俊哉は浩子に頼まれて美和子を一郎から遠ざけます。

    27歳の時に一郎は俊哉の力を借りて議員に初当選します。

    記者の道上香苗は『道半ば』という一郎の出版した本を読み、一郎にインタビューする機会を得ます。
    そして、香苗のところに一郎の卒論の下書きだった、エリック・ヤン・ハヌーセンというヒットラーのブレーンだった人物について批判的に書かれた原稿が送られてきて、香苗は一郎のブレーンを探し出そうとします。

    香苗は一郎が官房長官になるまでに邪魔だった人物が交通事故で亡くなり、43歳の時に俊哉もまた殺されかけていることを突き止めます。
    香苗は調べていくうちに美和子が劉浩子というペンネームで昔、シナリオコンクールに応募した原稿『最後に笑うマトリョーシカ』を見つけ出しますが…。

    誰が交通事故を起こして邪魔者を消そうとしたかの謎も面白かったけれど、誰が清家一郎を操っているのか、最後の最後までわからずそれを探っていく過程が面白かったです。

    最初は俊哉の友情によって清家一郎が総理大臣に昇り詰める話かと思ったらそうではありませんでした。
    最後に笑うマトリョーシカは一体誰なのかと言うちょっと怖い話でした。

    香苗は清家にいいます。
    「ヒトラーがハヌーセンを切ったとき何を思っていたかわかりますか。『見くびるな』ですよ」。

  • 政治家としての素養を充分に備えた清家一郎と密かにその力を陰で動かして政界を席巻しようとする取り巻く人達

    最後に笑うマトリョーシカは誰なのか
    彼を動かす本当のブレーンは誰なのか
    とても面白く、自分好みのストーリーだった。

    後半に色んな関係が紐解かれて行きながらも、
    エピローグに入っても、最後までこの2つの疑問を持ち続けられたのが、この作品の面白さだったと思う。

    いやむしろ清家は自らの魅力で、使えるブレーンを引き寄せ利用していたのか?

    操作する側の論理とされる側の論理の交錯。
    ブレーンがいなければ前に進めないが、「見くびられた」と見抜かれたところで役目を終える。
    そして次のブレーンがお互いの思惑を隠しながら新たなステージへ導く…

    もう一度、最初から読んで確かめたくなる。  

  • 四国、松山の名門校から政治家を目指す男とその友人の内情とは…
    最初から目が離せず一気読み。

    高校時代から政治家になると宣言した男と彼を支えてきた男。

    2人には、元から友情といえるような気持ちはなかったのでは…と思わせる。

    それほどにお互いの本音が読めない。

    マトリョーシカは、本当に誰かに操られて仮面を被ったままなのか。
    わかったままで、操られてるふりをしていたのか。

    最後まで、本音を見せないところに凄さと不気味さを感じた。
    わかりやすい政治家なんていないのか…と。
    現実を見てしまった気分がした。

  • 面白かった。最近の自分では進んで手に取らないタイプの政治ミステリ。若い頃によく読んだ松本清張風な昭和を感じるサスペンスだった。ただし昭和部分がごそっと洗い流されていて、代わりにデジタル文化がはいった感じ。一応殺人事件なんかも起こるが、殺人事件はあまり問題にならない。愛媛の名門男子校で出会った3人が、政治家、秘書、後援会長になり、官房長官を目指す(総理大臣でもええ)んだが、、、ていう、王道な筋。キャラが非常に魅力的で、結局誰が主役やねん?的な面白さ。清家と鈴木のダブル主役とでも言えるだろうし、清家母の物語とも言える。エリック・ヤン・ハヌッセンの入れ方もいい。文章も非常に読みやすく、会話も悪くない、清家にあった香苗が”できの良いAIと向き合っているような気分”、これが全編を通してのこの本の印象にも繋がるように感じた。テレビ2時間ドラマにすぐできそう。読みながら配役を考えたくなるタイプの小説。ちなみに、日本の俳優さんを知らなさすぎる私が配役するのもナニなんだが、
    独断と偏見でキャスティング遊び(あははは)
    清家が政治家になった後
    27〜40歳ぐらいのところを演ってほしい
    清家 染谷将太、鈴木 菅田将暉、佐々木 仲野大賀、清家母 菊池凛子、亜里沙 松本まりか。こんな感じでどないでしょう!(笑)

    p138
    「この世界、本当に誰が敵かわからないからね。味方のフリして足を引っ張る人間なんてごまんといる。それよりタチが悪いのは、足を引っ張っているという自覚のないまま味方面をする連中だ。(以下略)」

  • 王様のブランチで紹介されているのを見て、タイトルに惹かれ図書館で予約。
    紹介は冒頭だけ見て出かけてしまったので、どんな内容なのかは把握していなかったのだが、プロローグだけ読んで”ん、のし上がった政治家の話かぁ”と、思っていたのとは違う展開。

    だが、これは見事。
    ”マトリョーシカ”のイメージが全編を通して効いていて、その不気味さ、誰が本当の黒幕(操縦者)なのか、という謎を際立たせていて、統一感のある読み応え。

    また、つい最近ひょんな繋がりで、地元の市長選で知人を担いだ側に立った経験をしたので、カリスマ性を有し思想を広める役割と、その戦略的な部分を担う役割という構図を巡る物語を読むのは他人事ではなく一興。

    自分を制御し、他人を操ることに意義を見出す者、それを受け入れて目標を達そうと演ずる者、演者の仮面をを剥いだ本物の顔はどんな顔なのか。
    清家一郎という捉えどころのない人物の成り上がり人生譚の中で人心掌握の何たるかを考えさせられる物語。
    ”見くびるな”の一言が刺さる結末。

    限りなく星5に近い星4。

  • 仕事しながらも、早く帰って続き読みたいなあって思った本は久しぶり。

    これは政治小説じゃなくて人間の歪みとか、心理を書いた作品のように感じた。

    私にとっては最初から最後まで面白すぎた!

