- Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163915982
作品紹介・あらすじ
この美しき妻は、夫の殺害を企んだのか。
息子を殺害した犯人は、嫁である想代子のかつての交際相手。被告となった男は、裁判で「想代子から『夫殺し』を依頼された」と主張する。犯人の一言で、のこされた家族の間に、疑念が広がってしまう。
「息子を殺したのは、あの子よ」
「馬鹿を言うな。俺たちは家族じゃないか」
未亡人となった想代子を疑う母親と、信じたい父親。
家族にまつわる「疑心暗鬼の闇」を描く、静謐なサスペンスが誕生!
「家族というのは、『お互いに助け合って、仲睦まじく』といった一面が取りざたされることも多いですが、そうじゃない部分もあります。ある種の運命共同体であるからこそ、こうしてほしいという願望を押しつけあったり、求めあったりして、生きづらさも生んでしまう。だからこそ、ドラマが生まれる。家族が一枚岩になれないときに生ずる『心の行き違い』は、サスペンスにしかならない」(著者インタビューより)
全国の書店員さんから、驚愕と感嘆の声が届いている傑作をぜひ!
感想・レビュー・書評
-
老舗の陶磁器店を営む熟年夫婦と、近くに住む息子夫婦と孫、忙しくも程々に裕福に暮らしていたが、息子がナイフで刺され殺害された。
犯人は嫁の元彼…嫁は事件に関係しているのか、していないのか…。
○曜サスペンスの様なあらすじだが、本当にそんな話だった。
舅と姑の目線で語られるので、横暴な息子は贔屓目で語られるし、姑は嫁がとにかく気に入らない。義理叔母も曲者、孫との血縁関係も疑われていく。
「嫁は何を考えているのか分からない」と姑は常に不満気だが、そんなの当たり前だろう。
息子の事件後から同居することになったが、完全にアウェーの環境で自分の考えや気持ちは場を乱さないために控えるし、舅や姑に節度なき態度を出すのは小さな子供だけだ。
何を考えているのか知りたいなら、陰で文句ばかり言ってないで相手の気持ちを考えてみろよ、と思いながら読んだ。
嫁も美人で少し不思議な空気を纏い、頑張り屋さんだが女受けするタイプではないため、最初っからもう合わないんだろうな。
家業を手伝わなければ文句言うし、手伝えば調子に乗るなと言われるし、周囲に嫁を良く言われるのも悪く言われるのも、どっちも気に入らない。
身体が衰えていくけど、老舗の女将としての仕事や台所は取られたくない、など面倒くさい。
「老舗の看板」のプライドが良くも悪くも摩擦を生み、みんなが行き違ってしまうのかよく分からないけども、やっぱり○曜サスペンスみたいだった。
刑事は出てこないので、船越さんは登場しないけど。詳細をみるコメント6件をすべて表示-
あゆみりんさん大型商業施設への移転の賛成派反対派、そして家宝の陶磁器のすり替え事件も起きます、火サスです。大型商業施設への移転の賛成派反対派、そして家宝の陶磁器のすり替え事件も起きます、火サスです。2023/06/10
-
あゆみりんさん地元の政治家が出てきて、新開発の商業施設への移転問題って、なんか観たことある気がするもん。地元の政治家が出てきて、新開発の商業施設への移転問題って、なんか観たことある気がするもん。2023/06/10
-
みんみんさん陶磁器のすり替え(〃ω〃)陶磁器のすり替え(〃ω〃)2023/06/10
-
-
老舗の陶磁器店を営む貞彦・暁美夫婦には跡継ぎの息子もいて、その息子も妻子と近くに住み幸せに暮らしていた。
ところが、息子が殺害されてしまう。
犯人は、すぐに捕まったが、息子の妻・想代子の元交際相手。
男は、裁判で想代子が夫からDVを受けていて殺しを依頼されたと言う。
貞彦は、夫を亡くし仕事もしていない想代子と孫を家に住まわせて、店の手伝いをさせる。
暁美は、すべてが気に入らない。
孫すら息子の子どもではないのでは…と疑心暗鬼。
ずっとモヤモヤしている。
暁美の気持ちもわかる。
まだ、若いうちなら縁をきって違った生き方もあるだろう。
だが、あえて子どもを連れて義父母宅へ入り同居するという…
それは、ゆくゆく陶磁器店を我が手に入れるということだろうと。
もともと狙っていたのか?と当然思ってしまうわけで。
それは、それで何もいうことは無いが、なんか気に入らないのは、なぜだろう。
姑の肩を持つわけじゃないが…
-
私が読む雫井脩介氏作品の8冊目(6作品目)。
著者は男性なのに、なんでこんなにも母親の気持ちや女の鋭い勘というものを細かく描けるのだろうと感心しながら、本書を私はずーっと「暁美」の味方か分身かのような気持ちで読んだ。 -
