陽だまりに至る病

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163915012

作品紹介・あらすじ

あなたのお父さんは、殺人犯なの――?

ネグレクト、貧困、そしてコロナが少女たちを追い詰める。

タイトルの真の意味がわかると、きっと胸が熱くなる。
現代社会の闇に迫る切ない社会派ミステリー


小学五年生の咲陽は、「父親が仕事で帰ってこない」という同級生の小夜子を心配して家に連れ帰る。だが、コロナを心配する母親に小夜子のことを言いだせないまま、自分の部屋に匿うことに。
翌日、小夜子を探しているという刑事が咲陽の家を訪ねてくる。小夜子の父親が、ラブホテルで起きた殺人事件の犯人ではないかと疑念を抱く咲陽だが――。

『希望が死んだ夜に』で「子どもの貧困問題」に、続く『あの子の殺人計画』で「子どもの虐待」に迫った〈仲田・真壁〉の神奈川県警刑事コンビが、次は「コロナと貧困」の陰で起こった事件に挑む。話題の社会派ミステリー第3弾!

感想・レビュー・書評

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  • この作品は一言で言えば3年前から流行中の新型コロナによって生まれた貧困による弱者についてと、二人の小学5年生の少女の友情の話だと思います。

    神奈川県の登戸に住む小学5年生の上坂咲陽(さよ)は自宅の二階の部屋に同級生で皆に嫌われている、野原小夜子をいれてあげます。
    小夜子はコロナの陰性証明書を持っていて、父親の虎生がいない間、1週間だけここに置いて欲しいといいます。
    咲陽は母で看護師の百合香が「家は恵まれているんだから困っている人がいたらなにかしてあげないとね」と言った言葉を思い出して、父母に内緒で小夜子を匿うことにします。

    小夜子の家庭は父の虎生だけで、虎生は警備員の仕事をクビになった貧困家庭でした。
    そして、咲陽の父の経営するイタリアンレストランの料理をおいしそうに無邪気に食べる小夜子ですが、今、町田市で起き、ニュースになっている、鈴木夏帆という若い女性が殺された事件の犯人が虎生であるかもしれないと咲陽は思い始めます。

    夏帆の殺害現場に落ちていたという珍しい飴を訪ねてきた刑事の真壁に見せられ、咲陽は小夜子が好きな飴と同一のものであるのを知りますが、警察から小夜子を最後まで守ろうとします。

    新型コロナの流行により、登場人物たちの職がなくなり、貧困に陥っていく状態がこれでもかという程、非情に訴えられています。


    一体、いつになったら収束するのかわからないコロナ。
    今年の大型連休は何の制限もなくなり、普通に過ごしてくださいということで、交通機関、観光地、宿泊施設などにお勤めの方は少しは安心されたのではないでしょうか。
    でも、コロナは収束したわけではなく、これからは経済中心で、ウィズコロナの時代になっていくのでしょうか。


    なお、この作品には作者の天祢涼さんの前作に登場した刑事の真壁や仲田が再登場します。

    • 土瓶さん
      まことさん、おはようございます。

      あまり早くもないですが、GW寝坊です(笑)。
      「~に至る病」っていうタイトル、妙に多いですね。
      ...
      まことさん、おはようございます。

      あまり早くもないですが、GW寝坊です(笑)。
      「~に至る病」っていうタイトル、妙に多いですね。
      作者も違うのに。
      そんなに編集から見て、つけてみたいフレーズなのだろうか? と思いました。
      独り言のようなコメントで失礼しました。読み捨てて下さい^^
      2022/05/02
    • まことさん
      土瓶さん。おはようございます♪

      「~に至る病」は多分、みんなキルケゴールの『死に至る病」からきてますよね。私も「私、病気があるけど、死...
      土瓶さん。おはようございます♪

      「~に至る病」は多分、みんなキルケゴールの『死に至る病」からきてますよね。私も「私、病気があるけど、死に至る病ではないよ」とか使ってしまうことがあります(笑)。
      2022/05/02
  • コロナ禍で悲劇に巻き込まれた子供たち… 社会は彼女たちを優しく包んでくれるのか #陽だまりに至る病

    コロナウイルスによって完全に生活様式がわかってしまった現代社会。
    主人公である小学5年生の彼女は、近所に住む困っている友人に声をかけた。主人公は彼女を部屋に招き、二人の秘密の生活が始まる。一方で、とあるラブホテルでは殺人事件が発生した。警察は友人の父親が関係していると捜査を始めていた。

