小隊

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (157ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163913384

作品紹介・あらすじ

第164回芥川賞候補作。
元自衛官の新鋭作家が、日本人のいまだ知らない「戦場」のリアルを描き切った衝撃作。
樺太・国後半島から北海道にロシア軍が上陸、日本は第二次大戦後初の「地上戦」を経験することになった。自衛隊の3尉・安達は、自らの小隊を率い、静かに忍び寄ってくるロシア軍と対峙する。そして、ついに戦端が開かれた――。

感想・レビュー・書評

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  • 北海道に侵攻してきたロシア軍と闘う、自衛隊の若き小隊長・安達たちの姿を描く、第164回芥川賞候補作。主人公・安達の心の葛藤が描かれているところは、『芥川賞』候補なのだろうが、物語としてはエンターテイメント性が強く、『直木賞』候補でもいいような気がする。とても面白く、一気読みだった。

  • 砂川文次初読。
    北海道にロシアが攻めてきた時、釧路方面に展開する自衛隊の小隊長安達3尉が主人公。
    初めは戦地から避難しない住民の訪問。上陸したロシア軍が侵攻を進めず在日ロシア軍とか言われる長閑な風景。
    ところが、とうとう敵の進軍が始まる。誰も実践経験がない自衛隊で、戦闘が始まる前は辛うじてあらかじめ定められた訓練どおりでいられるが、誰もが極度の緊張状態にある。戦闘が始まった途端、小便は漏らすし、生き埋めにもなる。全員が必死となり、等しく死が降り注ぐ。こういうときに人の本性が明らかになる。
    最前線の兵士から見た実際の戦争はこんなのだろうかと、妙に納得して読んだ。何らかの事情で最前線には情報が下りてこないし、戦闘になったら否も応もない。軍事とは関係のない政治により、戦争の成否が左右されてしまう。いかにもありそうと思わせられた。

  • ロシアによるウクライナ侵略が行われている最中で読むと、リアル感が違いますね。

    元自衛官である著者が描く戦闘描写はかなりリアル。もっとも、著者はヘリパイだったはずなので、陸上戦闘が専門ではなかったはずですが。

    それにしても、何がリアルって、避難を求められても避難しない市民とか、これまで戦ったことがない自衛隊が戦う姿とか、そんな感じなんだろうなという気がします。

    切ないというか、これまで戦ったことがないことを如実に示しているのが、訓練では負けることがないであろう小隊曹長が、実際の戦闘ではどうであったかという最後の描写。そして、初級幹部が戦闘で鍛え上げられていく描写じゃないんですかね。

    こんなことが起きないことを祈ります。

  • 作者は、元自衛官で、2014年秋頃、陸上自衛隊操縦学生であった時に書き上げた投稿作「市街戦」で、2016年の第121回文學界新人賞を受賞しデビュー「戦場のレビヤタン」が第160回(2018年下半期)芥川龍之介賞候補作、本作「小隊」が第164回(2020年下半期)芥川龍之介賞候補作となる。「ブラックボックス」で第166回(2022年上半期)芥川龍之介賞受賞。

    本作は、元自衛官としての経験と知識を生かした戦闘シーンは、中々のリアリティがあり、時々血生臭いシーンには、ドキリとさせられて、戦闘の虚しさや凄惨さが浮き彫りになり、主人公安達小隊長の人間らしさもここかしこに垣間見えて、人間の生への執着にも同感するが、今の日本が、現実問題として、ロシアの軍隊と戦闘状態に入るまでの設定に展開が安易だし、航空自衛隊の援護もほぼないし、海上自衛隊の登場もないので、この面でのリアリズムに欠けるので、⭐️3個とした。