  • けっこう高い書評が多い作品なので期待して読んだが、今ひとつピンと来なかった。読み物的には面白いし人の不条理な面もクローズアップされているけれど現実味が薄いと言う印象です。「店長がバカすぎて」とガラッと異なる作品ですが、さすがにそれはないでしょう と思う人物設定でしたので。

  • 四国・松山の名門高校に通う二人の青年の「友情と裏切り」の物語。27歳の若さで代議士となった男は、周囲を魅了する輝きを放っていた。秘書となったもう一人の男は、彼を若き官房長官へと押し上げ、秘書となったもう一人の男は、彼を若き官房長官へと押し上げた。総理への階段を駆け上がるカリスマ政治家。
    「この男が、もしも誰かの操り人形だったら?」
    最初のインタビューでそう感じた女性記者は、隠された過去に迫る。

    ☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡

    操り人形のような清家一郎を陰で操っているのは、高校時代からの友人の鈴木俊哉か、やはり母親の浩子だろうか、もしくは恋人の三好美和子かとあれこれ憶測しながら一気に読み終えた。
    最後の最後にやられてしまった!
    「あなた方が指摘する清家の正体こそ、僕にしてみればはっきりと演じられた清家一郎だったんです。でも、その演じている清家一郎だって、どうしようもなく生身の僕自身である。僕は自分という人間を誰よりも分かっているつもりですが、その誰よりも分かっているはずの自分のことが理解できていないんです。本当の僕が分からない。何が本当か分からない。僕は本当の自分なんて結局いないと思うんです。僕が生まれて最初に出会ったのは母なんです。その瞬間から、僕は彼女の影響下にあったに決まっています。物心がついたときにはもう喜ばせたいと思っていたのですから。僕は、誰かを喜ばすためだけに生きることの人間なんです。そういう風に作られてきたんです。」
    本当の自分は自分自身でも分からないのに、それを他人に判断されてたまるかという一郎の気概を聞いた。
    政治家だけでなく、人は自分がいったいどういう人間なのか分からないのではと、問われた気もする。

    • まことさん
      しずくさん。こんにちは。

      この本は、私も読みたいなと思って、今図書館で予約待ちをしています。
      面白そうな本ですよね。

      ところで...
      しずくさん。こんにちは。

      この本は、私も読みたいなと思って、今図書館で予約待ちをしています。
      面白そうな本ですよね。

      ところで、私、しずくさんのレビューがなぜか出ない状況にだいぶ前からなっています。
      フォローはちゃんとかかっているのですが…。
      なぜなのかわからないのですが。
      というわけで、いいね!が遅くなってしまいごめんなさい。
      最近、皆さんのタイムラインもあまり見ていないので…。
      今度、ブクログさんに聞いてみますね。
      2022/02/08
    • しずくさん
      まことさん、ごめんなさいね。
      今気付いて慌てて返信してます。
      2月8日に戴いているので、もう図書館から届いて読まれているでしょうね?
      ...
      まことさん、ごめんなさいね。
      今気付いて慌てて返信してます。
      2月8日に戴いているので、もう図書館から届いて読まれているでしょうね?
      牽引力がすこぶる強い作品でした。今からそちらに伺います
      2022/04/10

  • 剥いても剥いても出てくる違う顔。

    一体どれが本性なのか分からない不気味さ。

    操られているのか、操られたフリをして
    手玉にとって転がしているのか。

    どこまでも裏切られて真実に辿り着けず、
    果てのない迷宮を彷徨った気分でした。

    頼りなげで穏やかな笑顔を浮かべるが、
    全く心の中が見えない清家一郎という人間は、
    何者にも染まらず、また何者にも染まる。
    その甘美な蜜に惹きつけられ、魅せられた
    人たちの勘違いと驕りが交錯した物語。

  • 中身が空っぽな人間なんて、ほんとにいるんだろうか?
    誰かに操られて政治家になるなんてことが可能なのか?

    ちょっと考えられない設定であるとともに、
    主人公一郎のつかみどころのない、
    得体の知れない不気味さもあり、
    終始霧のかかったような展開に引きずられた。

    そういう点から見ると、
    ラストは納得できるものだったのかもしれないけど、
    でもこれだけ引っ張っておいて…?という感じも否めない。
    なんとなくすっきりしない、消化不良感が残る作品だった。

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著者プロフィール

1977年神奈川県生まれ。2016~2022年に愛媛県松山市で執筆活動に取り組む。現在は東京都在住。2008年に『ひゃくはち』でデビュー。2015年に『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞、2019年に『ザ・ロイヤルファミリー』で山本周五郎賞とJRA馬事文化賞を受賞。その他の著作に『95』『あの夏の正解』『店長がバカすぎて』『八月の母』などがある。

「2023年 『かなしきデブ猫ちゃん兵庫編  マルのはじまりの鐘』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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