    貧困にあえぐ子供たちを護る、仲田シリーズの三作目。本作も素晴らしかったです。

    コロナが流行ってもう3年になりますね。
    災いが起こると、まず犠牲になるのは弱者からです。そんなコロナ禍のリアルを痛烈に描写した切なすぎるお話でした。

    本作の一番の魅力は、やっぱり主役の二人の少女たち。
    主人公の太陽のような優しさ、今にも壊れそうな弱さを持ちながらも気丈にふるまう頑張りが切ない。
    そしてもう一人の貧困にあえぐ友人は、大人や社会に対する憎しみを持ちながらも、まだ牙をむく一歩手前。彼女の不安定な魅力はとても引力が強く、読者の心を揺さぶります。
    ふたりがそっと寄り添うことでどんな影響を及ぼしてくるのか。本作の一番の読みどころでした。

    全体的なストーリーとしては比較的シンプルですが、登場人物ひとりひとりの信条や感情描写がとてもうまく、重厚感のあるものになっています。この辺りはさすがですね。
    またミステリーとしても気が利いた仕掛けが施されており、最後には本書のタイトルの意味がわかります。

    さて本書の最序盤には、公園で子供たちが自由に駆け回っているシーンがあります。あたりまえだった生活のワンシーンが、一日でも早く帰ってくることを切に願います。

    今ならではの社会派ミステリー、たくさんの方に読んでほしいです。

  • 「〇〇に至る病」というタイトルの小説っていくつかあるんだな、タイトルで本を選ぶのもいいかもと思って読んでみた。
    結果、この作品は私はあまり好きではなかった。
    コロナ禍ならではの描写が多くて、確かに大袈裟ではなくこんな世の中だったけど、ちょっとくどいなと感じた。

    仲田さんの想像力が凄すぎた。

  • 新型コロナウイルスによる緊急事態宣言、時短営業、一斉休校……
    先の見えない不安と苦しさで、私たちがいちばん辛かった時期を思い出す。

    主人公は小学5年生の少女二人。
    コロナ禍による事件や貧困に巻き込まれていく。
    この少女たちが、大人を相手に精いっぱい強がって戦う姿が痛々しく、切ない。

    コロナという未知の病による不安や怖さ。
    仕事や生活などの金銭的なことから、死の恐怖まで。
    私たち大人でさえ不安に押し潰れそうなのに、子供たちはどんな気持ちでいるのだろう。
    彼らにはこの社会と大人たちが、どんなふうに見えているのだろう。

    彼らは大人が思う以上に、しっかりと周りを見て、自分に出来ることをやろうとしているのかも知れない。
    事件を解決するのは、〈仲田・真壁〉の神奈川県警刑事コンビ。
    仲田さんが想像力を働かせて、事件を解決していく様子が何とも爽快。




    この春ようやく、日常を取り戻しつつあるようですね。
    みんなでワイワイ集まれることが普通の日々よ、早く来い!

  • コロナと貧困の陰に起こったミステリー。

    小学5年の咲陽は、裏のアパートに住む同級生の小夜子が、父が仕事で帰ってこないから知り合いのおばさんのところへ行くというのを聞き、家へ連れて帰る。

    コロナ禍で友だちと遊ぶのも気にしている母には言えずに内緒で自分の部屋で匿うことにした。

    小夜子の父が、近くで起こった殺人事件の犯人で逃げていることを知ったとき…

    父のお店もコロナの影響を受け時短になり、母の勤めている病院も患者が減り仕事に行かずに家にいることになると匿うことも難しくなり…

    亡くなった女性が、コロナ禍でバイトもなく、家賃も払えず、大学も辞め、風俗に勤めるが、毎日が苦しい状況だった。
    そして真実がわかったとき…

    なんともやるせない気持ちである。
    すべてがコロナのせいなのか…
    親の仕事が無いと、子どもにも影響を与えてしまう。
    昨日まで、普通に暮らしていたのに…
    いつのまにか、という。

    今もなお、辛く苦しい思いで生活している人たちは、たくさんいるだろう。
    どうにもならないものなのか。

  • 小学生なりの一生懸命さが伝わる。

    コロナ禍で色んな人が影響を受けたり、苦しんだりしていて、やるせない気持ちになる。

    仲田さんが出てくると安心しちゃう(笑)