幸福に日々を営んでいた家族に突然訪れた災難。疑心暗鬼が生む亀裂。信頼で結ばれていた関係の歪みが徐々に大きくなっていくさまを描くサスペンスミステリー。第168回直木賞候補作品。
◇
鎌倉の老舗陶磁器店の跡取り息子が刺殺された。犯人は被害者の妻のかつての交際相手だった男で、未練からくる逆恨みによる犯行と思われた。
だが裁判が結審し判決を言い渡された瞬間、被告の男は被害者の妻に頼まれてやったことだとまくしたてた。
ざわつく傍聴席。動揺を隠せない被害者の両親。そして顔色を変えたものの、毅然とした態度で法廷を後にした妻。
判決後、平穏を取り戻したかに見える久野家だったが、生じた歪みがしだいに大きくなるのを止めることはできなかった。
はたして被告席で男が叫んだことは事実なのか。そして事件の真相は。
* * * * *
さまざまな要因が絡み合い、起こるべくして起こった家族の崩壊。それはこの家族の特殊性が大きいのではないだろうか。そう思います。
殺された康平は妻子に冷たかった。妻に対する暴力や息子に向ける冷眼は酷いのひと言。
そもそもそれがなければ、隈本につけこまれることもなかったろうし、隈本がコンタクトをとってきた時点で想代子はすぐに康平に相談できたはずです。
康平は自滅したと言えるでしょう。
姑の暁美にはもともと想代子に対して含むところがありました。ひとり息子を取られたからか、美人で男受けする想代子へのやっかみゆえか、対応に冷えがあるように思います。
それが下地となって、事件後の想代子への疑心暗鬼を生み出したのではないでしょうか。嫁に対する姑の悪感情。百害あって一利なし。
暁美もまた自滅していったと言えます。
暁美の姉の東子もひどく筋のよくない女でした。想代子に対して打ち解けてもいないし、康平の死の直後に優しい声かけもしていない。
元来が派手好きで騒動を好む性分なのでしょう。想代子に対する暁美の猜疑心を煽り立て、嫁姑間の亀裂を大きくするだけでした。
それでいて穀潰しの夫には甘く、夫の辰也が妹婿の貞彦を裏切り店に打撃を与えることに気づきませんでした。挙げ句に、夫婦して事故死するのだから自業自得です。( 仮に想代子からの鉄槌だとしたらなおさらいい気味だ。)
そして嫁の想代子。
美人で男の気を引いてしまうのは想代子のせいではありません。隈本に言い寄られたり、康平に妙な疑いをかけられたりするのも、気の毒としか言いようがないことです。
けれど、同性から向けられる悪意含みの感情にもっと気をつけるべきだったとは思います。おっとりしていて、あまり負の感情を見せないのも性格なのでしょうが、もう少し上手に立ち回る必要があるのではないでしょうか。( 舅の貞彦にはうまく接していたけれど。)
エピローグ部分。久野家の面々はみな鬼籍に入り、老舗陶磁器店は想代子が引き継ぐことになりました。
焼き物についてはまったくの素人だった想代子だけれど、貞彦を手伝いながら熱心に勉強した甲斐あって目利きもできるようになり、貞彦が目指した店の拡充も想代子が成し遂げます。上辺からは想像できないバイタリティです。
康平の死の前後は情緒不安定だった息子の那由太も立派な跡継ぎに成長しており、ラストはすっきりした後味でした。
ところで、タイトルになった「クロコダイル・ティアーズ」。嘘泣きのことなのですが、想代子のそれは「ワニの涙」とは違うものではないでしょうか。
DV 夫の死にはさほどの悲しみを感じていないのは確かで、そういう意味では嘘泣きです。
でも獲物を食い殺しながら流すというワニの涙とは違う。隈本と共謀して夫を死に追いやったわけでも、その後の店の乗っ取りを画策しようと思っていたわけでもないからです。食い殺してはいないのです。
ただ、自分にとって味方でいてくれるのか敵に回るのかを敏感に察知して対応を変えるしたたかさは随所で見られました。また、「棚からぼた餅」のようなチャンスを逃さない賢さも持ち合わせているとは思います。
さらに、陶磁器店の経営権を手にするや自分の考える店作りを着々と進め、軌道に乗せてしまう経営手腕は称賛に値するでしょう。窯元との関係も良好で、支店も含め順風満帆です。
雫井さんの作品で同じように家族を襲った災難を描く『火の粉』のようなサスペンスミステリーというよりも、美人女将の一代記として、楽しませてもらいました。 -
嫁の帰省中に、息子が殺された。
犯人である嫁の元恋人は、彼女の依頼で殺した、と言い出して……。
面白かった。
「シロクロはっきり分かれば」と言いながら、都合の悪い証拠は認めず、クロだと確証を持てるまで追い続ける、女性たち。
一方、男性たちは想代子を気に入るばかり。
同性と異性の対応が、おもしろいほど真逆で、だからこそ歪んでいく。
軋みを立てていく家族。
真実は、何か?