    戦争の経験のない我々には、戦争がどんなものなのか、軍隊とはどういうものなのか、国防とはどう言うことなのか、生と死とは何なのか、考えさせられる。

    ただし、ほぼ全編戦闘シーンの連続なので、そう言ったマニアには、テンポの良いストーリー展開は、読者をグイグイ読み進めさせる作者の力量が光る。

  • 北海道に攻めてきたロシア軍をなんとか食い止めようと奮戦する小隊のお話です。作者が元自衛官ということで専門用語とその略語のオンパレードで、初めのうちこそ「え、これ何の略だっけ?」とか前ページを繰りなおしたりもしましたが、次第にそんなことはもうどうでもよくなってきて、ひたすら先へ先へと読み進みたくなります。さほど厚い本ではないので遅読の私でも2日で読みましたが、中身は濃厚です。この侵攻がその後どうなっていくのか、ぜひ読んでみたいです。

  • 読んで、決して楽しいとか清々しいとか思える小説ではない。なにせ攻めてきたロシア軍の圧倒的な火力に何も出来ず、敗走する自衛隊の様が描かれているから。多分、今の自衛隊が戦争をしたら、この程度なのだろうと思う。この小説に書かれている、政治的判断のため敵の主力がどこかを判断できない、とか、現場への情報伝達が遅い、とか、教範通りの戦い方しかできず、柔軟性がない、など、じゅうぶんありがちだなぁと思ってしまう。
    主人公の部下の隊員である古参の小熊は、戦いが始まると戦場から逃げ出していたようだ。平時の自衛隊組織では、彼は面倒見のいい良き先輩だったけど、戦時ではまったく役には立たなかった。見苦しい言い訳をするだけで、主人公の安達は彼を唾棄し、見捨てる。結局、演習、訓練だけで戦争はできないのだ。日本が最後に戦争をしてから78年が経った。それからずっと演習、訓練しかしていない。実際の、なまの、殺し合う戦争はしていない。シュミレーション、規則、教本、常識に縛られ、頭でしか戦っていない軍隊は、戦争を前にすると右往左往なのだ。

  • ロシア軍が北海道に攻めてくる。
    自衛隊は住人に避難を促すが、応じずに留まり続ける人たちもいる。自衛隊は本当の戦闘をしたことがない。相手だってそうだろう。

    ついにロシア軍が侵攻を始めた。
    恐怖と緊張と興奮と尿意。そして、食欲や性欲、雑多な思念に呑まれながら安達小隊長たちは戦闘状態に入る。訓練ではない本当の戦闘が始まった。

    安達はロシア兵と思われるひとを撃ち殺した。部下は撃ち殺された。何人もの味方が死んでいった。
    圧倒的戦力の差に打ちのめされて戦場から後退すると、戦意を失った味方が何人もいた。安達はパジェロでその場から離れ、誰もいないコンビニで食料を調達し、川で水浴びをした。
    ラジオニュースで戦闘のことについては触れたものの、ほとんどの日本人たちは日常生活を送っているようだった。

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    軍事用語(自衛隊用語?)はほぼ理解できなかったし、北海道の地名もほぼほぼわからなかった。
    けれど、安達のなかで蠢く不安やイラつき、生きることへの執着心みたいなものははっきりと感じることができた。
    本当に戦争が始まるのかもわからない状況で雨に濡れながら避難要請を続けるイラつき、まともな情報が下りてこない不安、ロシア軍との対峙で死を目前に感じた焦燥。シャワーを浴びてコーラでも飲みながらバイオハザードで遊ぶ状況とは対極であるからこそ、そういう日常に戻りたいと渇望するんだな。
    戦争をするってのはつまりそういうことなんだよな。

  • 芥川賞候補ということでかなり前から図書館に予約していてようやく読んだ。戦闘シーンと人物の心境が淡々と描かれている。過去でも未来でもない現在が舞台なのがひたすら不気味だった。

  • 軍隊のリアルが体感できる
    ぬくぬく布団の中で読むと愉悦系

    大局的な戦略も知りたい

  • エンターテイメント的ではあるが、陸自の演習の嫌な感じの描写がリアル。

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著者プロフィール

1990年、大阪府生まれ。神奈川大学卒業。元自衛官。現在、地方公務員。2016年、「市街戦」で第121回文學界新人賞を受賞。他の著書に『戦場のレビヤタン』『臆病な都市』『小隊』がある。

「2022年 『ブラックボックス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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