田舎のポルシェ

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 472
感想 : 78
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163913551

作品紹介・あらすじ

★篠田節子の魅力全開! 心躍るロードノベル3篇


実家の農家を飛び出した女性
リタイヤした元企業戦士
夫に先立たれた介護士――
それぞれ秘めた思いを抱いて
トラブル連発のロングドライブへ

【収録作】
「田舎のポルシェ」…実家の米を引き取るため大型台風が迫る中、強面ヤンキーの運転する軽トラで東京を目指す女性。波乱だらけの強行軍。
「ボルボ」…不本意な形で大企業勤務の肩書を失った二人の男性が意気投合、廃車寸前のボルボで北海道へ旅行することになったが――。
「ロケバスアリア」…「憧れの歌手が歌った会場に立ちたい」。女性の願いを叶えるため、コロナで一変した日本をロケバスが走る。   

感想・レビュー・書評

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  • 3篇のロードノベル。
    ひとつめの話は岐阜と東京の往復。
    2つめは東京から北海道。そして道内。
    3つめは東京から浜松(コロナ禍)。
    個人的にはロードノベル自体が新鮮で、決して明るい話というわけでもないのだが、サービスエリアなども出てくるので、車で遠出している時のわくわく感が蘇ってきた。
    ユーモアも折り込みつつ、淡々と描かれる心理や人間模様はさすが。情景も手にとるように伝わって来て引き込まれた。3話とも全く異なる年代、境遇に置かれた主人公とその周りの人々が登場するのだが、世の中には様々な人生があるのだなということを再認識した。

  • 見ず知らずの人間の生い立ちを知ることで、自分自身の家庭環境について考えさせられる一冊でした。

    また、物への執着はないけれど、歳を重ねるにつれて、物へのこだわりは強くなっていることに気付かされました。
    2021,6/8

  • 軽トラ・ボルボ・ロケバスと車を舞台にした短編3編。
    表題作の主役車は軽トラだけれど後半ひょんなところで出て来る「田舎のポルシェ」をタイトルにしているけれど納得。
    3編とも出だしは地味だけれど引き込まれる展開だった。
    「ボルボ」はおじさんのセンチメンタリズムかぁと半ば興味なく読んでいたけれど最後不覚にも(?)ほろりとしてしまった。
    人の人生の悲哀をところどころに感じる物語だけれど重くはないし、軽くも無くちょうどいい塩梅。これが篠田節子氏風味だろうか。まだ分かんない。
    最後の「ロケバスアリア」は初出が2021年だから登場人物はコロナ禍真っ最中でした。

  • 田舎のポルシェ ボルボ ロケバスアリア の三篇のロードノベル。
    どれも面白かった。

    ボルボの男の嫉妬もなかなか醜いですね。
    あんな旦那嫌だな…

  • 「田舎のポルシェ」
    これがいい。篠田氏の願望、あるいは妄想が現れた作品とみた。登場人物の生殺与奪はすべて作者にある。

    八王子の実家を飛び出して岐阜に住む翠。実家の米150キロを岐阜に運ぶことになり、同僚の紹介してくれた男の軽トラックで八王子に向かう。あれ、方向が逆じゃない?と思うが、実家は八王子の山奥、そこで代々の農家、祖父母、父母、兄も亡くなってしまい、財産を相続した翠、残った田を隣家の農家が作ってくれ、その米を運ぶというのだ。

    封建的な考えの祖父母、父母、それに従った兄。まず翠の大学在学中に認知症の祖父の介護中に母が脳溢血で倒れ死ぬ。母は市役所の正職員だったが通帳も祖父母に握られていたという設定。そしてまもなく祖父も徘徊中、用水路に落ちて死ぬ。兄は結婚したが妻は義祖母、透析の始まった義父の介護に疲れ出ていく。そして父も死に、祖母は介護施設へ。兄も半年前にインフルエンザで死んだ、というわけなのだ。いやー、みごとに死なせてくれました。

    これ一人っ子でずっと親に縛られてきた篠田さんの願望じゃないですかね。しかも篠田氏はずっと八王子にいますが、主人公の翠は奈良の大学に脱出させています。時代は現在で、翠は大学卒業後15年となっているので、37歳、昭和末生まれ。とすると親は60代後半で昭和20年代後半から30年生まれ位、祖父母は85から95位で大正末から昭和初め位生まれ。それらの人生観を短編なので、翠のセリフのなかにさらさらっと書いています。主人公の翠とその母、または兄も篠田氏の分身じゃないでしょうか。