  •  コロナは色々なことを変えてしまう。コロナが原因となった自殺もあるだろう。でも、一概にコロナだけのせいにできるのだろうか。

     さて、本作も仲田・真壁の刑事コンビが活躍する。

     小学5年生の咲陽は、同級生の小夜子の様子がおかしいのを目にする。居ても立っても居られなくなった咲陽は、小夜子のアパートまで行き、父親がしばらく不在になると知ると、家においでと声をかける。
     世間はコロナ禍。なるべく友達とも接しないように言われた咲陽は、自分の部屋に小夜子を匿うようになる。やがて、小夜子の父親が巷を賑わしている町田の事件の犯人ではないかと疑いを持つようになった頃、咲陽の元に刑事がやって来る・・・。

     相変わらず子どもの心理描写が上手く、また仲田の影響を受けて徐々に変わりつつある真壁の存在も魅力を増してきた。

     さて、まだまだ続くこのコロナ禍。どう過ごしていくかは自分次第。withコロナ。コロナだからといって諦めるのではなく、日々楽しく過ごしていけるようにしたい。

  • ❇︎

    貧困やコロナはすぐそばにある驚異だと
    感じさせながらも、そんな中で何かを信じて
    行動する小さな光に切なさが溢れる物語。

    〜〜〜〜〜〜〜〜
    咲陽の章
    真壁の章
    咲陽と真壁の章
    小夜子の章


    コロナで緊迫する情勢の中、仕事は無くなり
    生活が立ち行かず絶望感を覚える人。
    なんとか生活を維持しようと懸命にもがく人。
    自暴自棄になり過ごす人。

    コロナ禍で家庭の経済環境は一転し、
    貧困は大人子供の区別なく精神を脅かす。

    小学生5年生の咲陽は両親のそぶりから、
    当たり前だと思っていた生活がコロナ禍で
    音を立てて崩れ始めていると知る。

    どこか別の場所にあると現実感のなかった
    貧困がすぐ身近にあると知った時、
    砕けそうになる良心を懸命に奮い立たせて
    人のために何ができるのか。

    切なさともどかしさに溢れるミステリー。

  • やっと図書館で借りられました!小学5年生の咲陽は、「父親が帰ってこないので知人の家に行く」と言った同級生の小夜子を自宅に匿うことになった…コロナ禍で両親にも言い出せず、小夜子の父親がある事件に関わっていることを知り、何とか現状を打開することはできないか…必死に考え行動する…。読んでいて、咲陽や小夜子のことを思うと切なくなりました…。ある意味特異的な状況下でもあり、そんな中で今後も咲陽と小夜子の友情が普遍的なもとのなればいいなぁ…と願わずにはいられません。それと仲田さんのように子供に寄り添った支援ができる大人が増えていくことも、コロナ禍には必要なこととも感じました。いろんなことを考えさせられる作品でした!

  •  未知のウイルスによって浮き彫りになる現代社会の暗部を描いたサスペンスミステリー。
     神奈川県警本部の真壁警部補と多摩署の仲田巡査部長が捜査に当たり、社会の闇を解き明かす。シリーズ第3弾。
             ◇
     川崎市登戸で飲食店を経営する父と看護師の母を持つ小学5年生の咲陽。比較的裕福な家庭で生活する自分は恵まれていると思っていた。
     そんな咲陽は、自宅裏の古アパートに父親と2人で住む同級生の小夜子を気にかけている。小夜子は子どもの目からも貧困がわかる暮らしぶりだったからだ。

     ある日、小夜子を訪ねた咲陽は、「父親が出かけたきり帰らない」という小夜子を心配して自宅に連れ帰る。
     母親に事情を話して小夜子を泊めてもらおうとした咲陽だったが、医療機関に勤める母親はコロナ感染のリスクを理由にそれを拒否。やむなく咲陽は、親に内緒で小夜子を自室に匿うことにした。

     小夜子との奇妙な同居生活が始まってまもなく、刑事が咲陽を訪ねてきた。小夜子の行方を探しているという。先ごろ町田で起きた女性殺人事件と関係があるらしい。
     その場はしらを切った咲陽だが、小夜子の父親が殺人犯ではないかという疑いがしだいに大きくなってくるのだった。

     全4章で、物語は前半が咲陽視点で後半が真壁視点で、終盤に小夜子視点で描かれる。

         * * * * *
     
     新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした影響の甚だしさを改めて感じました。
     
     多くの人が収入の激減で困窮にあえいだし、収入の道自体を断たれ死を選ぶしかなくなった人も少なくありませんでした。
     そこまで追い詰められていない人であっても、不安と持っていきようのない腹立たしさを抱え、街中に殺伐とした空気が漂っていたのを思い出しました。

