論争 格差社会 (文春新書 522)

制作 : 文春新書編集部 
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166605224

作品紹介・あらすじ

「格差社会」「ニート」はどう論じられてきたか。『世界』から『文藝春秋』まで、重要論文・対談12本を収録。入学・就職試験にも頼れる一冊。

感想・レビュー・書評

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  • [private]妹が通う大学での教科書らしい。文系大学生と言えば能天気に過ごせる時代というのがここ30年くらいの決まりだったが、今の世代は"格差社会"という脅し文句を突きつけられ気が気でないだろう。その分、切磋琢磨されることと思うが。
    [/private]

  • 文芸春秋によるオムニバス形式の格差社会論集。論文や対談などを織り交ぜて、異なる立場で様々な論者が、今やブームともいえる格差について論じている。出版界では、同類のテーマは「売れる」テーマであり、刺激的なタイトルをつけた新書などが雨後の筍の如く次々に出版され、おおくのベストセラーが生まれている。著者によって様々なスタンスがあり論点も異なっている。こうした多用な議論を一冊の本に簡潔にまとめたという点で、本書は時間節約にもなり主要な論者がどういう立場をとっているかということ知る上でも便利であり。

    いくつかの主張についてはかなり偏った考えにもとづいたものもあり読むに堪えないようなものもあるが、日ごろ自分の考えている視点とは逆の考え方を知ることで、自身の支持する主張・論点をより多面的に理解できる。森永卓郎などの、失笑してしいまうような大衆迎合的な主張をあえて一冊の本で読むことは時間とエネルギーの無駄であるため、このような短い対談などでその考え方の稚拙さを改めて確認できるのは、効率的である。


    様々な論点・視点あるものの、格差というものについて真っ向から存在を否定するという立場を採っている論者はさすがにいない。

    社会学のバックグラウンドを持つ論者、臨床医学の論者、経済学の論者では当然、視点も異なるが、大きく分けて、論点は以下のくくりに分けることができよう。

    近年格差が拡大しているvs格差というものはこれまでも存在した
    小泉改革により格差は拡大したvsそうではない
    格差は是正すべきであるvs格差は是認すべである

    当然、資本主義を国の経済システムの根幹として取り入れている日本においては、共産主義的な格差のない社会は現実的ではない。また、グローバル化が進展する中で、単純労働が国際的なコスト競争にさらさえる中で、これまで賃金低下圧力がなかった産業にもそれが降りかかってくる。下流層の所得低下はグローバル化という抵抗しようのないトレンドによってもたらされているのであり、これを一政権の政策の結果にもとめるのは議論が単純すぎる話である。

    また、格差の是非についても格差の開きすぎは社会を不安定にする懸念があるためある程度の歯止めが必要であると思えるが、一方で格差があるからこそ人は勤労の意欲を持ち、より創造的な活動をするのである。努力や創意工夫が、それをしない場合と同じ結果をもたらすのであれば、それをおこなう動機付けがなされない。社会主義が崩壊したのは、いろいろな側面から論じることが出来、一つの要因だけで語ることはできないが、一つ言えることは、世界全体の価値創造の基盤が工業から知識へと変遷したことである。物質的な生産を目的として工業は、対象として管理が可能である。しかし、知識による創造は管理することで成し遂げられる類のものではない。資本主義を基盤とする社会システムであれば、この先の未来においてはなおさらの事、知識による価値創造が必要である。これに向かって人々を動機付けるのは、結果としてやらなかったときと比べて、やったほうが利得が生じるという社会であり、格差はその結果として否定することはできないのである。

  •  格差社会に対して多元的な視点の論文、鼎談などが集められている。敢えて文春としての主張を放棄し、読者に是非を考えさせる狙いは良い。ここでの対立点は、2点。
    ①そもそも格差は拡大しているのか?
    ②格差は是正すべきものなのか?

     個人的な意見はこうだ。自分の才能や努力に基づく所得格差は容認されるべきだが、親の資産を受け継ぐ資産格差は大衆の理解が得られない。またピケティではないが、資産格差のみを取り上げるなら、格差は拡大しているように思われる。いつも格差の話では(意図的かどうかは知らないが)所得格差と資産格差がいっしょくたに語られるが、分けて考えるべき問題だと思う。

  •  とにかくぶわーっと「こっからここまでが格差社会論」というのを知りたいというのなら、あり。で、コレを読んで「格差社会論がわかる」かというと、たぶんなし、のような気がする。かえって「わからなくなってきました」というほうが、正しい読み方……なのかな、いやまぁソレがねらいならたいしたもんだが。

     採録してるメンツの幅広さというのが、いやまぁすごいよ。大竹文雄、白波瀬佐和子、佐藤俊樹という「そりゃいれなきゃでしょう」というのんから始まって……えーと対極といえば、森永卓郎がはいってるかと思えば、渡辺昇一+日下公人がいるかというありさま。そこへ日垣隆、斎藤環、小谷野敦あたりがまぜっかえす、と。

     うむ。単純に格差があるとかないとか言うのが「立場」オリエンテッドなんだなぁということがわかるという意味で、すばらしい。結局は、格差がある・ないというのは「正義」の問題ではおさまりきらず、どんな社会を求めるかという態度の問題でもあるんだ、ということっすね。