    軽トラ運転手、かつ潰れた酒屋の主、瀬沼と翠、エネルギーに溢れる30代のはつらつさが出ている。

    ただ、相続した田が800平方メートルとあり、これは「1反歩弱」10アール。まあ田んぼ1枚というところ。実家は農家とあり、田んぼ1枚じゃ食っていけない。翠の育つ時は母の収入があったけど、祖父母たちはどうしてたんでしょう。山があったんでしょうか。設定がちょっと疑問。

    「ボルボ」
    60代の男二人の「ボルボ」に乗っての北海道行き。それぞれの夫婦の間の微妙な思い。

    「ロケバスアリア」
    夫は死んでしまったが、暖かい娘と孫に恵まれた女性。誕生日記念にアリアを歌う場面をDVDに残そうと浜松へ。1人になって解放されている感じもする。

    どれも単発ドラマなんかにしたら面白そう。


    「田舎のポルシェ」オール読物2020年9・10合併号
    「ボルボ」同2020年2月号
    「ロケバスアリア」同2020年1月号


    2021.4.15第1刷 図書館

  • 車に乗って旅をする3篇を収録した短篇集。「田舎のポルシェ」は岐阜⇔東京、「ボルボ」は北海道、「ロケバスアリア」は浜松までと、それぞれ主人公も目的地も異なるし、車と旅以外に共通点はない。コロナ禍で外出することもままならない日々が続くが、そんな時期にロードノベルは憂さ晴らしになる。3篇とも甲乙つけがたいおもしろさだった。

  • 久々の篠田氏の作品。表題作を含む3作。初見の男女が軽トラに同乗して岐阜から東京の往復を描く。会話の続かない気まずい車内に吹き出しそうになる。軽そうで重い、重いと見せかけて、実は本当にかなり奥深い話しだが、楽しめた。コロナで動けない時期に高速道路を運転する思いもしっかり追体験できた。

  • 篠田さんの新刊待ち望みいました。「ロケバスアリア」の主人公のようにしっかりと生きたいな。謝辞を読み流石だなぁと感心いたしました。軽トラに実際に乗車されて高速道路走ったのですね。

  • 表題作を含むいずれも自動車絡みの中編三作。
    「田舎のポルシェ」:大型台風接近の中、岐阜から東京まで、紫のツナギを着た男性・瀬沼の操る田舎のポルシェ、すなわち軽トラで往復する羽目になった主人公の翠。道中では思わぬハプニングが・・・。
    「ボルボ」:伊能と斎藤はリタイア男性。二人は伊能の廃車寸前の愛車・ボルボで北海道を旅するが、斎藤は妻の浮気を疑い、その後を追うのが目的だった。
    「ロケバスアリア」:春江は古希の祝いに、かつて憧れの歌手が歌い、コロナ下の現在は客を呼べないホールを借り切りアリアを歌おうとしている。甥の大輝は本職のディレクター神宮寺と共にその舞台をDVDにしようとするが・・・。
    ストーリーも良く出来てるし、主人公達の心の揺れ動き方も堂に入ってます。特に、特にロケバスアリアの春江さんと神宮寺さんの二人のやり取りが良いですね。
    全体にどこか浅田次郎を思い起こす作品群でした。

  • 何年ぶりだろう…篠田さんの小説を読んだのは。

    こうしてまた、思わず物語の世界に引き込まれていく心地よさを味わうことが出来た。

    本当に上手いな〜!
    日常のひとコマずつをつなぎ合わせて、こんなワクワクするストーリーを作り出すなんて。

    特に、2作目「ボルボ」の迫力、緊迫感は凄い。
    まるで目の前に繰り広げられているかのような筆力で、読んでいて手に汗握る。
    文章の力強さが、とにかく気持ちいいのだ。

    好きな作家との嬉しい再会となった一冊だった。

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著者プロフィール

篠田節子 (しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『弥勒』『田舎のポルシェ』『失われた岬』、エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』など多数。20年紫綬褒章受章。

「2022年 『セカンドチャンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

篠田節子の作品

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