     本作では、それがリアルに描かれています。

     咲陽の両親は善良で良識のある人たちです。娘に対する愛情も溢れています。それでも、レストランの営業不振や母親の失職による収入減から不機嫌さを隠せなくなるし、母親に至っては娘に八つ当たりしてしまったりするのです。

     レストランを解雇された奈々さんも真面目な明るい人でした。なのに、ネットでよからぬ行動をとってウサをはらすような陰湿な人になってしまいます。

     悲惨なのは死んだ女子大生です。奨学金とアルバイトで学費と生活費を賄い、学業にもしっかり取り組んでいたのに、アルバイト先の営業自粛により失業。生きていくために大学を退学し風俗に手を染めるしかなくなってしまいます。(彼女が生命を落とすに至ったのは、実家のというより故郷の人々の偏狭さが原因と言えますが、コロナが拍車をかけているのは間違いないでしょう。)

     ちなみに、小夜子の父親の不甲斐なさは発達障害からきているように思われます。
     正義の味方に憧れる割には娘の面倒すらろくに見ず、幼稚な独りよがりの殻から出てこようとしない。落ち着きがなく感情のコントロールが利かない。だからすぐ仕事をクビになる。貧困はそのせいです。(成人になるまでにケアされるべきレベルの障害程度に見えるけれど、放置されたのでしょう。そんな人は結構いるのかも知れません。)
     
     こんな状況にあって、子どもたちは善戦していたと思います。

     主人公の咲陽はなかなかしっかりした賢い少女です。自制心が強く、落ち着いた行動がとれるという大人っぽいところがあります。友人たちからも頼りにされるほどです。

     そんな咲陽でもコロナパニックに翻弄されるけれど、自身でしっかり受けとめて最善を尽くそうとしていました。

     そして、小夜子の言動の真意を読み取って、心の鎧を脱がせていく最後の場面は見事としか言いようのないほどで、まるで仲田蛍を見るようでした。(将来は警察官かな?)

     一方、小夜子も劣悪な環境に負けず、自分を腐らせていませんでした。父親を見切り、世の中に対して常に防御姿勢を取り続けるところは咲陽とは別の意味で大人であると言えます。

     ネグレクトを含め身体的虐待を父親から受けていながらこの強靭さ。ここまでの強さを持った少女はシリーズ初ではないでしょうか。

     その他、咲陽の仲良しの友人たちも ( 家庭に恵まれているのもあるでしょうが ) 皆いい子で、制約の多い生活のなか健気に過ごしていました。

     子どもたちが酷い目に遭うストーリーはどちらかと言うと苦手で、これまでのシリーズ2作品は読んでいて辛かったけれど、本作の 咲陽 − 小夜 コンビには救われた気がします。
     欲を言えば、仲田巡査部長の活躍をもっと見られたらよかったと思いました。

         * * * * *

     かな師匠にご紹介いただいた天祢涼さんの『真壁 − 仲田 シリーズ』3作品。
     すごくおもしろかったです。お奨めくださって本当にありがとうございました。

     『乙女の本棚』シリーズ読了、お疲れ様でした。レビューもとてもよかったです。漫然と読んできた作品がかな師匠の手にかかれば違う輝きを放って見えるのが不思議です。
     師匠のレビューは、読むと心がほんわか温かくなって、いつも得した気分になります。これからも楽しみにしています。

    • かなさん
      Funyaさん、こんばんは!
      師匠なんて(^-^;
      そんな、恐れ多いっ…!
      けど、めちゃくちゃ嬉しいです!!
      そんなことを言ってもら...
      Funyaさん、こんばんは!
      師匠なんて(^-^;
      そんな、恐れ多いっ…!
      けど、めちゃくちゃ嬉しいです!!
      そんなことを言ってもらえると、
      図に乗っちゃうかも(^^ゞ

      この作品、おすすめできてよかったです。
      Funyaさんも、この世界、堪能していただけたようで
      ホント、よかったです(^O^)/

      これからも、私なりに読んだ作品のレビューを
      あげていきますので、お付き合いのほど、
      よろしくお願いします。
      2023/07/29
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著者プロフィール

1978年生まれ。メフィスト賞を受賞し、2010年『キョウカンカク』で講談社ノベルスからデビュー。近年は『希望が死んだ夜に』(文春文庫)、『あの子の殺人計画』(文藝春秋)と本格ミステリ的なトリックを駆使し社会的なテーマに取り組む作品を繰り出し、活躍の幅を広げている。

「2021年 『Ghost ぼくの初恋が消えるまで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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