  • 格差論争が富の再配分をめぐるものである限り、本書の「はじめに」で断るまでもなく「バイアス」なくしてありえない論争である。そもそも「バイアス」という言葉がなじまないほどに格差論争は再配分をめぐるものだと言っていいかも知れない。本書では論文、対談、鼎談、エッセイ、エッセイともつかない感想文、爺の与太話と様々な形で格差容認から批判まで悪く言えば雑多な、良く言えば幅の広い意見が収録されているように見える。「ように見える」と留保するのは、例えば「格差は本当にあるのか」と題された第一部にしてから論文・エッセイ3本が3本とも概ね格差の存在否定乃至は格差容認論となっていることでも、本書の構成自体にまさにバイアスがかかっていることが伺えるからである。「(格差論争の)全体像がこの1冊で明らかになる」という売り文句は少し看板に偽りアリの感がする。
    ただしそのバイアスのおかげで本書は格差容認派が世論をどのあたりに誘導しようとしているかを知る上で非常に示唆に富んでいるといえるかもしれない。中でも注目すべきは渡部昇一と日下公人の対談(放談?)である。この中で彼らは戦前の上流階級の具体例を持ち出してはその存在を称揚し、同時に下流もまた原日本的な上流と親和性のある階層としてオルグを図っているように見える。(対談が掲載された雑誌Voiceの読者層を想起せよ。)これこそ本書の中でも斎藤環や二神能基が触れ(かけ)ている構造=中流にはオルグされないが上流(支配層)には靡く下流の構図ではないか。
    格差を問題視しているのはぎりぎり中流に踏みとどまっている層であって下流ではない。自分が下流に落とされることを恐れる中流と、中流からの哀れみの視線に傷つく下流との争いに転化しつつある展開において漁夫の利を得る者が誰かということなど明白なことなのに、と思う。

  •  現状認識のための格差研究の紹介から、格差社会に対しとるべき態度の主張まで、様々な論点を含んだ論文集。昨今の格差社会論争を眺望するのによい視点を与えてくれるものは多いと思う。マスメディアに登場する論者の論文が多く、そういう意味では立ち位置が分かりやすく、刺激的と言えるかも。

     格差問題は一時マスコミが煽ったような単純なものでは決してないはずであり、それは個々人の生活と密着しているがために拡大した論争であった。一歩引いてマクロな視点を持つのに、この本の第一部は一つの助けになるのではないかと思う。第二部はニートの存在を理解するための論文集。第三部の『「格差社会」を生き抜くために』に関しては、はしがきで評論家・水牛健太郎氏も述べている通り、多様な主張のある中で反発を覚えるものが誰しも一つはあるだろう。自分の立ち位置、社会の見方を確認する上でヒントを得られるものと思う。

     総じて良書かなと。あくまで一般人を対象とした、取捨の良い論文集だなと感じた。

  • 時代にあった話というものは時の流れに弱い。

  • [ 内容 ]
    「格差社会」「ニート」はどう論じられてきたか。
    『世界』から『文藝春秋』まで、重要論文・対談12本を収録。
    入学・就職試験にも頼れる一冊。

    [ 目次 ]
    第1部 「格差」は本当にあるのか(「格差はいけない」の不毛―政策として問うべき視点はどこにあるのか 「みえる格差」と「みえない格差」 「規制緩和」と「格差拡大」は無関係だ―「『くだばれGNP』の現代版『くたばれ格差社会』」と言われたら)
    第2部 ニート=新たな「下流社会」か(希望格差社会の到来―努力が報われる人、報われない人 ニートがそれでもホリエモンを支持する理由 そんなにいるわけない!ニート「85万人」の大嘘 ほか)
    第3部 「格差社会」を生き抜くために(格差批判に答える―日本人よ、「格差」を恐れるな 一揆か、逃散か―格差社会と「希望なき時代の希望」 「勝ち負け」の欲望に取り憑かれた日本―「不平等ブーム」の中で ほか)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 現在日本で拡大していると言われる格差だけど、
    実際本当に拡大してるの?
    それって良いこと悪いこと?
    ということについての様々な論者による説が載った本。
    一つの見方だけを信じ込むことって怖い。

  • 格差問題といわれるものについて、複数の著者の論文を掲載した本。


    1.格差が拡大しているという問題
     1-1.格差が拡大することは問題か
      1-1-1.格差の分類
        格差には、結果の格差と機会の格差がある。
        結果の格差は、労働や起業、投資などにより結果的に差異が生まれること。
        機会の格差は、年齢、性別、経済情勢、規制などによりチャンスがないこと。
      1-1-2.結果の格差
        結果として高所得層が増えることは問題ではない。
        失業や起業の失敗などで貧困層が増加することは問題。
      1-1-3.機会の格差
        男女で待遇が違うのは問題→男女雇用機会均等法、同一労働同一賃金
        規制により一部業界が保護されていることは問題→規制緩和
        失敗した人の再チャレンジが困難→職業訓練、ハローワーク
        社会情勢によって待遇が違うことは公平ではない→未解決

     1-2.何をもって格差が拡大しているとするか
      ①歴史的にみれば現代は格差が縮小している。
      ②世界的にみれば日本の格差は小さくない。
      ③1990年~2010年のジニ係数でみれば現代の格差は上昇している。
      ④1990年~2010年の貧困率でみれば現代の格差は上昇している。

     1-3.なぜ格差は拡大しているのか
      格差拡大の要因は数多くあり、その影響の程度を測定するのは容易ではない。
      ①高齢化
      ②正社員と非正規社員の待遇の差
      ③非正規社員の増加


    読了日:2010/04/19

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