どんどん疑心暗鬼の深みにはまっていくサスペンス。 -
すっごく面白かった!移動の電車やバスで夢中で1日で読んでしまった!特に、ラストの章が良い!
この作品、何も知らずに読んだ方が面白いのでは?と思います。
老舗の陶磁器店のシーンから始まるこのお話、何の前情報もなく読み始めたので、何が起こるのだろう?この題名はどういう意味?なんて軽く思いながら読み進め、止まらなくなりました。
まさに、家族につわる「疑心暗鬼の闇」が描かれています。
自分がもう、歳をとっているので、嫁と姑、どちらの立場も気持ちも分かるのです。分かるんだけど・・・ああ〜、それを言っちゃあ良くないよとか、逆に、ああ〜そこでちゃんと伝えれば、とかそんなこと思いながら。
私自身は、小学生時代から通知表に「おしゃべりが多いです」と書かれたくらいで(笑)思ったことは口に出してしまう性格です。人生、それで損したと思ったことも数知れずですが、歳をとってくると、まあ、得だったことも多いのかな?とも思ってます。ネットでお遊びの性格診断とかすると『超社交的』とでる。(大笑)でも、人間関係でそれがどう働くかは、相性だと思うのです。
このお話では、真相は何だったのか?という意味では、ラストである程度分かります。でも、ラストの章が深いと思うのは・・・・
結局人は、自分の心の中しか覗けないから、どんな言葉を聞いてもそれを信じられない限り、救われない、ということ。そして、悲しいこと、辛いことは、誰しもたくさんあるけれど、誰かに対しての不信感を強く持ってしまうと、それはある種の「呪い」なのだな、と強く思ったのでした。そう、だから、自分にとって辛いことは、上手にスルーしていく、というのも大事なんだなあとつくづく思ったのでした。
風くんの歌にあるとおり、
「憎み合いの果てに
何が生まれるの
わたし わたしが先に忘れよう」
なのです。
やっぱり雫井脩介さん、良いなあ。傑作だと思います! -
結末は何だかモヤモヤしますが、細かく丁寧に心の動きが描かれ、ずっとハラハラしてました。
-
※
息子が殺害されたことがきっかけになり、
嫁への疑心がどんどん膨らみ、家族が
疑心暗鬼の深い沼に嵌りこんでいく物語。
義父母から嫁の想代子と孫の那由太に
向けられる疑念は、周りの噂話が後押しして
瞬く間に家族の関係をギクシャクさせていく。
義父母視点からの部分が多くて、
ずっと疑惑の目を向けられている主人公の
感情がやっと最後に説明されて消化不良に
ならずにすみした。
-
夫をかつての恋人に殺された嫁と舅、姑の張り詰められた緊張感がただならない。私なら早々と別居を訴えてるだろう。息子を殺した犯人に面会に行くより前に。この息詰まる心理戦の勝者、想予子さんとは絶対に友達になりたくない。
-
貞彦、暁美夫婦の目線で書かれているので、どうしても想代子を疑う感じで読んでしまう。
本当はどうなんだろう?とずっと気になりながら読み進めた。
疑心暗鬼が生み出すすれ違いが上手く書かれていた。