北関東「移民」アンダーグラウンド ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪
- 文藝春秋 (2023年2月6日発売)


- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163916453
作品紹介・あらすじ
北関東というのは独特の匂いのする地域である。
大宅賞作家・安田峰俊の最新作は、その北関東に地下茎のごとく張り巡らされた、「移民」たちのネットワークのルポだ。
移民に「」がつくのは、日本には制度上、移民はいないから。しかし、悪名高い、技能実習生制度のもと、ベトナム人だけでも実習生は20万人近く。その一部は低賃金や劣悪な環境に嫌気がさして逃亡、不法滞在者の「移民」として日本のアンダーグラウンドを形成している。彼らは自国の経済が発展し、出稼ぎに出なくても食えるようになると、日本になど来なくなる。そのため、アンダーグラウンドの主役はどんどん変わる。かつて中国人が主役だったアンダーグラウンドを、今、占拠しているのは、無軌道なベトナム人の若者たちなのだ。
ベトナム人によるアンダーグラウンド社会が日本人に知られたのは、群馬県で起きた「豚窃盗事件」。養豚場から盗まれた豚は、彼らのアパートで解体され、彼らのネットワークの中だけで処理されたため、警察の捜査は難航した。このように、アンダーグラウンドで完結する犯罪は表に出にくいのである。桃などの果物も、かなり派手に盗まれているが、犯人はなかなか逮捕されない。
本作では、筆者と通訳の「チーくん」(彼は日本育ちのベトナム難民の2世だ)が、まるでホームズとワトソンのように、「移民」による事件現場を訪ね歩く。血なまぐさい殺人現場、タトゥーだらけのしたたかな不法滞在者たち、常にただよう薬物とバクチと女のニオイ。あちこち探り歩いて、ついに北関東ベトナム人アンダーグラウンドのボス、「群馬の兄貴」にたどり着く。スキンヘッドに気合の入った刺青、見るからに恐ろしい「群馬の兄貴」が犯した真の罪とは……。
豚の窃盗から、誘拐、殺人と、あらゆる犯罪現場に、ベトナム人の好物である雷魚とアヒル、そしてビールを手土産に走り回る2人。
恐ろしくて面白い、アンダーグラウンドレポート!
感想・レビュー・書評
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表紙がタトゥーがっつりの男の上半身、色はマゼンタという毒々しさなので、ちょっと手に取るのを躊躇するが、内容はちゃんとしたものだったので、ちょっと表紙で損しているかもと思う。
ボドイと呼ばれるベトナム人(逃亡技能実習生など)の絡んだ事件を調査し、当事者に会い、現地取材もしていてすごく読み応えがある。
他の取材記者と違って著者が彼らの本音を聞き出せたのは、言葉の問題をクリアできたこと(チー君という日本生まれのベトナム人通訳が活躍)、手土産(ベトナム人は「金麦」が好き)、一緒に食事したことらしいが、言葉と食事というのは高野秀行さんが外国人と仲良くなるためにいつもやってることと同じだなと思う。
読んでいると彼らの「秩序を担保するのは民間の暴力装置と、個人による人治的な権力だ」(P107)というところなんか昭和のヤクザみたいでもある。
著者はベトナム人=悪という書き方はしない。彼らを生んだのは日本とベトナムの経済格差と、「現代の奴隷制」である技能実習生制度だときちんと書いている。
経済成長しない日本で物を安価で売るために外国人不法労働者が黙認されている、ということはうすうす認識していた。しかし、
「(技能実習生を送り出す国々は)人権意識が充分に確立していない、しかも庶民が権力を批判する自由が制限されている強権的な非民主主義国家」であり、「これらの国の「優秀とは呼べない」人たちは、たとえ自分の人権が侵害されても、自覚できなかったり、異議の申し立てを諦めていたりする。そういう土地からそういう人を選んで連れてきて、日本でも母国と同様に制限された人権環境に置く。かくして低コストを実現させているのが技能実習制度の本質的な仕組みなのである。」(P29)というところには、ショックを受けた。国家として人権侵害をしているだけでなく、他国の人権侵害を奨励してるようなものである。
日本の平和で純朴な人々が暮らす農村や漁村で「最もうるわしき日本の姿と並行して、ベトナム人技能実習生が織りなす『蟹工船』さながらのストーリーが展開している。」(P92)
以前は中国人が多かったが中国が経済成長して少なくなり、現在底辺労働者として来る中国人は「本人の学力も実家の経済力もなく、人付き合いも苦手なタイプの、中国社会でうまくいかない地方出身の若者たちである。往年のハングリーな中国人と違って、甘く打たれ弱いが権利意識が強い」ってのもショック。これ、日本の若者にも同じタイプたくさんいる。もし日本がもっと貧しくなれば、こういう若者が海外で出稼ぎするのは明らか。というか、もうやってるだろう。暗澹たる思いがする。
これを読んだ後、ベトナム人によるユニクロ集団万引きのニュースを見たが、驚かなかった。
日本の経済力の低下、少子高齢化などとも絡み、簡単な解決策はないが、とりあえずこの現状を認識することは大切だと思う。
著者には体に気をつけて頑張って欲しい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
しっかりしたルポを読むのはこれが初めてだったかも。裏社会ってこんなに身近なのかと驚いた。小説みたい。
移民問題はいろいろと取り上げられていて、勝手にやって来て勝手に悪さをしていくなんて…と思っていたけれど、日本も全然加害者じゃんってことを知って、そんなに単純な構造じゃないんだなと勉強になった。
わたしのような一般人には何ができるんだろう。もし身近な人が無免許で轢き逃げされたりしたら加害者の国自体も嫌いになってしまいそう。 -
技能実習生から逃げたベトナム人をボドイというらしい。北関東に多く住んでいる彼らの家に突撃し、取材を重ねたノンフィクション。
さすがは大宅壮一賞受賞者、予想以上に硬派なノンフィクションで面白かった。 -
北関東「移民」アンダーグラウンド ベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪。安田 峰俊先生の著書。移民という言葉で移民の方々全員をひとくくりにするのは差別になる。差別は恥ずかしいことで差別は許されないこと。不法滞在は法律違反のルール違反だけれど不法滞在者には不法滞在をしている理由があるからそれを理解しないと解決にはつながらない。安田 峰俊先生のベトナム人不法滞在者たちの青春と犯罪は移民問題を真剣に考えるきっかけがもらえる一冊。
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東2法経図・6F開架:334.4A/Y62k//K
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●ボドイと呼ばれる若者たち。その多くは職場からドロップアウトして、不法滞在・不法就労状態にあるベトナム人の元技能実習生だ。さらに広義で言うなら、オーバーステイ化した元留学生など「やんちゃ」な背景を持つ在日ベトナム人たちの総称、位の理解をしてもいいかもしれない。ボドイはベトナム語で「部隊」や「兵士」を意味する。これらを産んだ土壌は、日本の歪な外国人労働政策だ。
●日本の外国人労働者の人数は、2020年からベトナム人が中国人を抑えて1位である。2021年10月、約45万人、外国人労働者全体の4分の1を占める。その半数20万が技能実習生で、さらに留学生の就労者が10万人と続く。
●技能実習生は、毎年9,000人以上が逃亡している。ベトナム人が多い。
●日本語も英語もほとんどできない彼らは、Facebook上で「ボドイ」を冠したコミュニティーを作り、同胞のネットワークの内部で独自の経済活動と情報交換を行っている。
●ベトナム人の技能実習生は日本全国にいるか、逃亡後には言葉が通じる同胞のツテを頼って、特定の地域に集中しがちだ。家賃や生活費が安くて、警察や入管の監視が行き届きにくく、しかし、農工業の求人の多い場所である。かといって、閉鎖的すぎる田舎では姿が目立ってしまうので、ある程度は大都市と近くて、隣人関係も希薄な土地なければならない。だから北関東に多いのだ。
●金麦が好き。
●実習生の送り出しの元の多くは、現地の社会に人権意識が十分に確立していない、権力を批判する自由が制限されているような強権的な非民主主義国家だ。その他の国の「優秀とは呼べない」人たちは、たとえ自分の人権が侵害されていても自覚的なかったり異議の申し立てを諦めていたりする。一方、そうした人たちが職場を逃亡し、自由の身になった場合はどうなるのか。行き当たりばったりの行動の末に、悪事に手を染める人も少なくない。 -
技能実習生として来日したけれど、様々な理由で逃亡して、自分たちのコミュニティを作って暮らす、自称「ボドイ」
日本が勧める外国人技能実習制度の闇と、彼らを雇う日本人企業主の横暴。
読んでいて本当に苦しくなった。日本の村社会の陰湿さ。一緒に働く実習生を差別し、彼らを下に見ている、日本人のストレスをもろに受け止めなければならない状況。
もちろん、素晴らしい雇い主がほとんどだと思うし、この本で書かれていることが全てだと思ってはいけないってのも分かる。でもある場所ではこれが事実。
①人にストレス向ける前に、自分のストレスの原因を立ち止まって考える余裕を持つこと。
②敵意よりも思いやりを心がけること。そうすれば自分の心も晴れることを理解する。
③できる範囲で澄んだ目で人を見て、なるべく信用すること。
甘い考えかもしれないけれど、この三つを心がけていきたいと思った。
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なんでもありなんだな。よくここまで取材してくれたんだなって思ったり。
いまは円安になって日本が貧しくなってるのを見て、移民たちはどう思ってるのか聞きたい。 -
知られざるボドイの社会。
美味しいカキフライが安く食べられているのも技能実習生の労働搾取の上に成り立っているんだなぁ、、と。日々知らずに享受している。日本経済がもっと上向けば故郷にちゃんと仕送りできる外国人労働者増えるのかな、など色々考えさせられる。
著者プロフィール
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